• 更新日 : 2024年9月6日

退職勧奨とは?円滑な進め方や言い方、通知書のひな形や文例を紹介

企業の業績悪化に伴う解雇による退職や、従業員の私生活上の理由による自発的な退職など、退職の形は様々です。しかし、退職は労使双方にとって重大事であるため、いずれの形による場合であっても、適切な手続きを踏む必要があるでしょう。

当記事では、円滑に退職勧奨を進めるための知識を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

退職勧奨とは?

「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」とは、企業が対象者として選定した従業員に対して、自発的な退職を促す方法です。人件費の削減や人員の刷新などを目的として行われる場合が多くなっています。また、問題を起こした従業員を穏便に退職させるために行われる場合もあります。

退職勧奨と退職勧告の違い

退職勧奨は、法律に規定されているものではなく、どのような呼び方をするかは企業の自由です。そのため、「退職勧告」としている企業も存在しますが、基本的に両者に違いはありません。企業によっては、退職勧告のほうをより強い働きかけとして扱い、両者を区別している場合もあります。しかし、自発的な退職を促すという点で、両者に違いはないと考えてよいでしょう。

退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨では、労使双方の話し合いによる合意のうえで、従業員が自発的に退職することになります。そのため、労使双方が退職の時期や条件などについて合意していることが前提です。一方の解雇は、企業側から一方的に労働契約を解除する方法です。そのため、労使双方の合意は不要であり、退職勧奨とは大きく異なります。

退職勧奨は会社都合か、自己都合か

退職は、その理由によって「会社都合」と「自己都合」に分けられます。会社都合か否かは、基本手当(失業手当)の受給などにも関わる重要な要素です。会社都合退職のほうが有利となる場合が多く、従業員としては会社都合による退職を望むことが通常でしょう。そして、退職勧奨による退職は、企業側からの働きかけであるため、一般的に会社都合による退職として扱われます。

退職勧奨をするメリット、デメリット

退職勧奨であれ解雇であれ、退職に伴う労働契約の解除という最終的な結果は異なりません。では、なぜあえて退職勧奨を行うのでしょうか。退職勧奨のメリットとデメリットについて解説します。

退職勧奨における企業側のメリット

退職勧奨における最大のメリットは、リスクの大きい解雇を避けられることです。解雇には、「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」といった種類が存在します。しかし、そのいずれであっても、解雇にあたって極めて厳格な要件が課されており、要件を満たさない解雇は違法な解雇として無効となってしまいます。解雇には、解雇無効訴訟をはじめとするトラブルが、どうしても付いて回るのです。

一方の退職勧奨は、企業からの働きかけがあるとしても、自発的な退職という形になります。解雇のように厳格な要件も課されておらず、合意による退職のため、後のトラブルに発展する可能性も低くなっています。解雇による退職と退職勧奨による退職は、最終的な結果は同じでも、後のトラブルという点で大きく異なるわけです。

退職勧奨における従業員側のメリット

解雇を避けられることは、企業側だけのメリットではありません。問題行動を起こし、本来ならば懲戒解雇となるような従業員であっても、まず退職勧奨を行う場合がまま見られます。

通常懲戒解雇は、企業において最も重い懲戒処分となります。懲戒解雇は経歴として残るため、再就職にも大きな悪影響を与えるでしょう。しかし、退職勧奨による退職は、解雇ではありません。そのため、懲戒解雇となるような従業員であれば、退職勧奨に応じたほうが後の影響は少なく、受けるメリットは大きくなります。また、懲戒解雇であれば、退職金の支給対象とならない場合が通常です。しかし、退職勧奨であれば、退職金が支給される場合もあるでしょう。

懲戒処分を受けるような問題のある従業員でない場合であっても、退職勧奨によるメリットは存在します。退職勧奨は、企業側からの働きかけによる退職ですが、強制力はありません。そのため、退職勧奨に応じてもらうために、退職金などに対する上乗せが行われる場合もあります。このような場合であれば、従業員にとっても、金銭的なメリットのある方法と言えるでしょう。

退職勧奨のデメリット

退職勧奨は、労使双方の話し合いによる自発的な退職です。そのため、退職勧奨に強制力はなく、従業員に応じる義務もありません。人件費の削減や組織再編のための人員刷新が必要な場合など、企業にやむを得ない事情があっても同様です。強制力がないことは、退職勧奨のデメリットな側面と言えるでしょう。

本来ならば懲戒解雇となる従業員に対して、退職勧奨を行う場合もあります。しかし、そのような退職勧奨は、他の従業員に示しが付かず、社内にしこりを残す結果ともなりかねません。信賞必罰は適切に行われなければならず、特定の従業員に対してのみ温情措置を取るような行為は、他の従業員の不満を高めてしまうでしょう。

退職勧奨の進め方や手続き方法

退職勧奨の進め方に法的な決まりはありませんが、適切な手順を踏まなければ、後のトラブルの元になりかねません。適切な手順で退職勧奨を進めていきましょう。

退職勧奨の基準を定め正当な理由を提示する

退職勧奨を行うためには、まず対象となる従業員の選定が必要です。この際には、明確な基準を設け、人選には合理的かつ正当な理由があることを印象付けます。人選に不明瞭な点があれば、後の労使トラブルに発展してしまうため、誰もが納得できる明確な基準を設けましょう。

退職勧奨対象者との面談を行う

退職勧奨の対象者と面談を行い、企業側の意向や人選の理由などについて説明します。退職という重大事に関わる面談であるため、他の従業員がいるオフィスなどでは行わず、個室で行うことが望ましいです。

退職時期や条件面を話し合いで決める

退職に応じる意向を示した従業員と、退職時期や退職金などの条件について話し合います。退職金の上乗せや再就職先の斡旋などを条件として提示すれば、よりスムーズに話し合いが進められるでしょう。

退職勧奨同意書を作成する

条件面で折り合いが付いたら、条件への同意を証する書面として「退職勧奨同意書」を作成することも必要です。同意書は、法定のものではありませんが、後のトラブルを避けるためにも作成したほうがよいでしょう。特に退職金をはじめとする金銭面の条件は、トラブルに発展しやすくなっています。後のトラブルを避けるためにも、しっかりと書面として残すことが推奨されます。

退職届の提出

退職勧奨に関する諸条件に同意し、退職が決まったら退職届を提出してもらいます。労働契約の解除は、口頭でも可能です。しかし、解雇ではない自発的な退職であることを示す証拠として、退職届の提出が重要となってきます。

退職勧奨の言い方や言ってはいけない言葉

退職勧奨における話し合いでは、企業が雇用を継続するために努力してきたことを丁寧に説明します。業績悪化による退職勧奨であれば、コストカットに励んできたことや、時短勤務などの手を尽くしたことを説明しましょう。勤務態度に問題がある従業員への退職勧奨であれば、企業がどれだけ機会を与え、改善を図ったかを説明します。どのような理由による退職勧奨であっても、相手が納得できるように説明することが重要です。

会社の意向を伝える際には、強い態度を取ってはいけません。あくまで冷静かつ真摯な態度で交渉に臨みましょう。強い態度で退職を迫れば、退職を強要されたとして、退職後に訴訟を提起される恐れもあります。

また、相手の神経を逆なでするような言動も、冷静な判断力を奪うことにつながるため、慎みましょう。冷静に話し合えば、退職勧奨に応じる可能性のあった従業員でも、冷静さを失えば、不利益を覚悟で徹底抗戦の構えとなる可能性もあります。

退職勧奨で言ってはいけない言葉

退職勧奨では、いくつか言ってはいけない言葉が存在するため、注意が必要です。そのような言葉による退職は、後のトラブルに発展する可能性が高くなっています。具体的には、以下のような言葉が該当します。

「無能な従業員はいらない」
「お前は職場で嫌われているから辞めてくれ」
「みんな辞めて欲しいと思っている」

相手を罵倒するような言葉は、ハラスメントになりかねません。このような言葉は相手を深く傷付けてしまいます。退職勧奨がきっかけとなり、精神障害を発症してしまうケースもあるため、注意しましょう。

「退職勧奨に応じなければ、左遷する」
「辞めなければ後で後悔することになる」
「自分で辞める気がないなら、クビにする」

退職勧奨に応じなければ、不利益になるという趣旨の発言も問題です。退職勧奨に応じなければ、自分が不利になると感じさせるような言葉は、退職の強要と判断される場合があります。

上記のような言葉を使えば、仮に相手が退職勧奨に応じたとしても、ハラスメントや退職の強要として、後に企業が不利な立場に置かれることになります。

退職勧奨通知書の無料テンプレート・ひな形

退職勧奨を行う場合には、諸条件などを記載した「退職勧奨通知書」を作成し、交付する場合もあります。通知書を交付すれば、従業員もあらかじめ退職勧奨に関する情報を得ることができるため、後の交渉もスムーズに進めることが可能です。

退職勧奨通知書は、どのような様式や内容で作成しても問題ありません。しかし、押さえるべきポイントも存在します。

退職勧奨通知書の書き方のポイント

退職勧奨通知書には、次のような事項を記載します。

1.通知書の作成日
退職勧奨が、従業員を追い込むような長期間にわたって行われたものでないことを示すために記載します。

2.氏名
退職勧奨の対象となる従業員の氏名を記載します。

3.企業名
退職勧奨を行う企業の社名を記載します。また、企業代表者の肩書および氏名も併せて記載が必要です。

4.通知理由
なぜ退職勧奨の通知が交付されたのかについて記載します。企業側の都合であれば、業績悪化などが考えられるでしょう。従業員側の問題であれば、勤務態度不良などを記載します。

5.退職に際して支払われる金銭
退職勧奨に応じた場合に上乗せされる退職金や、退職金とは別に支給する金銭などを記載します。

6.支払期日
5の金銭を支払う時期を記載します。

退職勧奨通知書の作成は、テンプレートの利用も便利です。以下のようなテンプレートが存在するため活用してください。

退職勧奨が違法となるケース

退職勧奨自体は、何ら違法性のある行為ではありません。しかし、退職勧奨が違法となるケースも存在するため、ケースごとに解説します。

退職勧奨が強制となるケース

退職勧奨による退職は、従業員の自由意思であるべきです。そのため、退職勧奨という名目であっても、退職が強制されたものと判断されれば解雇と同視され、要件を満たさなければ、無効な解雇となってしまいます。

以下のような言動の結果として退職勧奨に応じたのであれば、強制的であったとみなされてしまうでしょう。

  • 威圧的な言動によって、退職を迫った
  • 複数人で囲い込み、圧迫したうえで同意を得た
  • 仕事のない閑職へ追いやって、同意させた

ハラスメントと判断されるケース

以下のような言動を退職勧奨の際に企業側が取った場合には、ハラスメントと判断されてしまいます。ハラスメントと判断されれば、退職の強制となるだけでなく、損害賠償請求訴訟を提起される可能性もあります。

  • 殴るなどの身体的攻撃を行った
  • 人格否定などの精神的な攻撃を加えた
  • 自分一人しかいないような部署へ追いやり、周囲との関係を絶った
  • 無理なノルマなどを課して、従業員の意欲を奪った
  • 従業員に対して、全く仕事を与えず、自分が必要ないと思わせた
  • 退職の口実とするために、業務上不要な従業員のプライベートを探った

強制的な退職勧奨や、ハラスメントがあった場合には、退職が無効となるだけでなく、訴訟のリスクも抱え込むことになります。従業員の意思を尊重したうえで、退職勧奨を進めましょう。

退職勧奨を理解してトラブルの防止を

退職勧奨は、企業と従業員の話し合いによる円満な退職方法です。労使双方にとってメリットがあり、適切に進めることができれば、非常に有用な方法と言えるでしょう。
有益な方法である一方、違法な退職勧奨となるケースも存在します。当記事を参考に退職勧奨に関する理解を深め、違法な退職勧奨とならないように努めてください。


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