• 更新日 : 2023年9月29日

昇給とは?種類や基準、昇給率を用いた計算方法を紹介!

昇給とは?種類や基準、昇給率を用いた計算方法を紹介!

昇給とは、年齢、勤続年数、評価や成績に応じて給与が上がることをいいます。

日本の会社で利用されている昇給制度は、定期昇給とベースアップです。では、それぞれの制度の説明と違いについてご存知でしょうか。

ここでは、昇給制度の種類や昇給制度の仕組み、設定方法、従業員の昇給の際に人事労務担当者が行う手続きなどを解説します。

昇給とは?基本的な2種類

従業員の年齢や能力を基準にして「基本給」の金額が上がることを「昇給」といいます。

昇給というと「定期昇給」「ベースアップ」の2種類のことを指すのが一般的です。定期昇給、ベースアップ、それぞれの意味について見ていきましょう。

定期昇給の意味

昇給は、勤続年数や年齢などによって基本給の金額が上がることですが、時期を決めて昇給を行うことを「定期昇給」といいます。

昇給するタイミングは会社によってルールが違います。毎年一定の時期、あるいは、昇格の時期に合わせて昇給することが多いため、詳細は自分の会社の給与規程を確認してください。

定期昇給は、会社の昇給ルールに則って進めますので、将来にわたる固定費をある程度計算できます。その反面、会社の業績に関係なく、昇給のルールによって自動的に給与が上がっていくことが多いため、昇給が従業員のモチベーションになりにくいことに注意が必要です。

ベースアップの意味

ベースアップは、従業員の給与水準を一斉に底上げするように引き上げることをいいます。たとえば、「基本給を一律3%上げる」というような方法です。

ベースアップは、従業員の成績や評価の内容に関わらず一律に引き上げますので、固定費などの計算を簡単に行うことができます。その反面、固定費が大きく増加することになりますので、会社にとっては負担になる可能性があります。

定期昇給とベースアップの違い

定期昇給は、年齢や勤続年数、仕事の成績に応じて、従業員ごとに昇給する制度です。それに対して、ベースアップは、会社で規定している賃金表自体を書き換える仕組みですので、従業員全員の賃金水準が一律に上がる制度になります。

つまり、定期昇給は「従業員に対応する賃上げ」、ベースアップは「会社に対応する賃上げ」という点で違いがあるのです。

また、ベースアップは、給与水準を一定程度底上げすることですが、定期昇給は年に1回もしくは2回など、会社の賃金規程で決められたタイミングで昇給する点も違います。

上記以外の昇給制度

ここまで、定期昇給、ベースアップについて見てきましたが、昇給制度にはその他の昇給制度もあります。それらについて見ていきましょう。

臨時昇給

臨時昇給は、会社の業績が良かったときなどに臨時で行う昇給のことをいいます。昇給時期をいつにするかを特に定めていない昇給制度です。一部の従業員に対して行う場合、あるいは、会社の業績による場合には、特別昇給になります。また、全従業員の給与を一律昇給させる場合には、ベースアップになります。

自動昇給

自動昇給は、勤続年数や年齢を基準にして自動的に昇給する制度です。会社の業績や従業員の能力や成績に関係なく、すべての従業員が会社の規定に則って自動的に昇給します。

考課昇給

考課昇給は、従業員の勤務態度や成績に対する評価を元にして昇給する制度です。評価を定期的に行ったうえで、定期昇給と同時に行われることもあります。昇給額や昇給率などは会社や職務内容によって異なる場合もあり、世間相場などの要因によっても見直される場合もあります。

普通昇給

普通昇給は、業務成績や職務遂行能力が会社で規定する昇給要件を満たしたことで適用される昇給です。特別昇給との区別のために用いられることが多いです。

特別昇給

特別昇給は、会社への特別な貢献、功労や格段の実績をもたらした場合に特別に行われる昇給です。能力や成績が特別良好であった場合、特別な職務への従事の場合などに、通常以上の昇給で処遇されるような規定を設けるような場合も特別昇給といえます。

昇給制度の仕組み - ルールはある?

昇給制度に関しては、法律上のルールは特にないため、会社ごとにルールを定める必要があります。ここでは、昇給させる元となる基準や昇給時期、年齢制限の有無などについて見ていきます。

昇給の元となる基準 - 基本給が対象?

「昇給」は、従業員の年齢や能力を基準に基本給を上げることです。よって、基本的には昇給の元になるのは「基本給」が対象になります。

手当による昇給は可能?

昇給には、法律上の決まりはありませんが、通常は「基本給」が上がることが昇給になります。手当を支給することによる給与の増額は、厳密には「昇給」とはみなされません。昇給を手当によって行うことはできないのです。

昇給はいつ行われる?

昇給の時期は、一般的には年1回(毎年4月)や年2回(毎年4月と10月)としている会社が多いです。時期に関しても法律上の決まりはありません。会社によっては、労務管理がしやすくなるという点や人件費の計算がわかりやすいという点から、会社の会計年度の開始月にしているところもあります。

上記は、定期昇給の時期についてですが、会社の業績が良かったときや通常と異なる時期に昇進があったときなどは、臨時に昇給させる場合があります。逆に、会社の業績が悪い場合には、定期昇給を行わない場合もあります。

昇給は何歳までが対象?上限はある?

定期昇給は時期を決めて定期的に昇給を行うことではありますが、一定の年齢までで昇給をストップさせる会社は多くあります。

公益財団法人日本生産性本部が2014年に行っている調査によると、定年まで定期昇給がある会社は17.6%、一定年齢まで定期昇給がある会社は50.0%となっています。

また、「一定年齢までは定期昇給がある」と回答した会社の定期昇給停止年齢の平均は、48.9歳でした。定期昇給が停止になる会社の最も多い年齢層は51〜55歳の30.1%、次が46〜50歳の26.5%、36〜40歳の14.5%の順になっています。

定期昇給

引用:第14回 日本的雇用・人事の変容に関する調査|公益財団法人日本生産性本部

定期昇給年齢に法律上の上限があるわけではありませんので、会社によって差があるようです。

昇給金額の割合 - 上がり下がりに上限・下限はある?

昇給金額の上限・下限については、法律上で定められている内容ではなく、会社ごとの規定でどのように定めているかによります。一般的には会社ごとの賃金表があり、等級・職級ごとに上限金額と下限金額が決まっています。

上限金額については、昇格しないでその等級・職級にずっととどまっていた場合には、上限金額以上の昇給はありません。また、上位の等級・職級に昇格した際に、下限金額に到達していない場合には、そこまで引き上げられることになります。この賃金表や等級・職級の規定がない会社については、昇給金額の上限・下限の決めごとがないことになります。

勤続年数によって昇給率は変わる?

昇給率の求め方は、一般的には次のように計算します。

昇給率(%)=昇給後の給与÷昇給前の給与×100-100(%)

(例)254,000円(昇給後の給与)÷250,000円(昇給前の給与)×100-100%=1.6%

上記の計算から、昇給後の給与は昇給前の給与より1.6%上がったことがわかります。昇給率は、いくら給料が昇給したかによって変わることが理解できるでしょう。

この昇給額が勤続年数によって決まっている場合には、勤続年数ごとに昇給率を設定することになります。ただし、昇給額は通常、年齢や勤続年数、各従業員の成績によって違いますので、勤続年数だけで昇給率が変わると誤解しないように気をつけてください。

昇給率の設定方法

昇給率は、業種や会社ごとの業績の推移によって率の決定に影響を与えます。厚生労働省が発表した「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、1人平均賃金の改定額は 5,534円、改定率は 1.9%になっています。

昇給率 改定率

引用:令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況|厚生労働省

この表には業種別の改定額及び改定率も掲載されていますので参考にしてください。

一般的に昇給率は、昇給後の給与が昇給前の給与と比較してどのくらい上がったかを示す割合です。昇給率の計算方法は特に定義があるわけではありません。

たとえば、まず、昇給前の全従業員の給与を合計します。次に、会社の業績などから検討して昇給額、ベースアップ額としてどのくらいまで払うことが妥当なのかを決定し、金額を算出します。

算出した金額が昇給後の給与総額になりますので、会社全体での平均昇給率は、昇給後の給与÷昇給前の給与で計算できます。算出した金額を年齢や勤続年数、等級・職級、成績のランクにより振り分けて決める場合には、賃金表を作成するとわかりやすいでしょう。

昇給金額の計算について - 具体的な方法

昇給金額については、昇給率が決まっている場合には、昇給前の給与×昇給率で求めることができます。

(例)

昇給前の給与が250,000円、昇給率が1.6%の場合、

昇給金額=250,000円×1.6%=4,000円となります。

昇給額が決まっている場合には、その金額が昇給金額になります。

昇給の平均金額

昇給の平均金額ですが、経団連(日本経済団体連合会)が実施した中小企業ならびに大手企業の調査結果によれば、以下のとおりでした。

中小企業

(集計対象:従業員500人未満の17業種367社、組合員数による加重平均)

2023年の中小企業の総平均妥結額は、8,012円(アップ率 3.00%)でした。昨年は、5,036円(アップ率 1.92%)でしたので、大幅な増額になっています。 もう少し、企業規模を細かく見ていきますと、下記のようになります。

規 模 別会社数妥結額(アップ率)
100人未満120社7,582円(3.01%)
100人以上300人未満168社7,576円(2.88%)
300人以上500人未満79社8,535円(3.11%)

大手企業

(集計対象:従業員500人以上の16業種136社、組合員数による加重平均)
2023年の大手企業の総平均妥結額は、1万3,362円(アップ率 3.99%)でした。昨年は、7,562円(アップ率 2.27%)でしたので、中小企業同様、大幅な増額になっています。

業種別に見ていきますと、下記のようになります。

業 種 別会社数妥結額(アップ率)
製造業平均125社1万3121円(3.99%)
非製造業平均11社1万4579円(3.96%)

参考:2023年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(最終集計)No.3603 | 週刊 経団連タイムス|一般社団法人 日本経済団体連合会
2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)No.3602 | 週刊 経団連タイムス|一般社団法人 日本経済団体連合会

人事労務担当者が従業員の昇給において行う手続き

従業員に昇給があり給与額が大きく変動した場合には、社会保険料の改定が必要になる場合があります。この際に必要な手続きを「随時改定」といいます。

社会保険料を計算するためには、元になる標準報酬月額が必要です。標準報酬月額は、被保険者の報酬を元に計算されます。標準報酬月額の変更を届け出る(随時改定を行う)必要があるかどうかは下記の条件をすべて満たしているかどうかで判断します。

(1)昇給によって固定的賃金(※1)が変動している。

(2)変動が始まった月から3カ月間に支給された残業手当等の非固定的賃金を含む報酬の平均月額にあてはめた標準報酬月額と今までの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じている。

(3)3カ月とも賃金支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上)である。

上記(1)~(3)のすべての条件を満たしていた場合、昇給後の報酬を初めて受けた月から4カ月目(例:5月に支払われた給与に変動があった場合、8月)から標準報酬月額から改定され、新しい標準報酬月額に対応した社会保険料を給与控除します。

(※1)固定的賃金とは、支給額・支給率が決まっているものをいいます。

<例>

基本給(月給、週給、日給、時給)、役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当、勤務地手当 等

自社の昇給制度を正しく理解しましょう

昇給の代表的な制度には、「定期昇給」と「ベースアップ」がありますが、他にも種類があります。昇給制度は会社によって違い、昇給条件や昇給額も会社ごとに異なっています。

会社の昇給制度がどうなっているかは、就業規則を確認すると規定されていますので、まずは自社の昇給制度を確認してみましょう。昇給率や昇給額の内容を確認して、自分がどのような処遇の会社で働いているのかを把握しておき、従業員から問合せがあったときに説明できるようにしておきましょう。


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