• 更新日 : 2024年11月6日

タイムカード・給与計算を15分単位で管理すると違法?丸め処理や遅刻・早退の計算方法も解説

勤怠管理においては、タイムカード等を集計し、労働時間を把握しなければなりません。正確な労働時間を把握しなければ、正確な賃金支払いも不可能です。

当記事では、丸め処理の可否や、不正確な勤怠管理のリスク、正確にタイムカードの計算を行うための施策など、勤怠管理について解説します。

タイムカードの労働時間・給与計算を15分単位で計算したら違法

タイムカードは、記録された出退勤時刻から労働時間を計算する必要があります。しかし、15分単位や30分単位などで区切って計算することは、原則として認められません。理由について解説します。

勤怠の管理は原則1分単位

労働時間の計算など、勤怠管理は1分単位で行うことが原則です。15分や30分といった一定の時間を基準として切り捨ててしまうと、実際の労働時間と計算された労働時間に差が生じてしまうためです。たとえば、7時間10分の実労働時間を15分単位の集計によって、7時間としてしまえば、実際に従業員が働いた時間よりも、10分短い時間が労働時間となってしまいます。賃金は、労働時間に基づいて支払われるため、このような取扱いを行ってはならないのです。

賃金全額払いの原則

労働基準法第24条では、「賃金支払いの5原則」として、以下の原則を定めています。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 賃金全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

15分や30分単位で切り捨てた労働時間の計算は、3の「賃金全額払いの原則」に反することになります。従業員に支払われる賃金は、タイムカード等で把握した労働時間に基づいて支払われるため、切り捨てを行ってしまうと、その部分について賃金が支払われないことになってしまいます。

たとえば、時給1,000円の従業員が7時間15分働いた場合には、本来7,250円の賃金が支払われなければなりません。しかし、集計の際に30分単位で切り捨て、労働時間を7時間として計算した場合には、7,000円の賃金しか支払われないことになります。このような処理は、本来支払われるべき250円が未払いとなるため、賃金全額払いの原則に反することになるのです。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

丸め処理は認められる?

1分単位での計算が原則とはいえ、タイムカードの計算においては、どうしても端数が生じてしまいます。どのような場合であっても、必ず1分単位で計算しなければならないのでしょうか。タイムカードの計算における丸め処理について解説します。

丸め処理とは

「丸め処理」とは、数値を四捨五入や切り上げ、切り捨てなど、あらかじめ定めた一定の規則に従って処理する方法です。たとえば、小数点以下の端数は全て切り捨てると定めた場合には、1.1や1.05といった数字は、すべて1として丸め処理されます。

丸め処理は、数値の管理や計算を容易にするために用いられますが、どのような場合であっても認められるわけではありません。タイムカードの計算等の勤怠管理においては、認められる場合と、認められない場合があります。

丸め処理が認められる場合

タイムカードによる労働時間の計算は、1分単位で行うことが原則です。しかし、時間外労働や、休日労働、深夜労働の場合であれば、特定の条件のもとで例外的に丸め処理が認められています。

1か月における時間外労働や休日労働、深夜労働の合計時間に、1時間未満の端数が生じた場合には、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の時間を1時間として切り上げることが認められています。ただし、これは時間外労働時間等に限定された処理です。通常の労働時間の計算では、このような丸め処理は認められません。また、時間外労働時間等であっても、1か月単位で計算する場合に限られる点に注意が必要です。

丸め処理が認められない場合

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」は、小売業や飲食業等であって常用従業員30人未満の会社が利用できる制度です。この制度では、1週間の労働時間を40時間以内とすることを条件に、1日の労働時間を10時間まで延長できます。一定の枠内で日ごとの労働時間を配分することで、繁閑の差に対応します。この制度は、1週間単位で労働時間を計算することが必要であるため、仮に時間外労働等が発生した場合であっても、30分単位での端数処理は認められません。

遅刻・早退の計算も1分単位

従業員が遅刻や早退をした場合には、その時間分の賃金が控除されることが通常です。このような場合にも、15分や30分単位ではなく、1分単位で把握し、控除することが求められます。

ノーワーク・ノーペイの原則

従業員が遅刻や早退をした場合、ぴったり1時間単位となることは珍しいでしょう。大抵の場合は、端数が生じてしまいます。

遅刻や早退があった場合には、労働の提供のなかった時間分について、賃金を控除することになります。この場合にも、15分や30分単位での処理ではなく、1分単位で計算しなければなりません。これは、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいて、賃金の控除が行われるためです。

ノーワーク・ノーペイの原則とは、民法第624条を根拠とする原則です。民法第624条では、労働を終えた後でなければ、報酬を請求できないと定めています。そのため、遅刻や早退があった場合には、労働の提供がなかった部分について、賃金を支払うことを要しないと考えられるわけです。

ノーワーク・ノーペイの原則は、賃金計算の基本となる考え方であり、遅刻や早退があった場合も、この原則に基づいて賃金計算が行われます。そのため、実際に労働の提供のなかった時間分だけ賃金を控除することが可能となります。15分の遅刻や早退を30分や1時間に切り上げて処理するようなことは認められません。

参考:民法|e-Gov法令検索

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正しく勤怠管理を行わなかった場合のリスク

タイムカードの計算など、勤怠管理を正しく行わなかった場合には、会社はリスクを負うことになります。リスクを把握し、正しい勤怠管理につなげましょう。

労働基準監督署の是正指導・勧告

タイムカードの計算ミスなどが発生した場合には、本来支払われるべき賃金が支払われないこともあり得るでしょう。不正確な勤怠管理は、不正確な賃金計算につながってしまいます。

賃金の未払いが発生した場合には、労働基準監督署からの指導の対象となります。従業員から申告を受けた労働基準監督署は、会社に対する調査を行って、労働関係法令に違反がないかを確認します。提出された資料から法令違反があると判断した場合、是正勧告書を会社に交付し、期日までの違反事項解消を求めるのです。

是正勧告は、行政指導であるため、強制力はありません。しかし、法令違反があった事実が消えることはなく、労働基準監督署から指導を受けた会社であるとして、信頼を大きく落としてしまうでしょう。

罰金や懲役

不正確な勤怠管理によって、賃金の未払いが起きた場合には、罰則が科される恐れもあり、注意が必要です。

賃金の未払いは、労働基準法第24条違反となり、労働基準法第120条によって、30万円以下の罰金が科されます。また、労働時間を1分単位で計算せず、丸め処理を行ったことで、本来支払われるべき割増賃金が支払われなかった場合には、労働時間基準法第37条違反となってしまいます。労働基準法第119条により、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される恐れもあるため、正確な労働時間の把握を行わなければなりません。

実際に罰金や懲役を科された場合には、会社の信頼はさらに落ちることになります。その後の事業活動にも影響を及ぼしてしまうでしょう。また、正しく賃金を支払わない会社であるとして、求職者から敬遠される恐れも出てきます。少子高齢化の進展によって、人手不足が深刻化している昨今において、求職者からの敬遠は避けたい事態です。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

タイムカードの打刻時間を実労働時間に近づける方法

タイムカードに打刻された出退勤時刻から把握した労働時間と、実際に従業員が働いた時間に開きが生じる場合もあります。そのような場合には、前述のリスクを負うことになってしまうため、正確に労働時間を把握しなければなりません。

ダブルチェックを行う

労働時間の集計作業が人の手によるものであれば、どうしてもミスは発生してしまいます。ひとりで計算結果をチェックするだけでは、ミスの見落としも生じてしまうでしょう。しかし、チェックする人数を増やせば、ミスが発生したとしても、気付く可能性が高まります。勤怠データの計算結果をダブルチェックできる体制を構築すれば、ミスを減らすことにつながり、より実労働時間に近い労働時間の把握が可能となるでしょう。

打刻漏れを防ぐ

そもそも、タイムカードの打刻を行わなかった従業員が存在する場合もあります。このような場合には、当然集計された集計データは不正確なものとなり、実労働時間とも乖離したものとなってしまいます。

打刻漏れを防ぐためには、従業員の目に留まる場所にタイムレコーダーを設置することが有効な施策となります。従業員用の通用口やオフィスの入り口に設置すれば、否が応でもレコーダーが目に留まり、打刻漏れも減少するでしょう。また、正確な勤怠管理の重要性を説明し、従業員の意識を向上させることも有効です。

不正打刻・改ざんの防止

遅刻しそうな場合に、同僚に連絡し、代わりに打刻してもらったり、時間外手当を増やすためにタイムカードの改ざんを行ったりする従業員も存在します。そのような不正な打刻や改ざんされたタイムカードに基づいて把握された労働時間は、実労働時間とは大幅に異なったものとなってしまうでしょう。

不正打刻を防止するためには、生体認証方式のタイムカードの導入が有効です。生体認証方式では、指紋認証や顔認証などを行うため、本人以外は打刻できず、代理打刻の問題を解決できます。また、鍵付きのキャビネットに保管するなど、タイムカードの改ざんを防止できる保管体制を構築しなければなりません。

タイムカードの電子化

外回りの営業や現場での作業においては、打刻のためだけに出社や帰社が必要となり、どうしても打刻の時刻と実労働時間に差が生じてしまいます。しかし、勤怠管理システムを導入してタイムカードを電子化すれば、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末でも打刻可能となり、出先でも正確な出退勤時刻が記録できます。柔軟な打刻方法の提示は、正確な勤怠管理を大きく助けるでしょう。

自動集計機能を備えたシステムも存在するため、計算ミスの減少だけでなく、勤怠管理の効率化も図れます。また、タイムカードを電子化すれば、正確な勤怠管理が行えるだけでなく、効率化により、空いたリソースをコア業務に注力することも可能です。

正確に労働時間を把握し正しい勤怠管理を

正確な労働時間の把握は、正確な勤怠管理に不可欠です。また、正確な勤怠管理なくしては、正確な賃金の支払いも叶いません。

勤怠管理の方法が不正確な場合には、罰金や懲役といった罰則の適用を受けることもあります。原則として丸め処理などは行わず、当記事の解説を参考に、1分単位で正確に労働時間を把握しましょう。


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