- 更新日 : 2023年5月29日
社会保険料の負担割合とは?計算方法や注意点を解説!
給与から控除する健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの保険料は、従業員が全額自己負担するのではなく、労使双方が負担して納付します。負担割合は、社会保険の種類や業種によって異なります。ここでは、社会保険料の基礎知識や各種保険ごとの保険料の計算方法を解説します。企業で社会保険の手続きに関わる方はぜひ参考にしてください。
目次
そもそも社会保険料とは?
社会保険料とは、病気や怪我、死亡、出産、失業など生活上のさまざまなリスクに備える公的保険制度を維持するために支払う金額をいいます。公的保険制度である社会保険には、会社員や公務員などの被用者が加入する制度と自営業者などが加入する制度がありますが、広い意味では「医療保険制度」「介護保険制度」「年金制度」「労災保険制度」「雇用保険制度」の全般を指します。また、それぞれの制度における保険料の計算方法にもさまざまな違いがあります。
企業の労務担当者の業務に関わりが深い社会保険には、大きく分けて以下の5種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
社会保険料の従業員負担は給与から控除することが認められていますので、従業員は、給与明細で「健康保険料」や「厚生年金保険料」など、給与から天引きされている保険料を確認することができます。
国民健康保険と健康保険の違い
社会保険は会社員や公務員が加入する制度と自営業者や無職の方などが加入する制度に分かれます。日本は「国民皆保険制度」や「国民皆年金制度」を導入しており、原則として国民はなんらかの医療保険制度や年金制度に加入しなければなりません。そのため、個人事業主や学生、無職の方なども国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。
国民健康保険とは、市区町村が運営する公的保険制度です。上述のように、自営業者や年金受給者などの被用者保険に加入していない方が加入対象となります。したがって、会社員が退職して独立する場合などは、健康保険から国民健康保険の切り替えが必要です。
運営母体・対象者が異なる国民健康保険には、他にも以下のような健康保険との違いがあります。
扶養の有無
企業が加入する健康保険では従業員の扶養家族を含めて加入することができますが、国民健康保険では家族であってもそれぞれが加入する必要があります。
給付金の種類
健康保険では出産手当金、傷病手当金などの給付がありますが、国民健康保険にはこれらの給付がありません。
保険料の計算方法
国民健康保険では、全世帯が負担する「平等割」、被保険者の人数に応じて負担する「均等割」、所得に応じて負担する「所得割」、土地や建物などの所有する資産に応じて負担する「資産割」などの合計で計算されます。計算方法は市区町村によって異なります。健康保険は、給与などの報酬をもとにした標準報酬月額を用います。
社会保険料の標準報酬月額について
健康保険や厚生年金保険の保険料は、月単位の納付が必要です。しかし、従業員の給与は月々の変動があり、毎月計算するのは企業に大きな負担がかかります。そうした理由から、社会保険料の算出には「標準報酬月額」が用いられています。標準報酬月額は、保険料や給付額を決定するために使用する基準となるものです。月の収入(報酬月額)を等級に応じて区分したものであり、「標準報酬月額表」で等級を確認することができます。
標準報酬月額は、健康保険では第1等級から第50等級、厚生年金保険では第1等級から第32等級と区分されており、原則として毎年4月〜6月の3か月分の給与(報酬)の平均額から決定されます。年間の保険料は、毎月の保険料や給付額を計算するための「標準報酬月額」と、賞与の1,000円未満の端数を切り捨てた「標準賞与額」の2つに、健康保険と厚生年金保険のそれぞれ保険料率を乗じることよって計算することが可能です。
標準報酬月額を決定するもととなる報酬には、月々支払われる基本給に加え、役職手当や通勤手当などの手当も含まれます。そのほか、残業手当のように月々変動するものや、通勤定期券や社宅のような現物支給のものも報酬として計算します。
なお、健康保険や厚生年金保険では、被保険者となる従業員が労働の対償として受け取るものを、給与や賃金とは呼ばずに「報酬」と呼びます。専門用語として覚えておくとよいでしょう。
社会保険料の負担割合
社会保険料は、企業と従業員の双方が負担しますが、企業と従業員の負担割合は社会保険の種類によって異なります。
健康保険、厚生年金保険、介護保険の保険料は、企業と従業員で折半します。一方、労災保険は、例外的に企業の全額負担です。雇用保険では業種によって負担割合が異なりますが、企業のほうが多く負担する形になっています。
社会保険(社保) | 健康保険 | 厚生年金保険 | 介護保険 | 雇用保険 | 労災保険 |
---|---|---|---|---|---|
従業員の自己負担割合 | 50% | 50% | 50% | 業種による | 0% (全額企業負担) |
社会保険料の会社負担については、以下の記事もご覧ください。
社会保険料の計算方法
各社会保険ごとに、保険料の計算方法を解説します。わかりやすいように、以下のモデルケースを用いて話を進めます。
【モデルケース】
- 東京都在住:45歳(介護保険第2号被保険者)
- 給与総額:41万円
- 標準報酬月額:41万円
- 事業の種類:小売業
健康保険・厚生年金保険料
健康保険、厚生年金保険の保険料は、上述の標準報酬月額に基づき、収入が上がるほど保険料が増加する仕組みです。標準報酬月額に基づく保険料額表は各都道府県ごとに公開されています。
引用:令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
モデルケースは、標準報酬月額41万円・健康保険の第27等級、厚生年金保険の第24等級に該当します。モデルケースの場合は介護保険料の納付が必要な40歳以上の従業員ですので、介護保険第2号被保険者として、健康保険料率は11.82%、厚生年金保険料率は18.3%となり、保険料は以下のようになります。
【モデルケースの保険料】
- 健康保険料の総額:48,462円
- 厚生年金保険料の総額:75,030円
- 合計総額:123,492円
- 企業と従業員の負担の割合:50%
- 会社側の負担額:61,746円
- 従業員側の負担額:61,746円
※実際の企業の納付額は保険料の合計金額の端数を切り捨てて納付しますので、端数処理の関係で労使負担分が同額になるとはかぎりません。
健康保険組合や厚生年金基金などに加入している企業の場合は、加入している組合や基金によって保険料率が異なりますので、それぞれの加入団体へ確認して下さい。
介護保険
介護保険は、すべての被保険者が支払うのではなく、40歳以上のすべての国民が対象となります。令和5年3月分の全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料率は全国一律で1.82%です。対象者は、「介護保険第2号被保険者」となり、健康保険料とともに徴収されます。
モデルケースでも、健康保険料の算出で用いた金額にすでに含まれています。介護保険料のみを算出する場合には、標準報酬月額に介護保険料率をかけて計算しますので、以下のようになります。
【モデルケースの保険料】
- 介護保険料の総額:410,000円×1.82%=7,462円
- 企業と従業員の負担の割合:50%
- 会社側の負担額:3,731円
- 従業員側の負担額:3,731円
雇用保険
従業員の雇用保険の保険料は、実際に支払ったその月の給与総額に保険料率をかけて算出します。
保険料率は、「一般事業」「農林水産業、清酒製造業」「建設事業」の3つに分けて設定されており、実際の企業が支払う保険料の計算と納付の方法は、労災保険の保険料の申告と同様に年度更新による申告・納付の方法で支払うことになります。
保険料率と企業、従業員の負担割合は以下の通りです。
【雇用保険の保険料率等:令和5年4月以降】
保険料率 | 会社負担率 | 従業員負担率 | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 1.55% | 0.95% | 0.6% |
農林水産業 清酒製造業 | 1.75% | 1.05% | 0.7% |
建設事業 | 1.85% | 1.15% | 0.7% |
【モデルケースの保険料】
- 雇用保険の総額:410,000円×1.55%=6,355円
- 会社側の負担額:410,000円×0.95%=3,895円
- 従業員側の負担額:410,000円×0.6%=2,460円
労災保険
労災保険料については、従業員負担分がないため毎月の給与から保険料を控除する必要がありません。
労災保険料と雇用保険料は、4月1日から翌年3月31日の年度を単位とした賃金総額にそれぞれの保険料率を乗じて算出する、年度更新と呼ばれる労働保険料の申告・納付の手続きによって支払います。
具体的には、毎年7月に前年度の4月1日から翌年3月31日までの年間の賃金総額の実績により計算した確定保険料の金額と昨年支払った概算保険料の金額を精算し、さらに、当年度の4月1日から翌年3月31日までに支払う賃金総額の見込み額により計算した概算保険料を加えて納付する仕組みになっています。
労働保険料の年度更新について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
労災保険の保険料率はさらに細かく業種ごとに設定されています。大きく分けた区分は、「林業」「漁業」「鉱業」「建設事業」「製造業」「運輸業」「電気、ガス、水道、または熱供給の事業」「その他事業」ですが、さらにその中でも細かく分類されています。
労働保険の年度更新の際には、労災保険料とともにアスベスト(石綿)で健康被害を受けた労働者などの救済費用にあてるための一般拠出金(料率1,000分の0.02)を納付する必要があることも覚えておきましょう。
社会保険の計算での注意点
社会保険料を計算する際、注意しなければならないポイントについて解説します。
ボーナス(賞与)の取扱い
ボーナス(賞与)にも健康保険や厚生年金保険の保険料が発生します。保険料は1,000円未満の端数を切り捨てた「標準賞与額」に、健康保険と厚生年金保険の保険料率をかけて算出します。そのため、ボーナスが支給される月の社会保険料は大きくなる点に注意が必要です。
なお、ここでいう賞与の定義は「年に3回以下の支給」「労働の対価として支給されるもの」です。年に4回以上支給される金額は、賞与とみなされず、標準報酬月額の算定対象として扱われます。なお、結婚祝い金や慶弔見舞金など、労働の対価でないものは賞与には該当しないため、注意しましょう。
なお、雇用保険の保険料については、毎月の給与からの計算と同様に、実際に支払ったボーナスの支給金額に企業と従業員の負担率をそれぞれ乗じて計算します。
端数の処理について
健康保険や厚生年金の保険料を計算した際、1円未満の端数が出る場合があります。その際は、以下のルールで計算します。
【給与から控除する場合】
従業員の保険料:50銭以下は切り捨て、50銭を超える場合は1円に切り上げ
【現金で従業員から支払われる場合】
従業員の保険料:50銭未満は切り捨て、50銭を超える場合は1円に切り上げ
【企業の保険料の端数処理】
企業の保険料(合計金額):1円未満の端数は、その端数を切り捨て
企業の保険料の端数処理は、各従業員ごとに行うのではなく、従業員の保険料を合算しそのあとに端数処理を行います。端数処理をした金額は「納入告知額」として日本年金機構から請求され、そこから従業員の負担分の合計金額を差し引いたものが企業側の負担分となります。
雇用保険についても「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に基づき同じ考え方で端数処理を行います。ただし、健康保険や厚生年金保険も同じですが、端数処理の取扱いに労使間の慣習的なルールがある場合には、そのルールによって端数処理をしても問題ありません。
社会保険料の支払いが免除される期間
従業員が妊娠・出産・育児を理由に休業した場合、健康保険や厚生年金保険の保険料の支払が免除されます。具体的には、出産予定日を含めた42日前の産前、56日後の産後の休業中と、子が3歳になるまでの育児休業期間が対象です。期間中は、従業員・企業の双方の負担分が免除されます。
社会保険料の免除を受けるには、従業員からの申し出を受け、企業が届出を日本年金機構へ提出する必要があります。
参考:厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)|日本年金機構
介護保険料は従業員の年齢に注意
介護保険料の徴収がはじまるのは、従業員が40歳に達したときです。40歳の誕生日の前日が属する月から、介護保険料の徴収がスタートします。徴収は65歳まで続き、従業員が65歳に達すると第2号被保険者ではなくなり、介護保険料の徴収が市区町村へと移る(第1号被保険者となる)ため、給与から控除する必要がなくなります。
社会保険について理解を深め、正しく計算しましょう!
社会保険は公的保険制度です。企業は雇用する従業員ごとに、必要な社会保険の加入手続きを行い、正しく保険料を納める必要があります。保険料を正しく納めることで、従業員はそれぞれの社会保険制度を活用することができます。従業員の生活の安定や支援につながる社会保険を正しく理解し、間違いのないよう手続きを行いましょう。
よくある質問
国民健康保険と健康保険の違いは何ですか?
健康保険は、全国健康保険協会等が運営し、企業に勤める従業員などが対象となります。一方、国民健康保険は他の被用者保険制度に加入していない方が対象になり、主に自営業者や年金受給者が加入します。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険料の自己負担割合はどのくらいですか?
社会保険のうち、健康保険・厚生年金・介護保険の保険料は、企業と従業員で折半します。労災保険は全額企業負担となり従業員の自己負担はありません。雇用保険は業種によって負担割合が異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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