- 作成日 : 2023年2月28日
有給休暇の買取ができるパターンと計算方法を解説
企業は従業員に、法律で定められた日数の有給休暇を付与しなければなりません。しかし、有給休暇を与えられても業務が忙しすぎて使えなかったり、退職する際にすべて消化できなかったりということも多いのが現状です。では、有給休暇が余っている場合、企業が買い取ることはできるのでしょうか。本記事では、有給休暇の買取について解説します。
参考:年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省
目次
有給休暇は買取できる?
買取は違法とされています。
有給休暇の本来の目的は、休暇を取得することにより労働者の心身の疲労をリフレッシュさせ、ゆとりのある生活を保てるようにすることです。それにより生産性アップも望めると考えられています。
企業が有給休暇を買い取ることができるようになると、企業側が積極的に有給を買い上げて、従業員に有給を取らせないという事態も起こりかねません。これでは、何のために有給休暇についての法律を定めたのかわかりません。
そのため、従業員からの申し出であっても、有給休暇の買取は違法とされているのです。
ただし、例外として、企業が有給休暇の買取をしても良い場合がいくつかあります。次章にて紹介しましょう。
有給休暇の買取ができるパターン
有給休暇の買取が許される例外とは、従業員の有給休暇の権利を侵さない範囲、と言っても良いでしょう。一つずつ説明します。
法定日数以上の有給休暇
企業によっては、有給休暇以外にも特別休暇を設けている場合があります。
例えば、以下のような休暇です。
- 慶弔休暇
- 夏季休暇
- 年末年始休暇
- 生理休暇
- リフレッシュ休暇
- バースディ休暇など
これらの休暇が有給である場合には、法定の有給休暇日数以上の休暇を与えていることになります。すなわち、「労働者の心身の疲労を回復しリフレッシュさせ、ゆとりのある生活を保つ」ための休暇日数は確保できているため、これらの休暇を買い取ることは違法ではありません。また、単純に有給休暇の日数が法定日数を超えている場合にも、超えている日数分は買い取ることができます。
期限が切れた有給休暇
有給休暇には2年という時効があります。1年目の有給休暇をその年の内に使いきれなかった場合、2年目に繰越すことができますが、それでも使いきれなかった場合、失効してしまうのです。しかし、使いきれずに失効してしまう有給休暇については、企業が買い取っても違法ではないとされています。
従業員が、失効した有給休暇を申請し使用することはできません。そのため、企業が買い取ったとしても従業員に損失があるわけではなく、「労働者の心身の疲労を回復しリフレッシュさせ、ゆとりのある生活を保つ」という本来の趣旨を損なうものではないからです。
退職時に未消化の有給休暇
退職する際に有給を消化する従業員は多いと思いますが、引継ぎや業務の都合でどうしても消化できない場合もあるでしょう。退職時に消化できなかった有給休暇は、退職後に使用することはもちろんありません。未消化の有給休暇を企業が買い取ることは、退職する従業員にとってはメリットとなります。また、退職する従業員の休暇を買い取っても、「労働者の心身の疲労を回復しリフレッシュさせ、ゆとりのある生活を保つ」という趣旨から外れるものではないため、問題ないとされているのです。
有給休暇の買取価格の計算方法
有給休暇の買取価格は、一般的に、有給休暇を取得した日の賃金額で計算されます。従業員ごとに計算されるため、金額は皆同じではありません。
有給休暇を取得した日の賃金の計算方法は、主に以下の3つに分かれます。
- 平均賃金をもとに計算
- 通常賃金をもとに計算
- 標準報酬月額をもとに計算
どの方法で計算をするかは、あらかじめ就業規則などに定めておかなければなりません。
各計算方法は、以下のとおりです。
平均賃金の場合の計算方法
平均賃金とは、直近3ヶ月間に支払った総賃金を総日数(休日含む)で割った額のことです。
例えば、4月~6月の賃金の合計が90万円だった場合、
となり、有給休暇は1日9,890円で買い取ることになります。
なお、日給・時給・出来高給などで労働日数が少ない場合は、総賃金÷直近3カ月の労働日数×60%の計算も行い、上記の計算結果と比較し高い額を選択する
通常賃金の場合の計算方法
通常賃金とは、通常通り働いた場合の賃金で計算する方法です。すなわち、賃金を働くべき日数で割るのです。月給制ならば「月給÷その月の所定労働日数」週給制ならば「週給÷その週の所定労働日数」日給制ならば、所定の出勤日数分をそのまま適用します。
最もシンプルな計算方法であり、従業員にも納得してもらいやすいというメリットがあります。
標準報酬月額の場合の計算方法
従業員は健康保険や厚生年金の保険料を企業と折半して納めていますが、その金額は、毎年4~6月の報酬をもとに決められています。具体的には、報酬額を32の等級(年金の場合。健康保険は50等級)に区分し、保険料を決めているのです。ここで決められる報酬額を「標準報酬月額」といいます。有給休暇の金額を決めるもう一つの方法は、この標準報酬月額を日割り計算する方法です。
例えば、報酬月額が29万円の従業員の有給休暇を5日買い取る場合、
となります。
参考:標準報酬月額は、いつどのように決まるのですか。|日本年金機構
参考:標準報酬月額・標準賞与額とは?|全国健康保険協会
一定額の場合
有給休暇を買い取る際の金額などについて定めた法律は特にありません。前述したように、従業員の心身の疲労回復やリフレッシュのための有給休暇を削減する買取は法律違反です。しかし、合法的な有給休暇の買取においては、企業が任意で買取価格を設定することができます。5,000円、7,000円などというように一律で定めることも可能です。
有給休暇の買取は「賞与」として計上
従業員にとって有給休暇とは、休暇を取っても給料が発生する日のことです。つまり、企業側は従業員が有給休暇を取得した場合、通常通り給料が発生したとして処理します。しかし、企業が従業員の有給休暇を買い取りした場合には、買い取った金額を給料として扱うことはできません。有給休暇の買取で従業員に支払った金額は「賞与」として扱われます。
従って、賞与を支払った場合と同様の手続きが必要です。まず、支払い後5日以内に「被保険者賞与支払届」を管轄する年金事務所に提出しなければなりません。従業員には本来の賞与と同様に社会保険料を控除された金額が支払われますので、給与明細ではなく、賞与明細を発行します。
有給休暇買取のメリット
有給休暇の買取は、従業員にとってメリットであるのは明らかです。また、企業側にもメリットがあるのです。主なメリットは、以下の2つです。
- 社会保険料の負担軽減
退職する予定の従業員が、残っている有給休暇を消化するまで退職せず休暇を取る、ということがよくあります。この間、まだ従業員は企業に在籍しているため、社会保険料の負担をしなければなりません。
有給休暇を買い取って退職日を前倒ししてもらえば、社会保険料の負担が減少する可能性があります。 - 退職する従業員とのトラブル回避
有給休暇消化中の退職予定者は、出社はしませんが企業の従業員であることに変わりはありません。そのため、労働者としての権利を企業に求めることができ、場合によってはトラブルの原因となる可能性があります。有給休暇の買取をして有給消化期間を無くすことにより、リスクを回避できます。
また、一般的に有給休暇の上限は40日ですが、業務の状況や退職理由などによっては消化しきれない場合もあるでしょう。残った有給休暇は退職と同時に消滅するため、退職する従業員とトラブルになる可能性があります。この場合、残った有給休暇を買い取ることにより、円満に解決できるでしょう。
有給休暇買取時の注意点
有給休暇の買取を行う際に企業側が注意すべき点は、3つあります。
- 有給休暇の買取は企業の義務ではない
有給休暇の買取について違法ではない例を紹介しましたが、もともと有給休暇の買取は企業の義務ではありません。これについて定めた法律や条文などもありません。なぜなら、休暇を取らせたくない企業や休暇を売って金銭を得たい従業員が、法律や条文に基づいて自由に有給休暇を売買できてしまうと、「労働者の心身の疲労を回復しリフレッシュさせ、ゆとりのある生活を保つ」という本来の有給休暇の在り方から外れてしまうからです。
従って、従業員から有給休暇の買取を求められても、断ることができます。 - 有給休暇買取の予約は違法である
例えば、10日ある有給休暇のうち3日分を先に買い取って実質7日しか与えない、または最初から少ない日数しか有給休暇を与えないなどの行為は、有給休暇買取の予約とみなされます。たとえ日数分の金銭を支払ったとしても、違法行為となります。 - 有給休暇買取の支払いは「賞与」として扱う
前述しましたが、有給休暇を買い取った代金は、従業員への賞与として扱います。
給与ではないので、注意が必要です。
有給休暇買取の判断は慎重に
企業が従業員の有給休暇を買い取ることは原則として違法です。しかし、例外として認められる場合があることを本記事で紹介しました。有給休暇の買取は、気付かないうちに法律違反をしていた、ということのないように慎重に行いましょう。
従業員から申し出があっても、それが法律違反にならないかどうか、そして企業と従業員双方のメリット・デメリットなどを検討し、正しい判断が必要です。
よくある質問
有給休暇は買取できる?
原則として違法ですが、条件によっては買取できるケースがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
有給の買取ができるケースは?
法定日数より多く有給休暇が与えられている場合の多い分、失効した有給休暇、退職時に未消化の有給休暇など、従業員を休ませるという有給休暇の趣旨を損なわないケースのみ買取できます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
有給休暇の関連記事
新着記事
社員証を紛失した時の対応方法は?始末書の書き方、例文、無料テンプレートつき
社員証を紛失した場合、速やかに上長や人事部門に報告し、指示に従って対応することが重要です。一般的な対応として、紛失の経緯や状況を説明し、始末書を提出することが求められます。 本記事では、社員証紛失時のリスクと対応方法、始末書の書き方や例文、…
詳しくみる交通事故の始末書の書き方は?無料テンプレート・例文つき
交通事故の始末書は、事故の状況や経緯、反省点、再発防止策を詳細に記載する文書です。適切な始末書を作成するには、事実関係を正確に記し、誠実な謝罪と具体的な改善策を示すことが重要です。 本記事では、交通事故の始末書の書き方や構成、例文、無料テン…
詳しくみる退職金規程に使える無料テンプレートを紹介
退職金規程の作成は、多くの企業にとって重要かつ複雑な作業です。退職金規程は適切なテンプレートを活用することで大幅に簡素化できます。本記事では、退職金規程の作成方法や退職金規程作成に役立つ無料テンプレートを紹介し、活用方法について解説します。…
詳しくみる展示会報告書・レポートの書き方は?例文・無料テンプレートつき
展示会報告書・レポートは、展示会参加の成果を効果的に共有し、ビジネスに活かすための重要なツールです。ただし、適切な書き方や必要な記載事項を把握していないと、その価値を十分に引き出せません。 本記事では、展示会報告書の作成方法、ポイント、注意…
詳しくみる内部告発があった場合の対応フローとは?無料テンプレートつき
内部告発が発生した場合、どのようなフローで対応したらよいか、わからないという方もいることでしょう。本記事では、内部告発の基本的な定義から、告発を受けた場合の具体的な対処法、再発防止策までを網羅し、解説します。組織としての信頼を守るために必要…
詳しくみる納期遅延理由書・報告書の書き方は?例文・無料テンプレートつき
納期遅延理由書や報告書を書く場合、実際にどのように書けばいいのか、よくわからないという方もいることでしょう。本記事では、納期遅延理由書や報告書の基本的な内容から、具体的な書き方、作成時のポイントまでを解説します。さらに、すぐに使える無料テン…
詳しくみる