- 更新日 : 2025年2月21日
賃金台帳をもらうには?ハローワークや保険会社など提出時の注意点を解説
「賃金台帳をもらうにはどうすればいいんだろう?」とお悩みではないでしょうか。
じつは、賃金台帳は労働局などからもらえるものではなく、事業者が自身で作る必要があります。
厚生労働省のサイトなどでフォーマットが配布されていますが、自身で作成したオリジナルのフォーマットでも問題はありません。
この記事では賃金台帳の提出が必要な場合の対応や開示義務などについて解説します。
目次
賃金台帳をもらうには?フォーマットでの作成方法
賃金台帳は書類で送付されたりするわけではなく、事業者が自身で作成する書類です。
また、法人だけではなく個人事業主でも従業員を雇用していれば、賃金台帳の作成が必要になります。
▼ 既存のテンプレートを利用する場合
厚生労働省の公式サイトでフォーマットを配布しています。 常時雇用の従業員と日雇いの従業員で記載項目が異なるため、注意しましょう。 配布先:様式集|東京労働局 |
▼ 自力で作成する場合
厚生労働省や信頼のおける事業者のサイトで配布されているフォーマットを雛形に、Excelやスプレッドシートで作成しましょう。 自社で扱いやすいようにカスタマイズしてもよいかもしれません。 |
下記の関連記事もご参考ください。
関連記事:「賃金台帳はどこでもらえる?開示義務の有無や対応をテンプレートつきで解説」
賃金台帳の必須の記載項目
賃金台帳のフォーマットは自由ですが、「労働基準法施行規則第54条」により、必ず書かなければいけない項目が決まっています。
必須の項目 | 概要 |
---|---|
氏名 | 従業員の名前 |
性別 | 従業員の性別 |
賃金計算期間 | 労働者が働いた期間(日雇い労働者は不要) |
労働日数 | 労働した日数 |
労働時間数 | 実際に働いた時間の合計 |
休日労働・時間外労働・深夜労働の時間数 | 各時間外労働等の時間数 |
基本給・手当などの種類と金額 | 基本給や役職手当など、各種手当の内容と金額 |
控除に関する項目と金額 | 所得税や社会保険料などの控除額を記載 |
上記の項目がフォーマットから抜けていたり、誤って記載していた場合は労働基準法を違反するおそれもあるため、気をつけましょう。
参考:労働基準法施行規則(第54条) | e-Gov 法令検索
給与明細は賃金台帳の代わりになる?
基本的に賃金台帳を給与明細で代用することはできません。
賃金台帳と給与明細は、いずれも従業員の賃金に関する情報を扱う書類ですが、目的や記載内容が違うためです。
賃金台帳 | 給与明細 | |
---|---|---|
作成目的 | 全従業員への賃金の支払い状況を記録する | 個々の従業員に対して給与を通知する |
規定する法律 | 労働基準法 | 所得税法 |
保存期間 | 原則5年 | 保存の必要なし |
記載内容例 |
|
|
ただし、賃金台帳に必要な項目が給与明細に記載されていた場合には、例外的に代用も可能です。
詳細は関連記事をご確認ください。
関連記事:「賃金台帳と給与明細の違いは?代用できる?フォーマットや書き方も解説」
賃金台帳の提出・配布が必要な6つのパターン
事業者には、賃金台帳の提出・配布を求められる場合があります。
この章では6つのパターンを解説します。
①労働基準監督所に提出を求められる
臨検監督という労働基準監督署による立ち入り検査の際に、賃金台帳の提出を求められることがあります。
理由としては、事業者が労働時間や給与に関して法律を違反していないか、労務状況を確認するためです。
臨検監督は事前に実施を予告する場合もありますが、抜き打ちで来訪する場合もあります。
この際、賃金台帳に記載必須の項目が抜けていたり、故意ではなくても誤りがあると、指導票の交付や是正勧告を受け改善が必要になります。
是正勧告を受け入れなかったり、悪質な虚偽の記述があると、労働基準法に違反し罰金を科されるおそれもあるため注意しましょう。
また、賃金台帳だけではなく、労働者名簿や就業規則も提出を求められるので、記載ミスがないよう日頃からしっかり管理しておくことが大切です。
▼ 賃金台帳の記載を巡る近年の報道
賃金台帳 労働時間数を過小に記入 トラック事業者送検 伊万里労基署|労働新聞社
水戸京成百貨店など書類送検 社員の労働日数を少なく記入か|NHK 茨城県のニュース
②社労士へ提出する
賃金台帳を社労士へ提出する場合もあります。
たとえば、労働基準監督署に指導を受けた場合は、迅速な是正対応を求められることもあるでしょう。
その際、自力の対応が難しければ社労士へ賃金台帳を渡し、相談すると安心です。
賃金台帳を入念にチェックしてもらえば、是正勧告から罰則の適用に発展するような事態を防げるはずです。
また、記載方法をしっかり教えてもらえば、賃金台帳の記載ミスも今後減っていくでしょう。
③助成金の申請時に提出する
さまざまな助成金の申請を進める場合にも、基本的に賃金台帳の提出が必須になります。
理由としては、助成金を支給するべき会社なのかを見極めるためであり、賃金台帳や他の提出書類を運営団体が厳重にチェックします。
▼ 賃金台帳の提出が必要な助成金の例
|
もし賃金台帳に不備があれば助成金を受けられない場合もあるため、気をつけましょう。
▼ 参考:賃金の支払いは足りていますか? 賃金台帳は整備されていますか? | 青森労働局(厚生労働省)
④雇用保険の手続きの際に提出する
雇用保険の加入手続きを行う際、管轄のハローワークから賃金台帳の提出を求められることがあります。
この際、賃金台帳だけではなく、労働者名簿や出勤日、雇用契約書なども提出が必要な場合があります。
⑤ハローワークへ提出する
退職者から離職票を求められた際、事業者はハローワークに必要な書類を提出する義務があります。
このとき、退職者への給与支払い状況を確認できる資料として、賃金台帳が必要となる場合があります。
提出の理由としては、正確な退職者の給与や勤務状況をハローワークの職員が確認し、失業保険の給付額を決めるためです。
▼ 離職票交付にともなう添付資料
雇用保険への加入時期が1年以上の場合 離職日から遡って13ヶ月以上の賃金台帳その他資料を添付 雇用保険への加入時期が1年未満の場合 雇用保険へ加入してから離職日までの賃金台帳その他資料を添付 |
参考:離職票交付にともなう添付資料について│横浜公共職業安定所
この場合は給与の支払い状況が明確になればよいので、賃金台帳ではなく給与明細の提出でも基本的に問題はありません。
離職票の発行についての詳しい手続きは、関連記事をご確認ください。
関連記事:「離職票をもらうには、賃金台帳を何ヶ月分提出する?必要な書類をわかりやすく解説」
⑥各事業所へ配布する
本社だけではなく支社や営業所が存在していれば、各事業所へ賃金台帳を配布しなければならない場合があります。
なぜなら複数の事業所がある場合、本社で全体の従業員の賃金台帳を作成・保存すると、労働基準法第108条に違反してしまうためです。
そのため本社で一括して賃金台帳を作成する場合は、複数の事業所別で賃金台帳を作成し、各事業所へ配布する必要があります。
この際、紙であれば印刷した写しを配布し、電子データで作成している場合は各事業所にデータを送信しましょう、
また、本社で一括して作成しない場合は、複数の事業所ごとに賃金台帳を作成・保存するようにしましょう。
従業員から開示を求められた場合、開示義務はある?
従業員から「賃金台帳を見たい」や「賃金台帳の写しをもらえないか」と求められても、事業者に賃金台帳の開示義務はありません。
賃金台帳は会社の機密なので誰にでも開示するべきではなく、開示を拒んでも法的に問題にはなりません。
ただし、従業員には賃金台帳の開示を求めるに至った何らかの理由があるはずです。
一方的に開示を拒否するのではなく、「なぜ賃金台帳が見たいのか」まずは開示を求める理由を聞き、話し合うことが大切です。
保険会社に提出が必要な場合もある
従業員から賃金台帳の写しを求められる場合と関連して、保険会社へ賃金台帳を提出しなければならないことがあります。
保険会社から従業員へ「休業損害証明書」を送付された場合が、このパターンにあたります。
関連休業損害証明書はケガで仕事ができなくなり、収入が減少した従業員が保険金を請求するための書類です。
従業員が交通事故をした際、加害者の保険会社から被害者(従業員)へ、休業損害証明書が送られます。
一般的に休業損害証明書には源泉徴収票を添付しますが、「源泉徴収票がなければ、賃金台帳の写しの提出が必要」とされている場合があります。
雇用から間もない場合などがこのパターンに該当し、その際従業員から賃金台帳の写しを求められる場合もあるでしょう。
ただし、休業損害証明書は通常は従業員が記入するものではなく、事業者が記入し保険会社へ提出する書類です。
そのため、従業員に賃金台帳の写しを渡さなくても、休業損害証明書を従業員からあずかり、必要書類を添えて保険会社へ返送すれば問題ありません。
賃金台帳の提出を求められた場合の注意点
最後に、賃金台帳の提出を求められた場合の注意点を解説していきます。
常に最新の情報に更新する
賃金台帳を提出する際は、必ず最新の情報に更新しておきましょう。
記載している内容が古いと各種申請が通らない可能性や、労働基準監督署からの是正勧告を受けるおそれがあります。
常に最新の状態であれば、労働順監督署による臨検監督にも問題なく対応できます。
給与を支払ったタイミングで毎月更新するよう社内ルールを整備したり、更新しやすいように電子データでの管理を検討しましょう。
すぐに提出できるようにしておく
賃金台帳は日常的に確認するような書類ではありませんが、いつどこにでも提出できるようにしておくことも大切です。
なぜなら、労働基準監督署による臨検監督や、労務関係のトラブルの際に必要になる場合があるためです。
紙ではなく電子データで保存する場合も、「ただちに提出できること」が作成時の条件として定められています。
▼ 電子データで保存する際の必須条件
(1) 法令で定められた要件を具備し、かつそれを画面上に表示し印字することができること。
(2) 労働基準監督官の臨検時等、ただちに必要事項が明らかにされ、提出し得るシステムとなっていること。
(3) 誤って消去されないこと。
(4) 長期にわたって保存できること。
賃金台帳を紙で作成している場合は紙質が劣化したり、他の書類と混ざらないようしっかりファイリングしておきましょう。
記載ミスに十分注意する
賃金台帳は従業員の給与や勤務時間を記載した重要な書類のため、記載ミスには十分注意しましょう。
故意ではない記載ミスであっても是正勧告の対象となる場合があり、助成金の申請時などには書類不備で審査を通らないおそれもあります。
そのため、各項目を正確に記載できるよう対策を設けることが重要です。
▼ 記載ミスを防ぐための対策例
|
もし記載に迷うような項目があれば、自己判断は避けて社労士など専門家への相談をおすすめします。
保存期間に注意する
2020年4月の改正労働基準法(第109条)により、賃金台帳の保存期間が原則5年に延長されたため保存期間には注意しましょう。
改正労働基準法が施行される前は、賃金台帳の保存期間は3年間となっていました。
2025年2月現在は、移行にともなう経過措置として、賃金台帳の保存期間が従来の3年間であっても問題はないことになっています。
また、賃金台帳を源泉徴収簿と兼用している場合は経過措置に関わらず、保存期間は7年間へ延びるため、こちらも気をつけましょう。
経過措置の終了時期はまだ明確に示されておらず、いつ終了するかはわかりません。
ただし、経過措置がいずれ終了することは確実です。
賃金台帳は5年間保存することを念頭に置いて、今のうちに社内体制を整備しておきましょう。
賃金台帳は正確に作成し保存しよう
賃金台帳は労働局などからもらうものではなく、事業者が作成する必要があります。
提出が必要になる場面としては、労働基準監督署の調査や助成金申請、雇用保険手続きなどのパターンが考えられます。
また、もし従業員から開示を求められた際も求めに応じる義務はありません。
賃金台帳は労働基準法で作成・保存が義務付けられた重要な書類ですので、作成後は安全に更新・保存しておけるよう管理体制を整えておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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