- 更新日 : 2023年3月28日
有給休暇を付与するタイミングはいつ?付与日数や繰越の仕組み

労働者から年次有給休暇の申し出を受けたときに、上司にどのような対応をするように説明していますか。
年次有給休暇は労働者の権利で、基本的には取得の申し出を拒否することはできません。
ただ、無条件に取得できるわけではなく変更できる条件もあります。今回は、年次有給休暇の付与日、付与条件、付与日数、注意点について見ていきましょう。
目次
有給休暇が付与されるタイミングはいつ?
年次有給休暇は、原則として雇入れの日から6ヵ月経過し、全労働日の8割以上の出勤を満たした労働者に付与され、その後は1年ごとに勤続年数に応じた日数が付与されます。では、この原則通りに必ず付与しないといけないのでしょうか。
手続きが煩雑になるのを防ぐため、労働者が不利益にならないのであれば、時期を決めて一斉に付与することも可能です。ここでは、有給休暇が付与されるタイミングや有給休暇の基準日を揃える際の条件などを見ていきましょう。
有給休暇が付与されるタイミングは入社日から半年後
前述しましたが、年次有給休暇は、①雇入れの日から6ヵ月継続勤務していること、②全労働日の8割以上出勤していることが付与の条件になります。したがって、通常勤務をしていれば法律上は半年後に初回の年次有給休暇が付与されます。
ただし前倒しで付与する場合もある
労働基準法で定められた年次有給休暇の初回付与日は入社日から半年後ですが、それより早い時期に有給休暇を付与することは労働者にとっては不利益にはなりません。よって、入社日に初回の有給休暇を付与する会社もあります。また、それ以外の条件を定めて年次有給休暇を前倒しで付与することも可能です。
有給休暇の基準日を揃えたい場合
人によって入社日は異なります。その場合、当然付与日(基準日)は異なりますが、この付与日を揃えることはできるのでしょうか。
初回は入社日に付与し、2回目以降は例えば基準日を4月1日に統一して、全員4月1日に付与するということは従業員の不利益にならないという条件の下で可能です。
ただし、就業規則などでルールを取り決めておく必要があり、また労働者に不利益にならないように注意する必要があります。
有給休暇は何日もらえる?
年次有給休暇は、労働基準法で定めた要件を満たした場合、所定の日数の付与を義務付けている有給の休暇です。
まず、労働基準法のルールについて確認していきましょう。
有給休暇の付与日数は法律で決まっている
労働基準法39条においては、年次有給休暇の付与日数を勤続年数によって定めています。
雇入れの日から勤続年数6ヵ月が経過した権利発生日(基準日)に10日、その後、勤続年数が継続していくにつれて、法律で定められた日数が付与される仕組みです。
有給休暇がもらえる条件
同じく労働基準法第39条では、次の2点を有給休暇の付与要件としています。
- 雇入れの日から6か月継続勤務
- 全労働日の8割以上出勤
引用:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省
つまり、労働者がこれらの要件を満たしている場合、前述のように1年間に10日の年次有給休暇を与える必要があります。
継続勤務とは、労働者の入社日から起算した在籍期間を意味します。また、全労働日は、算定期間の総暦日数から就業規則その他により定めた所定休日を除いた日数のことです。
なお、次に挙げる日は、全労働日から除きます。
- 使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
- 正当なストライキその他の正当な争議行為により労務の提供がまったくなされなかった日
- 休日労働させた日
- 法定外の休日等で就業規則で休日とされている日等であって労働させた日
また、次の日は出勤日として取扱います。
- 業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
- 産前産後の女性が法第65条の規定により休業した日
- 法に基づき育児休業または介護休業した日
- 年次有給休暇を取得した日
引用:年次有給休暇(第39条)|愛媛労働局
特に最後の「年次有給休暇を取得した日」も、欠勤ではなく出勤扱いになることは、しっかり覚えておきましょう。
有給休暇は時間単位でももらえる
年次有給休暇は、本来、「労働者の心や体の疲労を回復し、労働力の維持培養を図るとともに、 ゆとりのある生活を実現する」という趣旨から一定日数の取得が原則となっています。よって、時間単位で付与することは想定されていませんでした。
しかし、近年のワーク・ライフ・バランスや働き方改革の動向を背景に2010年4月に労働基準法が改正されて、一定の要件を満たした場合に時間単位での取得ができるようになりました(法39条4項)。
要件とは、次の2つです。
- 就業規則で時間単位での付与について定めること
- 労使協定を締結すること
労使協定とは、特定の労働条件などを使用者と労働者の間で締結する協定です。この労使協定は所轄の労働基準監督署への届け出は必要ありません。
これらの要件を満たすことで、年5日の範囲内で時間単位での取得が可能です。通院、子どもの学校行事への参加、家族の介護など、労働者の都合により年次有給休暇を柔軟に取得することができるようになります。
有給休暇がもらえる時季
年次有給休暇はいつ取得できるのでしょうか。本来であれば、自分が取得したいときに請求すれば取得することができますが、なかなか実行することができていないようです。
年次有給休暇の取得率の低い理由の一つとして「周囲に迷惑がかかると感じるから」が6割近いという調査結果があります(厚生労働省「仕事と生活の調和の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査報告書(令和3年)」)。
しかし、労働者には年次有給休暇をいつ取得するかを自身で決める「時季指定権」と呼ばれる権利があります。使用者には、事業の正常な運営の妨げになるなどの場合には、「時季変更権」が認められていますが、その人しかできる人がおらず代替要員を確保できない場合や、同じ時期に有給休暇の請求が集中したような場合などに限られています。
有給休暇についての注意点
ここからは、年次有給休暇についての注意点をみていきます。
有給休暇の繰越や期限
年次有給休暇の消滅時効は2年です(法115条)。有給休暇を消化しない場合、基準日から2年で権利は消滅します。
時効は、年次有給休暇が付与された日から起算しますので、前年度に付与された年次有給休暇を消化しきれなかった場合には、もう1年に限り繰り越されることになります。
例えば、新入社員であれば、入社して6ヵ月経過すれば10日間の年次有給休暇が付与されますが、例えば10日のうち6日しか消化しなかった場合には、使用者は残り4日を翌年度に繰り越す義務があります。この4日間の有給休暇は、基準日から2年後に時効消滅します。
また、年次有給休暇の消化率が低いということは、労働者は新規に付与された分と繰り越し分の両方を有していることになります。どちらを優先させるべきかが問題となります。
これについては、特に労働基準法には定めはありませんが、取得期限が先に到来する繰り越し分から取得させるのが一般的です。ただし、就業規則に別の定めがあればその規定に従うことになります。
有給休暇の上限・最大保有日数
年次有給休暇の付与日数の上限は6年6ヵ月以降、継続勤務した場合に最大20日間です。単純に考えると、繰り越せる日数の上限も20日間ということになります。
しかし、使用者はこのうち5日間は労働者に取得させる義務があるため、翌年に繰り越すことができるのは15日です。年次有給休暇の消滅時効は2年ですので、新たに発生する20日と合算して最大保有日数は35日になります。
年次有給休暇の買い上げは可能?
年次有給休暇が有給の休暇であるため、消化しない場合には会社がその分の給与を支払って買い上げる(買い取る)ことができないか、という考え方があります。
果たしてこうしたことは可能なのでしょうか。年次有給休暇の趣旨に立ち返ってみれば答えは明らかです。「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資する」ということですから、金銭で買い上げることは原則として認められていないのです。
引用:年次有給休暇制度について|厚生労働省
ただし、下記のような場合には買い上げが認められる場合があります。
- 法定を上回る日数が付与されていて退職時に使い切れない年次有給休暇
- 退職時に残っている年次有給休暇
- 消滅時効になった年次有給休暇
パート・アルバイトの場合の有給休暇
年次有給休暇は、フルタイムの正社員だけでなく、短時間労働者であるパート・アルバイトも対象になるのでしょうか。
6ヵ月間継続勤務し、8割以上の出勤率という2つの要件を満たせば、使用者は労働時間に応じて年次有給休暇を比例付与する義務があります。比例付与の対象となる人は、1週間の所定労働時間が30時間未満で、かつ、週の所定労働日数が4日以下あるいは年間所定労働日数が216日以下の労働者です。
出典:年次有給休暇取得促進特設サイト[労働者向けページ]10月は「年次有給休暇取得促進期間」です。|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」を加工して作成
なお、図表中の太枠部分は付与日数が10日以上のため、時季を指定して取得させることが必要です。
5日の有給休暇取得義務化
2019年4月の改正によって、年次有給休暇の消化率を向上させるために使用者が時季を指定して計画的に年次有給休暇を取得させることになりました。
具体的には、すでに触れているように10日以上の年次有給休暇を付与される労働者については、そのうち年5日は、基準日から1年以内の期間に労働者ごとにその取得時季を指定する必要があります(法39条7項、8項)。
使用者側から年次有給休暇を取得する時季を指定するというかなり思い切った法改正だといえるでしょう。少しでも確実に消化率を向上させようという政府の働き方改革の想いが反映されています。
ただし、時季指定に当たっては、労働者の意見を聞かなければなりません。さらに、できる限り労働者の希望に沿った時季に年次有給休暇が取得できるように本人の意見を尊重するように努めなければならないとしています。
有給休暇は計画的に利用させましょう
年次有給休暇は、仕事で疲れた労働者が心身の疲れを回復するためや用事を済ませるために取得して、ゆとりを持って生活し、日常の仕事に励むことができるために必要な制度です。
会社は労働者に年次有給休暇の制度について説明し、心身のリフレッシュをしてもらえるように取得を推進していきましょう。
また、年5日取得義務に違反しないように確認しながら有給消化してもらうようにしてください。
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よくある質問
年次有給休暇が付与されるタイミングはいつですか?
年次有給休暇は、原則として雇入れの日から6ヵ月経過し、出勤率が8割以上である労働者に付与されます。その後は付与日から1年経過するごとに出勤率8割以上を満たせば決められた日数が付与されます。詳しくはこちらをご覧ください。
年次有給休暇に関する注意点はありますか?
年次有給休暇には消滅時効があります。付与日から2年経過すると消滅してしまいます。また、1年で年次有給休暇を10日以上付与された労働者は、1年のうちに5日間は年次有給休暇を取得する義務があります。詳しくはこちらをご覧ください。
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