• 作成日 : 2022年9月9日

60歳以上の厚生年金加入は義務?加入によるメリットを解説!

60歳以上の厚生年金加入は義務?加入によるメリットを解説!

2023年度から地方公務員の定年延長がスタートするなど、60歳以降も働く方が増加する傾向にあります。「生活のため」「社会とのつながり」など、働く理由はさまざまです。60歳以降の就労は、定期収入を確保する以外に「老後の公的年金の額を増やす」というメリットがあります。今回は、この60歳以上の厚生年金加入について解説します。

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60歳以上も厚生年金の加入は義務?

日本の年金制度は、国民年金から成る「老齢基礎年金」と厚生年金保険から成る「老齢厚生年金」の2階建てが基本です。国民年金は原則として日本に住む20歳〜60歳までのすべての方が加入対象であり、40年間保険料を納めることで満額の老齢基礎年金を受給できます。

一方、厚生年金保険は、厚生年金保険に加入している企業(適用事業所)に勤務する70歳未満の従業員が対象です。つまり、60歳を過ぎて会社員として働き続けるのであれば、厚生年金保険に加入して70歳まで保険料を納付する義務があります。

「60歳以上は公的年金は任意加入では?」と、保険料を払わなくてよいという方もいますが、これは国民年金と厚生年金保険の制度を混同しています。60歳以降の任意加入制度が適用されるのは、国民年金です。

老齢基礎年金の受給資格期間である10年を満たしていない方や、40年の満額納付期間に達していない方は、厚生年金保険・共済組合などの加入者でない限り、60歳以降も希望すれば国民年金に加入できます。

60歳になったら任意加入を選択できるのは国民年金、企業に雇われて働いている70歳未満の従業員に加入義務が発生するのは厚生年金保険と覚えましょう。

参考:任意加入制度(国民年金)|日本年金機構

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60歳以上も厚生年金に加入するメリット

60歳以上でも働いている方が、被用者として健康保険などの公的医療保険制度や厚生年金保険などの公的年金制度に加入していることで得られる主なメリットには下記のものがあります。

  • 健康保険にも加入し続けられる
  • 将来受け取れる厚生年金の受給額が増える
  • 扶養している配偶者がいる場合、配偶者の老齢基礎年金の受給額も増える

やはりサラリーマンの世帯にとって大きいのは将来の年金が増額するという点です。

国民年金制度の老齢基礎年金は、保険料納付期間の上限が40年(480カ月)と決まってるため、満額に達するとそれ以上はもらえません。しかし、厚生年金保険制度の老齢厚生年金は、収入を基準に計算した平均標準報酬月額や平均標準報酬額に給付乗率や厚生年金保険の被保険者期間をかけて算出されるため、簡単にいえば「給料が多いほど、長く働くほど、保険料を納める金額が多くなり、厚生年金が多くもらえる」という仕組みになっています。

60歳以上の加入でいくら増えるのか、具体例を出しながら解説します。

60歳以降も厚生年金に加入したら年金はどれだけ増える?

厚生年金保険における老齢厚生年金の金額は、以下のように算出できます。

老齢厚生年金の受給額 = 報酬比例部分の年金額 + 経過的加算 + 加給年金額

報酬比例部分の年金額とは

老齢厚生年金の大部分を占めるものです。月々の給与をもとにした平均標準報酬月額(2003年3月以前)や賞与も含めた平均標準報酬額(2003年4月以後)に、厚生年金保険の加入月数と一定の給付乗率を掛けて求めます。

経過的加算とは

厚生年金保険の制度には60歳以降に受ける「特別支給の老齢厚生年金」と呼ばれるものがあり、その受給金額は老齢基礎年金の金額に相当する定額部分と報酬比例部分を合算して計算されます。

しかし、65歳になって老齢厚生年金を受け取る場合に、特別支給の老齢厚生年金の定額部分が老齢基礎年金の額より多くなることがあります。そのときに、20歳未満と60歳以降で厚生年金保険の被保険者期間であった期間相当分を老齢厚生年金に上乗せして保障する金額が「経過的加算」です。

なお、経過的加算は厚生年金保険の加入期間40年が限度となるため、20歳から60歳までの40年間厚生年金保険に加入していて老齢基礎年金を満額受け取れる方には加算はありません。

加給年金額とは

厚生年金保険の被保険者期間が原則として20年以上あり、65歳になって老齢厚生年金を受け取る時点(または特別支給の老齢厚生年金の定額部分を受け取る年齢に達した時点)で扶養している配偶者または子がいる場合に加算される年金です。配偶者が65歳になり、老齢基礎年金を受給するようになると、加給年金の支払いはなくなります。また、子に対する加給年金は、原則として子が18歳到達年度の3月31日になるまでが対象です。

60歳以上になっても厚生年金保険への加入を続けることで、まず増額となるのは「報酬比例部分」です。実際の年金額の計算は、生年月日に応じた給付乗率や賃金水準や物価水準に応じた再評価率によって計算されます。また、掛け込み年数に応じて毎年年金額が改定される仕組みになっていることもあり、ここで説明するモデルケースと実際の年金額は異なります。

したがって、人によっては、厚生年金保険の加入期間が増えたことで加給年金額が加算されるため、一律に「〇歳まで働けばいくら増える」ということは困難です。ここでは報酬比例部分のみに着目し、2つのモデルケースをもとに65歳、70歳まで働いた場合に増える年金額の目安を比較して見てみましょう。

65歳まで働いて厚生年金に加入し続けた場合・平均月収20万円/25万円/30万円

60歳以上で加入した厚生年金保険により、増額する老齢厚生年金の報酬比例部分は次のように算出します。

平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 加入月数

※給付乗率は、受給する方の生年月日によって異なります。
※平均標準報酬額は賞与を含めたものです。

厚生年金の詳しい計算方法についてはこちらの記事もあわせてご覧ください。

60歳から65歳までの5年間(60カ月)、厚生年金保険に加入した場合、平均月収に応じて増える年金額は以下のようになります。

平均標準報酬額増える老齢厚生年金65歳から90歳まで
25年間受給した場合の増額の合計
(単純比較)
平均月収20万円年間65,772円1,644,300円
平均月収25万円年間82,215円2,055,375円
平均月収30万円年間98,658円2,466,450円

60歳から5年間厚生年金保険の加入を続けたことにより、増額する年金額は収入によって異なりますが、モデルケースでは年間6.5万円から9.8万円の増額となりました。年間の金額ではあまり大きなインパクトはないように感じますが、65歳から90歳までの25年間年金を受給すると仮定した場合、その増額は約160万円〜250万円となり、大きな金額となることがわかります。

70歳まで働いて厚生年金に加入し続けた場合・平均月収20万円/25万円/30万円

厚生年金保険の加入は70歳まで可能ですので、60歳から70歳まで10年間(120カ月)厚生年金保険への加入を続けた場合に増える老齢厚生年金を計算します。計算式には、前述に用いた報酬比例部分の計算と同じものを用います。

平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 加入月数

平均標準報酬額増える老齢厚生年金25年間受給した場合の増額の合計
(単純比較)
平均月収20万円年間131,544円3,288,600円
平均月収25万円年間164,430円4,110,750円
平均月収30万円年間197,316円4,932,900円

単純に加入期間が10年増加すれば、増える老齢厚生年金の額も年額で13万円~20万円近くとなり、受給期間を25年と仮定した場合、最大で約500万円の増額が見込まれます。老後の資産形成を考えるうえでも、老齢厚生年金は大きなインパクトを与えることでしょう。

65歳以降で厚生年金に加入する場合は「年金額カット」に注意

加入期間が伸びれば、将来的にもらえる年金額が増えるのが老齢厚生年金です。しかし、厚生年金保険に加入しながら年金を受給する方には、「年金額カット」があることに注意する必要があります。

老齢厚生年金は原則として65歳から受給できます。つまり、65歳以降も働いている方は、「月の給与+年金」を受け取る形になります。ただし、この合計額が一定以上になると年金額が支給停止となる仕組みとなっており、これを「在職老齢年金」といいます。

年金カットに注意するのは、おおまかにいって「年金の支給月額と賃金月額の合計が47万円以上」のケースです。

ここでいう「年金の支給月額」とは正しくは「基本月額」と呼び、老齢厚生年金の報酬比例部分の月額を指します。「賃金月額」の正しい呼び方は、標準報酬月額と1年間に支給された賞与をもとに計算した標準賞与額の合計を12で割った「総報酬月額相当額」です。

たとえば、65歳以上の方で、賞与を加味した総報酬月額相当額が40万円ある方は、ひと月の老齢厚生年金(加給年金額を除いた部分)が17万円を超えていると、年金の一部または全額が支給停止となります。

60歳以上も働き続けるケースでは、再雇用制度等を活用し、これまでの勤務条件とは異なる勤務形態で働く方が少なくありません。60歳以降で特別支給の老齢厚生年金を受給する場合にも在職老齢年金による支給停止は適用されます。また、厚生年金保険の被保険者とならない70歳以上の方も、厚生年金保険の適用事業所で勤務されている方であれば、在職老齢年金の仕組みで年金額カットがあるので注意が必要です。

月の賃金と老齢厚生年金の受給額の合計によって、厚生年金の支給額が一部または全額カットされることもあるため、勤務日や勤務条件と合わせて、シニア期間の働き方を検討する際に覚えておくといいでしょう。

参考:在職老齢年金の計算方法|日本年金機構

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厚生年金の支払期間に関わる「20年の壁」とは

60歳以上になり、仕事を続けるかどうかを検討するとき、厚生年金保険の加入期間が20年あるかどうかが一つポイントになります。これは「20年の壁」と呼ばれるもので、厚生年金保険の加入期間が20年以上あれば、条件に合致した場合に加給年金額がつき、もらえる年金が増えるというものです。

加給年金額とは、厚生年金保険の加入期間が原則20年以上ある方が65歳以上で老齢厚生年金の受給を開始したとき(または65歳未満でも特別支給の老齢厚生年金の定額部分の受給を開始)、配偶者や子どもが条件を満たしている場合に支給される年金です。

対象者加給年金額(年額)条件
配偶者223,800円65歳未満であること
1人目・2人目の子各223,800円18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子
3人目以降の子各74,600円18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子

引用:加給年金額と振替加算|日本年金機構

配偶者の加給年金額では、老齢厚生年金を受給している方の生年月日に応じて、33,100円から165,100円が特別加算されるため、年額の年金額が最大で388,900円増額(2022年4月現在)となります。

なお、2022年(令和4年)4月より、法改正により、配偶者が加入期間20年以上の老齢厚生年金または退職共済年金の受け取る権利がある場合は、その配偶者の年金が全額支給停止になっていたときにも、老齢厚生年金を受け取る本人の加給年金額が停止されることになりました。

配偶者への加給年金額は、配偶者が65歳に達した時点で停止されます。ただし、配偶者の生年月日が昭和41年4月1日以前であり、一定の条件を満たしている場合には「振替加算」として配偶者の老齢基礎年金額に一定額が加算される制度があります。

配偶者が専業主婦(夫)であったり、自営業で国民年金のみに加入していたりするケース、または自身が65歳時点で18歳未満の子がいるケースなどでは、この加給年金額がつくかどうかによって、受け取れる年金額の総額が変わります。

もし、60歳を前に厚生年金保険の加入期間が20年に満たないという方は、加給年金額の条件を確認し、それを踏まえて60歳以降のライフプランを検討してみるのがいいでしょう。

参考:加給年金額と振替加算|日本年金機構

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厚生年金の加入期間が増えれば将来の年金額が増える

厚生年金保険は70歳までが加入対象となっており、60歳以上の方でも加入期間が増えることで、将来受け取る年金額を増やすことができます。また、厚生年金保険の加入期間が20年を超えていれば、生計を共にする配偶者や子どもの年齢・年金の受給資格によって、加給年金額が追加され、受け取る年金額の増額になります。

65歳以上で厚生年金保険に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取る方は、在職老齢年金制度により、年金額がカットされる可能性があることに注意しましょう。

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よくある質問

60歳以上も厚生年金の加入は義務ですか?

厚生年金保険は、企業(適用事業所)に常時雇用される70歳未満の従業員が加入の対象です。一定の条件に該当すれば、国籍・性別・年収等に関係なく加入し、保険料を納付しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。

60歳以上も厚生年金に加入するメリットについて教えてください。

厚生年金保険の加入期間が長くなることで、将来受け取れる年金(老齢厚生年金)の金額が増えます。また、厚生年金保険の加入期間が20年を超えるなど、一定の条件に合致する方には加給年金等の加算があります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:加治 直樹(経営労務コンサルタント)

銀行に20年以上勤務し、融資融資から資産運用、年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタント。退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は行政で企業及び労働者の労働相談業務を行いながら、セミナー講師など幅広く活動中。

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