- 更新日 : 2024年9月13日
雇用契約とは?労働契約との違いや雇用契約書・労働条件通知書の必要性も解説!
会社と雇用契約を結んで仕事に従事する人は、労働者として定義されています。そして、労働者はパート・アルバイトなどの雇用形態に依らず、労使間で雇用契約を結ぶことが法律で義務付けられています。この雇用契約は労働条件を明確にする重要な契約ですが、業務委託の場合、雇用契約は不要です。この記事では労働契約・業務委託契約との違いや、雇用契約の概要について解説します。
目次
雇用契約とは
雇用契約とは、労働者が使用者(雇用主)のもとで労働に従事し、使用者はそれに対する賃金を労働者に支払う約束をする契約のことを指し、民法第623条に定義されています。つまり、雇用契約を結ぶことにより、労働者は労働基準法や労働契約法に守られるのです。
ただし、請負や委託の契約で働く場合には、雇用契約の対象とはなりません。
参考:民法|e-GOV法令検索
労働契約との違いは?
雇用契約と似た言葉として「労働契約」という言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。この雇用契約と労働契約の違いは、一体どういった部分にあるのでしょうか。
結論から言えば、雇用契約と労働契約はほぼ同じ意味だと捉えて問題ありません。
上で述べたように、雇用契約は民法上で定められた使用者と労働者の契約のことをいいます。一方、労働契約は、労働基準法や労働契約法など、労働に関係する法令やルールを扱う際に使用されるのです。労働者の定義の範囲など、厳密には異なる部分もありますが、一般的な場面ではほぼ同義として用いられます。労働契約法における雇用契約の解釈については下記の記事で紹介しています。
業務委託契約との違いは?
業務委託契約とは、企業などが業務の委託や請負を依頼する際に結ばれる契約です。
雇用契約と並んでよく聞かれる言葉ですが、雇用契約と業務委託契約では、どのような違いがあるのでしょうか。
雇用契約では、契約する両者の間に主従関係とも言える「使用従属性」が存在します。
ただし、雇用契約を結んだ労働者は、労働基準法や労働契約法などにおいて保護されています。「使用従属性」とは、具体的に以下のようなものです。
- 仕事の依頼に対し、諾否の自由がない
- 業務の内容や遂行方法について指揮命令がある
- 勤務時間や勤務場所が拘束されている
- 一般的に、仕事の結果ではなく勤務時間を基準に賃金が決定される
- 一般的の従業員と同じ報酬である
- 業務上必要な用具などは使用者側が準備する
- 専属性(他の会社で働かない)がある
- 就業規則や服務規程が適用される
- 給与所得として源泉徴収されている
- 退職金制度や福利厚生制度を利用できる
一方、業務委託契約では、上記のような企業との主従関係はありません。
業務委託契約には法的根拠はありませんが、民法第632条、第643条の請負契約や委任契約といった契約が該当すると考えられています。
「請負契約」は、請負人がある業務をまるごと請け負い、その成果に対して依頼人が報酬を支払う契約です。例えば大工に家の建築を依頼した場合、家が完成した時点で報酬が発生するため、何らかの事由で家が完成しなかった場合は報酬は発生しません。
「委任契約」は会社の受付や事務処理など、成果を問わず提供された労務に対し依頼人が報酬を支払う契約です。例えば弁護士に訴訟行為を委任した場合、たとえ敗訴しても一定の報酬が発生します。成果を求められるか否かという違いはありますが、どちらも独立した2者の間で結ばれる契約なのです。
参考:民法|e-GOV法令検索
雇用契約を結ぶ際の必要書類は?
労働基準法では、使用者が労働者を雇用する際には、その労働者に労働条件などを明示することを義務付けています(第15条)。一般的に、雇用主は「雇用契約書」や「労働条件通知書」を作成しなければなりません。では、それぞれの書類について確認してみましょう。
参考:
労働基準法|e-Gov法令検索
労働契約締結時における労働条件の明示義務について|厚生労働省
雇用契約書
雇用契約書は、使用者と労働者双方が雇用契約の内容に同意したことを示す書類です。
就業場所や就業時間、休日休暇、業務内容などの労働条件が記載されており、通常の契約書同様、双方が内容を確認し署名捺印を行います。
実は、法的には雇用契約書の作成義務はありません。労働基準法で定められているのは、使用者が労働者に対して労働条件を明示することです。すなわち、次に述べる労働条件通知書で労働者に通知すれば法律には違反しないのです。
しかし、労働条件通知書は使用者側から一方的に労働条件を通知するものです。万が一トラブルなどが発生した場合に「双方が内容を確認し同意した」という証明にはなりません。雇用契約書は双方の同意を証明するものとして、作成したほうが良いでしょう。
雇用契約書については下記の記事をご覧ください。
労働条件通知書
上記のとおり、労働条件通知書は労働基準法第15条に定められた「労働契約締結時における労働条件の明示義務」に基づいて作成される書類です。
厚生労働省のWebサイトでは、モデルとなる様式を公表しています。
引用:一般労働者用モデル労働条件通知書(常用、有期雇用型)|厚生労働省
明示する義務のある項目は、以下のとおりです。
- 労働契約の期間
- 有期労働契約の更新の基準
- 就業場所・従事すべき業務
- 始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に関する事項
- 賃⾦の決定・計算・⽀払⽅法、賃⾦の締切・⽀払時期、昇給に関する事項
- 退職(解雇を含む)に関する事項
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、退職手当の支払時期
- 臨時に支払われる賃⾦(退職手当除く)、賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当、最低賃⾦額
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全衛⽣、職業訓練、災害補償・業務外の疾病扶助、表彰・制裁、休職に関する事項
このうち、1~6の項目は「絶対的明示記載事項」と呼ばれ、他の項目は「相対的明示記載事項」と呼ばれています。相対的明示記載事項にも明示義務はありますが、就業規則などを添付してそこに明記し、いつでも参照できるようであれば省略可能です。
なお、以前は書面での明示が義務でしたが、「労働基準法施⾏規則」 改正により平成31年(2019年)4月からは、労働者が希望した場合には、FAXや電子メール、SNSなどでも良いことになりました。労働条件通知書の詳細については、下記の記事をご覧ください。
参考:
労働条件の明示について|厚生労働省 愛媛労働局
「労働基準法施⾏規則」 改正のお知らせ|厚生労働省
雇用契約書・労働条件通知書は電子化できる?
前章でもお伝えしたとおり、平成31年(2019年)4月以降、労働条件通知書を電子化できるようになりました。ただし、絶対的明示記載事項については「原則として書面での明示、労働者がFAXや電子メール、SNSなどを希望した場合でも、出力して書面を作成できるものに限られる」とされています。
なお、第三者に閲覧させることを目的とした労働者個人のWebページやブログに、労働条件通知書の内容を書き込むことは認められません。
雇用契約書は義務ではないため、作成した労働条件通知書を電子化して労働者に送信し、会社側にも電子データを保管すれば法律上は問題ありません。ただ、雇用契約書を作成しない場合、双方の同意があった証明とはならないため不安が残ります。
労働条件通知書とは別に、雇用契約書をPDFなどで作成して署名捺印または記名押印し、両方を労働者に送信する方法もありますが、書類作成とPDF化に手間がかかるというデメリットがあります。
より効率化するには、2つの書類の必要記載事項を網羅した「雇用契約書兼労働条件通知書」を作成するなどの方法が良いでしょう。
雇用契約を結んでいないとどうなる?
これまで述べてきたとおり、労働者が使用者(雇用主)のもとで労働に従事し、使用者はそれに対する賃金を労働者に支払う約束をすることを雇用契約といいます。
労働条件通知書の作成は、労働基準法により義務とされていますが、雇用契約に関しては特に書面にしなければならないという法律はありません。端的に言えば、口約束でも成り立ってしまうのです。
しかし、雇用契約書を作成しない場合、さまざまなトラブルを生む可能性が高まります。
賃金・勤務時間・残業手当・試用期間の賃金・転勤の有無・解雇についてなど、書面になっていなければ曖昧になることもあり、労働者の不安は増すばかりです。これでは雇用主として従業員の信頼を得ることはできません。
また、労働条件通知書があったとしても、それは使用者から一方的に労働者に通知されるものです。何かトラブルが起こった際に、労使双方がその内容に同意していたという証拠にはなりません。
無用なトラブルを防ぐためにも、雇用契約書を作成したほうが良いでしょう。
雇用契約を結ぶ際のポイント・注意点は?
雇用契約は賃金や労働時間、契約期間などを取り決める大切な契約です。雇用契約を結ぶことで労働者は法的に守られるため、就労する際は必ず雇用契約を結びましょう。この章では雇用契約を結ぶ際のポイントや注意点をご紹介します。
アルバイト・パートの場合も雇用契約書が必要
労使間の雇用契約は法律で定められています。雇用形態を問わないため、アルバイト・パートでも雇用契約は必須です。特に絶対的明示記載事項の一つである「賃金」について、提示された時給と相違ないか、最低賃金は守られているかを確認しましょう。また、短期契約の場合は契約期間の確認も必要です。
契約社員の場合は契約期間を必ず確認する
契約社員は一般的に有期契約であるため、絶対的明示記載事項の一つである「労働契約の期間」と「有期労働契約の更新の基準」を必ず確認しましょう。契約期間は原則として3年以下と労働基準法で定められています。また、契約更新などで通算5年以上働いた労働者については、申し出があれば無期労働契約に転換できるルールとなっています。
参考:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等) |厚生労働省
正社員は転勤や配置転換の有無に気を付ける
正社員の場合は、絶対的明示記載事項の「就業場所・従事すべき業務」を確認しましょう。転勤が予定されていて、転居や単身赴任を余儀なくされたり、雇用契約後の配置転換によって、希望しない業務に従事したりする可能性もあります。
通常正社員は長期間の就労が見込まれるため、労働条件通知書に「業務上必要がある場合には、就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある」と明記している企業も多いようです。労使間でのミスマッチが起きないよう、必ず確認した上で雇用契約を結ぶようにしましょう。
雇用契約書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
トラブルがないようきちんと雇用契約を締結しましょう
労使間で雇用契約を結ぶことは、法律で義務付けられています。会社は「雇用契約書」や「労働条件通知書」を作成・提示し、賃金や勤務時間、業務内容について労働者の合意を得ます。雇用契約を結ぶことで労働者は法的に守られるため、トラブルを避けるためにも就労する際は必ず雇用契約を結びましょう。また、その際には雇用契約書・労働条件通知書に記載された労働条件を詳細に確認してみてください。
よくある質問
雇用契約とはなんですか?
雇用契約とは、労働者が使用者(雇用主)のもとで労働に従事し、使用者はそれに対する賃金を労働者に支払う約束をする契約のことを言います。労使間での雇用契約の締結は法律で義務付けられています。詳しくはこちらをご覧ください。
雇用契約書の作成は法律で義務付けられていますか?
法律で義務付けられているのは使用者が労働者に対して労働条件を明示することであるため、労働条件通知書を提示していれば雇用契約書の作成は義務ではありません。詳しくはこちらをご覧ください。
雇用契約を結んでいないとどうなるんですか?
何か問題が発生した際にトラブルに発展する可能性があります。雇用契約を結び労使間で合意することで、無用なトラブルを避けることができます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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