• 更新日 : 2023年12月27日

男女雇用機会均等法とは?禁止事項や差別・違反の具体例、企業が行うべき対策

男女雇用機会均等法とは?禁止事項や差別・違反の具体例、企業が行うべき対策

1985年に成立(翌1986年に施行)した男女雇用機会均等法は、職場における男女の均等な取扱いや待遇等を規定した法律です。この法律では、性別を理由とする差別の禁止や、不利益取扱いの禁止等が定義されています。

本記事では、男女雇用機会均等法の概要、禁止事項や差別、違反の例、企業の対策等についてわかりやすく解説します。

男女雇用機会均等法とは?

男女雇用機会均等法は、正式名称を「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といい、1985年5月に成立し翌年の1986年に施行された法律です。

男女雇用機会均等法は、以下の目的の元に制定されました。

  • 雇用の分野において男女の均等な機会や待遇の確保を図ること
  • 女性労働者の就業に関して、妊娠中および出産後の健康の確保を図る等の措置を推進すること

また、男女雇用機会均等法の基本的な理念は、性別によって労働者が差別されることなく、女性労働者は母性を尊重されながらも、充実した職業生活を送れるようにすることです。

本項では、男女雇用機会均等法における令和2年6月の改正事項や、男女雇用機会均等法が制定された背景ついて解説していきます。

令和2年6月の改正事項

令和2年6月の男女雇用機会均等法の法改正により、職場におけるセクシュアルハラスメントや、妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメント防止の対策が強化されました。

具体的には、ハラスメントを防止するための雇用管理上、必ず講じなければならない以下の措置が、法や指針に定められたのです。

  • 事業主の方針の明確化、およびその方針の周知・啓発
  • 相談・苦情に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
  • 職場におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
  • 職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
  • その他の併せて講ずべき措置

男女雇用機会均等法が制定された背景

古くの日本では、「男性は仕事、女性は家庭」という男女の役割分担がありました。しかし、労働市場への女性の参加が大きく進むと、男女の地位についての不平等感が目立つようになったのです。

一方、国際的には、国際連合が女性の地位の向上を目指して1975年を国際婦人年と宣言しました。また、1979年には、国連総会にて女子差別撤廃条約が採択されたのです。

これらの国際的な動きを受けて、日本でも職場における男女平等を求める動きが強くなり、そのための法的整備が必要になりました。そのため、1986年に勤労婦人福祉法が改正されて、男女雇用機会均等法が施行されたのです。

男女雇用機会均等法で禁止されている事項

男女雇用機会均等法では、募集・採用・配置・昇進等における性別を理由とする差別や、性別以外の事由を要件とした間接差別を禁止しています。また、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益な取扱いや、セクシャルハラスメントについても男女雇用機会均等法の禁止事項です。

性別を理由とする差別

男女雇用機会均等法では、雇用管理全般において性別を理由とする差別は禁止されています。禁止されている性別を理由とする差別は、以下のとおりです。

  • 労働者の募集・採用
  • 業務の配分および権限の付与を含む労働者の配置・昇進・降格、教育訓練
  • 住宅資金の貸付けや、その他の厚生労働省令で定める一定範囲の福利厚生の措置
  • 労働者の職種・雇用形態の変更
  • 退職の勧奨、定年・解雇、労働契約の更新

間接差別

男女雇用機会均等法では、厚生労働省令で定める以下の措置において、合理的な理由が認められない場合には間接差別として禁止しています。

  • 労働者の募集・採用に当たり、労働者の身長・体重・体力を要件とするもの
  • コース別雇用管理における労働者の募集・採用に当たり、転居を伴う転勤に応じられることを要件とすること
  • 労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること

間接差別とは、「性別以外の事由を要件とする措置であって、他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものとして省令で定めている措置を、合理的な理由がない場合に講じること」です。

引用:男女雇用機会均等法令の見直しについて|厚生労働省

婚姻、妊娠・出産等を理由とした不利益な取扱い

婚姻、妊娠・出産等を理由とする以下の不利益取扱いについても、男女雇用機会均等法(第9条)の禁止事項です。

  • 女性労働者が婚姻・妊娠・出産したことを退職理由に予定すること
  • 女性労働者が婚姻したことを理由に解雇すること
  • 雇用する女性労働者が妊娠・出産したこと、休業したこと、その他の妊娠または出産に関する事由であり、厚生労働省令で定めるものを理由に、解雇その他不利益な取扱いをすること

また、妊娠中および出産後1年経っていない女性労働者に対して行われた解雇は、無効になります。ただし、当該解雇が、妊娠中および出産後1年を経過しないことによる解雇でないことを証明した場合は、この限りではありません。

参考:男女雇用機会均等法のあらまし|厚生労働省

セクハラ(セクシャルハラスメント)

職場における性的な言動に対して、労働者が労働条件について不利益を受けることや、労働者の就業環境が害されることは禁止されています。男女雇用機会均等法では、セクシャルハラスメントに対して、労働者の相談に応じ、適切な対応のために体制の整備や必要な措置を講じなければならないとしています。

男女雇用機会均等法で禁止している差別の具体例

性別によって労働者が差別されることは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。本項では、男女雇用機会均等法で禁止されている事項の具体的な場面や例を挙げて、解説していきます。

求人募集・採用

求人募集や採用時に、男性・女性のどちらかを対象から外すなど男女差別をすることは男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、営業職は男性、事務職は女性に限るなどとして求人募集をすることは、禁止されています。

また、正社員として採用するのは男性のみで、女性はパートでなければ採用しないなどということも禁止されています。

人員配置

性別などを理由に、不当な人員配置をすることは男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、営業職などの外勤業務への人員配置は男性のみとし、受付や秘書、事務職などの内勤業務への人員配置を女性のみとすることは禁止されています。また、派遣元の事業主が、男女のどちらかのみを労働者派遣の対象とすることも禁止されています。

昇進・降格

男女の性別を理由に昇進や降格を行うことは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、女性だけ役職への昇進ができなかったり、女性だけ一定の年齢に達すると一定の役職までしか昇進ができなかったりすることは禁止されています。また、女性だけが一定の年齢に達すると降格させることも禁止されています。

教育・訓練

教育・訓練を行う場合にも、男女の性別や年齢などで差別を行うことは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、男女のどちらかだけを教育・訓練の対象外とすることは禁止されています。また、一定年齢に達したことや、結婚している子どもがいるなどの理由で、教育・訓練の対象から外すことも禁止されています。

福利厚生

男女の性別の違いによって福利厚生を差別することは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、住宅貸与などの要件を、男女の性別の違いによって異なる要件にすることは禁止されています。また、女性についてのみ結婚していることを理由に、社宅などの住宅を貸与の対象から外すことも禁止されています。

会社の寮の入居対象者を男女どちらかに限定することは禁止事項のため、その場合は代わりに住宅の借上げをするなどの差別解消のための措置が必要です。

職種・雇用形態の変更

職種や雇用形態を変更する場合に、男女の性別によって不当な扱いをすることは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、女性だけを婚姻を理由にして、職種の変更の対象から外すことは禁止されています。また、総合職から一般職への雇用形態の変更について、男性だけ認めないことは禁止されています。

労働契約の更新

男女の性別によって労働契約の更新に差をつけることは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、会社経営の合理化のために、労働契約の更新対象を男性のみとして、女性を労働契約の更新対象としないことは禁止されています。また、労働契約更新の上限回数を、男女のどちらかに設けることも禁止されています。

退職・解雇

男女の性別を理由として退職の勧奨や解雇をすることは、男女雇用機会均等法の禁止事項です。例えば、会社経営の合理化のために、女性だけを退職の勧奨や解雇の対象とすることは禁止されています。また、男女の性別により、異なる解雇基準を設定することも禁止されています。

男女雇用機会均等法で企業が行うべき対策

男女雇用機会均等法により禁止されている雇用管理全般における差別や、職場におけるセクハラなどは、企業にとって職場秩序や業務の遂行を阻害する問題です。そのため、企業は事前に対策を講じて、迅速かつ適切に対応しなければなりません。

本項では、男女雇用機会均等法で企業が行わなければならない措置について解説します。

セクハラ(セクシュアルハラスメント)対策

男女雇用機会均等法では、職場におけるセクシュアルハラスメントについて、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています。厚生労働省の指針に定められた雇用管理上とるべき対策は、以下10項目です。

  • 職場で発生するセクシュアルハラスメントの内容や、セクシュアルハラスメント防止のための方針を明確化して、労働者(管理・監督者を含む)に周知・啓発すること
  • セクシュアルハラスメントの行為者には、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等に記載して、労働者(管理・監督者を含む)に周知・啓発すること
  • 相談窓口を前もって設定すること
  • 内容や状況に応じて、相談窓口の担当者が適切に対応できるようにするとともに、広く相談に対応すること
  • 事実関係を迅速、正確に確認すること
  • 事実確認ができたら、即座に被害者への配慮の措置を適正に行うこと
  • 事実確認ができたら、適正に行為者に対する措置を行うこと
  • 再発防止に向けた措置をとること
  • 相談者や行為者等のプライバシーを保護するための必要な措置をとって、周知すること
  • 相談したことや、事実の確認に協力したこと等を理由に不利益な取扱いを行ってはならないことを、労働者に周知・啓発すること

妊娠・出産等に関する環境の整備

妊娠・出産等に関するハラスメント対策として、企業がとるべき必要な環境の整備は以下のとおりです。

  • 妊娠・出産をした労働者の周りの労働者へ業務が偏ることを軽減して、適切に業務分担を見直すこと
  • 業務の点検をして、業務の効率化などを実行すること
  • 妊娠・出産した労働者も制度などの利用ができることや、自身の体調などに応じた適切な業務を遂行していくことを、妊娠等した労働者に周知・啓発すること

妊娠中または出産後の健康管理

男女雇用機会均等法では、妊娠中または出産後の健康管理として、保健指導や妊産婦健診を受診できる時間を確保することを義務付けています。具体的には、妊娠23週までは4週に1回、妊娠24週から35週までは2週に1回、妊娠36週から出産までは1週に1回です。出産後1年以内は、医師などの指示により必要な時間を確保することができるようにしましょう。

派遣社員への適用

派遣先にも、男女雇用機会均等法における以下の4点が適用され、使用者としての責任を派遣労働者に対しても負います。

  • 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
  • セクシュアルハラスメント対策
  • 妊娠・出産、育児休業などに関するハラスメント対策
  • 妊娠中および出産後の健康管理に関する措置

男女雇用機会均等法に違反した場合の罰則

男女雇用機会均等法に違反した場合、厚生労働大臣から報告を求められ、助言や指導、勧告を受けることがあります。

この場合に報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすると、最大20万円の過料が科される可能性がありますので注意が必要です。また、勧告に従わなかった場合には、企業名が公表されます。

男女雇用機会均等法に違反していると感じたら?

男女雇用機会均等法に違反していると感じたら、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談しましょう。都道府県労働局雇用環境・均等部(室)は、男女雇用機会均等法に関する相談に応じるだけでなく、必要な指導・援助を行っています。

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の連絡先は、以下のURLをご確認ください。

参考:全国の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の連絡先|厚生労働省

男女雇用機会均等法の違反事例

男女雇用機会均等法に抵触した場合、裁判につながるケースがあります。本項では、男女雇用機会均等法の裁判事例について、見ていきます。

広島中央保険生活協同組合事件

Y法人に勤務している理学療法士Xが、妊娠中のため軽易業務への転換請求で別部署に異動した際に管理職(副主任)を免ぜられました。その後、産休や育休を経て希望により転換前の部署に戻りましたが、すでに後任者がいたことから管理職(副主任)に戻れませんでした。この降格は男女雇用機会均等法に違反しているため無効だとして、管理職(副主任)手当の支払などを求めた事例です。

裁判所は、妊娠、出産などを理由に解雇その他不利益な取扱いをすることは、男女雇用機会均等法9条3項に違反するものとして違法・無効であるとしました。

参考:最高裁判所判例集|事件番号 平成24(受)2231|事件名 地位確認等請求事件|裁判所 – Courts in Japan

今川学園木の実幼稚園事件

Y幼稚園の教諭であったXは、妊娠が判明して切迫流産で入院することとなったため、Y幼稚園の園長Zに妊娠した旨を告げると中絶を勧められました。Xが中絶ができない旨返答すると、Zから妊娠したことが無責任であるため産前休暇の取得が難しいと告げられ退職を勧められました。

その後、夏季保育に出勤したことが原因で流産し、Xは職場復帰を望むもののZは退職届の提出を執拗に求めて、退職を強要しようとした上でXを解雇したのです。

そこでXは、Y幼稚園に対して解雇の無効を主張することで、労働契約上の地位に対する権利を有することの確認、未払賃金の支払い、Y幼稚園およびZに対し不法行為責任に基づく損害賠償を求めました。

判決では、園長Zによる行為は、Xの妊娠に対する中絶の勧告、退職の強要および解雇で、男女雇用機会均等法の趣旨に反する違法な行為であり、不法行為責任を免れないと言い渡されました。

参考:労働事件裁判例集|事件番号 平成13(ワ)400等|事件名 学校法人今川学園木の実幼稚園教諭解雇|裁判所 – Courts in Japan

男女雇用機会均等法を守ることが雇用の分野の安全や快適な職場環境につながる

企業の人事労務担当者は、男女雇用機会均等法の内容について理解しておく必要があります。男女雇用機会均等法が企業内で守られているかや、ハラスメントが起きていないかを確認することが大切です。

男女雇用機会均等法に抵触した場合は、過料が科されたり、企業名が公表されたりすることにより社会的制裁を受けます。場合によっては、裁判にまで発展することもあり得るでしょう。男女雇用機会均等法を理解して法を守ることが、雇用の分野の安全や快適な職場環境を構築し、働きやすい職場を作ることにつながっていくのです。


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