- 更新日 : 2024年11月1日
残業の強制は違法?適法になる要件や拒否できる理由を解説
企業で働く場合には、所定労働時間が定められています。しかし、トラブルへの対応などの理由から、所定労働時間で業務が終わらないこともあるでしょう。そのような場合は、残業による業務処理が必要です。当記事では、残業における強制の可否や、拒否できる場合などについて解説します。
目次
残業とは
残業とは、あらかじめ定められた労働時間を超えて労働を行うことを指します。残業には、「法定内残業」と「法定外残業」の2種類が存在するため、それぞれ解説を行います。
法定内残業
法定内残業とは、雇用契約書や就業規則において定められた所定労働時間を超え、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)以内に収まる労働を指します。
たとえば、所定労働時間7時間の従業員が1時間の残業を行った場合を想定してみましょう。この場合には、所定労働時間を超えていますが、法定労働時間の8時間は超えていません。そのため、このような残業は法定内残業となります。
法定内残業の場合には、残業手当等の割増賃金の支払いは不要であり、所定労働時間を超過した時間に対して、通常の賃金を支払えば足ります。
法定外残業
法定外残業とは、法定労働時間を超えた残業を指します。残業によって、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた場合が該当します。
所定労働時間が8時間で1時間の残業を行った場合は、合計9時間の労働時間となり、法定労働時間の8時間を超えてしまいます。このような場合には、法定外残業として、割増賃金の支払いが必要です。また、仮に1日8時間以内の収まっていたとしても、残業によって労働時間が週40時間を超えた場合には、その時間は法定外残業時間に該当し、割増賃金の支払い対象となります。
残業を強制しても適法となる要件
従業員に対して、残業を指示するためには、一定の要件を満たすことが必要です。ひとつずつ要件を見ていきましょう。
36協定が締結されている
法定外残業や休日労働を従業員に命じるためには、「36(サブロク)協定」を締結しなければなりません。36協定とは、企業と従業員の間の取り決めを書面化した労使協定のひとつで、労働基準法第36条に基づくことから、このように呼ばれています。
36協定は、挙手や投票等の民主的方法で選出された従業員の過半数代表者(もしくは過半数労働組合)と使用者である企業の間で締結されます。36協定の締結がなければ、法定外残業を命じることはできないため、締結は必須です。なお、法定労働時間内に収まる法定内残業を命じる場合には、36協定の締結は不要となります。
36協定が労働基準監督署へ提出されている
36協定を締結しただけでは、法定外残業や休日労働は適法となりません。36協定を締結後、所轄労働基準監督署長に届け出ることで、効力が発生します。つまり、36協定未締結はもちろんのこと、届出前の残業指示も違法ということになります。36協定の届出は、単なる労働基準監督署長への報告というだけでなく、効力発生要件ともなっていることに注意が必要です。
36協定の締結および届出によって、労働基準法第32条の法定労働時間や、同法第35条の法定休日違反の罰則の適用を受けないことになります。このような効力を「免罰的効力」と呼びます。
残業に関する規定が労働契約書や就業規則に記載されている
企業が従業員に対して、残業を命じるためには、根拠が必要です。そのため、雇用契約書や就業規則などに従業員に残業を行わせることができる旨の記載や規定がなければ、残業を命じることはできません。残業を行わせる可能性がある場合には、契約書への記載や就業規則への規定の追加を忘れないようにしましょう。
残業を強制したら違法になるケース
残業は要件を守ったうえで行わせている限りにおいては、法違反となりません。しかし、違法な残業となるケースも存在するため、注意が必要です。
36協定の上限を超えている
36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出を行ったとしても、残業時間は限度時間内に収めることが必要です。法定外残業時間の上限は、1か月において45時間、1年間において360時間と定められています。そのため、この時間を超過する残業は、違法な残業となってしまいます。
残業時間の限度は月45時間、年間360時間ですが、一定の場合には、上限となる限度時間を延長することが可能です。通常予測できない業務量の大幅な増加などによって、臨時的な必要が生じた場合には以下の時間まで上限時間を延長することができます。
- 年間720時間以内(法定外残業時間のみの時間)
- 単月100時間未満(法定外残業および休日労働時間の合算)
- 2か月~6か月の複数月平均80時間以内(法定外残業および休日労働時間の合算)
ただし、上記の時間まで延長可能なのは、年間で6月までとなります。上記時間を超過したり、年6月を超えて限度時間を超えて残業を命じたりした場合には、違法な残業となってしまうため、注意しましょう。なお、自動車運転業務など一定の業種は、上記とは異なった規制がなされているため、該当業種ごとの規制内容を確認しなければなりません。
残業代が適切に支払われない
賃金は労働の対償として支払われますが、残業も例外ではありません。残業時間に対しては残業代や残業手当などと呼ばれる割増賃金を支払う必要があります。また、その割増率は原則25%です。たとえば、時給1,000円の従業員が1時間の残業を行った場合には、通常の1,000円ではなく、25%割増となる1,250円を支払わなければならないわけです。割増率による賃金が支払われていない残業は、違法な残業となります。
残業に対する割増率は、残業時間が月60時間を超えた場合には、25%から50%に引き上げられます。2023年3月まで、中小企業は50%の割増率の適用を猶予されていましたが、現在では企業規模を問うことなく、すべての企業でこの規定が適用されています。そのため、月60時間を超える残業の場合には、50%以上の割増率で計算した賃金を支払わなければ違法な残業となってしまうことに注意しましょう。
業務上必要がない
業務の繁忙や突発的なトラブル、クレーム対応など様々な理由によって、残業が必要となります。裏を返せば、今行うべき必要性があるからこそ、残業が命じられているわけです。
残業の指示は、合理的な理由がなければなりません。たとえば、翌日に回しても、業務時間内に処理できる業務であれば、当日中に処理すべき合理的な理由があるとはいえないでしょう。このような場合の残業は、業務上必要のない残業を命じたとして、違法な残業となる可能性があります。残業を命じる際には、必要性のある指示なのかどうか慎重に判断することが必要です。
違法な残業を強制した場合の罰則
限度時間の超過など、違法な残業を命じた場合には罰則が予定されています。上限超過と不払いの場合に分けて解説します。
36協定の上限超過の場合
残業時間の上限規制に違反した場合には、労働基準法第36条第6項違反として、同法第119条によって、6か月以下の懲役または、30万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。また、36協定を締結せずに法定外残業を行わせた場合には、労働基準法第32条違反として、同第119条による同様の罰則が予定されています。36協定の締結および届出はもちろん、上限時間にも気を付けなければなりません。
残業代の不払いの場合
適法な範囲内の残業時間であっても、法定の割増賃金が支払われていなければ、違法な残業として罰則の適用を受けてしまいます。法定外残業時間に対して、法定の割増賃金を支払っていない場合には、労働基準法第37条違反となります。労働基準法第119条によって、6か月以下の懲役または、30万円以下の罰金の対象となるため、注意しましょう。
残業の強制を拒否できる正当な理由
必要な範囲内であれば、企業は従業員に残業を指示できます。また、その指示が相当なものであれば、通常従業員は残業の指示を拒めません。しかし、正当な理由があれば、従業員は残業を拒否できます。
体調不良
企業は、従業員に対して、労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」を負っています。安全配慮義務とは、企業が従業員の心身の健康および安全な労働環境に配慮する義務です。体調不良の従業員に対して、残業を命じることは、より体調を悪化させる恐れがある行為であり、安全配慮義務に反しているといえるでしょう。このような場合には、労働契約法第5条に基づく正当な理由があるとして、残業を拒否できます。
妊娠中もしくは出産から1年未満
妊娠中もしくは産後1年を経過していない女性を「妊産婦」と呼びます。労働基準法第66条により、妊産婦が請求した場合に、企業は残業や休日労働をさせてはならないとされています。災害や公務の場合には、18歳未満の年少者であっても法定外残業が可能ですが、妊産婦の場合には、このような例外はなく、請求があれば絶対的に禁止となっています。そのため、妊産婦が残業を命じられた場合には、労働基準法第66条を根拠に拒否が可能です。
介護や育児がある
育児介護休業法第16条の8では、3歳に満たない子どもを養育する従業員が請求した場合には、所定労働時間を超えて労働を命じてはならないとしています。また、育児介護休業法第17条や第18条では、小学校入学前の子どもや要介護状態の家族を介護する従業員が請求した場合には、下記の時間を超えて残業を命じてはならないとしています。
- 1か月について24時間
- 1年について150時間
育児や介護を行っており、上記の条件に当てはまる場合であれば、育児介護休業法を根拠に該当する残業を拒否することが可能です。
残業の強制はパワハラになる?
残業を強制されたとしても、36協定で定められた範囲内であり、必要性があるものであれば、正当な業務上の指示となります。しかし、以下のような場合には、残業の指示が優越的な地位を背景としたパワハラと見なされることもあり得ます。
- 定時間際に翌日でも処理可能な業務に対して、残業による当日中の処理を命じる
- 本人の業務外である必要性のない雑務のために残業を命じる
- 急ぎの用事があることがわかっていながら残業を命じる
残業自体の適法性だけではなく、その指示がパワハラに該当しないか確認することも必要となるでしょう。
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派遣社員に対する残業指示
派遣社員に対しても残業を命じることは可能です。しかし、派遣社員が雇用されているのは、実際の就業場所である派遣先企業ではなく、派遣元企業となります。そのため、36協定の締結も派遣元企業との間で締結していなければなりません。
また、派遣元が派遣社員に対して業務内容や派遣期間などを通知するために交付する「就業条件明示書」に残業に関する規定が存在しなければなりません。36協定の締結および届出がなされ、就業条件明示書に明示されていれば、36協定の範囲内で派遣社員に対しても、残業の指示が可能となります。
アルバイト・パートに対する残業指示
アルバイトやパートであっても、正社員と同様に36協定の締結および届出と、雇用契約書や就業規則に残業に関する規定等が存在すれば、残業の指示が可能です。アルバイトやパートに残業を行ってもらう可能性があれば、正社員と同様の手続きを取っておきましょう。
アルバイトやパートに対しても、法定外残業を行わせた場合の割増賃金は適用されます。月60時間超の場合における50%割増の規定も同様です。
要件や上限を遵守した残業指示を
所定労働時間だけでは業務が処理できず、残業が発生することは珍しくありません。残業によって、法定労働時間を超過してしまう場合もあるでしょう。そのような場合には、雇用形態を問うことなく、法で定められた適正な賃金を支払うことが必要です。また、残業の前提となる36協定を忘れずに締結したうえで、当記事で紹介した違法な残業とならないように注意を払うことも必要となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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