- 更新日 : 2024年8月21日
定年後再雇用とは?何歳まで?給与や年金との関係、契約、助成金を解説
定年後再雇用とは、定年を迎えた社員が同一の企業と再び契約し、継続して就労する制度です。再雇用時には勤務形態や職務内容などの労働条件が見直され、給与の減額を伴うことも少なくありません。本記事では、定年後再雇用について、制度の概要や一般的な処遇、年金との関係、再雇用契約の手順や活用できる助成金などを紹介します。
目次
定年後再雇用とは?
定年後再雇用とは、継続雇用制度の一つで、定年に達した従業員が一旦退職し、同じ会社と新たな雇用契約を結ぶ制度です。
何歳から何歳まで
再雇用の期間は会社によって異なりますが、会社は少なくとも65歳まで再雇用可能な制度を整える必要があります。高年齢者雇用安定法により、従業員が希望した場合は、会社はその従業員を65歳まで雇用する義務があるからです。
高年齢者雇用安定法は「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの方法により、65歳までの雇用確保義務を会社に課しています。定年後再雇用は継続雇用制度の1 つです。
同法により、70歳までの就業機会を確保する「努力義務」も定められています。就業機会確保の方法は「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」だけでなく、「70歳までの業務委託契約」や「社会貢献事業に従事できる制度」でもよいとされています。
再就職との違い
再雇用と再就職との違いは「勤務先」です。
再雇用では、定年退職した会社と新たな雇用契約を締結し、定年前と同じ会社で働きます。賃金や雇用形態などの労働条件が変わっても、原則として勤務する会社は変わりません。
一方、再就職では、従業員が自分で勤務先を探し、定年前とは別の会社に就職します。
再就職には、新しい環境で再スタートできるというメリットがある反面、「シニア向けの求人が少ない」「再就職先では、それまでの実績が通用しにくい」などがデメリットです。
勤務延長制度との違い
定年後の継続雇用には、再雇用制度の他に「勤務延長制度」があります。2つの違いは、定年時に退職手続きを取るか否かです。
再雇用制度では、定年退職後に新しく雇用契約を結び直すため、定年を境に、賃金や勤務形態が大きく変わることもあります。
勤務延長制度では、定年を迎えても退職手続きを取らず、従前と同じ条件で雇用が継続されます。そのため雇用形態や賃金、業務内容などは原則として変わりません。
定年後の再雇用制度が導入された背景
65歳までの雇用確保義務ができた背景には、老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げがあります。
以前、老齢厚生年金が60歳から受給できた頃は、会社員が60歳で定年退職しても、生活に支障はありませんでした。
しかし法改正により老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げが開始されたため、60歳で定年退職すると無収入の期間が発生し、多くの定年退職者が生活に困窮することが予測されたのです。
それを受け、年金の支給開始年齢まで収入を確保できるよう、高年齢者雇用安定法が改正され、2013年4月から65歳までの雇用確保措置が会社の義務とされました。
雇用確保措置では「定年引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を講じ、就労を希望する従業員に65歳までの雇用を確保する必要があります。定年後再雇用は継続雇用制度の一つで、数多くの会社に導入されています。
定年後再雇用の給与や待遇
定年後再雇用の契約内容は、会社や個人によって異なります。ここでは統計データを交えながら、再雇用契約における雇用形態や賃金についてみていきましょう。
再雇用時の雇用形態
再雇用後の雇用形態は、再雇用契約によりさまざまです。再雇用後もフルタイムで働く従業員もいますが、嘱託やパートといった雇用形態に変更される人も少なくありません。また多くの場合、再雇用後は1年更新の有期雇用になります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2020年に発表した資料によると、60歳代前半における雇用形態は「正社員」「嘱託・契約社員」「パート・アルバイト」「関連会社からの出向等」など多様ですが、そのうち「嘱託・契約社員」を雇用する会社の割合は57.9%にのぼっています。
再雇用時の給与
再雇用時の賃金は、定年前と比べて減少するケースが多くみられます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の資料によると、61歳の継続雇用者(フルタイム)の賃金は、60歳時に比べ、最も高い水準が89.6%、平均的な水準が78.7%、最も低い水準が70.8%と、おおむね減少していました。
定年後再雇用でも同一労働同一賃金の原則は適用されるため、職務内容などに変化がない場合に賃金だけが大幅に下落したらトラブルになりかねません。
ただし、加齢による体力の低下や年金の受給、退職金の支給などの合理的な理由があれば、ある程度の賃金減少が認められることがあります。
再雇用時のボーナス(賞与)
再雇用後に賞与が支給されるかは、再雇用契約の内容によります。通常の非正規雇用者と同様、賞与支給がなかったり、通常の社員より少額だったりするケースも多いようです。
有給休暇の計算方法
定年後再雇用では雇用契約が刷新されますが、年次有給休暇の算定においては、定年前から雇用が継続しているとみなされます。再雇用時に勤続年数はリセットされることなく、有休残日数も定年退職時に消滅しません。
再雇用日以後に付与される年次有給休暇の日数は、再雇用後の所定労働日数によって決まります。フルタイムからパートタイムになり所定労働日数が減少した場合は、再雇用後の所定労働日数に対応する年次有給休暇が付与されます。
定年後再雇用の仕事内容
再雇用後に従事する仕事の内容は、再雇用契約によって異なります。定年前と同じ仕事をする人もいれば、職務内容が変わることもあります。また仕事の内容が同一でも責任の程度が軽くなるケースは少なくありません。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の資料によると、60歳台前半の継続雇用者の仕事は、以下のような内容となっています。
- 定年前と全く同じ 44.2%
- 定年前と同じ仕事だが責任が軽くなる 38.4%
- 定年前と同じ仕事だが責任が重くなる 0.4%
- 定年前と一部異なる 5.6%
- 定年前と全く異なる 0.5%
上記をみると、定年前と同じ仕事をする継続雇用者が多いことがわかります。ただし、定年前と異なる業種にした場合は問題があるため、注意が必要です。
参考:高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)|独立行政法人労働政策研究・研修機構
定年後再雇用と年金の取り扱い
再雇用後、就労しながら老齢厚生年金を受給する場合、在職老齢年金制度により、年金の一部が支給停止されることがあります。年金が支給停止されるのは、1ヶ月あたりの賃金と老齢厚生年金の合計が50万円を超える場合です。
再雇用契約の所定労働時間や所定労働日数が少なく、厚生年金に加入しない働き方をする場合は、在職老齢年金制度の対象外になるため、この制度による年金支給停止はありません。
定年後に再雇用する手続き、流れ
定年後再雇用には、対象者の意思確認や面談など事前の準備が必要です。また再雇用契約後も社会保険などの手続きを要することがあります。ここでは一般的な再雇用のフローをみていきましょう。
対象者の意思確認
定年を迎える再雇用対象者に、定年に到達する旨を伝えるとともに、定年後再雇用制度の内容を説明し、再雇用についての意思確認をします。
意思確認は、書面を配布し、記入してもらうとよいでしょう。
再雇用予定者との面談
再雇用を希望する従業員と個別に面談し、再就職後の働き方について本人の希望を聴取するとともに、再雇用後の賃金や雇用形態などについて説明します。後でトラブルが起きないよう、このときよく話し合っておくことが重要です。
再雇用契約と退職金の支払い
再雇用する従業員と、書面により新しい契約を締結します。また会社の退職金規程に従い、退職金支払準備も進める必要があります。
退職金については、定年到達時に支払う会社もあれば、再雇用終了時に支払う会社もあり、扱いはさまざまです。
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社会保険の手続き
再雇用後に所定労働時間が減少し、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の適用範囲外になる場合は、健康保険と厚生年金保険の資格喪失手続きが必要です。
また定年後の所定労働時間が社会保険の適用範囲でも、再雇用により賃金が低下し社会保険の標準報酬月額が下がる場合は、同日得喪の手続きをします。
同日得喪とは、資格喪失届と資格取得届を同時に提出する手続きです。随時改定や次年度の定時決定を待たず、標準報酬月額を新しい賃金に応じたものにする効果があり、社会保険料の軽減につながります。
定年後再雇用の注意点
再雇用契約における注意点や活用できる給付金や助成金も紹介します。
無期転換ルールに注意する
無期転換ルールとは、有期雇用契約が更新されて通算5年を超えた場合に、従業員からの申し込みにより、期間の定めのない雇用契約に転換できる制度です。
定年後再雇用の場合、1年の有期契約を更新することが一般的ですが、再雇用者にも無期転換ルールは適用されます。
ただし定年後再雇用者については、適切な雇用管理に関する計画(第二種計画認定申請)を都道府県労働局に提出して認定を受けると、無期転換申込権が発生しません。定年後再雇用をする予定がある場合は、あらかじめ第二種計画認定申請をしておくとよいでしょう。
安全や健康に留意する
定年後再雇用では、高年齢従業員の健康や安全に留意する必要があります。若年者に比べ、高年齢者は視力や聴力、筋力などが低下傾向にあり、労働災害を発生しやすいためです。
従業員の健康状態も適切に把握し、状況に応じて勤務時間の短縮や深夜業の制限などの措置を講じる必要もあるでしょう。
再雇用時に活用できる給付金・助成金
定年後再雇用などの際に活用可能な給付金や助成金について紹介します。
高年齢雇用継続基本給付金:
高年齢雇用継続基本給付金とは、雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付の一つで、60歳から65歳までの従業員が一定要件を満たした場合に支給されます。
高年齢雇用継続基本給付金の受給要件は次のとおりです。
- 60歳到達時の賃金と比べ、それ以後の賃金が75%未満に低下したこと
- 雇用保険の被保険者期間が通算5年以上あること
- 基本手当や再就職手当を受給していないこと等
高年齢雇用継続基本給付金の受給額は「60歳以後に支払われた賃金×支給率」で計算します。支給率は賃金低下率によって異なり、最大で15%(2025年4月以降、新たに60歳になる場合は10%)です。
高年齢雇用継続基本給付金についての詳細は、ハローワークのサイトをご参照ください。
65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
65歳超雇用推進助成金の「65歳超継続雇用促進コース」は、次に該当する場合に受給できる雇用関連助成金です。
- 65歳以上への定年引上げ、定年の廃止、希望者全員を65歳超まで継続雇用する制度などを整備した
- 制度を整備したときに、一定の経費を支出した等
65歳超雇用継続促進コースの助成額は、整備した制度内容と60歳以上の雇用保険被保険者人数に応じて異なり、最大で160万円です。
65歳超雇用推進助成金についての詳細は、厚生労働省のサイトをご参照ください。
再雇用制度を知ってシニア従業員を活用しよう
定年後再雇用とは、定年に達した従業員と新しく雇用契約を締結し、定年退職後も継続雇用する制度です。雇用契約が刷新されることもあり、再雇用では雇用形態・賃金・仕事の内容などが定年前と変更になるケースが多くみられます。
高年齢者雇用安定法により、会社は65歳までの雇用確保措置を講じる義務があり、再雇用制度は有効な措置の一つです。再雇用制度をよく知り、給付金や助成金なども使いながら、シニア従業員を活用してはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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