• 更新日 : 2025年3月12日

新卒採用にAIを活用する方法とは?メリット・デメリット、企業事例、注意点などを解説

AI技術の進化に伴い、新卒採用の現場でもAIを活用する企業が増えています。AIを活用することで、書類選考や面接対応を効率化し、公平な採用プロセスを実現できます。本記事では、AIを活用した新卒採用の基本的な仕組みや、具体的な導入方法について解説します。

新卒採用にAIを活用する方法とは

AIを活用した新卒採用とは、応募の受付から選考、内定に至るまでの一連の採用プロセスの一部にAI技術を取り入れる手法です。人事担当者に代わり、書類選考や面接対応などをAIがサポートすることで、採用業務の効率化や選考の精度向上を目指します。

現在、多くの企業で活用されているAI技術には、ATS(採用管理システム)、AIチャットボット、適性検査AI、AI面接などがあります。それぞれの機能について詳しく見ていきましょう。

ATS(採用管理システム)

ATS(採用管理システム)とは、学生のデータを一元管理し、書類選考を自動化するシステムのことです。AIを搭載したATSでは、履歴書やエントリーシートの内容を解析し、あらかじめ設定された評価基準に基づいてスコアを付けたり、合否判定を行うことが可能です。これにより、応募する学生が多い場合ですぐにスクリーニングができ、人事担当者の負担が軽減されます。

AIチャットボット

AIチャットボットとは、学生からの問い合わせに対応したり、採用スケジュールの調整を自動で行ったりするツールのことです。学生からの質問に24時間対応できるため、疑問をすぐに解消し、企業の対応品質を向上させることができます。また、エントリーの際に簡単な質問を投げかけ、回答内容に応じて適切な選考フローへ振り分ける機能を持つチャットボットもあります。こうした機能により、候補者との円滑なコミュニケーションが可能になり、選考プロセス全体のスムーズな進行に貢献します。

AI適性検査

AI適性検査とは、従来の筆記試験や適性検査に代わり、ゲーム形式のテストやオンライン評価を活用して学生の能力や性格を分析することです。例えば、学生の回答データをAIが解析し、論理的思考力や性格傾向を数値化して評価します。また、過去に企業で活躍した社員のデータと照らし合わせ、適職度をスコア化する機能を持つものもあります。さらに、動画で自己PRを提出し、AIが表情や声のトーンを解析して評価する仕組みも登場しています。このように、AIを活用することで書類だけではわかりにくい学生の熱意やコミュニケーション能力を客観的に判断できるようになっています。

AI面接

AI面接とは、AIが面接官の役割を果たす面接形式のことです。パソコンやスマートフォンを使い、録画された質問に答える形式で面接を受けます。AIは回答内容だけでなく、表情や声のトーンなどの非言語情報も解析し、評価の指標とします。これにより、面接官の主観に左右されない公平な評価が可能になるとされています。また、地方に住んでいる学生と企業をつなぐ手段としても有効で、時間や場所の制約を受けずに面接を実施できるメリットがあります。

新卒採用にAIを活用するメリット

企業の新卒採用にAIを取り入れることで、様々なメリットがあります。ここでは、特に大きなメリットとして挙げられる3つのポイントについて詳しく説明します。

採用業務を効率化できる

AIを活用する最大のメリットは、採用業務の効率化です。従来、人の手で行っていた履歴書やエントリーシートの選別、適性検査の採点、学生からの問い合わせ対応などに多くの時間がかかっていました。これらの作業をAIで自動化することで、人事担当者はより重要な業務に集中できるようになります。

さらに、AIチャットボットを活用すれば、学生からの問い合わせに24時間対応できるようになります。深夜や休日でもAIが質問に答えたり、面接日程を自動で調整したりすることで、採用プロセス全体のスピードを向上させられます。

公平な選考プロセスを実現できる

AIを導入することで、選考の公平性を確保しやすくなる点も大きなメリットです。人間の面接官は、どれだけ注意しても無意識のうちに偏見が生じることがあります。例えば、学生の第一印象が評価に影響したり、面接官ごとに基準が異なったりすることがあるのです。しかし、AIを活用すれば、事前に設定した評価基準や過去のデータに基づいて一貫した判定を行うことが可能になります。

また、AIを活用することで、面接時の表情解析や声のトーン分析を行い、学生の緊張度や自信の有無といった非言語情報も評価対象に加えることができます。このように、AIは人間の主観を排除し、公平かつ透明性の高い選考を実現するための強力なツールとなります。

マッチング精度を向上できる

AIは大量のデータを分析するのが得意なため、企業と学生のマッチング精度を向上させることができます。過去に採用された社員の経歴やスキル、選考での評価データを学習させることで、学生ごとの活躍予測や定着可能性をスコア化することが可能です。

このように、AIを活用すれば、企業の求める人材像に合った候補者を効率よく見極めることができ、より適切なマッチングを実現できるのです。

新卒採用にAIを活用するデメリット

AIの導入は多くのメリットをもたらしますが、一方で注意すべきデメリットもあります。ここでは、AIを活用する際に留意すべき3つの課題について解説します。

AIによるバイアスが生じる可能性がある

AIは学習データに基づいて判断を行いますが、そのデータに偏りがあると、不公平な選考結果を生むリスクがあります。例えば、過去の採用データに特定の性別や学歴の偏りがある場合、AIはその傾向を学習し、結果的に特定の属性を持つ学生を不利に扱ってしまう可能性があります。

また、AIの判断基準はブラックボックス化しやすく、「なぜこの学生が不合格になったのか」を説明しにくいという問題もあります。そのため、AIを活用する際は、データの偏りを防ぐための対策を講じることが不可欠です。

学生の個性やポテンシャルの見極めが難しい

AIは数値化されたデータをもとに評価を行うため、人間の直感や経験で判断するような「個性」や「将来の伸びしろ」を評価するのが難しいという課題があります。

例えば、リーダーシップの資質や創造性といった要素は、履歴書や適性検査の数値だけでは判断しにくいものです。AIの評価基準を厳しくしすぎると、基準に合わない学生を自動的に落としてしまい、結果的に「似たような人材ばかりを採用する」という事態を招くことも考えられます。

特に、新卒採用では学生の成長性や将来的な可能性を重視することが重要ですが、AIは「過去のデータにない新しい才能」や「ユニークな経歴を持つ候補者」を見逃してしまう可能性があります。そのため、AIの評価結果を参考にしつつも、最終的な判断には人間の目を取り入れることが不可欠です。

AIの導入コストや運用負荷がかかる

新卒採用にAIを導入するには、それなりのコストがかかります。AIツールの初期費用に加えて、システムの設定や運用、データの蓄積と分析、担当者のトレーニングなど、導入後の管理コストも発生します。

特に、高度なAIを活用するには大量のデータが必要ですが、導入当初は十分なデータが集まらず、期待した成果がすぐに得られないこともあります。また、AIを適切に運用するには専門的な知識が求められるため、IT人材が不足している企業にとっては大きな課題となるでしょう。

さらに、学生の視点から見ると、「AIによる選考は冷たい」「ちゃんと人間が判断してくれているのか」といった不安を感じることもあります。このような心理的な抵抗をどう解消するかも、AIを導入する際の重要なポイントになります。

新卒採用にAIを活用した企業事例

AIを新卒採用に導入し、効果を上げている企業も増えてきました。ここでは国内外の企業事例を紹介します。

横浜銀行の事例

横浜銀行では、2019年度の新卒採用からFRONTEO社の人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」を導入し、書類選考の一部をAIに任せる取り組みを始めました。このAIは、過去の採用データを学習し、エントリーシートの志望動機や自己PR文を分析してスコア化します。その結果、すべての学生を統一基準で評価することが可能になり、書類選考にかかる時間を約70%削減することに成功しました。

さらに、AIが算出する「熱意」や「志望度」のスコアを面接の参考情報として活用することで、面接官がより効果的に学生を理解し、適切な評価を行うことができるようになったと報告されています。

ソフトバンクの事例

ソフトバンクでは、新卒採用のエントリーシート(ES)選考にAIを導入し、業務の効率化を図っています。課題の回答内容をAIがテキスト解析し、一次評価を行います。

しかし、AIの判定だけに頼るのではなく、不合格となった学生のESも最終的には人事担当者が再確認する仕組みを導入しました。これにより、学生が「AIの判断だけで落とされた」と感じることがないよう配慮しています。AI導入の結果、約75%の業務時間を削減することに成功し、浮いた時間を学生とのフォローや新たな採用手法の検討に活用できるようになりました。

阪急阪神百貨店の事例

阪急阪神百貨店では、2018年度の新卒採用から、デジタル面接プラットフォーム「HireVue(ハイアービュー)」を導入しました。スマートフォンやPCを使って録画面接を行い、AIがその動画を分析して評価を行う仕組みです。

この取り組みにより、従来は人事担当者が行っていた一次面接の業務負担を削減することができました。また、遠方に住んでいる学生やスケジュールの都合がつきにくい学生でも、時間や場所にとらわれずに面接を受けることができるようになりました。AI面接の結果は、面接官が最終判断を下す際の参考資料として活用され、選考時間の約30%削減と学生とのコミュニケーションの機会を増やすことに寄与しています。

ユニリーバの事例

グローバル企業のユニリーバは、新卒採用や若手採用において、AIを積極的に活用する先駆的な事例として知られています。

まず、Pymetrics社の適性検査ゲームをオンライン上で実施し、認知能力や価値観を測定。その結果と履歴書データを組み合わせ、AIが合否判定を行います。

次に、デジタル面接として「HireVue(ハイアービュー)」を活用し、録画された面接動画の表情や言葉遣いをAIが分析して評価するプロセスを導入しました。この仕組みにより、年間で約10万時間分の面接時間と100万ドル以上の採用コストを削減することに成功しました。

さらに、AIを活用することで、それまで見落とされがちだった多様な人材の発掘にもつながりました。AI導入後、採用された新人の業績が向上し、離職率も低下するなど、採用の質の向上にも貢献しています。特に、大量の応募者を抱える企業にとって、AIは有効な選考ツールとしての役割を果たしていることがわかります。

新卒採用にAIを活用する場合の注意点

AIを新卒採用に導入する際には、メリットを最大限に活かしながら、デメリットの影響を抑えるための工夫が求められます。適切な運用を行うために、特に注意すべきポイントを紹介します。

AIの導入目的を明確化して段階的に検証する

AIを導入する際には、まず「なぜAIを活用するのか」を明確にすることが大切です。例えば、「学生が多すぎて対応しきれない」「採用のミスマッチを減らしたい」といった具体的な課題を整理し、それに合ったAIツールを選ぶことが成功のカギとなります。

また、一度にすべての採用プロセスをAI化するのではなく、まずエントリーシート選考など一部分から試験的に導入し、効果を検証することがおすすめです。その後、選考結果の傾向や現場の意見、学生の反応を分析し、課題があれば改善を加えながら、徐々に適用範囲を広げていくとよいでしょう。

また、AIを実際に運用する人事担当者や面接官に対して、AIの仕組みや評価方法についての研修を実施することも重要です。現場の理解が不十分なまま導入すると、AIを信用せず従来の方法に戻ってしまったり、逆にAIの判定を盲信して問題を見落としたりするリスクが生じます。適切な知識を持ち、バランスの取れた運用を行うことで、AIの導入効果を最大限に引き出すことができます。

AIのバイアスを防ぐ

AIは学習データをもとに判断を下しますが、そのデータに偏りがあると、不公平な選考結果を生むリスクがあります。実際、Amazonでは採用AIが男性を優遇し、女性を過小評価するバイアスを持っていたため、プロジェクトが中止されました。このような問題を防ぐためには、AIに学習させるデータを多様化し、公平性を確保する必要があります。

AIの導入時には、性別や出身校などの属性による合否の偏りがないか、精度テストを行うことが重要です。問題が見つかった場合は、アルゴリズムの修正や基準の調整を行うことで、公正な評価を維持できます。さらに、AIの判定がどのような根拠に基づいているのかを説明できるようにすることも大切です。AIを提供するベンダーに対し、モデルの透明性を確保するよう求めたり、定期的な監査を実施したりすることで、選考の信頼性を高めることができます。

AIと人間の判断を組み合わせる

AIは採用業務を効率化し、客観的な判断を行うのに優れていますが、最終的な選考をすべてAIに任せるのはリスクがあります。特に新卒採用では、学生の将来性や人柄など、数値では測りにくい要素が重要になります。そのため、AIの判定結果をあくまで参考情報として活用し、最終判断には人間の視点を取り入れることが必要です。

AIと人間の判断を組み合わせることで、見落としを防ぎ、選考の公平性をより高めることができます。AIの強みである効率性と客観性、人間の強みである洞察力や柔軟性を組み合わせることで、最適な採用プロセスを構築できるでしょう。

学生と適切なコミュニケーションを行う

AIを導入する際には、学生に対しても適切な情報提供と配慮が必要です。選考のどの段階でAIを活用しているのかを明確にし、学生が不安を感じないようにすることが大切です。例えば、「AI技術を一部活用しています」といった説明を事前に行い、公平性や効率化を目的とした活用であることを伝えると良いでしょう。

また、選考結果を通知する際も、AIが自動で送る定型文のみでは冷たく感じられることがあります。そのため、結果通知の際には、人間らしい温かみのある文章を加えたり、フィードバックを提供したりすることで、学生の不安を和らげる工夫が求められます。

AI面接を実施する場合には、学生が安心して本来の力を発揮できるよう、事前に練習用の画面を提供するなどのサポートが効果的です。「AI=冷たい」ではなく、「AIを活用することで、より良い採用環境を整えている企業」と前向きに受け取ってもらえるよう、戦略的なコミュニケーションを行うことが重要です。

新卒採用にAIを上手く活用しましょう

AIを活用した新卒採用は、業務の効率化や公平な選考を実現する有力な手段です。実際に多くの企業が導入し、採用活動の精度向上やコスト削減に成功しています。しかし、AIの判断に頼りすぎるとバイアスや個性の見落としといった問題が生じる可能性があります。そのため、AIの導入には慎重な検討が必要です。人間の判断と組み合わせながら、適切に運用することで、より良い採用プロセスを構築できるでしょう。


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