• 更新日 : 2023年5月26日

有給休暇の時季変更権とは?行使するための条件も解説!

労働基準法では、事業主(使用者)に対して、要件を満たした労働者に年次有給休暇(年休)を付与する義務を義務づけています(法39条)。

このことは一般的によく知られていることですが、有給休暇の「時季変更権」となると、認知度はかなり低いのではないでしょうか。

今回は、有給休暇の時季変更権について、基礎知識とともに行使の方法とタイミング、注意点などを解説していきます。

有給休暇の時季変更権とは

そもそも有給休暇の時季変更権とは、どのような権利なのでしょうか。ここでは、労働基準法上の条文を紹介し、意味を確認していきます。

労働基準法上での条文

まず、年次有給休暇について基本的な事項をおさらいしましょう。労働基準法では、使用者は採用後6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対し、6か月経過後に10 労働日の有給休暇を与えなければならないとしています(法39条1項)。

この日数は、入社6か月を基準として以降1年ごとに1日、3年6か月からは2日ずつ加算され、最高20日間が上限となります(法39条2項)。

年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、労働基準法39条5項では、次のように定めています。

「使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」

これを労働者の有給休暇の時季指定権と呼んでいます。「時季」とは、労働基準法の有給休暇特有の用語です。いずれにしても、原則として労働者は、有給休暇は希望する時季に取得できるということです。

時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」のみ行使できる

しかしながら、事業主の立場になると、労働者の希望する時季に一方的に有給休暇を取得されると困ることもあります。

そこで、労働基準法では、39条5項の但し書きで次のように定めています。

「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」

この条文が労働者の有給休暇の時季指定権に対する使用者の時季変更権ということになります。

有給休暇の時季変更権を利用するための条件

事業主が、労働者の有給休暇の時季指定権に対して時季変更権を行使するには、労働基準法上、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」という制約があります。

条文上の文言は抽象的であり、具体的にどのような場合に行使できるのかは明確ではありません。そのため、訴訟に至ったケースはいくつもあります。

時季変更権を行使できる「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどのような状況を意味するのでしょうか。

判例では、「労働者が年休を取得しようとする日の仕事が、担当業務や所属部・課・係など一定範囲の業務運営に不可欠で、代替者を確保することが困難な状態を指す」としています(新潟鉄道郵便局事件 最二小判昭60.3.11など)。

また、結果的に事業の正常な運営が確保されても、時季変更権を行使できる場合もあります。判例では、業務運営の定員が決められていることなどから、事前の判断で事業の正常な運営が妨げられると考えられる場合、会社は有給休暇の時季を変更できるとしました(電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18)。

ただし、こうした場合は、業務に具体的支障の生ずるおそれが客観的に伺えることを要するともしています(名古屋近鉄タクシー事件 名古屋地判平5.7.7)。

時季変更権の行使の方法とタイミング

労働者の権利である有給休暇の時季指定権に対し、事業主が時季変更権を行使するには、一定の要件があることを述べました。

さらに踏み込んで、具体的な行使の方法とタイミングについてみていきましょう。

理由の記載について

法律上は、時季変更権を行使する理由、つまり「事業の正常な運営を妨げる具体的な理由」を書面で通知するなどの義務はありません。

とはいえ、トラブルを回避するため、変更権を行使する場合は、通知書などの書面に変更する理由を明記し、あわせて口頭説明を行うのがよいでしょう。

代替日の指定について

年次有給休暇の取得と時季指定権は、労働者の権利として労働基準法が保障しているものであり、まず保護対象として優先されるのは労働者です。

「事業の正常な運営を妨げる場合」があるにしても、事業主は労働者が指定した時季に有給休暇が取得できるように、勤務予定を変更したり、代わりに勤務する者を確保したりするなどの、「配慮」をすることが必要です。

時季変更権の行使に関する注意点

事業主が労働者の有給休暇の時季変更権をできる法的要件や方法についてみてきましたが、ここでは特に注意すべき点について取り上げます。

退職時は時季変更権を行使できない可能性がある

すでに述べたように、年次有給休暇を取得する権利及び時季指定権は労働者の権利とされています。つまり、使用者の承認は不要です。

労働者が退職するような場合、退職日までの全労働日について、残っていた年次有給休暇の取得申請をすることがあります。

こうした場合、退職後に有給休暇を与えることはできません。したがって、退職までの全労働日に有給休暇の取得を申請された場合は、よほどの事情(信義則に反するような事情)がない限り、事業主は時季変更権の行使はできません。結果的に、申請された退職日までの有給休暇の取得を拒絶することはできないでしょう。

時季変更の拒否に関してよくあるトラブルに気を付けよう

事業主が時季変更権を行使する場合、トラブルを回避するためには労働者に対して事前に通知するだけでなく、意見を聴取し、変更後の時季を明確に指定しなければなりません。

しかし、実際には、事業主がこれらの手続きを怠ったり、事業の正常な運営を妨げたりという理由が不十分である場合が少なくありません。

このような場合は、事業主が時季変更権を正当に行使していないとみなされ、労働者は有給休暇の取得を拒否されたとして、損害賠償請求や労働基準監督署への申告などの法的手段をとる可能性があります。

また、事業主が労働者に対して有給休暇の取得を強制的に変更したり、取得しないように圧力をかけたりする場合は、パワーハラスメントや労働契約法違反となることもあるため、十分に注意することが大切です。

時季変更権の強制力

これまで述べてきたように、年次有給休暇を取得する権利及び時季変更権は労働者の権利であり、事業主は「事業の正常な運営を妨げる場合」がある場合のみ時季指定権を行使できるに過ぎません。

慢性的な人手不足は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないとした判例(西日本ジェイアールバス事件 名古屋高金沢支判平10.3.16)もあり、事業主は、労働者の希望に添えるよう最大限の努力をするのが前提であると考えるべきでしょう。

有給休暇の時季変更権について知っておこう!

有給休暇の時季変更権について、基礎知識とともに行使の方法とタイミング、注意点などを解説してきました。

法律的に労働者に年次有給休暇権があることは、よく知られていますが、事業主の時季変更権についての認知度は未だ高いとは言えません。

労働者から有給休暇の時季指定がされた場合、それを変更するのは簡単ではないことをよく認識しておくことが大切です。

よくある質問

有給休暇の時季指定権とは何ですか?

労働者の有給休暇の時季指定権に対する時季を変更できる権利です。詳しくはこちらをご覧ください。

どのような場合に時季指定権を行使できますか?

「事業の正常な運営を妨げる場合」です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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