- 更新日 : 2025年2月21日
派遣社員の残業時間は何時間まで?依頼できる条件や計算方法を解説
派遣社員とは、派遣元企業と労働契約を結び、企業に派遣されて働く雇用形態の人です。派遣社員の残業時間や残業代の扱いは法律で決まっており、通常の労働者と違いはありませんが、派遣社員特有のルールがあるかもしれないと不安になる方もいるでしょう。この記事では、派遣社員の残業の扱いや、残業時間の上限、具体的な残業代の計算方法など、派遣社員の残業に関する情報をまとめています。正しい知識を持って、業務にお役立てください。
目次
派遣社員の残業の上限時間
労働時間は「1日8時間、週40時間」を超えてはならないとされており、労働基準法32条で、法定労働時間として定められています。ただし、これを超えて時間外労働をさせる場合、派遣元で36協定の締結が必要です。
派遣社員の残業時間の上限については、通常の労働者とルールは変わりません。労働基準法には、残業時間は原則「1ヶ月45時間、1年360時間」と定めがあります。ただし、臨時的な特別の事情があり、原則である月45時間を超えるためには、「特別条項付き36協定」の締結が必要です。
また締結後も、原則である月45時間を超えられるのは、年6ヶ月までです。派遣社員も上限規制は同じ扱いです。なお、「臨時的な特別の事情」により上限時間を超過する場合、以下のルールに反してはいけません。
|
派遣社員に残業を依頼できる条件
派遣社員の派遣先での残業が可能かは、派遣元企業の就業規則にもとづきます。派遣社員の残業が認められるには、以下条件を満たすことが必要です。
- 就業規則や就業条件明示書に、残業について規定がある
- 残業に関する36協定を、派遣社員と派遣元企業間で締結している
- 締結した36協定を所轄労働基準監督署⻑へ届け出している
派遣社員が残業を断れるかどうかは、これら条件を満たしているかによります。派遣社員が派遣元企業と36協定を締結していなければ、派遣先から残業を命じられても応じることはできません。
36協定について
36協定の正式名称は「時間外・休日労働に関する協定書」です。労働基準法36条にもとづき、企業と労働者代表との間で締結される協定書です。法定労働時間を超えた残業を行う場合、事前に派遣元企業と派遣社員間で36協定の締結を行い、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
36協定は、業務の種類や繁忙期により、時間外労働の上限を決めるため、企業や部署により内容が異なります。しかし、36協定を締結すれば何時間でも残業が可能と言うわけではありません。残業時間の上限は「月45時間、年360時間」です。
また、臨時的に特別な事情があって残業時間が上限を超える場合でも、以下の通り上限があります。
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ⽉平均」「4ヶ⽉平均」「5ヶ⽉平均」「6ヶ月平均」が全て1月当たり80時間以内
- 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
36協定に違反した場合の罰則
企業内で36協定違反が見つかった場合、速やかに対応する必要があります。社内で発覚した場合は、状況に応じて以下のような措置を取られることが多いです。
- 36協定を締結し、労働基準監督署に届け出を行う
- 時間外労働を減らすよう体制や業務量を整える
- 適切に労働時間を管理し、36協定違反を防ぐ
また従業員に違反を指摘された場合は、労働基準監督署の調査が行われ、是正勧告の対象となることがあります。
36協定については、こちらの記事で詳しく解説しています。
派遣社員に残業が発生するときの対応
派遣社員の残業は、自社で働いている社員と同様に、派遣社員と派遣元企業との間で結ばれた、雇用契約書にもとづいて行われます。派遣社員に残業を命じる場合は、雇用契約がどうなっているかをまず確認しましょう。残業を命じることがある旨明記されている場合は、派遣社員に残業が可能か、確認作業を進めます。
派遣社員が残業する場合のルール
原則として労働基準法では、先ほど解説した法定労働時間を超える労働は、違法と規定されています。ただし、36協定を締結すれば、月に45時間、1年間に360時間までの残業が可能です。臨時的に事情があって残業が上限を超えることが見込まれる場合は、特別条項付の36協定が必要です。派遣社員もこのルールが適用されますので、残業の規定がどうなっているか、36協定の締結がされているかなど確認後、労働基準法を遵守し残業を行います。
法定労働時間と所定労働時間の違い
残業時間のルールを知る上で欠かせないのが、法定労働時間と所定労働時間の違いです。法定労働時間は、労働基準法で定められている労働時間の上限です。原則1日8時間労働、週40時間までと、労働基準法で定められています。
第三十二条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
原則として、企業は法定労働時間を超えて働かせてはいけません。しかし業務の都合上残業が発生することはあります。その場合、法定労働時間を超えて働いた時間は時間外労働となり、残業代として支払われます。
所定労働時間とは、会社が就業規則や雇用契約書で定める1日の労働時間です。個人の状況にあわせて、1日8時間のフルタイムにしたり、1日4時間の時短労働にしたりと、設定が可能です。所定労働は、法定労働時間の中で設定を行います。所定労働時間を超えて労働した場合でも、法定労働時間を超えなければ割増賃金は発生しません。
法定労働時間と所定労働時間の違いについて、以下の記事で詳しく解説しています。
派遣社員の残業代の計算方法
派遣社員が残業を行った場合、原則、派遣元企業は25%の割増賃金を残業代として支払います。この割増賃金は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過して働いた時間が対象です。法定労働時間内の残業に割増賃金は不要で、次に解説する時給単価のみを支払えば不足は生じません。
法定労働時間を超過して労働した時間に対する残業代は、以下の計算で算出します。
1時間あたりの賃金は、時給の場合は時給をもとに計算します。月給から割り出す際は、「(基本給+基礎賃金に含める手当の合計)÷(月の平均所定労働時間)」で算出が可能です。1時間あたりの賃金を算出したあと、派遣社員が法定労働時間を超えて残業した時間と割増率をかけると、割増賃金を含めた残業代を算出できます。
たとえば時給2,000円で、普段9時〜18時(1時間の休憩)を勤務時間とする派遣社員が、月で15時間残業(深夜残業はなし)した場合、残業代は以下の金額になります。
ここでは基本的な残業時間の計算方法を解説していますが、残業時間が月に60時間を超える、もしくは深夜時間(22時〜翌午前5時)にかかる場合、割増率は変わります。
派遣社員のみなし残業について
みなし残業は、給与に一定の残業時間分の残業代を含む考え方です。派遣社員のみなし残業はどうなっているのか、考え方について解説します。
みなし残業とは
みなし残業とは、給与に一定のみなし残業時間分の残業代を、あらかじめ給与に含んで支給する制度です。みなし残業を導入していると、一定時間内の残業代は固定給にすでに含まれているため、みなし残業時間以内の残業代を支払う必要はありません。ただし、みなし残業時間を超えた場合は、別途超過した時間分、残業代の支給が必要です。
みなし残業と普通の残業の違い
みなし残業と普通の残業の違いは、残業代の考え方です。みなし残業代の注意点として、みなし残業制度を導入していない場合の残業代よりも高額になることがあります。みなし残業制度の場合、みなし残業時間分の労働をしなかったからといって、不足する時間分の残業代を減額することは認められません。
また、みなし残業時間を超過する場合、みなし残業代とは別に、超過した時間分の残業代を支給しなければならず、この点はみなし残業制度を導入していない場合も同様です。
このように、みなし残業において、残業時間がみなし残業時間を下回ると、みなし残業を導入しない場合の残業代よりも高くなる点に注意が必要です。
みなし残業を取り入れる場合の注意点
派遣社員がみなし残業を行う場合は、みなし残業を導入していない場合と同様に、時間外・休日労働のための36協定の締結、就業規則での規定、雇用契約書や就業条件明示書への明記が必要です。また、みなし残業を導入している場合であっても、導入していない場合と残業単価の計算方法は変わりません。
派遣社員の残業に関するよくある質問
派遣社員の残業時間について、以下によくある疑問を解説します。
派遣社員の残業代はどこから出る?
労働基準法では、派遣社員の残業代を支払うのは、派遣元企業であると定められています。また、派遣社員の残業が可能かは、当初締結した雇用契約書にもとづきます。残業についての扱いに迷ったら、まずは雇用契約書を確認しましょう。
残業は誰に報告したらよい?
派遣社員は、労働時間や賃金などの労働条件を、労働基準法によって派遣元企業から明示されています。残業が発生する場合、派遣社員は派遣元企業に残業がある旨を伝えましょう。また派遣先からの残業命令があったとしても、派遣元の36協定の有無や上限時間内で行う必要があります。
複数の派遣先で就業していた場合、残業時間の扱いはどうなる?
派遣社員が1日に複数の派遣先で就業するケースは、残業時間の扱いに迷うときがあります。この場合、複数の派遣先での労働時間を合算して計算を行います。残業時間に対応する派遣料金を支払うのは、労働時間が8時間を超えるタイミングで、就業していた派遣先企業です。
残業時間が多すぎる場合、誰に相談すればよい?
残業時間が多すぎるなど、業務管理が適正に行われていない場合、派遣元企業に相談をするようにしましょう。派遣元企業も、派遣社員にあらかじめ周知しておくことが重要です。派遣元企業の担当者は、派遣先の責任者と連携し、解決をはかる責任があります。残業時間以外にも、勤怠や健康面、契約内容に関する相談は、派遣元企業の担当者に行います。一人で抱え込まないようにすれば、早期に対応が取れたり、解決ができたりする場合もあるでしょう。
派遣社員の残業を適切に管理しましょう
派遣社員とは、派遣元企業と労働契約を結び、企業に派遣されて働く雇用形態です。派遣社員の残業時間は、労働基準法によって定められており、派遣元企業が法律にもとづき割増賃金を計算し残業代を支払います。ただし残業を行う場合は、派遣元企業との36協定の締結が必要であり、労使協定を締結していたとしても、36協定で定められた上限時間を超えて残業させることはできません。正しく仕組みを理解し、トラブル防止に努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
36協定に押印は必要?法的根拠や実務のポイントを解説
36協定の押印の必要性や、電子契約への対応が可能なのかといった点について疑問を抱える企業担当者や労務管理者は少なくありません。従来、36協定は紙の書面に押印し、労働基準監督署に届け出るのが一般的でしたが、デジタル化の進展により、電子契約や電…
詳しくみる21連勤は違法?労働基準法に基づき分かりやすく解説!
21連勤ともなると、心身の疲労が深刻なレベルに達し、日常生活のすべてが仕事中心に回ってしまう厳しさを感じます。 本記事では 「21連勤は違法なのか?」 という疑問を労働基準法に基づいて分かりやすく解説します。法令遵守はもちろん、従業員の健康…
詳しくみるAIによる勤怠管理の方法は?シフト作成や給与計算の自動化についても解説
近年、多くの企業が勤怠管理にAIを活用し、出退勤の管理を効率化しています。本記事では、AIを活用した勤怠管理の概要やメリット、具体的な活用場面などを詳しく紹介します。勤怠管理のAI活用によって何が実現可能になるのかを理解し、業務効率化に役立…
詳しくみる労働者派遣法とは?法律の概要や派遣契約の流れ、直近の改正内容を徹底解説
企業に人材を派遣する派遣会社と派遣社員を受け入れる派遣先企業は「労働者派遣法」に則って契約を締結し、それに従って派遣社員に業務を任せなければなりません。契約を結ばずに派遣社員を受け入れたり、契約内容を無視して仕事をさせたりすると、派遣会社や…
詳しくみるどのような待遇差は不合理?同一労働・同一賃金ガイドラインのまとめ
同一労働・同一賃金ガイドライン案の概要 同一労働・同一賃金を含む働き方改革関連法が2018年6月29日に成立しました。同一労働・同一賃金とは、同一企業・団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者…
詳しくみる公休とは?有給との違いや給料の発生有無について解説!
会社員には休日や休暇など仕事を休める日があり、その種類は多岐にわたります。 土曜日・日曜日や祝日、年末年始、夏季休暇、慶弔休暇、年次有給休暇などがありますが、「公休」はどれに該当するのでしょうか。 今回は公休について、その意味や他の休日との…
詳しくみる