- 更新日 : 2025年1月20日
労働基準法による通勤手当の決め方?距離の測り方や支給金額を解説
通勤手当を支給する企業は多くあります。しかし、公共交通機関を利用する従業員にのみ支給する企業もあれば、マイカーや自転車を利用して通勤しても支給する企業もあり、通勤手当の支給基準や支給金額は企業によって異なります。
通勤手当の支給基準を決める際の距離の測り方や金額、通勤手当の決め方やその注意点について解説します。
目次
労働基準法に通勤手当の規定はない
労働基準法には通勤手当をどのようにすべきかを定めた規定はありません。しかし、通勤手当を支給しないと実質的には従業員の手取り額が減ってしまい、従業員を募集しても応募者が集まらないこともあるでしょう。そのため、多くの企業で通勤手当を支給しています。
通勤手当は、就業規則や労働条件通知書(労働契約書や雇用契約書も含む)に基づき、労使の合意によって企業が支給する手当の1つです。何かしらの法律で企業が支払うべき費用と定めているわけではないことに注意しましょう。
そもそも通勤手当とは
通勤手当とは、従業員が出社するために必要な移動費用を企業が負担して支給するものです。通勤する際、公共交通機関を利用すれば料金が発生し、車で通勤してもガソリン代がかかります。基本給など労働の対価として支払われるものとは異なり、通勤手当は実質弁償的な意味合いが強く、所得税法でも一定金額まで非課税の取り扱いをすることが認められています。
労働基準法には通勤手当についての規定はありません。そのため、民法の規定に従って労使のどちらが負担するかを決めることになります。民法では弁済費用は債務者が負担することを規定しており、本来であれば「労働の義務」を履行する際に発生する通勤にかかる費用は、別段の定めがなければ原則として労働者が負担すべきものという考え方になります。
(弁済の費用)
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
しかし、労使間で合意があれば企業が負担することができるため、就業規則や労働契約書などでルールを決めて、企業が負担して支払っています。
通勤手当は労働基準法上の賃金に該当する
就業規則や契約書でルールを決めて支払うのであれば、通勤手当も労働基準法上の賃金です。労働基準法では、就業規則や労働条件通知書(労働契約書や雇用契約書も含む)などであらかじめ支給条件や支払基準が明確に定められている手当は、すべて賃金として取り扱います。そのため、通勤手当のルールを就業規則や契約書で規定し、支払い条件を満たしているのに通勤手当を支払わなければ賃金未払いとなり、労働基準法違反になります。
通勤手当の決め方
通勤手当の支給要件や支給内容は、企業によってさまざまです。通勤手当の有無や支払い条件、支給対象距離、通勤手段、支給金額の上限の有無などは、労使の合意に基づき任意で決めることができます。
ここでは、通勤手当の決め方を具体的に見ていきましょう。
通勤手当の基本要件を決める
通勤手当を支給する際には、最初に基本的な要件を決める必要があります。通勤手当の規定(規程)をつくる際の基本要件とポイントは以下のとおりです。
【支給方法・金額】
- 一律に支給する:全従業員に一律に支給する
- 管理がしやすいが、実費との差額が生じると不公平感が生まれる
- 通勤距離に応じて支給する手当ではないため、割増賃金を計算する際の計算の基礎に入れなければならない
- 全額支給:通勤にかかる費用の実費を全額支給する
- 透明性は高いが、従業員の住居によって金額がそれぞれ異なるため管理に手間を要する
- 遠方に転居する従業員がいると、限度額を設定せずに支給することになるため費用の負担が大きくなる
- 上限を設定する:支給額に上限を設けて、一定の範囲内で実費支給する
- 企業の費用負担を抑えることができるが、遠方から勤務する従業員に負担が生じる
【通勤手段】
- 公共交通機関の運賃のみ:電車賃やバス代のみ支給
- 合理性はあるが、就業場所が駅やバス停から遠いと従業員にとって不便が生じる
- マイカー通勤を認める:自動車・バイク通勤でも支給する
- 従業員の利便性は増すが、交通事故のリスクがある
- 駐車場などのスペースを確保する必要があり、駐車場を借りる場合は駐車場代の負担についても決める必要がある
- 自転車通勤を認める:自転車通勤でも支給する
- 2km以上の距離なら所得税の非課税限度額が適用されるが、徒歩で通勤する従業員との不公平感が生まれる
- マイカー通勤よりも事故のリスクは少ないが、リスクがまったくないわけではない
- 駐車スペースの確保がマイカー通勤よりも容易である
【支給対象距離】
- 距離に応じて支給:マイカー通勤等の場合は距離に応じて支給する
- 2km以上の距離なら所得税の非課税限度額が適用される
- マイカー・バイク・自転車通勤とでそれぞれ通勤にかかる費用(実費)が異なるため、不公平感が生じる
- 一定の距離以上で支給:マイカー通勤等の場合は距離の一定の条件を設ける
- 2km以上の距離なら所得税の非課税限度額が適用される
- 自宅と就業場所が近い場合は支給する必要がなくなり、企業の費用負担を抑えることができる
自動車通勤・バイク通勤の規定を決める
自動車・バイク通勤を認める場合は、その規定を作成しなければなりません。通勤手当は、電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合に支給するのが一般的です。しかし、就業場所は駅から徒歩圏内にあるとは限らず、バス停からも遠いこともあるでしょう。
通勤する従業員の利便性も考慮する必要があり、自動車・バイク通勤を通勤手当の支給対象にするかは企業によって異なります。方法には「燃費からガソリン代で決める方法」と「走行距離で決める方法」の2種類がありますが、車種によって燃費は異なりガソリン代も毎日変動するため、走行距離で決めるのがよいでしょう。
自動車・バイク通勤は通勤時に事故に遭う可能性があり、禁止している企業も多くあります。駐車場の確保も必要になることから、駐車スペースがない場合は、駐車場代の負担を従業員と企業のどちらが負担するのかも検討が必要です。自動車・バイク通勤を認める場合は、交通事故発生時のことも考慮しなければなりません。免許証・任意保険の保険証・自動車検査証など写しの提出を求め、許可制にするのがよいでしょう。
自転車通勤の規定を決める
自転車通勤を認めるかどうかも規程で決めておく必要があります。自転車通勤でも2km以上の距離であれば所得税の非課税限度額が適用されます。しかし、自転車通勤の場合は、自転車購入費用以外に実費が発生することはないため、通勤手当の対象外にする企業も多いでしょう。
自動車・バイク通勤と比べれば事故に遭う可能性は低いものの、まったくないというわけではありません。自転車通勤を認める場合には、保険の加入の有無を確認し、許可制にするのがよいでしょう。
バス通勤の規定を決める
バス通勤の規定を作成する際には、バスを利用する区間の1か月や3か月分などの定期券代を基準に支給するのが一般的です。通勤の経路や方法を従業員に申告させて、その乗車賃に基づき支給します。
電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合の所得税の非課税限度額は、「最も経済的かつ合理的な経路および方法」で通勤する際の通勤定期券などの金額を基準に算出します。しかし、バスの1区間は電車よりも短いことが多いため、2km以上などと支給対象となる距離を決めて支給する企業も多くあります。
通勤手当の距離の測り方
通勤手当は支給対象距離を基準にして支給することがありますが、距離の測り方が問題になることがあります。
通勤手当を直線距離で算出するのはおかしい?
通勤手当の支給対象とする距離は、「直線距離」と「経路による距離」のどちらで算出することも可能です。しかし、同じ歩くにしても、「直線距離」と「経路による距離」とではかかる時間が大きく異なることがあるため、従業員から不満が出ることがあります。
マイカー・自転車通勤者の通勤手当の1か月当たりの所得税の非課税限度額は「通勤経路に沿った長さ」としていることから、「経路による距離」とするのが妥当と言えるでしょう。
参考:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
通勤手当は2キロ未満だと支給されない?
「自宅から職場までの距離」「自宅から駅までの距離」「駅から職場までの距離」のいずれも、2km未満は通勤手当の対象としない取り扱いをする企業が多くあります。
所得税の非課税限度額を計算する際には、以下の2つを合計した金額(1か月当たり15万円)が限度になることが定められています。
(1)電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額
(2)マイカーや自転車などを使って通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額
マイカー通勤や自転車通勤の場合、2km未満は全額課税とする取扱いとなっていることから、所得税の非課税限度額を基準に2km以上を通勤手当の支給対象者にしている企業は多いでしょう。
通勤手当を支給するときの注意点
通勤手当を支給する際には、従業員から不平不満が出ないように、就業規則の賃金規程などでルールを明確に定めておく必要があります。通勤手当を支給する際の注意点を解説します。
パート・アルバイトも正社員と同様の通勤手当を支給する
通勤手当の支給対象者を正社員だけにして、パート・アルバイトの従業員に支給しないというのはおすすめできません。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、各種手当のなかの通勤手当についても、パートタイム労働者・有期雇用労働者に「同一の支給を行わなければならない」と記載されています。
ただし、所定労働日数が多い正社員やパート・アルバイトには定期券代に相当する金額を支給し、所定労働日数が少ないパート・アルバイトには、交通費の日額に相当する金額を出勤日数に応じて支給することは問題ないと考えられます。
参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省、「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)」
通勤距離や金額をごまかしていないか確認する
通勤距離や金額をごまかして通勤費を自分の小遣いにするなど、不正がないかをチェックすることが重要です。公共交通機関を利用して通勤をしていることにして通勤手当を申請し、実際にはマイカー通勤や自転車通勤をしているケースもあれば、徒歩で通勤しているにもかかわらず、公共交通機関を利用したことにして通勤手当を申請しているケースもあります。
インターネットでマップの経路検索を利用すれば距離を測ることができます。また、通勤経路・通勤代も簡単に検索することができます。定期券や回数券のコピーの提出など、通勤経路や方法が確認できる物の提出を義務付けるルールを設けるのも一つの方法です。通勤距離や金額をごまかしていないかを定期的に確認し、不正受給を防止する手段を講じることも検討しましょう。
通勤手当は社会保険料の対象となる
通勤手当は、健康保険や厚生年金保険の保険料を決める際の報酬や、労災保険料や雇用保険料を支払う際の賃金総額に含めて計算しなければなりません。通勤手当を除いて計算してしまうと、納める保険料の金額に不足が生じることになるため注意しましょう。
通勤手当は非課税となる場合がある
通勤手当の非課税の範囲は所得税法で定められています。「最も経済的かつ合理的な経路および方法」で通勤する際の通勤手当の金額は、1か月当たり15万円以下であれば非課税です。非課税限度額を超えた部分は課税扱いになります。
マイカー通勤や自転車通勤をする場合には、片道の距離に応じて非課税の限度額が以下のように決められています。所得税の非課税限度額も考慮して、通勤手当のルールを決めるのがよいでしょう。
引用:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁
通勤手当の支給ルールは実態に合わせて見直しをする
最近はテレワークで働く企業が増え、在宅勤務と出社勤務の日があることから、定期代を支給するのではなく出社した日数に応じて実費を支給する企業も増えています。しかし、テレワークであっても、就業規則の賃金規程で「1か月分の定期代を支給」と定めていれば、1か月分の定期代を支給しなければなりません。また、テレワークの場合、労働契約上の労務の提供地が自宅かオフィスかによって、通勤手当とするか旅費交通費とするかの判断が異なります。
通勤手当の基準が「人によって」「そのときによって」異なれば、従業員に不平不満が生まれ、トラブルの原因になります。就業規則に通勤手当の支給基準を明確に定め、実態に合わせて見直しをしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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