• 更新日 : 2024年8月21日

企業内保育所とは?料金の目安やデメリット、補助金、企業事例

子育て中の従業員のために企業内保育所を設置する企業が増えています。とくに注目を集めているのが、助成金を受けられる企業主導型保育事業です。

本記事では、企業内保育所の種類と概要、料金の目安やデメリット、助成金などについて解説します。トヨタ自動車株式会社など企業内保育所のある会社の事例も紹介しますので、設置を検討中の企業担当者は参考にしてください。

企業内保育所とは?

企業内保育所とは、企業が子育て中の従業員のために設置した保育所などのことです。従業員が利用しやすいように企業の施設内や近くに設置されるのが一般的です。

保育所には従来型の認可保育所や認可外保育所もありますが、待機児童ゼロを掲げる政府が2016年度に創設した「企業主導型保育事業」が注目されています。

最初に、企業内保育所が導入された背景と導入状況を解説します。

企業内保育所が導入された背景

企業内保育所が導入されたのは、以下のような社会的背景があるためです。

  • 少子高齢化による人手不足が深刻化
  • 女性の就業率の高まり
  • 子どもの託児施設の不足

少子高齢化によって人手不足が深刻化する中、企業は子育てする女性を支援して労働力として活躍してもらうことを期待している状況です。また、夫婦共働きが当たり前となる中、女性の就業意識も高まっています。

女性が出産後に仕事に出ようとしたとき、障害になるのが託児所不足です。働く意欲があるものの託児所が見つからず仕事を断念する人もいます。託児所不足を解決する方法の1つとして、企業内保育所が注目されました。

企業内保育所の導入数

企業内保育所は、大きく「事業所内保育所」と「企業主導型保育所」に分かれます。詳細は次の章で説明しますが、事業所内保育所は認可保育所、企業主導型保育所は認可外保育所です。

厚生労働省の調査によると、2021年3月現在の事業所内保育施設の導入数は3,869か所で、内訳は以下のとおりです。

  • 院内保育施設(※):2,371か所(入所児童数は4万1,367人)
  • その他の施設:1,498か所(入所児童数は1万4,997人)

※病院が設置する事業所内保育所のことです。人手不足の上、勤務が不規則な従業員のニーズが高いため、病院での導入が進んでいます。

参考:<参考Ⅰ>事業所内保育施設の状況|厚生労働省

企業主導型保育所については、2024年1月現在で4,439か所(入所児童数は8万4,861人)あります。

参考:企業主導型保育施設一覧(定員充足状況含む)(令和6年1月初日現在)について|公益財団法人児童育成協会

企業内保育所の種類と違い

企業内保育所には、以下の種類があります。

  • 認可保育所(事業所内保育所)
  • 企業主導型保育所(企業主導型保育事業)
  • 認可外保育所
  • 託児スペース

それぞれの特徴について解説します。

認可保育所(事業所内保育所)

認可保育所とは、国の基準を満たし地方自治体の認可を受けた児童福祉施設です。地方自治体が入園者の決定や保育料の徴収を行います。設立基準は厳しいですが、助成金を受けられるのがメリットです。

認可保育所(事業所内保育所)に預けられるのは原則0歳から2歳までですが、連携園に転園すれば小学校就学前まで預かってもらえます。保育士の配置基準は以下のとおりです。

  • 0歳児:3人につき保育士1人
  • 1~2歳児:6人につき1人以上
  • 3歳児:20人につき1人以上
  • 4歳児以上:30人につき1人以上

企業主導型保育所(企業主導型保育事業)

企業主導型保育所とは、国が行う「企業主導型保育事業」として国から助成を受けて設立された認可外保育所です。施設に直接入園申し込みをし、保育料も各施設により異なります。

預けられる年齢は保育所によって異なりますが、0歳から小学校就学前まで預かってくれる保育所もあります。保育士の配置基準は、認可保育所と同じです。

認可外保育所

認可外保育所は、認可保育所よりも緩い基準でも設立できる保育所です。ただし、一定の基準を満たし、地方自治体への届け出や報告が必要です。企業主導型保育所も認可外保育所の1つですが、企業主導型保育事業の助成を受けない点が異なります。

認可外保育所に預けられるのは、原則0歳から小学校就学前までですが、保育所によって取り扱いが異なることもあります。保育士の配置基準は、認可保育所と同じです。

託児スペース

託児スペースとは、主に乳幼児を預かる児童福祉施設です。地方自治体への届け出などが不要で、託児スペースや人材が揃えば比較的簡単に設置できます。ただし、保育内容は託児スペースによって大きく異なり、保育所と比較すると見劣りするのが一般的です。

また、認可保育所などと異なり保育士の配置基準は定められていない一方、助成金は受けられません。

企業内保育所の料金の目安

助成金を受けられる認可保育所と企業主導型保育所の料金は、受けられない認可外保育所(企業主導型保育所を除く)より安くなります。それぞれの目安は以下のとおりです。

  • 認可保育所:月額3万5,000円~5万5,000円
  • 認可外保育所:5万円~7万円

企業主導型保育所の保育料の水準は以下のように決められています。

  • 0歳児:月額3万7,100円
  • 1~2歳児:3万7,000円
  • 3歳児:2万6,600円
  • 4歳児以降:2万3,100円

ただし、認可保育所(事業所内保育所)と企業主導型保育所については、以下のとおり保育料が無償化されました。

  • 3歳~5歳までの子どもの保育料
  • 住民税非課税世帯の0歳~2歳までの子どもの保育料

認可外保育所についても、以下の範囲内で保育料が無償です。

  • 33歳~5歳までの子ども:月額3.7万円まで
  • 住民税非課税世帯の0歳から2歳までの子ども:月額4.2万円まで

企業内保育所のメリット

企業内保育所には、さまざまなメリットがあります。企業と従業員の両方の立場から見ていきましょう。

企業側のメリット

企業にとって一番大きなメリットは、子育てを理由とした離職を防げることです。子どもを預けるところが見つからず、やむなく退職する従業員を引き止められます。また、安心して働けることによって、従業員が業務に専念できることもメリットです。

求人活動において、働きやすい会社として求職者に認識してもらう効果も期待できます。

従業員側のメリット

職場の近くで子どもを預かってもらっているため、従業員は安心して働けます。また、保育所を探したり、保育所へ送り迎えしたりする手間が省けます。企業内保育所によって、仕事と育児の両立が容易になるでしょう。

また、認可保育所や企業主導型保育所は、保育料が安いことも魅力です。

企業内保育所のデメリット

企業内保育所にもデメリットがあります。企業側と従業員側のデメリットを紹介します。

企業側のデメリット

企業側のデメリットは、保育所の設置や運営の費用や業務の負担です。国や地方自治体の助成はありますが、設置基準や安全性を守るために保育所の設置や運営には一定の企業負担が発生します。保育士不足が深刻化する中、人材の確保も課題です。

また、企業主導型保育所については、児童の募集も必要です。入園者を集められず、採算の確保に苦労することも考えられます。

従業員側のデメリット

企業内保育所は認可外保育所であるため、認可保育所と比較して施設や設備、保育士の質などに不満や不安を感じる人もいます。

また、企業内や近くに設置しているため、子どもを連れて満員電車で通勤したり、ビル内の閉鎖的な空間での保育に不安を感じたりすることもあるでしょう。

企業内保育所を導入するには?

企業内保育所は、以下の手順で導入します。

  • 社内でのニーズ調査
  • 保育所の運営形態を決める
  • 自治体への相談
  • 自治体への申請・開所

各手順について解説します。

社内でのニーズ調査

最初に、企業内保育所のニーズがどれだけあるかを、社内アンケートなどを用いて確認します。確認事項は、子どもの年齢や利用の有無、希望する保育時間や曜日などです。

ニーズを正確に把握して、導入の可否を判断しましょう。また、保育所の規模や運営形態、設置時期などを判断する材料になります。

保育所の運営形態を決める

次に、保育所の運営形態を決めます。主な決定内容は以下のとおりです。利用が想定される従業員のニーズに配慮して決定します。

  • 自社で保育所を直接運営するか、保育事業者に運営を委託するか
  • 自社運営の場合、自社単独で運営するのか、近隣の企業と共同でするのか
  • 利用者は従業員に限定するのか、地域の住民も受け入れるのか

自治体への相談

保育所設立の概要が決まったら、地方自治体に相談しましょう。保育所設置に必要な法律上の対応や助成金などについて確認します。設置に関する法律には、児童福祉法や建築基準法、消防法、食品衛生法などがあります。

自治体への申請・開所

導入する企業内保育所の詳細が確定したら、認可保育所の場合、地方自治体に申請して認可を受けます。認可外保育所は、認可は不要ですが届け出は必要です。

また、企業主導型保育所を導入する場合は、公益財団法人児童育成協会に助成申請します。

企業内保育所の補助金・助成金

企業内保育所に対する主な補助金や助成金は以下のとおりです。

  • 認可保育所(事業所内保育所):事業所内保育施設設置・運営等支援助成金
  • 企業主導型保育所:企業主導型保育事業助成金

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の申請先は「都道府県労働局」、企業主導型保育事業助成金は「公益財団法人児童育成協会」です。

支給内容は異なりますが、保育所の設置費だけでなく運営費に対する助成もあります。

企業内保育所を導入している事例

企業内保育所の導入事例を紹介しますので、自社で導入するときの参考にしてください。

ぶぅぶフォレスト|トヨタ自動車株式会社

「ぶぅぶフォレスト」は、トヨタ自動車株式会社の4つ目の託児施設です。従来の3施設の定員は約140名でしたが、ぶぅぶフォレストの定員は約320名と大幅に定員数が増えました。

交替勤務や夜勤の従業員を支援するために早朝・宿泊保育を導入し、本社地域の全工場からの幼児送迎を行い送迎の負担軽減を図っています。

参考:2018年03月20日トヨタ自動車、事業所内託児施設「ぶぅぶフォレスト」をオープン|トヨタ自動車株式会社

ヤクルト保育所|株式会社ヤクルト

「ヤクルト保育所」は、ヤクルトレディの拠点で約2,500か所あるセンターに対し、約1,200か所設置(2016年)されています。小規模な施設(園児数は平均8.4人)を多数設置して、職場の近くで安心して子どもを預けられます。

保育料は月約6,000円(全国平均)と、利用しやすい料金設定も魅力です。

参考:ヤクルト保育所|株式会社ヤクルト

ビジョンキッズ保育園|株式会社ビジョン

「ビジョンキッズ保育園」は、2019年4月に株式会社ビジョンが佐賀市に設置した企業主導型保育所です。子育て支援として、従来の勤務ルールの柔軟化や休暇制度の拡充に加え、

従業員が職場復帰しやすく、より仕事に集中できる環境を整備することが目的です。

通園の負担を軽減するために、可能な範囲で「手ぶら登園」を実施しています。

参考:企業主導型保育事業による保育園「ビジョンキッズ保育園」を開園|株式会社ビジョン

うみかぜ保育園|三井アウトレットパーク木更津

「うみかぜ保育園」は、三井不動産が運営する商業施設としては3施設目の企業主導型保育所です。商業施設の従業員が子育てをしながら働きやすい環境を提供することが目的です。

生後57日から小学校就学前の子どもを、毎日午前8時から午後9時まで預かっています。木造保育園で園庭や広々とした吹抜空間があり、園児が伸び伸びと過ごす工夫がなされています。

参考:『三井アウトレットパーク木更津』従業員向け託児施設「うみかぜ保育園」開園(2019年5月7日)|三井不動産株式会社

企業内保育所の問題点・課題

メリットの多い企業内保育所ですが、保育所の運営がうまくいかずに閉鎖になることもあります。主な問題点は以下のとおりです。

  • 保育士の不足
  • 児童の定員割れ
  • 事故やトラブル

企業内保育所に限りませんが、保育士の不足は深刻です。重労働で責任が重いにもかかわらず低賃金であることが原因の1つです。企業内保育所は新しく設置したところも多く、人材確保はより難しいかもしれません。待遇改善や委託先の変更を検討してみましょう。

また、定員割れによって経営が行き詰まるケースもあります。原因として、設置時にニーズを読み誤った、人気がなくて退園が増えた、などが考えられます。サービス内容を改善して保育所の魅力を高める、開園時間を延長して利便性を高めるなどの工夫が必要です。

保育中の事故や保護者からのクレームも大きな問題です。安全管理体制を見直して事故の発生を防ぐとともに、保護者とコミュニケーションを密にしてクレームの発生を抑えることにも注意しましょう。

子育て中の従業員を支援するために企業内保育所を活用しよう

企業内保育所とは、企業が子育て中の従業員のために設置した保育所などのことです。認可保育所(事業所内保育所)や企業主導型保育所なら、助成金を受けて保育所の運営ができます。

働き方改革が浸透し、多様な働き方や仕事と育児(または家庭)の両立を希望する人が増えています。少子高齢化で人手不足が深刻になる中、貴重な人材を支援し繋ぎ止めるために企業内保育所を効果的に活用しましょう。


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