• 更新日 : 2022年8月30日

給与規程とは?作成時の規則と手順について解説

給与規程とは?作成時の規則と手順について解説

労働者が事業主と労働契約を締結する際、最も重視する労働条件のひとつに賃金があります。その事業所で根拠となるのが給与規程(賃金規程)ですが、そもそも作成は法的に義務づけられているのでしょうか。また、どのようなことを記載するのでしょうか。

今回は、賃金についての労働基準法上のルール等も含め、給与規程について知っておくべきポイントについて解説していきます。

給与規程(賃金規程)とは?

一般的にいう「給与」は、労働基準法では「賃金」という文言になります(法11条)。給与規程と呼ばれているものも、正確には「賃金規程」ということになりますが、この記事では一般的に使われている「給与規程」で表記していきます。

また、「規定」という言葉が使われることがありますが、これは個々の条文を意味しますので、規則の全体を指す言葉としては「規程」が適切ということになります。

実は、給与規程といわれているものは、法的には、労働基準法で定める「就業規則」のうち、従業員の賃金に関する定めを別規程としたものです。

規程する条文が多くなった場合などに本体から切り離して作成することがありますが、就業規則の一部であることに違いはありません。

では「就業規則」は何か、というと、これは労働基準法に定義は定められていないものの、「労働者の就業上順守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称」ということになるでしょう。

労働基準法では、パート、アルバイトも含め、常時 10 人以上の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています(法89条)。

参考:労働基準法|e-GOV法令検索

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給与規程への記載事項

給与規程に何を記載するのかについては、就業規則の一部である以上、労働基準法の定めに従う必要があります。

就業規則の記載事項は、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」「任意記載事項」の3つに分けることができます。

「絶対的必要記載事項」は必ず記載しなければならない事項であり、「相対的必要記載事項」はその事業所で定めをする場合には記載しなければならない事項です。定めなければ記載する必要はありません。

また「任意記載事項」は、経営理念など、記載するしないは使用者の自由に任されている事項です。

給与関係では、次の事項が絶対的必要記載事項となります。

  • 賃金の決定方法
  • 計算及び支払いの方法
  • 賃金の締切り、支払いの時期
  • 昇給

「賃金の決定方法」については、賃金の構成(基本給・諸手当等)を規程しておくことが大切です。
賃金の構成
引用:モデル就業規則|厚生労働省

相対的記載事項としては、次の事項が該当するでしょう。

  • 退職手当(退職金)の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法
  • 臨時の賃金(賞与)

基本給

基本給は、給与規程では最も重要な部分といえます。前述の絶対的必要記載事項のひとつである「賃金の決定方法」では、基本給について賃金決定の要素(職務内容、技能、年齢、職務・職位等)について規程しておくことが必要です。

基本給のタイプには次の3つがあります。

  • 「総合給方式」
    仕事の内容や、職務遂行能力、年齢、勤続年数等を総合的に評価して決定するもの。
  • 「単一給方式」
    職務内容、職務遂行能力、役割、年齢等の中でいずれかひとつの要素を基準として決定するもの。
  • 「併存給方式」
    職務内容、職務遂行能力、役割、年齢等の中でふたつ以上の要素を基準として決定するもの。

次に示しているのは、総合給方式の例です。

(基本給)
第32条 基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。
引用:モデル就業規則|厚生労働省

各種手当

手当には、家族手当、通勤手当、役付手当、技能・資格手当、精勤手当など、事業所によってさまざまです。

家族手当は、生活補助を目的とする手当のひとつであり、一般的に通勤手当に次いで多くの事業場で支給されています。

(家族手当)第31条
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
① 配偶者 月額 _____円
➁ 18歳未満の子 1人につき 月額_____円
③ 65歳以上の父母 1人につき 月額_____円
引用:モデル就業規則|厚生労働省

通勤手当は、支給する事業場が最も多い手当ですが、他の手当と同様、法律で支給が義務づけられているわけではありません。しかし、給与規程(就業規則)に記載することで支払い義務が生じます。

(通勤手当)第32条
通勤手当は、月額_____円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。
引用:モデル就業規則|厚生労働省

役付手当は、管理・監督の職にある従業員に支給されるものであり、役職手当、管理職手当とも称されています。

(役付手当)第33条
約付け手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長 月額_____円
課長 月額_____円
係長 月額_____円
2 昇格によるときは、発令日の属する賃金額から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。
3 降格によるときは、発令日の属する賃金額の次の賃金月から支給する。
引用:モデル就業規則|厚生労働省

技能・資格手当は、技能手当、資格手当としている事業場も少なくありません。事業場が必要とする一定の技能や資格を保有する従業員に対して支給します。

(技能・資格手当)第34条
技能・資格手当は、次の資格を持ち、その職務に就く者に対し支給する。
安全衛生管理者(安全衛生推進者を含む。) 月額_____円
食品衛生責任者 月額_____円
調理師 月額_____円
栄養士 月額_____円
引用:モデル就業規則|厚生労働省

精勤手当は、皆勤手当とも呼ばれています。出勤の奨励を目的とするものであり、支給要件は、皆勤だけでなく、一定日数の欠勤までは許容する事業場もあります。

(精勤手当)第35条
精勤手当は、当該賃金計算期間における出勤成績により、次のとおり支給する。
① 無欠勤の場合 月額_____円
➁ 欠勤1日以内の場合 月額_____円
2 前項の精勤手当の計算においては、次のいずれかに該当するときは出勤したものとみなす。
① 年次有給休暇を取得したとき
➁ 業務上の負傷又は疾病により療養のため休業したとき
3 第1項の精勤手当の計算に当たっては、遅刻又は早退_____回をもって、欠勤1日とみなす。
引用:モデル就業規則|厚生労働省

以上の諸手当のほか、住宅手当、職務手当、単身赴任手当、営業手当などを設けることも考えられます。

割増賃金

割増賃金については、労働基準法において支払い義務が定められています。

時間外、深夜(原則として午後10時~午前 5時)に労働させた場合には2割5分以上の時間外労働割増賃金、深夜労働割増賃金が発生し、法定休日に労働させた場合には3割5分以上の休日労働割増賃金が発生します。

時間外労働が1カ月について60時間を超えた場合には、超えた時間について5割以上の割増賃金を支払う必要があります(中小企業は令和5年3月31日までの間、適用が猶予されます)。

(割増賃金)第36条
時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、事項の計算方法により支給する
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎日_____日を起算日とする。
① 時間外労働45時間以下・・・25%
➁ 時間外労働45時間超~60時間以下・・・35%
③ 時間外労働60時間超・・・・・50%
④ ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。この場合の1年は毎年_____月_____日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)いずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
引用:モデル就業規則|厚生労働省

なお、割増手当の1時間当たりの単価を算定する基礎となる賃金は基本給だけではなく、次の7種類以外の諸手当はすべて含まれます。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 賞与など1月を超える期間ごとに支払われる賃金

引用:モデル就業規則|厚生労働省

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労働基準法に関するルール

ここまで給与規程の記載事項について説明してきましたが、あわせて知っておくべきことに、労働基準法上の賃金に関するルールがあります。

労働基準法では、「第3章 賃金」が設けられており、ここには「賃金支払い5原則」(法24条、法25条)、「最低賃金」(法28条)、「出来高払制の保障給」(法27条)などが規程されています。それぞれのルールについて解説していきましょう。

賃金支払い5原則

賃金支払い5原則とは、次の5つの原則です。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

1.「通貨払いの原則」は、賃金は日本で強制通用力のある通貨(貨幣、紙幣)で支払わなければならないとするものです。

2.「直接払いの原則」では、賃金は直接労働者に支払わなければならないとしており、代理人に支払うことはできません。

3.「全額払いの原則」は、賃金は全額を支払わなければならないとするものですが、例外として、所得税や社会保険料など、法令で定められている場合や、社員食堂の料金など、労使協定が締結されている場合は控除することができます。

4.「毎月1回以上払いの原則」では、賃金は、毎月1回以上支払わなければならないとしています。ここでいう毎月とは歴月(1日~月末)のことです。

5.「一定期日払いの原則」は、賃金は一定の期日を定めて支払わなければならないというものです。月給制における「月の末日」は認められますが、「毎月第3金曜日」とするのは、月ごとに実際の支払日が変動するため、労働基準法違反となるので注意しましょう。

最低賃金

労働基準法は、第28条に「最低賃金」を設けていますが、「最低賃金法の定めるところによる」としており、労働者には最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。

地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用されるものであり、各都道府県ごとに47件の最低賃金が定められています。

改定の発表は例年7月末頃に行われ、10月1日から発効されます。

特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金です。

出来高払の保障給

出来高払制を導入する場合には、「労働時間に応じ一定額の賃金を保障」することが義務づけられています。

労働者が働いたにもかかわらず、原料不足や機械の故障など、本人の責任以外の理由で仕事の量が減少し、結果的に賃金が大きく下がることを防ぐのが目的です。

保障給の額については、法的な定めはありませんが、労働基準法における平均賃金の6割程度が目安とされています。

平均賃金とは、直近3カ月間にその労働者に支払われた賃金総額を、その間の総日数で除した1日当たりの賃金額です。

参考:労働基準法|e-GOV法令検索

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給与規程に関する注意点

給与規程については、ここまで説明してきたこと以外にも注意すべきことがあります。例えば、変更するときにはどうするのか、給与を引き下げるような変更もできるのか、また従業員から閲覧したいといわれたときはどうするかについても、知っておく必要があります。

給与規程を変更する場合

賃金制度を改定したような場合、給与規程を変更することが必要となります。就業規則の一部である以上、常時使用労働者数が10人以上であれば、労働基準法で定められた手続きによって変更しなければなりません。

手続きは、後述する作成時と同様です。

問題となってくるのは、就業規則によって、現行の賃金などの労働条件を従業員にとって不利益に変更する場合で、基本手当の額を引き下げるようなケースが考えられます。

結論からいえば、原則として、各従業員からの個別の同意を得ていない就業規則の変更手続きでは、労働条件を不利益に変更することはできません(労働契約法9条)。一人ひとりの従業員が、不利益変更を承諾する旨の同意書を提出していることが不可欠となります。

ただし、変更の内容が合理的な場合であり、変更後の就業規則を周知させたことに加え、変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況、そのほかの就業規則の変更にかかわる事情に照らして合理的なものであるときに限って、従業員個別の同意がなくても不利益変更はできるとしています(労働契約法10条)。

給与規程の開示を従業員から求められた場合

労働基準法では、就業規則の作成・変更をする場合、労働基準監督署への届出だけでなく、労働者への周知を義務づけています。

具体的には、「職場に備えつける」などとあり、開示を求められるまでもなく、労働者がいつでも見られるようにしておかなければならないということです。

最近では、パソコンなどでデジタル化して記録し、従業員がいつでもアクセスして閲覧できるようにする方法もみられるようになりました。

周知義務は就業規則の効力要件でもありますので、措置がなされていないと就業規則は無効となり、効力は発生しません。変更した場合も同じです。

ルールに違反した場合

給与規程で定めた基準よりも低い賃金を支払う労働契約を労働者と締結した場合、どうなるのでしょうか。

労働基準法では、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分を無効とし、その部分は就業規則で定める基準による、としています(法93条)。

つまり、差額について支払い義務があるということです。賃金の請求権の時効は5年とされています。

割増賃金については、労働基準法上、支払い義務があり、支払いを怠った場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課されることになります。

参考:労働基準法|e-GOV法令検索

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給与規程の作成方法

労働基準法では、作成・変更とも従業員代表者への意見聴取が義務づけられており、労働基準監督署に届出る際にも給与規程にその意見を記した意見書を添付することになります。

しかしながら、意見書で給与規程に全面的に反対するものや、特定部分に関して反対するものであっても、就業規則として労働基準法を順守していれば、効力には影響がありません。

給与規程のテンプレート(ワード)

以下のリンクから、給与規程のテンプレートを無料でダウンロードできます。
実務でも活用できるような形式になっておりますので、業務に合わせて適宜変更し、活用してみてください。

▶ 給与規程のテンプレートをダウンロードする(ダウンロード用のフォーム入力画面に遷移します)

給与規程にかかわるルールを改めて確認しておこう

就業規則の一部である給与規程について、労働基準法などを踏まえ、知っておくべきポイントを解説してきました。何をどう記載すべきなのか、変更する場合はどうするのか、ご理解いただけたのではないでしょうか。

適法な手続きを踏んでいない場合は、効力が発生しないことにもなりかねません。十分に理解したうえで作成・変更することが重要です

よくある質問

給与規程とはどのようなものですか?

労働基準法で定める「就業規則」のうち、従業員の賃金に関する定めを別規程としたものです。詳しくはこちらをご覧ください。

給与規程を変更するにはどのような手続きが必要ですか?

労働基準法で定める所定の手続きが必要になります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

執筆:坪 義生(社会保険労務士)

じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)、労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長、清和大学法学部非常勤講師、「月刊人事マネジメント」(㈱ビジネスパブリッシング)取材記者。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、㈱矢野経済研究所、等を経て、91年、じんじ労務経営研究所を開設。同年より、企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。

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