- 更新日 : 2024年1月26日
解雇予告手当とは?支払いの条件や払われない場合の対処法を解説
解雇予告手当は、少なくとも解雇日の30日前に解雇予告を行うことができない場合に、労働基準法により支払いが義務付けられています。この記事では解雇予告手当の定義、支払わなくてもよい場合、計算方法、その他の注意点等について解説します。やむを得ず労働者を解雇する場合には、本記事を参考にして確実に手続きを行いましょう。
目次
解雇予告手当とは?
労働基準法によれば、使用者が労働者を解雇する場合には少なくとも解雇日の30日前に予告するのが原則です。この解雇予告を行わずに労働者を解雇する場合には、30日分以上の平均賃金の支払いが義務付けられており、これが解雇予告手当です。
また、解雇予告の日数が30日に満たない場合は、不足日数分の解雇予告手当を支払わなければなりません。言い換えれば、解雇予告の日数は解雇予告手当を支払った日数分だけ短縮することができます。
(例)1/31に解雇する場合
- 原則として1/1までに解雇予告をしなければならない。この場合解雇予告手当の支払いは不要。
- 1/31(解雇当日)に解雇を通知した場合、平均賃金30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要。
- 1/16に解雇予告した場合、平均賃金15日分の解雇予告手当の支払いが必要。
解雇予告手当は即時解雇の場合、解雇と同時に支払わなければなりません。解雇予告(解雇予告日数が30日に満たない場合)を行った場合は、遅くとも解雇日までに解雇予告手当を支払わなければなりません。実務上は、従業員と協議した上で最後の給与と同時に支払う方法を取る場合もあります。
なお、解雇予告を行わない場合や解雇予告手当を支払わない場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。また、労働者の請求に基づき、裁判所から解雇予告手当のほかに同一額の付加金の支払いを命ぜられることもあります。
解雇予告手当を支給しなくてよいケース
労働基準法には解雇予告を行わずに、または解雇予告手当を支払わずに解雇できる場合についての定めがありますので、以下に解説します。
災害等で事業の継続が不可能になった場合
災害等で事業の継続が不可能になった場合には、解雇予告手当を支払わずに解雇できます。この場合には事前に労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
「災害等で事業の継続が不可能になった場合」とは、震災や火災等で会社の建物が倒壊、焼失した場合や、豪雨などで水害が発生し、会社の建物が流失した場合など、使用者が必要な対策を講じても改善できない状況を指します。経営判断の誤りで業績悪化を招いた場合等、使用者の故意、重過失により事業の継続が不可能になった場合は該当しません。
また、「事業の継続が不可能」には、多少の労働者を解雇すれば事業が継続できる場合などは含みません。
解雇理由が労働者に責任がある場合
労働者に責任がある理由により解雇する場合も解雇予告手当を支払わずに解雇できます。この場合も事前に労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
「労働者に責任がある」とは、解雇予告を行わずに即時解雇をせざるを得ないほど、重大または悪質なものを指します。事業場内で横領や傷害事件を起こすなど刑法犯に該当するような場合、雇入れ時に経歴を詐称した場合、原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤した場合などが該当します。
特定の労働者に該当する場合
以下に該当する労働者は、解雇予告手当を支払わずに解雇できますが、それぞれ例外があるので注意しましょう。
- 日雇労働者
(例外)1カ月を超えて継続して雇用されることになった場合
- 2カ月以内の期間を定めて使用される労働者
(例外)当初の契約期間を超えて継続して雇用されることになった場合
- 季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される労働者
(例外)当初の契約期間を超えて継続して雇用されることになった場合
※季節的業務とは、四季や自然現象に伴う業務で、除雪作業や海水浴場の業務、農作物の収穫作業などを指します。季節や自然現象に無関係な繁忙期業務などは該当しません。
- 試用期間中の労働者
(例外)試用期間が14日を超える場合
解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当は「平均賃金×解雇予告期間が30日に不足した日数」により計算します。以下では、解雇予告手当の計算に必要な平均賃金の計算方法、解雇予告期間に組み入れる日数の算定方法について解説します。
1日分の平均賃金を計算する
平均賃金は原則として以下の計算式で算出します。
算定期間中に賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日以前3カ月間とします。例えば毎月25日が賃金締切日である企業の労働者に対し、5/1に解雇予告する場合は、1/26から4/25の3カ月間の賃金総額と暦日数で計算します。
なお、賃金総額には諸手当を含み、税・社会保険料は控除しません。
また、平均賃金には日給制、時給制などの場合の最低保障額が定められているほか、端数処理の方法についても定めがあります。詳しくは以下のURLをご参照ください。
平均賃金の計算に含めない賃金、除外する期間
以下の賃金は平均賃金計算時の賃金総額には含めません。
- 労災による傷病の療養で休業した期間の賃金
- 産前産後休業、育児休業、介護休業の期間の賃金
- 会社側の都合で休業した期間の賃金
- 試用期間の賃金
- 臨時に支払われる賃金(見舞金、退職手当など)、3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 現物給与(労働協約などに定められないもの)
※労働協約に定められない現物給与は違法
また、上記の1〜4に関する期間は平均賃金計算時の総日数から除外します。
解雇予告期間に組み入れる日数
解雇予告期間の日数は、解雇予告日の翌日から起算します。
例えば1/31付けでの解雇にあたり、1/16に解雇予告した場合の解雇予告期間は、1/17~31の15日間となるため、30日-15日=15日分の平均賃金が解雇予告手当になります。
解雇予告手当を支給する場合の注意点
解雇予告手当を支給する場合に注意すべきことを2点紹介します。
解雇予告手当には所得税が課税される
解雇予告手当は所得税の計算上退職所得とされ、退職金と同様に所得税が課税されるため、源泉徴収しなければなりません。源泉徴収の方法は退職金を支給する場合と同様で、「退職手当の源泉徴収票」を作成する必要があります。一方、社会保険料については控除できません。
従業員からの請求制限がある
従業員が解雇予告手当を受給することで、解雇が有効に成立したと認識していると受け取られかねないため、解雇無効として訴訟の提起を考える場合に従業員が解雇予告手当を請求しない場合もあります。
解雇予告手当を支払わない場合の注意点
解雇にあたっては解雇予告を行うか、解雇予告手当を支払うのが原則ですが、先述の通り解雇予告や解雇予告手当の支払いを行う必要がない場合があります。その場合の注意点を2点紹介します。
解雇予告の除外認定対象に該当するか、不当解雇にあたらないかに注意する
先に述べた解雇予告や解雇予告手当の支払いの適用除外等に該当し、解雇予告手当の支払いを行わない場合にはその事由について十分に確認する必要があります。
特に、災害等で事業継続が不可能な場合、労働者に責任がある場合の2つの場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払いが実際に不要かどうかは企業側では判断できず、労働基準監督署長の認定(除外認定)が必要です。除外認定については以下のURLも参考にしてください。
また、除外認定が行われた場合でも、解雇そのものの有効性は別の問題で、訴訟を起こされて解雇無効との判決を受ける場合もあります。労働契約法で解雇無効と定める「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」については弁護士などの専門家と十分に精査した上で、必要な手順を踏む必要があります。
解雇予告手当を支払わない場合のケアを行う
正当な理由により解雇予告手当を支払わずに解雇した場合でも、労働者側が解雇そのものに納得しない場合等に解雇無効を争う訴訟を起こす可能性もあります。そのようなことを避けるためにも、解雇にあたって労働者に対して納得が得られるように説明を尽くし、意見を聞く形でケアをすることが重要なことは言うまでもありません。また、解雇後の労働者が再就職などに向けた手続きをスムーズに行えるよう、会社側も必要な手続きを迅速に進めるなど、誠意を尽くすことも重要でしょう。
解雇予告手当に関するその他
解雇予告手当に関するその他の注意事項について、以下に解説します。
パートやアルバイトにも解雇予告手当は必要?
解雇予告に関する労働基準法の規定はパートやアルバイトに対しても適用されますので、これまでに述べてきた条件に従って解雇予告手当を支払う必要があります。
なお、パートやアルバイトでは、賃金が日給や時給などで支給されることが多いですが、その場合は平均賃金の計算にあたって最低保障額の規定がありますので、注意しましょう。
労働者の解雇手続きには細心の注意を
やむを得ず労働者を解雇しなければならない場合、手続きとして義務付けられている解雇予告や解雇予告手当の支払いは、この記事で紹介した内容などに基づき間違いなく行う必要があります。その上で解雇が不当解雇にあたらないかの精査も重要です。解雇手続きや解雇の有効性は訴訟などのトラブルに発展しやすいため、細心の注意を払いながら進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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