- 作成日 : 2022年7月15日
男性が育休に使える助成金「両立支援助成金」とは?
育児・介護休業法が、2022年4月に改正され、いわゆる「産後パパ育休」が新設されました(施行は10月1日)。出生後8週間以内に4週間までの休暇を取得できるというもので、分割して2回取得することもできます。併せて知っておきたいのが、男性が育休を取得した場合に支給される「両立支援等助成金」です。今回は、この両立支援等助成金について詳しく解説していきます。
目次
男性が育休に使える助成金
改正育児・介護休業法の施行に伴って、両立支援等助成金も2022年度から内容が変更されました。変更後の内容について確認していきましょう。
改正の詳しい内容はこちらの記事をご覧ください
両立支援等助成金とは?
両立支援等助成金は、職業生活と家庭生活が両立できる“職場環境づくり”を行う事業主を支援する制度として実施されています。
助成金には次の6つのコースがあります。
- 男性の育児休業等取得を促進するための取組に助成する「出生時両立支援コース」
- 仕事と介護の両立支援のための取組に対して助成する「介護離職防止支援コース」
- 労働者の円滑な育児休業の取得・復帰、育児休業者の代替要員の確保や育休からの復帰後の支援の取組に対して助成する「育児休業等支援コース」
- 育児・介護等を理由とした退職者の復職支援の取組に対して助成する「再雇用者評価処遇コース」
- 女性の活躍推進の取組に対して助成する「女性活躍加速化コース」
- 事業所内保育施設の設置・運営費用を助成する「事業所内保育施設コース」
今回、内容が大きく変更されたのは、1. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)と3. 育児休業等支援コースの2つですが、ここでは2. の介護離職防止支援コースについてもご紹介します。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
出生時両立支援コースは、通称「子育てパパ支援助成金」とも呼ばれ、男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行い、子の出生後8週間以内に、男性労働者の育児休業制度の利用があった事業主に対して助成するというものです。
育児・介護休業法の改正に伴い、コースの内容が大きく変わりました。
従来は、「育児休業取得」として1種類しかなく、助成対象は大企業と中小企業とされていましたが、変更後は「育児休業取得」は「第1種」として中小企業だけを助成対象としました。この助成金は、もともと時限立法であり、制度を中小企業に限って残したことになります。
そのうえで第1種での支給を受けた事業所において、男性労働者の育児休業取得率が上昇した場合、さらに助成する「第2種」が新設されています。
第1種の主な要件は次の通りです。
- 育児・介護休業法に規定する雇用環境整備の措置を複数実施すること
- 男性労働者が、子の出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得すること
- 育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしていること
なお、育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(派遣を含む)した場合、加算して支給(代替要員加算)することになります。
新設された第2種の主な要件は次のようになっています。
- 第1種の支給を受けていること
- 育児・介護休業法に規定する雇用環境整備の措置を複数実施すること
- 育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしていること
- 男性労働者の育児休業取得率が、第1種の支給を受けてから3事業年度以内に30%以上上昇していること
- 育児休業を取得した男性労働者が、第1種の申請に係る者のほかに2名以上いること
介護離職防止支援コース
仕事と介護の両立支援のための職場環境整備と共に介護休業と職場復帰の取組などを行った事業主に助成するものです。
内容としては、以下の3つがあり、いずれも助成対象は中小企業だけとなっています。
- 介護休業
- 休業取得時
- 職場復帰時
- 介護両立支援制度
- 新型コロナウイルス感染症対応特例
介護支援プランに基づき、介護休業取得者が出た場合または職場復帰した者が出た場合の助成金です。介護休業は、2つの時期に分けて設定されています。
介護支援プランを作成し、プランに基づき介護休業を取得させた場合に支給されます。
「休業取得時」の対象労働者の同一の介護休業について職場復帰させた場合に支給されるため、休業取得時を受給した事業主だけが対象となります。
介護支援プランに基づき、仕事と介護との両立に資する制度利用者が出た場合の助成金です。
家族を介護するために有給休暇(新型コロナウイルス感染症対応)の利用者が出た場合の助成金になります。
育児休業等支援コース
育児休業等支援コースは、今回の変更によって、従来「代替要員確保時」と「職場復帰時(職場支援加算)」において実施していた代替要員確保に対する支援内容を、「業務代替支援」に変更しています。職場支援加算を除く「職場復帰時」については変更はありません。
その結果、「業務代替支援」(「新規雇用」「手当支給等」)と、従来からある職場支援加算を除く「職場復帰時」の2つが内容となりました。以下、それぞれについて主な要件を挙げてみましょう。
「業務代替支援」の「新規雇用」は次のようになっています。
- 育児休業取得者を原職等に復帰させる旨を就業規則等に規定すること
- 労働者が3ヵ月以上の育児休業を取得すること
- 上記労働者を原職等に復帰させ、さらに6ヵ月以上継続雇用すること
- 育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(派遣を含む)すること
「業務代替支援」の「手当支給等」では、次のような要件とされています。
- 育児休業取得者を原職等に復帰させる旨を就業規則等に規定すること
- 労働者が3ヵ月以上の育児休業を取得すること
- 上記労働者を原職等に復帰させ、さらに6ヵ月以上継続雇用すること
- 育児休業取得者の業務を社内のほかの労働者に代替させ、業務の見直し・効率化を行うと共に、当該業務を代替した労働者に対して増額して賃金を支払うこと
なお、新規雇用、手当支給等のいずれも、育児休業取得者が有期雇用労働者の場合、加算して支給(有期雇用労働者加算)することになっています。
「職場復帰時(職場支援加算なし)」は次の通りです。
- 育休復帰支援プランを作成し、労働者の3ヵ月以上の育児休業取得後、原職等に復帰させ、さらに6ヵ月以上継続雇用すること
男性が育休を取るメリット
両立支援等助成金のうち、3つのコースについて、主な要件について紹介してきました。では、要件を満たした場合、男性が育休を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
5日以上取れば勤務先に75万円の助成金
第一に、助成金が支給されるというメリットが挙げられます。男性の育休が要件となっている「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」と「育児休業等支援コース」の2について、助成額をみてみましょう。
- 「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」
- 20万円
- 1年以内:60万円<75万円>
- 2年以内:40万円<65万円>
- 3年以内:20万円<35万円>
- 「育児休業等支援コース」
【第1種】
1事業主1回限りで20万円です。代替要員加算は2人までは同額の20万円とし、3人以上は45万円とされました。
【第2種】
助成額は、第1種の支給を受けてから育児休業取得率が30%以上上昇した期間によって異なります。ちなみに<>内は、生産性要件を満たした場合の金額です。
助成額は、それぞれについて以下の金額です。<>内は生産性要件を満たした場合の金額になります。
「業務代替支援」
【新規雇用】 47万5,000万円<60万円>
【手当支給等】10万円<12万円>
有期雇用労働者加算:9万5,000円<12万円>
なお、1事業主当たり1年度10人まで5年間支給されます。
「職場復帰時」 28.5万円<36万円>
「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」の「第2種」が最も高額であり、要件を満たせば勤務先に最大75万円の助成金が支給されることになります。
男性の育休取得の促進は、単に助成金だけでなく、企業イメージの向上にもつながり、人材確保の点からもメリットがあるでしょう。
従業員は育児休業中に給付金を受け取れる
育児休業は、育児・介護休業法において事業主に一定の条件を満たした労働者に対して付与義務を定めています。しかし、この法律では、育休中の賃金の支払い義務までは規定していません。「ノーワーク・ノーペイ」が原則であるため、当然といえるでしょう。
そこで育休中の所得保障については、別の法律に設けました。雇用保険法です。
雇用保険法では「育児休業給付」という保険給付があり、労働者の職業生活の円滑な継続を援助・促進するため、労働者が1歳未満の子を養育するために育児休業するときに支給します。
支給要件は、雇用保険の被保険者が、育児休業した場合に休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数(月給制であれば歴日数)が11日以上ある月が通算12ヵ月以上あることとされています。
支給額は、育児休業開始から6ヵ月までは休業開始前賃金の67%相当額 、それ以降は50%相当額です。例えば、平均して月額30万円程度の場合、育児休業開始から6ヵ月間の支給額は月額約20万円、6ヵ月経過後の支給額は月額約15万円ということになります。
なお、育児休業給付は非課税のうえ、育休期間中は社会保険料免除があることから、休業前の手取り賃金と比較した実質的な給付率は8割程度にもなります。
両立支援助成金の申請方法
今回、改正された「出生時両立支援コース(第1種)」の申請方法についてみていきましょう。
一般的に助成金申請は、通常の保険給付のように簡単ではありません。まず、その点を理解しておきましょう。段階を踏んで準備する必要があります。
助成対象となる労働者が育休を開始する前日までに、支給要件を含めて、以下のことを確実に実施しておきます。
- 育児・介護休業法で給付の前提とする就業規則を整備する(「在宅勤務規定」「育休取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定」も含む)
- 男性労働者が育休を取得しやすい雇用環境の整備を実施する(育休促進についての社内方針の周知、育休研修、育休相談体制の整備など複数の実施が必要)
- 「次世代育成支援対策推進法」に基づく「一般事業主行動計画」を策定し、所轄労働局に届出る
- 申請書に添付が必要となる各種確認書類を準備する(雇用契約書、育児休業申出書、育休取得者・代替要員の出勤簿、賃金台帳、母子手帳)
以上を準備して「出生時両立支援コース(第1種)」の助成金の支給申請手続きを行います。
提出先は、管轄の労働局雇用環境・均等部(室)ですが、早めに申請書等の用紙や添付すべき書類については確認しておいたほうがよいでしょう。
両立支援等助成金は男性の育休を促進する!
両立支援等助成金のうち、大きな内容の変更があった出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)と育児休業等支援コースを中心に解説してきました。
この助成金申請は、就業規則や雇用環境の整備など、前提する取組が不可欠です。しかしながら、事業主だけでなく、働く男性労働者の育休も促進され、企業イメージの向上にもつながります。
よくある質問
男性が育休に使える助成金にはどういったものがありますか?
両立支援等助成金では、出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)と育児休業等支援コースがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
男性が育休を取るメリットについて教えてください
事業主に助成金が支給されるだけでなく、人材確保にもつながります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
雇用保険における再就職手当とは
失業や休業の場合にはもちろん、労働者が能力開発のため教育を受ける場合にも利用できる雇用保険。一般的には失業保険と言われる、自己による都合や会社側の都合によって離職した際に支給される基本手当がよく知られていますが、さらに、知っておくと得する意…
詳しくみる月末時点で育休なら社会保険料が免除?賞与の場合はどうなる?
月末が育休期間に含まれている場合、基本的には当月の社会保険料は免除になります。ただし、育休の開始日と終了日が同月にある場合は、休業期間が14日未満だと社会保険料が免除されないため注意が必要です。 さらに育休中に賞与を受け取る場合、受け取った…
詳しくみる社会保険の加入要件「月額賃金8万8,000円」に残業代や通勤手当は含まれる?
社会保険(ここでは健康保険・厚生年金を指します。以下同じ)の適用拡大により加入条件が緩和され、月額賃金8万8,000円以上の短時間労働者も社会保険に加入することになります。8万8,000円には基本給や諸手当が含まれ、残業代などは含まれません…
詳しくみる労災保険と他の保険の二重取りは可能?自賠責・医療保険・傷害保険の観点から
労災保険と他の保険の給付を両方受けることが可能なのか気になる人も多いのではないでしょうか。結論として、重複受給(請求)できる保険とできない保険があります。いざというときに適切に保険を利用できるように正しい知識を身につけておきましょう。この記…
詳しくみるアルバイトをする学生は社会保険に加入するべき?条件を解説
事業者に雇用されて働いている人は社会保険に加入していますが、同じように雇用されていても学生のアルバイトはあまり加入していません。アルバイトとして働く学生は基本的に社会保険への加入義務がありませんが、場合によっては加入しなくてはならないことも…
詳しくみる労災保険の各種手続き
労災保険とは、労働者が勤務時間中に遭った災害や出退勤中に災害に遭った場合に、本人やその家族に補償するために、保険金を支払う制度です。 そのため、使用する従業員が正社員や契約社員、アルバイトかを問わず、労働者を使用する会社及び個人事業主は、労…
詳しくみる