- 更新日 : 2024年12月19日
給与所得控除とは?控除の種類や所得税の計算方法をわかりやすく解説
給与所得控除は、給与所得者が所得税を計算する際に重要な役割を果たす控除制度です。給与所得者は、収入を得るために必要な経費を概算で控除することができ、これにより課税対象となる所得を減額することができます。
本記事では、給与所得控除の基本的な概念や、他の所得控除との違い、具体的な計算方法、そして確認方法について詳しく解説します。
目次
給与所得控除とは?
給与所得控除とは、給与収入から一定額を差し引いた金額のことです。所得税の計算において重要な役割を果たします。意味、役割、対象者のほか、基本的な計算方法の考え方について説明します。
給与収入から差し引く控除金額のこと
給与所得控除とは、給与所得者が給与収入から差し引ける控除のことを指します。給与所得者が収入を得るために必要な経費を概算で控除する制度です。個人事業主が事業所得の計算をする際に必要経費を差し引くのと同様に、給与所得者も給与所得控除を差し引くことで、課税対象となる所得を減らすことができます。
給与所得控除の対象者
給与所得控除の対象者は、給与所得を得ているすべての人です。具体的には、会社員、パートタイマー、アルバイト、役員報酬を受け取っている役員などが含まれます。給与所得控除は、給与所得者が収入を得るために必要な経費を概算で控除する制度であり、すべての給与所得者が対象となります。
給与収入に基づく所得税の算定方法
給与収入に基づく所得税の算定方法は、以下のステップで行われます。まず、給与収入から給与所得控除を差し引き、次に所得控除を差し引いた課税所得に対して所得税率を適用します。
ステップ1: 給与所得の計算
給与所得は、給与収入から給与所得控除を差し引いて算出します。例えば、年間の給与収入が500万円の場合、給与所得控除額は収入金額の20%に44万円を加えた額(140万円)となり、給与所得は360万円となります。
ステップ2: 課税所得の計算
給与所得からさらに所得控除を差し引いて課税所得を算出します。所得控除には、配偶者控除、扶養控除、医療費控除などが含まれます。例えば、給与所得が360万円で、所得控除が100万円の場合、課税所得は260万円となります。
ステップ3: 所得税の計算
課税所得に対して所得税率を適用し、所得税額を算出します。所得税率は累進課税制度に基づき、課税所得の金額に応じて異なります。課税所得が260万円の場合、税率は10%で、控除額は97,500円となります。したがって、所得税額は162,500円(260万円×10%-97,500円)となります。
給与所得控除と所得控除との違い
給与所得控除は、給与収入から無条件に差し引かれる控除であり、給与所得を算出するために用いられます。一方、所得控除は、給与所得からさらに差し引かれる控除であり、課税所得を算出するために用いられます。給与所得控除は全ての給与所得者に適用されますが、所得控除は特定の条件を満たす場合にのみ適用されます。
所得控除の種類
所得控除には、納税者の個人的事情や支出に基づく15種類あります。以下、概要を説明します。
①雑損控除 | ⑥地震保険料控除 | ⑪障害者控除 |
②医療費控除 | ⑦寄附金控除 | ⑫配偶者控除 |
③社会保険控除 | ⑧寡婦控除 | ⑬配偶者特別控除 |
④小規模企業共済等掛金控除 | ⑨ひとり親控除 | ⑭扶養控除 |
⑤生命保険料控除 | ⑩勤労学生控除 | ⑮基礎控除 |
①雑損控除
災害や盗難、横領などで資産に損害を受けた場合に適用される控除。損害額から保険金などで補填される金額を差し引いた額が控除対象となります。
②医療費控除
納税者やその家族が支払った医療費が一定額を超えた場合に適用される控除。実際に支払った医療費の合計金額から10万円または所得の5%を差し引いた額が控除対象です。
③社会保険控除
納税者が支払った社会保険料(健康保険、厚生年金保険、国民年金保険など)に対して適用される控除。支払った全額が控除対象となります。
④小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済や確定拠出年金の掛金を支払った場合に適用される控除。支払った掛金の全額が控除対象となります。
⑤生命保険料控除
生命保険、介護医療保険、個人年金保険の保険料を支払った場合に適用される控除。各保険料に一定の控除額が設定されています。
⑥地震保険料控除
地震保険の保険料を支払った場合に適用される控除。支払った保険料の全額が控除対象となりますが、上限があります。
⑦寄附金控除
国や地方公共団体、特定の公益法人に対して寄附を行った場合に適用される控除。寄附金のうち一定額が控除対象となります。
⑧寡婦、寡夫控除
配偶者と死別または離婚し、再婚していない寡婦や寡夫に適用される控除。一定の条件を満たす場合に控除が受けられます。
⑨ひとり親控除
納税者がひとり親であるときに控除を受けることができます。
⑨勤労学生控除
勤労学生に適用される控除。学生でありながら一定の所得を得ている場合に、所得税の負担を軽減するための控除です。
⑩障害者控除
納税者本人や扶養親族が障害者である場合に適用される控除。障害の程度に応じて控除額が異なります。
⑪配偶者控除
納税者に合計所得金額が48万円以下の配偶者がいる場合に適用される控除。配偶者の年齢や納税者の所得に応じて控除額が異なります。
⑫配偶者特別控除
配偶者の合計所得金額が48万円を超え、133万円以下の場合に適用される控除。納税者の所得に応じて控除額が段階的に設定されています。
⑬扶養控除
納税者に扶養親族がいる場合に適用される控除。扶養親族の年齢や同居の有無に応じて控除額が異なります。
⑭基礎控除
全ての納税者に適用される控除。所得金額に応じて一律に適用され、2020年以降は最大48万円の控除が受けられます。
給与所得控除と基礎控除、その他の控除との違い
ここでは、給与所得控除と、基礎控除、特定支出控除、所得金額調整控除の違いについて、具体例を挙げて違いを説明します。
基礎控除
基礎控除は、全ての納税者に適用される所得控除であり、所得税計算の際に一定額を所得から差し引くことができます。基礎控除の目的は、納税者の生活費を考慮し、最低限の生活費に対して課税しないようにすることです。2020年以降、基礎控除額は最大48万円で、所得金額が2,500万円を超える場合は適用されません。以下、基礎控除の特徴と具体例を挙げます。
・全ての納税者に適用
例えば、年間所得が500万円の納税者の場合、基礎控除額48万円が適用され、課税所得は452万円となります。
・高所得者には適用されない
例として、年間所得が2,600万円の納税者の場合、基礎控除は適用されず、全額が課税対象となります。
給与所得控除は給与所得者に特化した控除であり、給与収入に応じて段階的に設定されますが、基礎控除は全ての納税者に一律に適用される点が異なります。
特定支出控除
特定支出控除は、給与所得者が仕事のために必要な特定の支出を自己負担した場合に適用される控除です。特定支出には、通勤費、転居費、研修費、資格取得費などが含まれます。特定支出控除は、特定支出の合計額が給与所得控除額の1/2を超える場合に、その超えた部分が控除対象となります。以下、通勤費を例に説明しましょう。
・通勤費
例えば、年間給与収入が500万円で、通勤費が30万円かかった場合、給与所得控除額は140万円(収入金額の20%+44万円)です。特定支出控除の適用判定基準は70万円(140万円の1/2)であり、通勤費30万円は基準を超えないため控除対象外です。
給与所得控除は給与収入に基づいて自動的に適用されますが、特定支出控除は自己負担した特定の支出が一定額を超えた場合に適用されるという違いがあります。
所得金額調整控除
所得金額調整控除は、特定の条件を満たす給与所得者が一定の金額を給与所得から控除できる制度です。対象者には、年収850万円超の給与所得者で23歳未満の扶養親族がいる場合や、特別障害者がいる場合、給与所得と年金所得の双方を有する場合などが含まれます。具体的には、次のようになります。
・年収850万円超の給与所得者
年収1,000万円で23歳未満の扶養親族がいる場合、所得金額調整控除額は(1,000万円-850万円)×10%=15万円です。
給与所得控除は全ての給与所得者に適用されますが、所得金額調整控除は特定の条件を満たす場合にのみ適用される点が異なります。 これらの控除はそれぞれ異なる目的と適用条件を持ち、給与所得控除と併用することで、納税者の税負担を軽減する役割を果たします。
給与所得控除の計算方法
国税庁の定めるルールに従って、給与所得控除の計算方法を具体例とともに説明しましょう。
給与収入に該当する項目
給与収入とは、勤務先から受け取る給料、賃金、賞与(ボーナス)などの合計金額を指します。給与収入には、基本給だけでなく、残業手当、休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども含まれます。また、現物支給や経済的利益も給与収入に含まれます。会社から無償または低い価額で提供される商品やサービス、無利息または低利息での貸付なども該当します。
給与等の収入金額が660万円未満の場合
給与等の収入金額が660万円未満の場合、給与所得控除額は以下の計算式に基づいて算出されます。
計算式
1,625,000円まで: 550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで: 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで: 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで: 収入金額×20%+440,000円
具体例
・収入金額が2,000,000円の場合
給与所得控除額は2,000,000円×30%+80,000円=680,000円となります。
・収入金額が5,000,000円の場合
給与所得控除額は5,000,000円×20%+440,000円=1,440,000円となります。
給与等の収入金額が660万円以上の場合
給与等の収入金額が660万円以上の場合、給与所得控除額は以下の計算式に基づいて算出されます。
計算式
6,600,001円から8,500,000円まで: 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上: 1,950,000円(上限)
具体例
・収入金額が7,000,000円の場合
給与所得控除額は7,000,000円×10%+1,100,000円=1,800,000円となります。
・収入金額が9,000,000円の場合
給与所得控除額は上限の1,950,000円となります。
給与所得控除の確認方法
給与所得控除額は、国税庁の公式サイトやリーフレットに掲載されている表を用いて確認することができます。
※国税庁の公式サイト「No.1410 給与所得控除」
給与所得控除を理解し、税負担を軽減しよう!
給与所得控除は、給与所得者が収入を得るために必要な経費を概算で控除する制度であり、所得税の計算において重要な役割を果たします。基礎控除や特定支出控除など、他の控除と併用することで、さらに税負担を軽減することが可能です。
国税庁の表や計算式を活用して、正確に控除額を算出し、適切な税務処理を行いましょう。給与所得控除を理解し、活用することで税負担を抑えることができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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