- 作成日 : 2023年3月17日
時間外労働における割増賃金の計算方法を解説

時間外労働が発生した場合、企業は1時間あたりの賃金単価に割増賃金率を掛けて時間外労働の賃金を支払わなければなりません。割増賃金は、通常の労働時間に対する賃金の計算とは異なります。
給与計算を正しく行うために、ケース別の割増賃金率を理解しておきましょう。ここでは、時間外労働の割増賃金の計算の仕方を解説します。
目次
時間外労働とは?
時間外労働とは、法定労働時間を超えた労働のことです。労働基準法では、労働時間は1日8時間、週40時間と定められています。この範囲を超えて労働させた場合、法律でいう時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となります。
時間外労働に対して支払われる賃金は「割増賃金」
時間外労働というと、一般的に思い浮かぶのが「残業」です。時間外労働に適用される割増賃金は、ケースによって異なります。そのため、どのような場合において、いかなる割増賃金率が適用されるのかを正しく理解しておくことが重要です。
割増賃金と残業代の違い
割増賃金を正しく理解する上で、残業代との違いを押さえておきましょう。上述したように法定労働時間は「1日8時間・週40時間」です。しかし、労働契約のなかには「1日7時間・週35時間」のように、法定労働時間に満たない労働時間を設定するケースもあります。これを、所定労働時間といいます。
たとえば労働者が、1日7.5時間働いた場合、0.5時間分は「法定内残業」として扱われます。法定内残業は、会社の定める所定労働時間を超えて働いたけれども、法定労働時間を超えていない分を指します。割増のない通常の賃金が「残業代」として支払われるのが一般的です。
一方、法定労働時間を超えた労働は「法定外残業」として扱われます。企業は、法定外残業についてはケースに応じた割増賃金を支払わなければいけません。
時間外労働における割増賃金の計算方法
割増賃金の計算方法を解説します。
時間外労働における賃金の割増率
割増賃金を計算する場合の基本の方式は、以下の通りです。
時給制の場合は、基礎賃金の部分が時給にあたります。月給制の場合は、1ヵ月あたりの基礎賃金額を、1ヵ月平均所定労働時間で割って計算します。なお、この基礎賃金には以下の7つの手当や賃金は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
割増賃金の対象となる労働の時間数を算出する
次に、割増賃金の対象となる労働の時間数を計算します。割増賃金の対象となる労働の種類には、以下のものがあります。
- 時間外労働:
- 休日労働:法定休日に行う労働
- 深夜労働:深夜10時から翌朝5時までに発生した労働
1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた分
時間外労働が(1ヵ月45時間、1年360時間等)を超えた分
時間外労働が1ヵ月60時間を超えた分
割増賃金の種類を確認する
割増賃金の対象となる労働の種類によって、割増率が決められています。時間外労働の場合、その総時間によって割増賃金率が変更になる点に注意が必要です。
引用:しっかりマスター労働基準法|東京労働局
月60時間を超える時間外労働については、2023年3月31日までは、中小企業は割増率50%以上の適用が猶予されています。しかし、2023年4月1日以降は、猶予措置が廃止され、中小企業も大企業と同じく50%以上の割増率になります。
1時間あたりの賃金額と割増率を掛け合わせる
割増賃金の対象となる労働の種類に応じた割増率に1時間あたりの賃金額を掛け合わせます。たとえば、1時間あたりの基礎賃金が1,500円の労働者が、2時間の時間外労働が発生した場合は、以下のような計算式になります。
1,500円×1.25×2時間=3,750円
なお、深夜帯に時間外労働が発生するといったケースでは、それぞれの割増賃金率を加算します。つまり、時間外労働が深夜に及んだときは、「125%+25%=150%」で計算しなければなりません。
1時間あたりの基礎賃金が1,200円の労働者が、法定休日に2時間の深夜労働をした場合は、以下のようになります。
(1,200円×1.35+1,200円×0.25)×2時間=3,840円
※労働した時間に対する賃金は休日労働に対する割増賃金(1.35倍の1倍部分)で計算するため、深夜労働の割増賃金は0.25倍で計算する必要があります。
端数処理を行う
割増賃金の計算では、円未満の端数が発生することがあります。「1時間あたりの賃金額や割増賃金額」「1ヵ月間の時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの割増賃金額の合計額」に生じた円未満の端数処理として、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げることが認められています。
時間外労働における割増賃金の計算方法は給与形態によって変わる?日給・月給・年俸制などの観点から
割増賃金の計算では、労働者の給与形態によって、もとになる1時間あたりの基礎賃金の計算が異なる点を抑えておきましょう。
- 月給
- 週給
- 日給
- 年俸制
- 歩合給・歩合手当(月給で支払われる場合)
1ヵ月の基礎賃金÷1ヵ月の平均所定労働時間
1週間の基礎賃金÷週の所定労働時間
※所定労働時間数が週ごとに異なる場合は、4週間における1週あたりの平均所定労働時間で割って計算する。
日給額÷1日の所定労働時間
※所定労働時間が日によって異なる場合は、1週間における1日あたりの平均所定労働日数で割って計算する。
年俸額÷1年間の所定労働時間
歩合給÷1ヵ月の総労働時間
年俸制の場合、あらかじめ年俸額に残業代が含まれている場合があります。その場合でも、想定されていた残業代が法律通りに計算した割増賃金よりも少ない場合には、不足する差額分の支払いが必要です。また、基本給が月給で手当が歩合制などという場合には、基本給は1ヵ月の平均所定労働時間、歩合手当は1ヵ月の総労働時間でそれぞれ割って合計します。
割増賃金の計算では割増賃金の対象となる労働の種類に注意
割増賃金を計算する場合には、労働基準法に定められた割増賃金の種類を理解した上で算出しましょう。また、労働者の給与形態によって、割増賃金の計算のもととなる1時間あたりの基礎賃金の算出方法が異なるところも、割増賃金の計算の間違いやすいポイントです。
時間外労働の割増賃金は、法定労働時間を超えて労働した時間外労働の時間数によって割増率が異なります。とくに、2023年4月1日以降は、月60時間以上の時間外労働の割増賃金について、中小企業の猶予措置が廃止され、割増率を50%以上とする必要があるため注意が必要です。
よくある質問
時間外労働とはなんですか?
時間外労働とは、1日8時間・週40時間と労働基準法で定められた「法定労働時間」を超えた労働時間をいいます。時間外労働の総合計によって、3種類の割増賃金率が適用されます。詳しくはこちらをご覧ください。
時間外労働の割増賃金について計算方法を教えてください
1時間あたりの基礎賃金に割増賃金率と時間外労働時間数を掛けて算出します。割増賃金率は、法定労働時間を超えた分および時間外労働の限度時間を超えた分は25%以上、月60時間を超えた分は50%以上です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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