- 更新日 : 2024年8月30日
36協定に関する協定書の記載例や協定届との違い、法的義務を解説(テンプレート付き)
「36協定に関する協定書」とは、労働者に時間外労働や休日労働を課す際に、労使間で締結しなければならない協定書です。36協定に関わる書類には「36協定に関する協定届」というものもあります。名称は似ていますが、作成の目的は全く異なります。当記事では、36協定に関する協定書の記入例や書き方、協定届との違いなどを紹介します。
目次
36協定に関する協定書とは?
「36協定に関する協定書」とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定書」といい、事業主が労働者に対して法定労働時間を超える時間外労働を課したり、法定休日に休日労働を課したりする場合に労使間で締結しなければならない協定書です。ここでは、36協定の概要とともに、36協定に関する協定書を作成する目的や法的義務について解説します。
そもそも36協定とは?
「36協定」とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定」といい、時間外労働や休日労働を課す際に労使間で締結しなければならない協定です。労働基準法の第36条を根拠とした協定であるため、通称36協定と呼ばれています。なお、36協定の読み方は「サブロク協定」です。
そもそも、事業主が労働者に課すことができる労働時間は、1日8時間・週40時間までと定められています。加えて、最低でも週1日もしくは4週あたり4日以上の休日を与えなければなりません。労働基準法で定められた労働時間が「法定労働時間」、休日が「法定休日」です。
労働基準法第36条には、法定労働時間を超えて労働を課したり、法定休日に労働を課したりする場合は、労働者の過半数で組織された労働組合、もしくは労働者の過半数を代表する者と書面による協定を締結し、行政官庁に届け出なければならならないと定められています。
時間外労働や休日労働を課す際に、労使間で締結する協定が36協定です。36協定について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
36協定の協定書の目的
36協定に関する協定書を作成する目的は、労働を課すことができる時間を労使間で確認し、合意を得ることです。労使双方の合意に基づき36協定の締結に至った場合は、協定書に双方の代表者が署名捺印します。
なお、2019年4月以降は36協定で定められた時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられたため注意が必要です。従来は36協定さえ締結してしまえば際限なく時間外労働を課すことができたため、長時間労働が常態化するなど社会的な問題となっていました。
36協定に規定する時間外労働・休日労働は、労働基準法の範囲内でなければなりません。労働基準法の上限規制を逸脱した36協定は無効となるため気をつけましょう。
参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働 について留意すべき事項に関する指針 (労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針)|厚生労働省
36協定の協定書の法的義務
前述のとおり、時間外労働や休日労働を課す場合は、労使双方の合意に基づき36協定を締結しなければなりません。36協定の締結は、労働基準法に定められた法的な義務です。36協定を締結するには、労働時間等を明示した書面による協定書を作成し、労使双方が確認して署名捺印する必要があります。
36協定を締結しないまま時間外労働や休日労働を課すことは労働基準法違反です。違反した場合は、労働基準法第119条に従い6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
たとえ36協定を締結していても、上限規制を超えて時間外労働や休日労働を課した場合は罰則の対象です。なお、罰則は労働者ではなく事業主に科されます。労働時間の管理を担う管理監督者に罰則が科されるため十分気をつけましょう。
36協定の協定書と協定届との違い
36協定にまつわる書類には「36協定に関する協定書」と「36協定に関する協定届」の2種類があります。名称が似ているため混同されることの多い書類ですが、作成の目的は全く異なります。
前章で解説したとおり、協定書を作成する目的は、課すことのできる労働時間を労使間で確認し、合意を得ることです。合意に至った場合は、労使双方の代表者による署名捺印が必要です。万が一トラブルが発生した場合は、法的な証拠となります。
一方、協定届を作成する目的は、36協定を締結したことを労働基準監督署に届け出ることです。労働基準法第36条には、時間外労働・休日労働を課す場合、書面による協定を締結し、行政官庁に届け出なければならないと定めれれています。
36協定を締結するための書面が協定書、締結した36協定を労働基準監督署に届け出る書類が協定届です。作成の目的が異なるため、混同しないよう注意しましょう。
なお、協定書には労使双方の代表者による署名捺印が必要ですが、協定届には必要ありません。記載内容は協定書も協定届も大差ないため、協定届に署名捺印することで協定書と兼用することも可能です。
36協定の協定書の作成に必要な情報
36協定に関する協定書の様式やフォーマットについて明確な規定はありませんが、下記の5項目について定めるよう労働基準法に規定されています。
- 時間外労働や休日労働を課すことができる労働者の範囲
- 時間外労働や休日労働を課すことができる期間
- 時間外労働や休日労働を課すことができる場合
- 時間外労働や休日労働を課すことができる時間または日数
- 時間外労働や休日労働を適正なものとするため厚生労働省令で定める必要事項
一つずつ確認していきましょう。
時間外労働や休日労働を課すことができる労働者の範囲
まず、労働者の範囲とは、時間外労働や休日労働を課すことができる業務の種類と労働者数を指します。例えば、営業が何人・経理が何人・総務が何人など、具体的に記載することが重要です。
時間外労働や休日労働を課すことができる期間
続いて、時間外労働や休日労働を課す期間を規定します。36協定で時間外労働や休日労働を課すことのできる期間は最長1年間です。36協定において、期間は「対象期間」、対象期間の始まりの日は「起算日」として厳格に管理されます。
時間外労働や休日労働を課すことができる場合
さらに、時間外労働・休日労働を課す具体的な理由を記載しましょう。労働基準法では1日8時間・週40時間以上の労働を課すことを禁じています。36協定を締結することで例外的にこれらの上限が緩和されますが、上限を超えて時間外労働・休日労働を課すには合理的な理由が求められます。「繁忙期に伴う業務量の増加に対応するため」や「急なトラブル対応など通常予見できない臨時的な業務が発生したため」などの理由が一般的です。
時間外労働や休日労働を課すことができる時間または日数
36協定を締結することで労働時間の上限が緩和されます。しかし、36協定を締結すれば際限なく労働を課すことができるわけではありません。前述の通り、時間外労働・休日労働にも上限規制が設けられているため注意が必要です。36協定を締結することで、下記の上限内で時間外労働を課すことができます。
- 年360時間
- 月45時間
通常予見できない臨時的な事由によって上限規制を超えて労働を課す場合は、「特別条項付き36協定」を締結しなければなりません。特別条項付き36協定の上限規制は下記の通りです。
- 時間外労働と法定休日労働の合計が月100時間未満
- 2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の平均が全て月80時間以内
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働を⽉45時間以上課すことができるのは年6ヶ月が限度
これらの上限規制を守るため、協定書には対象期間における1日・1ヶ月・1年について、時間外労働・休日労働を課すことができる時間・日数を明記しなければなりません。
時間外労働や休日労働を適正なものとするため厚生労働省令で定める必要事項
加えて、36協定には時間外労働・休日労働の適正化を目的に厚生労働省が定めた必要事項を記載しなければなりません。必要事項は、労働基準法施行規則第17条に明示されている下記の7項目です。
- 36協定の有効期間
- 対象期間の起算日
- 特別条項付き36協定の上限規制を満たしていること
- 36協定の上限規制を超えて労働を課すことができる場合
- 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置
- 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
- 限度時間を超えて労働させる場合の手続き
参考:労働基準法施行規則(第十七条) | e-Gov法令検索
36協定に関する協定書のひな型・テンプレート
前章では、36協定に関する協定書に記載すべき項目について解説しました。様式やフォーマットに規定はありませんが、協定書には必要事項を漏らさず記載しなければなりません。
そこで、マネーフォワードでは無料でご利用いただける協定書のテンプレートを作成しました。こちらのひな形を利用すれば、正しい協定書を簡単に作成できます。メールアドレスとわずかな情報だけですぐにダウンロードできるため、ぜひ利用してみてください。
36協定に関する協定書はこちらからダウンロード可能です。
36協定に関する協定書の書き方・記入例
続いて、記入例を交えて36協定に関する協定書の具体的な書き方を紹介しましょう。ここでは、前章で紹介したマネーフォワードのテンプレートを元に解説します。
- 事業所の名称事業所の名称を記載します。支店・支社・営業所などに分かれている場合は事業所ごとに36協定を締結してください。
- 労働者代表の名称労働者代表の名称を記載します。労働者の過半数からなる労働組合がある場合は労働組合の組合長の名称を、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の名称を記載しましょう。ただし、管理監督者は労働者の代表にはなれないので注意が必要です。
- 時間外労働・休日労働を課す理由時間外労働や休日労働を課す具体的な事由を記載します。36協定を締結し時間外労働・休日労働を課すには合理的な理由が必要です。
- 時間外労働・休日労働を課す業務の範囲と人数例えば、営業や経理など、時間外労働や休日労働を課す業務の範囲と対象の人数を具体的に記載します。
- 時間外労働・休日労働を課すことができる時間・日数時間外労働や休日労働を課すことができる時間や日数を具体的に記載します。労働基準法で定められて上限時間内でなければなりません。
- 時間外労働・休日労働を課すことができる期間時間外労働や休日労働を課すことができる期間を具体的に記載します。36協定によって時間外労働・休日労働を課すことができる対象期間は最長1年間です。
- 対象期間の起算日1年間の上限時間を計算する際の起算日を記載します。
- 36協定の有効期限36協定の有効期限を記載します。有効期限は最長3年ですが、対象期間と合わせて1年とするのが望ましいでしょう。
- 事業主・労働者代表の署名捺印事業主と労働者代表が署名捺印します。36協定に関する協定届には不要ですが、協定書と兼ねる場合は署名捺印が必要なので注意しましょう。
36協定の協定書の保管方法
協定届とは異なり、36協定に関する協定書は作成後に労働基準監督署などへ提出する必要はありません。ただし、労使間で締結した36協定は、労働基準法第106条に従い就業規則などとあわせて労働者へ周知しなければなりません。周知方法は下記のいずれかの方法が推奨されています。
- 常時各作業場の⾒やすい場所へ掲示するか備え付けておく
- 書面で労働者に交付する
- 磁気テープや磁気ディスクなどの電子媒体に記録した上で、労働者が記録の内容を確認できる機器を常時各作業場に設置する
周知されていない36協定は無効となります。また、周知義務違反は労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰則が科されることもあるため、協定書を作成するだけでなく周知を徹底するよう心がけましょう。
参考:36協定や就業規則等を周知するために|厚生労働省
参考:労働基準法(第百六条) | e-Gov法令検索
参考:労働基準法(第百二十条) | e-Gov法令検索
36協定に関する協定書を作成して正しく勤怠管理を行おう
今回は36協定に関する協定書について解説しました。36協定に関する協定書は、労働者に時間外労働や休日労働を課す際に労使間で労働時間や日数などを確認し、合意を得るために作成する書類です。
協定書の作成は、労働基準法に定められた事業主の義務となっています。協定書を作成し36協定に合意しないまま時間外労働や休日労働を課すことは労働基準法違反となり、罰則の対象となるため注意が必要です。
36協定に関する書類には36協定に関する協定届というものもあります。協定届は、36協定を締結したことを労働基準監督署に届け出るための書類です。記載内容は協定書も協定届も大差ありませんが、協定書には事業主ならびに労働者代表が署名捺印しなければなりません。協定届には不要ですが、協定書と兼ねる場合は署名捺印しなければならないため気をつけましょう。
時間外労働や休日労働をはじめとした、従業員の労務管理は非常に重要です。当記事で紹介したテンプレートを参考に、36協定に関する協定書を作成して正しく勤怠管理を行いましょう。
よくある質問
36協定の協定書は必ず作成する必要がありますか?
労働基準法に定められた事業主の義務です。労働者に時間外労働や休日労働を課す場合は36協定に関する協定書を作成し、合意を得なければなりません。合意のない時間外労働・休日労働は労働基準法違反です。詳しくはこちらをご覧ください。
36協定の協定書と協定届の違いは何ですか?
作成の目的が異なります。協定書は労働時間などを労使双方で確認し合意を得るための書類です。一方、協定届は労働基準監督署に届け出る目的で作成されます。署名捺印の有無も異なるため混同しないようにしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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