• 更新日 : 2024年3月19日

マタハラとは?具体例や起こる原因、企業の防止策、事例を解説

マタハラとは?具体例や起こる原因、企業の防止策、事例を解説

マタハラは妊娠・出産・育児を理由に起こる嫌がらせ・いじめを指します。マタニティ・ハラスメントの略ですが、男性を対象にしたパタニティ・ハラスメントも含めて呼ばれることもあります。妊娠・出産したことを理由にしたものと、育児休業などの制度利用を理由にしたものの2種類があります。無意識の言動でもマタハラとされる場合があります。

マタハラとは?

マタハラはマタニティ・ハラスメントを略した言葉です。英語では「maternity harassment」となり、「妊娠に関する嫌がらせ行為」という意味になります。厳密には女性をターゲットに行われますが、育児する男性を対象に行われる嫌がらせ行為の「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)(paternity harassment)」も含めてマタハラと呼ばれることもあります。

マタハラの実態

2020年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に相談があったと回答した企業の割合はマタハラが5.2%で、パワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)に続く3番目です。推移については「3年間の相談件数は変わらない」との回答割合が高くなっています。

マタハラが起こる原因と背景

マタハラは、どのような理由で起こるのでしょうか?マタハラが起こる原因と背景を説明します。

性的役割意識への固執

マタハラが起こる原因・背景には、まず性的役割への固執が挙げられます。「女性は母親になったからは何よりも子供を優先すべき」「子供には母親が必要」「子供が小さいうちは父親より母親がそばについていた方がよい」といった考え方が根強く残っていることで、出産後の育児中も以前と変わらない働き方をしようとする女性に圧力がかかり、マタハラが引き起こされます。

休業等の制度に対する理解が不十分

育児休業は子供を育てようとする従業員を対象にした休業制度で、条件を満たせば男性・女性に関わらずに取得できます。しかし代替人員を準備しなくてはならない、あるいは欠員のままでの業務遂行が求められるといった対応が必要とされるため、不満を持つ従業員が出てくることも少なくありません。無理解な従業員が育児休業などの制度を利用しようとする人に対して否定的な態度を取ると、マタハラにつながります。

誤った配慮

育児をしていて大変だろうという配慮も、間違えるとマタハラになります。育児中であっても今まで通りに働きたいと思う人に対して、育児休業取得や時短勤務を強要したり、軽作業や後方支援業務などへの配置転換を行ったりすることはマタハラになります。これらの措置は本人が希望すれば必要な対策となるのに対し、本人が希望しなければマタハラになる点に十分注意しなければなりません。

マタハラの具体例

実際にはどのような発言や行動がマタハラとみなされるのでしょうか?職場で起こるマタハラの具体例を説明します。

妊娠や出産等を理由とするマタハラ

妊娠や出産等を理由とするマタハラには、以下のようなものがあります。

  • 妊娠の報告を受けて「休業ではなく退職して」と言う。
  • 妊娠中の女性に「使えない」と悪態をつく。
  • 「いつ休んでもよいように」と雑用しかさせない。

身体を心配した言葉かけや配慮は、基本的にはマタハラに該当しません。しかし行き過ぎた言動は苦痛を与えるものとしてマタハラとみなされます。

育児休業の申出・取得等を理由とするマタハラ

育児休業の申出・取得等を理由とするマタハラには、以下のようなものがあります。

  • 育児休業の取得の申出に対して「休むなら退職になる」と言う。
  • 育児休業を申請した際に「堂々と休めてうらやましい」と嫌みを言う。

育児休業などの制度利用を阻害するような言動がマタハラに該当します。業務に必要な指示・対応はマタハラになりませんが、育児休業などの利用を躊躇させるような発言は無意識でもマタハラとみなされます。

企業のマタハラへの対応、防止策

誰でも働きやすい環境づくりの一環や、少子高齢社会に対しての歯止めとする目的で、企業はマタハラ防止に積極的に取り組まなければなりません。企業が行うべき対応や防止策を説明します。

ハラスメントへの明確な方針と周知徹底

企業がマタハラ対策をするうえでは明確な方針を示し、周知徹底を図ることがまず大切です。マタハラを許さないという企業としての態度を表明することで、大きな抑止力の効果が期待できます。掲示物や配布物、朝礼などの機会を利用して周知徹底を図り、従業員にマタハラをしないという意識付けを行いましょう。

マニュアル化と研修の実施

マタハラに関するマニュアル作成や研修実施も、マタハラ対策・防止策として有効です。具体的にどのような発言や行動がマタハラになるのか、理解できていない人も少なくありません。具体例を挙げて説明することで理解を促し、対策・防止策とすることができます。被害にあった場合に取るべき行動も示しておくようにしましょう。

相談窓口の設置

マタハラ対策・防止策として相談窓口の設置も重要です。ハラスメント被害にあった場合に誰にも相談できずに一人で抱え込んで悩んでしまうと、解決から遠ざかるだけでなく精神的負担の増加により心身を壊してしまう恐れがあります。相談窓口を設置し、被害者がすぐに助けを求められる環境づくりをしましょう。できれば相談窓口の担当者は第三者とし、直接関係のない人が担当するようにしましょう。

マタハラが生じた場合の適切な対応

マタハラが発生した際、企業は迅速に対応して被害者を保護しなければなりません。まずは被害者・加害者の両方から事情を聴取し、事実を確認します。事実が確認された場合は加害者にはマタハラをやめさせ、相応の処分を行います。被害者には適切なケアを実施し、ダメージからの回復を図りましょう。また同様のマタハラが起きないよう、再発対策・防止策も講じる必要があります。

マタハラが発生した場合の企業のリスク

マタハラが発生すると企業の責任も問われる恐れがあります。企業には従業員が安全で快適に働けるよう職場環境を整備する義務があります。マタハラの発生により企業による安全配慮義務が十分でなかったとして責任問題とされることがあり、注意しなければなりません。マタハラ被害発生により企業の責任が問題視されると、賠償請求される場合があります。

マタハラの裁判事例

近年あったマタハラの裁判事例を2件、紹介します。

今川学園木の実幼稚園教諭解雇事件

妊娠した幼稚園教諭に学校法人である幼稚園による解雇権濫用が行われた事件です。担任を持って約3ヵ月の幼稚園教諭が切迫流産や婦人科系疾患のため入院したところ、退職を迫られました。退院や再入院、流産を経て職場復帰を希望するも退職の手続きが行われたこと、また妊娠・流産が幼稚園児の父母などに知れ渡ってしまったことを理由に、幼稚園教諭は解雇の無効を訴え出ました。妊娠した事実を解雇理由とすることは不相応であり、認められない旨の判決が出ました(平成14年3月13日大阪地裁堺支部判決)。

日南市立中部病院事件

産休後の勤務日数を一方的に減らされた女性医師による、損害賠償請求のための事件です。週5日から週1日に勤務日数が減らされ、そのため持病の精神疾患が悪化し、退職を余儀なくされたとして、女性医師は損害賠償の請求を訴え出ました。しかし「勤務変更は女性医師を配慮した提案」だとして、訴えは退けられています(令和6年2月14日福岡高裁宮崎支部判決)。

対策・防止策をしっかり行ってマタハラの起こらない職場づくりに努めよう

マタハラは妊娠や出産によって起こるハラスメントです。妊娠や出産の事実に対するものと、育児休業の取得・申出に対するものの2種類があります。どちらも昔ながらの性的役割意識や誤った配慮を理由に起こりますが、育児休業の取得・申出に対するマタハラは制度への非理解によって起こる点に留意が必要です。

企業にはマタハラについての十分な理解のもと、しっかりとした対応や防止策を取ることが求められます。企業として明確な方針を出し、従業員に周知徹底させてマタハラが起こらない職場づくりをしましょう。


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