- 作成日 : 2023年1月20日
社会保険の入り方・加入手続きは?事業所・従業員の条件や必要書類も解説!
人事労務の担当者になったり、起業して人を雇用したりする場合は、社会保険の手続きが必要です。
しかし、社会保険にはさまざまな種類があり、手続きは煩雑で管轄も1つではありません。
本稿では社会保険の加入手続きの他、事業所や適用対象となる従業員の条件などについて解説します。
目次
そもそも社会保険とは?
社会保険には、会社員のような被用者を対象とする被用者保険と、自営業者などを対象とする地域保険があります。ここでは、被用者保険の社会保険について見ていきましょう。
※詳細は以下の記事を参照してください
健康保険
健康保険は医療保険であり、被保険者である会社員本人だけでなく、扶養される家族の私傷病にも療養の給付があり、出産した場合は(家族)出産育児一時金が、死亡した場合が(家族)埋葬料が支給されます。
被保険者本人に対しては、私傷病により労務不能となって休業した場合は通算1年6ヵ月の傷病手当金、産休中は出産手当金が生活保障として支給されます。
厚生年金保険
公的年金制度では、すべての国民は地域保険である国民年金(基礎年金)に加入することになっています。公的年金は2階建て構造になっており、国民年金(基礎年金)は1階部分に当たります。
自営業者などは1階部分の国民年金(基礎年金)だけですが、会社員などの被用者は1階部分の国民年金(基礎年金)だけでなく、2階部分の厚生年金にも加入します。
保険事故(保険給付の原因となる事由)は国民年金・厚生年金ともに老齢、障害、死亡の3つです。それぞれの保険事故に対応して、老齢基礎年金と老齢厚生年金、障害基礎年金と障害厚生年金、遺族基礎年金と遺族厚生年金という組み合わせで支給されます。
介護保険
2000年に施行された介護保険は、社会保険の中では比較的新しい保険制度であり、市町村が保険事業を運営する保険者です。
被保険者は40歳以上の人ですが、65歳以上になると介護を必要とする状態(要介護状態)や、家事や身支度などの日常生活で支援が必要な状態(要支援状態)と認定された場合、介護サービスを受けることができます。
労災保険
労災保険は他の社会保険と異なり、被保険者という概念がありません。
労働基準法では、労働者を雇用する使用者(事業主)は、労働者が業務上傷病、障害、死亡となった場合は災害補償義務を負います。しかし、実際は迅速かつ確実に補償されないことも考えられます。
そこで、使用者に労災保険(労働者災害補償保険)に強制加入させ、保険事故が生じたときには使用者が補償するのではなく、労災保険から保険給付を行う仕組みにしました。
使用されるすべての労働者が適用対象となり、使用者が保険料の全額を負担します。
雇用保険
雇用保険は、被保険者が失業したときに生活保障として保険給付を行うことで知られています。
しかし、給付の内容は多岐にわたり、高齢や介護など雇用の継続が困難になったとき、育児で休業するときにも事業所からの給与の減少分を補填するなど、生活および雇用の安定と就職の促進のために必要な給付が行われます。
保険給付以外にも、失業の予防、雇用状態の是正および雇用機会の増大、労働者の能力の開発および向上、その他労働者の福祉の増進など図るための付帯事業も行っています。
社会保険に加入するメリットは?
社会保険に加入するメリットはいうまでもなく、さまざまな保険給付や付帯事業のサービスを受けられることです。
前述のとおり、社会保険では医療、年金、介護、雇用など、あらゆる生活分野における多様な保険事故(保険給付の支給原因となる事由)が想定されています。
保険事故が発生した場合に、被保険者やその家族が支援を受けられることは大きなメリットといえます。
被保険者本人だけでなく、雇用している事業主も保険料を半分負担していることも、民間保険にはない特徴です。
※詳細は以下の記事を参照してください
社会保険の加入対象となる事業所は?
社会保険では、適用事業所に雇用される労働者が被保険者になり、それ以外の事業所で雇用される労働者は被保険者にはなりません。
法律上は、一定の要件に該当する事業所は強制適用事業所となり、それ以外の事業所は任意適用事業として扱われます。任意適用事業所では、加入するかどうかは事業主の意思やその事業に使用されている労働者の過半数の意思によって決まります。
社会保険は、狭義の社会保険である健康保険・厚生年金保険(厚生分野)と、労働保険である労災保険・雇用保険(労働分野)の2つに分けられます。
事業所が適用事業所となる場合、厚生分野の健康保険と厚生年金保険、労働分野の労災保険と雇用保険はそれぞれ一体として扱われます。
社会保険の加入義務がある「強制適用事業所」
1.健康保険・厚生年金保険の場合
次の事業所は、健康保険および厚生年金保険の強制適用事業所となります。
- 常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用する法人事業所
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
2.労災保険・雇用保険の場合
法人・個人を問わず、従業員(パート、アルバイトなどを含む)を1人でも雇用していれば強制適用事業となります。
強制適用事業所以外の「任意適用事業所」
1.健康保険・厚生年金保険の場合
次の事業所は、健康保険および厚生年金保険の任意適用事業所となります。
- 常時5人未満の従業員を使用する個人事業
- 一次産業(農林水産業など)、接客娯楽業(旅館、飲食店など、宗教業(寺院、神社、教会など)、サービス業(理容店など)などの非適用業種の事業
2.労災保険の場合
次の事業所は、労災保険の暫定任意適用事業所となります。
- 従業員5人未満の個人経営の農業で、特定の危険または有害な作業を主として行う事業以外のもの
- 従業員を常時は使用することなく、かつ年間使用延従業員数が300人未満の個人経営の林業
- 従業員5人未満の個人経営の畜産、養蚕または水産(総トン数5トン未満の漁船による事業など)の事業
3.雇用保険の場合
常時5人未満の従業員を使用する個人事業で次に該当する事業は、雇用保険の暫定任意適用事業となります。
- 農林業
- 動物の飼育、水産動植物の採捕・養殖の事業、畜産業、養蚕業、水産業の事業
社会保険の加入対象となる従業員は?
社会保険の適用事業所を確認したところで、次は被保険者について見ていきましょう。
健康保険・厚生年金保険の場合
健康保険・厚生年金保険では、適用事業所に常時使用される従業員のうち、正社員(事業主のみの場合を含む)は国籍、賃金の額などにかかわらず、すべて被保険者となります。ただし、原則として70歳以上の人は、被保険者になるのは健康保険だけです。
パートタイマーやアルバイトなどの非正規従業員の場合、1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上であれば、正社員と同様に加入義務が生じます。
また、令和4年10月からは、100人を超える事業所に勤務している場合は1週間の所定労働時間が4分の3未満であっても、次のすべての要件に該当する人は被保険者となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
なお、臨時に2ヵ月以内の期間を定めて使用され、その期間を超えない人は適用除外となるため、加入することができません。
労災保険・雇用保険の場合
前述のとおり、労災保険には被保険者という概念がありません。労働の対償として賃金が支払われる者であれば、すべて保険給付の対象です。
雇用保険では、適用事業所で使用される従業員は、正規・非正規といった雇用形態を問わず、加入義務があります。
ただし、次に該当する場合は適用除外となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
- 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
社会保険の入り方・加入手続きは?
社会保険の適用事業所に該当し、実際に従業員を雇用する場合は、所定の手続きを行うことになります。どのような手続きを行うか、見ていきましょう。
健康保険・厚生年金保険
法人事業所や常時5人以上の従業員を使用して強制適用事業所に該当する場合、日本年金機構(年金事務所)で新規適用事業所の加入手続きを行います。
その後、従業員の被保険者資格取得届を提出します。
労災保険・雇用保険
労働保険の強制適用事業になったときは、まず労働保険の保険関係成立の手続きを所轄の労働基準監督署または公共職業安定所で行います。
労災保険と雇用保険を一本で行う一元適用事業が原則ですが、建設業や農林水産業などは事業の実態から労災保険と雇用保険の適用を区別するため、二元適用事業として扱われます。
二元適用事業では本社の事務部門は一元適用となりますが、建築現場などは二元適用として扱われるため、労災保険と雇用保険の保険関係の成立手続きは別々に行います。
一元適用、二元適用のいずれも保険関係の成立手続きだけでなく、従業員の雇用保険の被保険者資格取得の手続きも公共職業安定所で行います。
社会保険の加入手続きにおける必要書類は?
健康保険・厚生年金保険および労災保険・雇用保険の新規適用事業所の手続きと、従業員の被保険者資格取得の手続きでは、どのような書類が必要になるのでしょうか。
健康保険・厚生年金保険 新規適用届
健康保険・厚生年金保険の新規適用事業所の手続きでは、「新規適用届」を事業発生から5日以内に日本年金機構に提出します。
法人事業所であれば商業登記簿謄本、個人事業であれば事業主の世帯全員の住民票(原本)を添付します。いずれも、提出日から遡って90日以内に発行されたものが必要です。
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険・厚生年金保険の被保険者の資格取得手続きでは、事実発生から5日以内に日本年金機構(年金事務所)に「被保険者資格取得届」を提出します。原則として添付書類はありません。
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)
健康保険では、従業員に被扶養家族がいる場合は「被扶養者(異動届)」も提出する必要があります。
また、従業員の就職とともに配偶者が仕事を辞めた場合は、国民年金の被保険者の種類が第2号被保険者から第3号被保険者に変わります。よって「国民年金第3号被保険者関係届」も併せて提出しなければなりません。
労災保険・雇用保険 保険関係成立届
労災保険と雇用保険の適用事業所の手続きでは、保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出します。
また、「概算保険料申告書」を保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内に所轄の労働基準監督署、都道府県労働局、金融機関のいずれかに提出するとともに、概算保険料を納付する必要があります。
雇用保険 雇用保険適用事業所設置届、被保険者資格取得届
雇用保険については、「雇用保険適用事業所設置届」を設置日の翌日から起算して10日以内に、「被保険者資格取得届」を資格取得の事実があった日の翌月10日までに、所轄の公共職業安定所に提出します。
社会保険の加入手続きをしないとどうなる?
社会保険は強制加入が原則であり、適用事業に該当すれば、事業主は加入手続きを行う義務があります。
事業主が加入手続きを怠った場合は、どのような措置が取られるのでしょうか。
未加入事業所について、行政機関は商業登記簿などで把握しています。
健康保険・厚生年金保険では、加入を勧奨しても自主的に加入しない場合は、年金事務所の職員による重点的な加入指導が行われます。
重点的な加入指導によっても加入手続きを行わない事業所に対しては、年金事務所の職員が立入検査を行い、被保険者の資格の有無を確認した上、必要に応じて職員の認定によって職権で加入手続きを実施します。
労災保険・雇用保険も同様で、労働局などから指導を受けたにもかかわらず、労働保険の加入手続きを行わない事業主に対しては、政府が職権により成立手続きを行います。
労働保険では、未加入期間についても遡及して労働保険料を徴収するだけでなく、納付すべき額に100分の10を乗じて得た額の追徴金を徴収することになっています(徴収法第21条)。
社会保険の入り方・加入手続きついて知っておこう!
社会保険の加入手続きの他、事業所や適用対象となる従業員の条件などについて解説しました。
起業して従業員を雇用する場合、登記や税務関係の手続きが発生しますが、社会保険関係でも複数の煩雑な手続きを行わなければなりません。
そのため、どのような手続があるのか、あらかじめ知っておくことが大切です。
よくある質問
社会保険の加入手続きには何がある?
健康保険・厚生年金保険、労災保険・雇用保険の適用事業所の加入手続きと従業員の被保険者資格取得の手続きがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険の加入手続きにおける必要書類は?
「新規成立届」「保険関係成立届」「被保険者資格取得届」など多数あります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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