- 更新日 : 2024年8月29日
ホラクラシーとは?フラットな組織のメリット・デメリット、向いている企業
ホラクラシーとは組織管理の型の一つです。上下関係のないフラットな組織で、各メンバーが裁量権を持ち自律的に行動するため、従来型の上下関係を前提にしたヒエラルキー組織とは大きく異なります。この記事ではホラクラシーの特徴やメリット、デメリット、導入時の注意点等を解説します。ホラクラシーの導入検討の際の参考にしてください。
目次
ホラクラシーとは?
ホラクラシーとは組織管理の型の一つで、上下関係のないフラットな横の連携で成り立ち、メンバーが裁量権を持ちつつ自律的に行動する組織です。
ユダヤ人の小説家アーサー・ケストラーが作った「ホロン(個々の仕事の決定権を持つ小グループ)」「ホラーキー(ホロンが有機的に結びついている状態)」という言葉に由来していると言われています。2007年にアメリカのソフトウェア開発会社であるターナリ―・ソフトウェアの創業者、ブライアン・ロバートソンが提唱したものです。
フラットな組織構造
ホラクラシーはフラットな組織構造を特徴としており、役職や階級などの概念がありません。経営陣や管理職など限られた人間が意思決定を行うのではなく、組織内で定めた役割に基づき権限が分散されています。各メンバーは役割が紐づいているチームで業務を行います。
チームごとに、またはチームの各メンバーが意思決定を行えるため、各チームやメンバーの能動的な行動に任されている組織と言えるでしょう。
ホラクラシーが注目される背景
情報化が進み、急速な変化を遂げる現代社会においては、経営陣の意思決定を仰ぐことが必須となる従来型のヒエラルキー組織では変化への迅速な対応が難しいのが実情です。そのような中でスピード感を持った経営が求められるようになり、チームや個人単位で迅速に能動的に対応できるホラクラシーが注目されています。
ホラクラシー組織とヒエラルキー組織
横のつながりで成り立つホラクラシー組織と対をなすのが、従来型の階層型、ピラミッド構造の組織であるヒエラルキー組織です。経営者をトップとして組織に階層があり、各階層に管理職が存在します。部下と上司といった上下関係が存在する組織です。裁量権は管理職が持ち、従業員自身にはありません。
日本ではヒエラルキー組織のほうが一般的で、ホラクラシー組織を導入している企業はまだ少ないと言われています。そのため、業界による差は明確ではありませんが、従業員が主体的に行動でき、風通しがよく、コミュニケーションが密に取られている企業に馴染みやすいとされています。
ホラクラシーのメリット
以下では、ホラクラシーのメリットを3点紹介します。
意思決定・改善スピードが速い
ホラクラシーはフラットな組織構造のため、上司に承認を得て、最終的に経営者や役員に決裁を仰ぐようなプロセスを経ません。したがって、スピーディーな意思決定が可能であり、問題が発生した際の改善のスピードは速くなります。競合他社と受注を争っている場合に迅速な意思決定を行うことで、いち早く受注につなげられる可能性もあるでしょう。また環境変化に対して素早く対応し、改善につなげることで競争力を高めることにもなります。
社員の主体性の向上
ホラクラシーでは経営者や管理職ではなく、組織のメンバーが意思決定に関わることになります。上司の指示に従い行動するのではなく、自らの行動に責任を持ち、積極的に組織に関わることが求められるため、社員の主体性の向上につながるでしょう。
自由な意見やアイデアを伝えやすい
ホラクラシーでは上司、部下の関係がなく、組織のメンバー間でのフラットな意見交換が盛んに行われます。この意見交換を通じて、自らの意見やアイディアを他のメンバーに伝えやすいことがメリットと言えます。組織に主体的に関われば、自らの意見やアイディアが組織の意思決定に反映される機会が得られ、業務を行う上でのモチベーションも高まるでしょう。
ホラクラシーのデメリット
以下ではホラクラシーのデメリットを3点紹介します。
管理者が不在になる
ホラクラシーにおいては上下関係がなく、管理者が不在であることが一般的です。つまり、組織目標に従って業務を遂行しなければならない場合に、目標に合っているか、どの程度進捗しているか、といった組織を管理する業務を行う人がいないことになります。このように、組織としてまとまりのある業務を進めにくくなることはデメリットと言えるでしょう。
従業員の自主性が不可欠
ホラクラシーでは組織のメンバーそれぞれが意思決定に関わることになり、上司の指示に従って仕事を進められるわけではありません。したがって従業員それぞれに自主性が備わっていなければ、ホラクラシーとして成果を挙げることは難しいと言わざるを得ません。
組織のコントロールが難しい
ホラクラシーでは管理者が不在であるため、組織のコントロールが難しいこともデメリットと言えます。例えば労働時間管理や人事評価、その他従業員の労務管理に関することを一般的な組織と同様に行うことは難しいと言えるでしょう。
また、誰もが組織の意思決定に関われるため、組織内で管理すべき戦略的に重要な情報を共有できますが、これが外部に漏洩するリスクがあります。一部の経営陣や管理職等が意思決定に関わる組織であれば、機密情報もそこでクローズできるだけに、情報漏洩リスクはホラクラシー特有のデメリットと言えます。
ホラクラシーに向いている企業
ホラクラシーに向いているのは、どのような企業でしょうか。以下ではその代表的な特徴を3点紹介します。
従業員の自主性が高い企業
ホラクラシーでは、上司の指示を待って仕事を進めるのではなく、従業員それぞれが自主性や責任感を持って業務を進めることで、そのメリットを活かせます。したがって従業員の自主性が高い企業はホラクラシーに向いていると言えます。
従業員間の風通しがよい、コミュニケーションが密な企業
ホラクラシーのメンバーが意思決定に関与する際に、組織内の情報が十分にシェアされる必要があります。そのためには従業員間の風通しがよく、実際にコミュニケーションを密に取る仕組みが作られている企業がホラクラシーに向いています。
自主性や責任感の高い人材を育成したい企業
ホラクラシーを導入することで、従業員が自主性や責任感を身につけられることがメリットです。したがって、企業としてこれらの特性を持った人材を育成したい場合には、ホラクラシーに向いていると言えるでしょう。
ホラクラシーの導入ポイント
以下ではホラクラシーの導入にあたって注意すべきポイントを4点紹介します。
運用ルールを決める
ホラクラシーのデメリットである組織のコントロールの困難さを克服するために、運用ルールを定めることが重要と言えます。従業員が自主性を持って行動することが重要ですが、無秩序であってはなりません。ホラクラシーにおける責任の所在や役割分担などをあらかじめ決めておく必要があります。
業務をうまく進められるように、リーダーや意見交換などでの仲介役であるファシリテーター、書記役であるセクレタリーなどを配置します。
少しずつ運用を始める
ホラクラシーは従来型のヒエラルキー組織とは特色が大きく異なるため、規模が大きい企業の場合、最初から全社的に導入するのは難しいでしょう。例えばホラクラシーに適した社内の一つの部門やチームから運用を始めて成功体験を積み重ねたり、社内プロジェクト結成時にホラクラシー組織を導入したりするなどの方法が考えられます。
情報共有で透明性を高める
ホラクラシーのメリットを活かすためには、従業員が自主的に行動することが重要です。そのためには、情報を一部の従業員で抱えずに十分に共有して透明性を高める取り組みが必要です。具体的にはミーティングの機会を十分に設けたり、ITを活用した情報管理、共有のための仕組みを作ったりすることなどが挙げられます。
また、情報漏洩リスクへの配慮が必要です。従業員の情報セキュリティーのリテラシーを高めるための教育を十分に行うことも求められます。
個人の管理能力が高い人材を選ぶ
ホラクラシーにおいては従業員の自主性が不可欠です。自社の従業員の特性をしっかり把握し、個人としての管理能力が高い人材をホラクラシーのメンバーとして選定する必要があります。
ホラクラシー導入の失敗要因
ホラクラシーの導入に失敗するのはどのようなケースでしょうか。ここではホラクラシー導入の失敗要因を3つ紹介します。
情報共有の不足
ホラクラシーにおいて情報共有の仕組みは大変重要です。組織メンバー間で情報が十分に共有されない場合、タスクを実行するのに時間を要し、労力も大きくなります。また、正しい意思決定が行えないことにもつながりかねません。
その結果、各メンバーの自主性に基づき積極的に意思決定に関与できるホラクラシーのメリットを活かせず、導入に失敗することになるでしょう。
ワークフローの設計不備
ホラクラシーでは、従業員の自主性をうまく引き出すためのワークフローの設計が必須と言えます。組織の中での役割分担や責任範囲が不明確である場合、業務を進める上で混乱が生じてしまい、業務の重複や意思決定の遅れといった非効率を生みかねません。その場合ホラクラシーのメリットが活かせず、導入は失敗に終わることでしょう。
成果の評価が明確でない
ホラクラシーにおいては、従業員が自主性を持って業務を進めます。組織の業務目標や成果の評価基準が不明確だと業務の優先順位を決められず、最適な成果を生むことができません。その結果、ホラクラシー組織の導入に失敗します。
ホラクラシー組織に類似のティール組織とは?
ホラクラシー組織と類似しているものとして、ティール組織が挙げられます。実は両者は全く異なるわけではなく、ティール組織の一つの形態がホラクラシー組織と言えます。
ティール組織は、ヒエラルキー組織のように役職自体が意味を持つわけではありません。メンバーそれぞれが組織目標達成に向けて貢献する形でプロジェクトを進める組織管理システムで、ホラクラシー組織と同じ特徴を持っています。
ティール組織とは価値観にあたり、ホラクラシー組織はその価値観を実現するための具体的な手法の一部という関係にあります。
ホラクラシー経営の企業事例
以下ではホラクラシーによる経営に成功している企業の事例を2例紹介します。
株式会社アトラエ
株式会社アトラエは、ホラクラシーによる経営の代表的な導入事例の一つです。同社のホラクラシーの大きな特徴は、従業員の役職がないことです。業務をプロジェクト単位で進め、プロジェクトにはプロジェクトリーダーという役割が設けられていますが、プロジェクト内で時と場合により自主的に進行役を決めて業務を進める形を採用しています。
情報のオープン化を進めているのも代表的な特徴です。従業員全員が経営者視点で会社の様々な数字を把握し、業務上の意思決定に活かす仕組みを作ったり、定期的に組織の課題や行動指針等を語り合うグループワークを実施したりするなど、ホラクラシーのメリットを活かす取り組みを進めています。
また、組織への貢献度を重視した360度評価の結果をもとに給与を決定しているのも特徴です。
参考:「管理しない経営」は本当に成り立つ?アトラエに聞く「ホラクラシー型組織」のススメ|Money Forward Bizpedia
株式会社UPDATA(旧:ダイヤモンドメディア株式会社)
2008年よりホラクラシーを導入している、我が国でもホラクラシーの先駆者的な存在と言える企業です。同社の特徴は人事制度の考え方にあると言えるでしょう。
具体的には「雇う側」「雇われる側」という関係を排除している点、勤務時間、勤務場所、休日を従業員の裁量に任せている点、新規採用者を3か月の業務委託として、周囲の社員の意見を基にその後の就業可否を判断している点、給与を社員同士の話し合いで決定している点です。これらの考え方は従業員の自主性を高めることにつながっています。
参考:ホラクラシー型組織で8年経営してみた。| @kozotakeiのTumblr
ホラクラシー経営に向け、まずは小さな一歩を
ホラクラシーはフラットな組織であり、上司・部下の関係がなく従業員が自主的に意思決定に関与する形の組織です。従来の企業に多く見られるヒエラルキー組織とは大きく異なり、意思決定を迅速に行える、従業員の自主性を育てられるといったメリットがあります。
導入にあたっては、この記事で紹介した内容を参考に、まずは小規模でもよいので運用を始めてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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