• 更新日 : 2023年9月29日

転勤とは?異動との違いや離職・退職を防ぐコツを解説

転勤とは?異動との違いや離職・退職を防ぐコツを解説

転勤は企業の成長と従業員のキャリア形成にとって重要な要素であり、多くの企業で実施されています。しかし、その実施方法や意図が不明確であると、従業員の離職や退職を招く可能性があります。

本記事では転勤と異動の違い、転勤の対象になりやすい人の特徴、転勤の通知方法・時期、転勤を成功させるためのポイントについて詳しく解説します。

転勤とは?

日本の雇用慣行では、転勤は長年、当たり前のように受け入れられてきました。ここでは、法律上、労務管理上の位置付けについて確認します。

異動との違い

企業が持つ人事権の一つに、配置転換命令権があります。

配置転換とは従業員の配置の変更であって、職種または勤務地を相当の長期間にわたって変更することです。

そして、勤務地の変更を伴う配置転換を「転勤」と呼びます。

これに対して「異動」は転勤を含めた広義の用語であり、配置転換と同義です。労務管理では「縦の異動」「横の異動」というように使われます。

「縦の異動」とは、同一企業内での昇進・昇格のことです。一方で「横の異動」とは、同一企業内での職種または勤務地の変更(転勤)だけでなく、資本関係などにある異なる企業への出向・転籍も含めた人材の移動も指します。

つまり、学問的にはまず広義の異動(配置転換)があり、転勤はその中の「横の異動」のうち、勤務地の異動という位置付けといえます。

企業が従業員を転勤させる理由

最高裁は、企業は憲法上、経済活動を行う自由があるとしています。企業の存在意義は経済活動によって収益を上げることであり、そのために原則として人材の採用や配置転換を行う人事権があるという考え方です。

企業が人事権を行使して転勤を命じることには、このような背景があります。

生産性や業務効率の向上

企業では市場や業界の変動、組織の成長に応じて業務のニーズが変化します。業務効率を向上させるために、専門性や経験を持つ従業員を最適な場所に異動させる必要があります。転勤は、このような業務ニーズの最適化を図る手段として行われます。

組織の活性化

長い間同じメンバーで業務を続けていると、視野が狭くなることがあります。新しい従業員を投入することで、新しい視点やアイデアを取り入れることができるため、組織の活性化を図ることができます。転勤は、これを実現するための手法としてよく用いられます。

人材の育成

多様な経験は、従業員の成長を促進します。異なる部署や地域での業務経験を持つ従業員は、多角的な視点を持ち、リーダーシップやマネジメントの能力も向上します。転勤は、従業員に幅広い経験をさせるための重要な手段といえるでしょう。

人員配置の適正化

企業が事業を進める中で、特定の地域や部門で人手不足や過剰人員が生じることがあります。転勤はこのような人員配置の不均衡を解消し、適切な人材配置を実現するための重要な手段です。適切な人員配置は組織全体のバランスを保ち、業務をスムーズに進めるために不可欠です。

転勤の対象になりやすい人の特徴

企業が転勤を行う際の選考基準や方針は多岐にわたりますが、一般的には特定の特徴を持つ社員が転勤の対象となります。その特徴をいくつか紹介します。

異動を希望している社員

新しい環境やチャレンジを求める社員は、転勤によってその機会を得るために異動を望んでいます。

目的は、社内での昇進・昇格に限りません。都市部から地方への転勤を希望する社員は、家族の事情や地域への愛着、新しい環境での挑戦を望んでいることもあります。

同じ部署に長期間働く社員

長い間同じ部署で働いていると新鮮な視点や刺激を得られなくなるため、転勤によって新たな環境で経験を積ませるという判断もあるでしょう。いわゆる「ジョブ・ローテーション」です。

例えば10年以上営業部門で働いている社員を、経営企画部やマーケティング部へ転勤させるといったケースがあります。

優秀な社員

企業は優秀な社員に幅広い経験を積ませ、組織全体の質を向上させることを目指しています。

例えば売上実績がトップクラスの営業社員が、他の支店や部門でリーダーとなるために転勤を命じられることもあるでしょう。

成果を出せていない社員

一定の成果を上げることが難しい社員に対して、新しい環境や業務内容での再チャレンジの機会を提供することで、その能力や適性を再評価するために転勤を命じることもあります。

例えば伸び悩んでいる製造部門の社員が、異なる製品ラインを持つ他の工場へ転勤させられるといったケースが考えられます。

転勤の通知方法や時期

企業の組織戦略や人事方針に従って転勤が決定される場合、通知の方法や時期は企業ごとに異なりますが、一般的には以下のような流れで行われます。

通知方法

直属の上司からの口頭通知を経て、書面によって正式に通知するのが一般的です。

まず直属の上司が社員を呼び出し、口頭で転勤を伝えます。その際、転勤の背景や意図、新しい拠点・部門での役職、業務内容についての説明が行われます。

そして、人事部門から転勤通知書異動通知書が渡されます。この書面には転勤の詳細や時期、新しい勤務地、職位、業務内容などが記載されています。

通知の時期

多くの企業では、新年度や下半期が始まるタイミングで人事異動が行われます。

例えば4月に新年度が始まる企業では、2月から3月にかけて転勤の通知が行われるのが一般的です。企業や業種によりますが、新年度の業務開始に向けた準備期間として、1~2ヵ月の通知期間を設けるケースが多いです。

下半期が始まる10月に人事異動が行われる場合は、8月から9月にかけて通知が行われます。

通知の方法や時期については、業種や企業規模、社風、人事方針などによって変わります。

従業員を転勤させる際の注意点

転勤は企業にとって重要な人事戦略の一つですが、適切に実施しないと問題が生じることがあります。

離職や退職のリスク

従業員にとって、転勤は大きなライフイベントです。子供の学校や配偶者の職場など、さまざまな要因が絡み合い、転勤がストレスの原因となることもあります。そのため、転勤の決定やアプローチの仕方によっては、従業員が離職を選択するリスクが高まります。

例えば、以下のような例は珍しくありません。

A社員の子供は高校生で、進学を控えていた。しかし、突然転勤の通知を受けて、子供の進学計画が破綻。子供や家族の将来を優先し、A社員は退職を決意した。

転勤にかかるコストの負担

転勤では移転費用や住宅の手配など、さまざまなコストが発生します。これらのコストは企業が負担するケースが多いため、経済的側面からも転勤のタイミングや頻度、対象者を慎重に決める必要があります。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

B社員は海外転勤を命じられ、企業はそのための引越し費用や現地の住居費、さらに子供のインターナショナルスクールの学費も負担した。しかし、B社員が業務に適応できずに1年で帰国した場合、企業は不要なコストを負担したことになり、経済的な損失を被ります。

転勤を成功させるには?

転勤を成功させるためには、企業としての戦略的視点と従業員の視点を両方考慮する必要があります。

生産性向上につながる人員配置にする

人員配置が適切でないと生産性が低下し、組織全体のパフォーマンスも低下します。従業員のスキルや経験を的確に評価し、必要な部署や役職に配置することが重要です。具体的には定期的にスキルチェックや面談を行い、情報を最新に保つようにしましょう。

事業戦略を考慮した転勤を実施する

事業を成功させるためには、戦略に合わせて人材を配置する必要があります。そのためには、中長期的な事業計画をもとに、どの職種や役職が必要かを見極めなければなりません。事業計画を変更する場合は、人事計画も見直し、柔軟に対応する必要があります。

従業員の長期的なキャリア育成も考慮する

従業員のモチベーションの維持とキャリアアップをサポートすることは、組織の長期的な成功につながります。したがって、従業員の将来のキャリアパスを見据え、必要な経験やスキルを習得させるための人員配置を行う必要があります。キャリアカウンセリングや研修制度を充実させ、従業員のキャリア意識を高めることも大切です。

転勤の意図を従業員に丁寧に説明する

従業員の不安を軽減するためには、転勤について納得してもらう必要があります。転勤の背景や目的、期待する役割を明確に伝えましょう。その際は一方通行の伝達ではなく、従業員の疑問や不安を聞き入れ、対話を大切にしましょう。

転勤先にも事前に話を通しておく

業務のスムーズな引継ぎと、新しい環境での適応をサポートすることも不可欠です。例えば、転勤先のリーダーやチームとの連携を強化するといった方法があります。事前のオリエンテーションや情報共有を実施し、円滑な業務転換を図りましょう。

離職を防ぐためにも転勤の基礎知識を理解しよう!

適切に管理され、従業員のキャリア形成と企業の戦略に組み込まれている場合、転勤は生産性の向上や組織の活性化、人材の育成に貢献します。

しかし、その実施には慎重さが求められ、従業員への丁寧な説明や転勤先とのコミュニケーションが不可欠です。転勤に対する理解を深め、より良い人事労務管理を実現しましょう。


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