- 更新日 : 2023年5月24日
社会保険料の定時決定とは?算定基礎届について解説
健康保険・厚生年金保険などの社会保険料は、毎年見直されます。毎年7月1日時点の被保険者を対象に、4月から6月までの報酬を元に標準報酬月額を算出し決定します。この手続きを「定時決定」と言います。
定時決定は、算定基礎届を作成し提出することで実施されます。この記事では、定時決定、標準報酬月額、算定基礎届についてご紹介します。
定時決定とは
「定時決定」とは、標準報酬月額の見直し手続きのことです。
健康保険・介護保険・厚生年金保険といった社会保険料は、給与に合わせて年に一回見直しされます。社会保険料は標準報酬月額を元に算出されますが、実際の給与と標準報酬月額に乖離がないよう毎年見直されます。この手続きが定時決定です。
定時決定は、7月1日時点で雇用されている全従業員を対象として、毎年7月上旬に実施されます。4月から6月までの報酬から標準報酬月額が算出され、それを元に社会保険料が決定されます。定時決定の手続きは「被保険者報酬月額算定基礎届(算定基礎届)」という帳票を作成することで行われます。なお、算定基礎届は決められた期日内に所管の年金事務所と健康保険組合への提出が必要です。
定時決定の対象となる方
定時決定の対象となるのは、7月1日時点で健康保険・厚生年金保険の被保険者である全ての従業員です。休職中でも、被保険者の従業員は定時決定の対象となります。70歳に到達して厚生年金保険の資格を喪失した従業員、75歳に到達して後期高齢者医療制度の被保険者となり健康保険の資格を喪失した従業員についても、算定基礎届の提出は必要です。これは「在職老齢年金」の算出に、算定基礎届が利用されているためです。
一方、下記に該当する従業員は対象外となり、算定基礎届の提出は不要です。
- 6月1日以降に被保険者となった従業員
- 6月30日以前に退職した従業員
- 7月に月額変更届を提出し随時改定をする従業員
- 8月または9月に随時改定を実施する旨の申出を行った従業員
定時決定ではなく、月額変更届の提出による「随時改定」の対象となるのは、昇給や降給などで4月から6月までの平均給与と変動前の標準報酬月額に2等級以上の差がある従業員です。
定時決定はいつから?
定時決定は毎年7月上旬に実施されます。4月から6月までの報酬月額の平均から標準報酬月額を算出し、算定基礎届を作成します。6月中旬から6月下旬の間、日本年金機構から事業所宛に届出用紙が届きます。この届出用紙には、被保険者の氏名・生年月日と共に従前の標準報酬月額が記載されています。
また、算定基礎届は原則7月1日から7月10日までに事務センターか所管の年金事務所に提出しなければなりません。健康保険加入事業所の場合は、健康保険組合にも算定基礎届を提出する必要があります。健康保険組合への提出期限は組合によって異なるので、別途確認が必要です。
なお、算定基礎届を正当な理由なく期日までに提出しないと、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられることがあるため注意しましょう。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、社会保険料の算定根拠となる報酬月額を等級ごとに区分した金額です。等級は4月・5月・6月の3ヶ月間の報酬を平均して算出されます。報酬月額には残業手当や休日出勤手当といった割増賃金のほか、通勤手当や住宅手当なども含まれるため注意が必要です。
一方、報酬月額は「賃金支払基礎日数」を考慮して算出されます。支払基礎日数とは、賃金や報酬が発生する労働日数のことです。月給制(欠勤控除なし)の場合は、暦日数が支払基礎日数となります。月給制(欠勤控除あり)の場合は暦日数から欠勤日数をマイナスした日数が支払基礎日数です。日給・時間給制の場合は出勤日数がそのまま支払基礎日数となります。
4月・5月・6月のいずれも支払基礎日数が17日以上の場合は、前述の通り3か月間の報酬を平均して報酬月額を算出します。17日を下回る月がある場合は、その月を除外した残りの月で報酬月額を計算します。すべての月が17日を下回る場合は、従前の報酬月額が使用されます。
定時決定で決定した標準報酬月額は9月から翌8月まで適用されます。年の途中で昇給や降給によって大幅に給与が変わった場合は、月額変更届を提出して随時改定されます。
また、標準報酬月額は厚生年金保険が32等級、健康保険が50等級に区分されており、「標準報酬月額等級表」にまとめられています。社会保険料の算定根拠として利用される区分なので、実際の給与と標準報酬月額は一致しません。
社会保険の標準報酬月額や標準賞与額については、以下の記事でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。
社会保険の算定基礎とは
社会保険はベースとして標準報酬月額を用いています。4月から6月までの平均報酬月額から標準報酬月額を決定し、それに保険料率を乗じることにより社会保険料を算出します。
算定根拠となる標準報酬月額は、実際の給与と乖離しないよう年1回見直されます。この見直しが定時決定です。定時決定された標準報酬月額は9月から翌8月までの1年間有効で、この等級を元に毎月納付する社会保険料が決定されます。年の途中で給与に大幅な変化があった場合は随時改定されます。
算定基礎届とは
算定基礎届とは、社会保険料の算定根拠である標準報酬月額を決定するための帳票です。
届出用紙は日本年金機構から6月中旬頃に事業所宛に届けられ、5月中旬までに加入した被保険者の氏名・生年月日・従前の標準報酬月額が印字されています。
算定基礎届は7月上旬に事務センター、または所管の年金事務所と健康保険組合に提出する必要があります。提出する書類は下記の2つです。
- 被保険者報酬⽉額算定基礎届(70 歳以上被⽤者算定基礎届)
- 被保険者報酬月額変更届(7 月改定者)
「被保険者報酬⽉額算定基礎届(70 歳以上被⽤者算定基礎届)」は、標準報酬月額を定時決定するための書類です。厚生年金保険の資格を喪失する70歳以上の従業員も提出する必要があります。
「被保険者報酬月額変更届(7 月改定者)」は、7月に標準報酬月額を随時変更する必要がある従業員が在籍する場合に提出が必要です。
これらに加え、以前は7月1日時点の被保険者数を把握する目的で「被保険者報酬月額算定基礎届 総括表」の提出も求められていたのですが、2021年4月に廃止されました。
参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和4年度|日本年機構
算定基礎届の提出方法
算定基礎届とは、社会保険料を決めるための重要な届け出です。
算定基礎届は毎年7月上旬に作成し、期日までに事務センターまたは所管の年金事務所に提出する必要があります。提出方法は下記の通りです。
- 所管の年金事務所の窓口に持参
- 所管の年金事務所に郵送
- 電子媒体(CD・DVD)に記録して郵送
- 電子申請
電子媒体で提出する場合は、日本年金機構が提供している「届書作成プログラム」をダウンロードする必要があります。電子申請の場合は、届書作成プログラムか政府の電子手続き総合窓口「e-Gov」を利用します。
社会保険の算定基礎届の概要は、こちらの記事をご覧ください。
参考:
電子媒体|日本年金機構
電子申請・電子媒体申請|日本年金機構
定時決定を理解し正しく算定基礎届を提出しよう
社会保険料の定時決定は、社会保険料の算定基礎である標準報酬月額を決定する大切な手続きです。定時決定は毎年7月上旬に算定基礎届を所管の年金事務所に提出することで実施されます。定時決定で決まった標準報酬月額の等級は1年間有効で、途中で大幅な給与の増減があった場合は随時改定されます。
社会保険料の定時決定は毎年必ず行う必要のある手続きなので、当記事を参考にスムーズに実施できるように備えましょう。
よくある質問
社会保険料の定時決定とはなんですか?
社会保険料の算定基礎である標準報酬月額を決める手続きです。毎年7月上旬に実施されます。詳しくはこちらをご覧ください。
算定基礎届とはなんですか?
標準報酬月額を決めるための帳票で、7月上旬に所管の年金事務所と健康保険組合に提出する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
定時改定の対象となる方は誰ですか?
7月1日時点で健康保険・厚生年金保険の被保険者である全ての従業員です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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