- 更新日 : 2024年11月1日
残業規制で働き方はどう変わる?ルールや給料減少への企業の取り組み
残業時間が社会問題となる中、2019年4月から残業の上限規制がスタートしました。働き方改革の一環として、従業員の健康確保と生産性向上を実現したい企業にとって、残業管理は重要な取り組みの一つです。本記事では、残業規制の具体的な内容や企業に求められる対応策、従業員に与える影響に加え、企業の取り組み事例も紹介していきます。
目次
残業の上限規制とは?
残業の上限規制は、働き方改革の一環として導入された制度です。この制度では、「年間720時間」「月45時間」などという形で労働時間を制限することで従業員の過労を防ぎ、健康的な働き方を促進することを目的としています。企業は36協定の見直しなどの対応が求められると同時に、業務の効率化や人員配置の見直しなど働き方改革を推進する必要があります。ここからは、残業の上限規制の概要を解説していきます。
なお、一般的に「残業」といわれていますが、残業の上限規制では、正確には労働基準法で定める法定労働時間(1日8時間・1週40時間という上限)を超える法定外の「時間外労働」を意味します。一方、各企業が就業規則で定める労働時間を所定労働時間と称します。中には1日7時間など、法定労働時間を下回るケースもあります。この場合、7時間を超える労働時間も一般的に残業と呼んでいますが、1時間であれば、あくまでも法定内であり、今回の上限規制の対象とはなりません。本稿では、「残業」という言葉を使用していますが、この点をご理解いただきお読みいただければ幸いです。
残業は年720時間以内
原則として、年間の時間外労働が720時間を超えてはいけません。これは、従業員の健康を守るために労働基準法第36条にて定められています。ただし、基本的に企業には特別な事情がない限り「年間360時間」という上限を守ることが求められており、後ほど解説しますが、それ以上の時間外労働に関しては36協定の締結・提出が必要となります。そのため企業は、日頃から残業時間を正確に把握し、可能な限り「年360時間・月45時間」を超えないように管理することが大切です。
月の残業と休日労働の合計が100時間未満
月の時間外労働と休日労働を合算したとき、時間外労働と休日労働を合算した労働時間が100時間を超えることは、先述の労働基準法第36条にて原則禁止されています。これは残業と休日労働のバランスを考慮することで、過度な労働を防ぐ目的で設定されています。36協定を締結・提出することで本ルールが適用となりますが、企業は、繁忙期などの残業が増えがちな時期を把握したうえで対応策を講じる必要があります。
月の残業が45時間を超えるのは年6回まで
月の時間外労働が45時間を超える場合は、年に6回までと制限されています。繁忙期など、一時的に残業が増えることは避けられませんが、残業が常態化しないためにこのような回数制限を設けています。ただし先述の通り、「月45時間以内」が基本原則であるため、36協定を締結・提出しなければ、本ルールも適用とはなりません。近年では、フレックスタイム制度やテレワークを活用することで、残業削減を図る企業も見られます。
2カ月から6カ月の平均残業時間が80時間以内
- 2024年11月~12月の2カ月間の平均時間が80時間以下
- 2024年10月~12月の3カ月間の平均時間が80時間以下
- 2024年9月~12月の4カ月間の平均時間が80時間以下
- 2024年8月~12月の5カ月間の平均時間が80時間以下
- 2024年7月~12月の6カ月間の平均時間が80時間以下
残業の上限規制を行う目的や背景
長時間労働は、従業員の心身に大きな負担をかけ、過労死や過労自死といった深刻な問題につながる可能性があります。また、生産性の低下やイノベーションの阻害にもつながることが指摘されていることから、労働時間を法律で規制し、従業員の心身の健康増進を図るため、本規制が設けられました。残業の上限規制設定により長時間労働が是正され、ワークライフバランスの実現や労働生産性の向上、多様な働き方の促進などの効果を生むことが期待されています。
【2024年4月から】残業規制が適用される業種や業務
働き方改革の一環として、2019年4月から企業の規模や職種により、段階的に時間外労働の上限規制が適用されてきました。これまで5年間の移行猶予期間を設けられていた下記4職種・業種に関しても、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用となり、すべての企業規模・職種において、時間外労働の上限規制の適用が完了しています。
- 建設業
- 自動車運転の業務
- 医師
- 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
上記4職種・業種における時間外労働の上限規制に関しては、本記事で解説していく内容の他に労働環境や業務特性などを考慮した限定的なルールが設けられているため、該当する従事者の勤怠管理を行う場合は、別途確認してください。
参考:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
残業規制の違反となるケースや罰則
残業規制に違反すると、企業だけでなく経営者個人も罰則の対象となります。違反が発覚した場合、労働基準監督署からの是正勧告に速やかに従わなければならず、是正がされない場合は、「6カ月以上の懲役または30万円以下の罰金」という刑罰を受ける可能性があります。過去には大企業が書類送検され、数億円の支払いを命じられたケースもあります。ここからは、代表的な4つの違反事例について解説していきます。
36協定を締結せずに残業をさせている
これまでも何度か触れてきた「36協定」は、企業と労働者の間で残業時間の上限などの労働条件について定めた協定です。36協定は、時間外労働の管理においては特に重要な役割を果たしており、36協定を締結せずに、法定労働時間(1日8時間・1週40時間以内)を超えて従業員を働かせている場合、労働基準法違反となります。労働基準監督署を通じて罰則が科されるだけでなく、従業員からの訴訟に発展するケースもあるため、企業にとっては大きな信頼損失につながる恐れがあります。
36協定を締結しているからと無制限に残業をさせている
36協定を締結していても、無制限に残業をさせることはできません。36協定を締結している場合であっても、時間外労働は年間720時間を上限とされているため、協定を締結したからといって無制限に残業をさせていると違法行為とみなされることになります。また、36協定の内容についても、不合理な処遇や劣悪な労働条件と判断された場合も、罰則の対象となる可能性があります。
アルバイトや・パートに対して超過残業や割増賃金未払いが発生している
アルバイトやパート労働者も、労働基準法の保護対象です。超過残業や割増賃金の未払いといった行為は、労働基準法違反となり、企業と労働者間で発生するトラブルにおいても散見されるケースです。時間外労働の上限規制は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象であり、36協定に関しても同様です。そのため、アルバイトやパート労働者であっても、1日8時間・月40時間の法定労働時間を超えて働く場合は、時間外労働の上限を遵守し、超過労働に対しては定められた割増賃金が支払われなければ違法となります。
フレックスタイム制での残業に対する適正賃金が支払われていない
フレックスタイム制を採用している場合でも、残業時間に対しては、通常の労働時間と同様に割増賃金を支払う必要があります。日々の労働時間が変動するフレックスタイム制は、「これ以上働いたら残業」という意識が、当事者も管理者も薄れてしまいがちなため、時間外労働分の適正賃金が支払われないケースが生じることがあります。フレックスタイム制では、1~3カ月の清算期間内に調整をして上限規制に違反しないようにするため、勤怠管理や給与計算における通常とは異なるフローに注意しなければなりません。
残業が月60時間を超えた場合の割増率は50%以上に
働き方改革関連法により、2023年4月から月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、中小企業も含め50%以上に引き上げられました。これにより企業は、1カ月に60時間を超えて時間外労働をさせた場合、超過部分の労働については、50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。これは、長時間労働による従業員の健康被害を防ぎ、働きやすい環境を整備するための措置であり、場合によっては就業規則の変更も必要となります。
月の残業60時間を超えた場合の計算方法
法定労働時間を超えて働いた時間外労働に対する賃金の割増率は、大・中・小企業すべてにおいて25%に設定され、時間外労働が60時間を超えたところから、大企業は割増率が50%に、中小企業は25%にされていました。しかし2023年4月より、60時間以上の時間外労働に対して、中小企業でも50%の割増賃金が適用となりました。例えば、時給1,000円の従業員の時間外労働時間が62時間の場合、以下のような方法で残業代を算出します。
ただし、代替休暇を付与する場合には、その代替休暇の価値が割増賃金に相当することを証明する必要があります。また、深夜労働や休日労働に対する割増率との併算も考慮する必要があります。
残業届のテンプレート(無料)
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残業規制により働き方はどう変わるか?
残業規制によって、従業員は仕事とプライベートのバランスを取りやすくなり、より質の高い労働を提供できるようになります。企業は、業務の見直しや人員配置の最適化、そして従業員の健康管理の徹底を図りながら、働き方改革を進めることが必要です。
従業員は、時間管理やコミュニケーションを強化し、新しい働き方に積極的に取り組むことが求められます。残業規制は、単なる労働時間の制限ではなく、よりよい働き方を実現するための第一歩です。
残業を削減できない要因と対策
残業を削減できない原因は、企業によってさまざまなものが考えられます。ここからは、残業の削減がなかなか進まない背景にある5つの代表的な要因について解説していきます。
仕事が属人化している
特定の従業員しかできない仕事があると、その従業員が欠席した場合に業務が滞ってしまうため、常態的に残業が発生しやすくなります。属人化を防ぐには、業務マニュアルの作成やOJT・スキルアップ研修の実施により、複数の従業員が同じ業務を行えるようにすることが大切です。誰が担当しても業務品質が変わらない体制を築いておくことで、残業を減らせます。
業務量が多い
業務量が過剰な場合、残業は避けられません。業務量を減らすためには、業務の見直し、効率化、優先順位付けが不可欠です。無駄な作業を省き、自動化できる業務は、RPAツールなどを活用することで、業務効率を上げられます。また、外部委託や人員配置の調整なども、残業の削減に大きく貢献するでしょう。
個人のスキル不足
個人のスキル不足は、業務の遅延やミスにつながり、結果的に残業を増やします。従業員のスキルアップのために、OJTや外部研修の機会を提供し、必要なスキルを習得できるようにサポートすることが重要です。また、eラーニングなど、個々のペースで学習できる環境を整えることも効果的です。
正確な勤怠管理ができていない
勤怠管理が不正確だと、実際の労働時間が把握できず、残業時間の把握も困難になります。正確な勤怠管理を行うためには、勤怠管理システムの導入やタイムカードの管理・運用を徹底することが重要です。また、残業時間の申請や承認プロセスを明確化し、管理体制を強化することも効果が期待できます。
長時間労働をよしとする企業文化
長時間労働をよしとする企業文化は、残業を助長する大きな要因の一つです。企業文化を変えるためには、経営層が率先して働き方改革に取り組み、残業削減を目標に掲げる必要があります。また、従業員への意識改革も重要です。ノー残業デーを設けたり、残業削減に関する目標を設定したりすることで、従業員の意識を変え、残業を減らす風土を醸成できます。
残業規制により給与の減少を補う企業の取り組み
小野薬品工業
2014年から働き方改革に取り組んでいる小野薬品工業は、業務の効率化などの施策を通じて削減された残業時間分の手当相当を福利厚生制度として拡充させることで、従業員と社会へ還元する仕組みを構築しています。病児保育や資格取得などに対する補助制度を設けるとともに、「ONO SWITCH プロジェクト」と題した活動を通じて、途上国や難病を抱える子供たちへの医療支援も行っています。
参考:小野薬品工業株式会社「働き方改革による削減時間外手当を従業員および社会に還元する 取り組み開始のお知らせ」
はるやまホールディングス
はるやまホールディングスは2017年4月より、残業をしない従業員を評価する制度「No 残業手当」を導入しています。この制度は、月間残業時間0時間を達成した従業員を対象に、月額15,000円を一律支給するもので、同社はこの制度により、「残業をしない従業員が得をする」という意識を浸透させ、従業員の健康増進と元気に働ける環境整備を進めることを目指しています。
参考:株式会社はるやまホールディングス「No 残業手当」導入スタート
アルプス電気
アルプス電気は、生産性改善などの取り組みにより削減された残業時間相当のコストを従業員に還元する制度を導入し、2018年度夏期賞与への平均4%上乗せを達成しました。削減した残業代は賞与の上乗せとして還元される他、働き方改革への投資や会社の将来のための投資に宛てられ、AIを積極的に業務へ取り入れるなどの取り組みを今も継続しています。同社の取り組みは、残業時間削減と従業員の生活安定化・モチベーション向上を両立させる試みとして優れたケースといえるでしょう。
参考:日本経済新聞「減らした残業代を賞与還元、働き方改革で アルプス電気 」
三菱地所プロパティマネジメント
三菱地所プロパティマネジメントは、2016年から着手した働き方改革によって、2017年には約1億8,000万円の残業代削減を達成(2015年度対比)し、この差額を全額、翌年の賞与などとして従業員に還元しました。同社も先述のはるやま同様、残業代が減ることによって生じる従業員のモチベーション低下を抑え、残業時間削減などの働き方改革に積極的に取り組むことでインセンティブが生じるという意識を浸透させている点が特徴的です。
参考:日経新聞「残業 3割減、削った経費は給料で還元 三菱地所子会社」
コープデリバリー
「おうちCO-OP」の商品仕分けを請け負うコープデリバリーは、働き方改革の一環として残業ゼロを目指し、さまざまな取り組みを行っています。「残業ゼロ」を目的とするのではなく、人員不足により業務が増大し、従業員への負担が増しているという課題の解決を目的とし、徹底した業務の効率化・省力化を図りました。その結果、取り組みを開始した2017年度には、従業員一人当たりの平均残業時間は前年比で約10時間削減され、減った残業代を原資として平均17万5,000円が従業員へと還元されています。翌年からはベースアップや賞与での還元を実行しており、同社はこれらの取り組みを通じ、従業員の満足度向上はもちろん、顧客へのサービス品質向上も達成しています。
参考:公益財団法人日本生産性本部「第1回:残業削減の目的は働き方改革~コープデリバリー~(2018年7月25日号)」
従業員の「働きがい」と「生きがい」の両立を目的とした残業管理をしよう
残業規制による働き方改革は、従業員の健康維持やワークライフバランスの向上だけでなく、企業の持続的な成長にも不可欠です。業務効率化や生産性向上も重要ですが、従業員のモチベーション向上を同時に図ることで、企業にとっては長期的に、より大きな成果を期待できます。企業は、時間外労働の上限規制を遵守し、従業員の健康増進や仕事への満足度向上につなげていくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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