• 更新日 : 2023年10月27日

雇止めとは?有期労働契約の締結・更新に関わる問題も解説

雇止めとは?有期労働契約の締結・更新に関わる問題も解説

雇止めとは、有期雇用契約の契約期間満了で契約更新をしないことです。雇止めには労働契約法で「雇止め法理」が規定されており、反復更新していて従業員が更新を期待する事情がある場合、雇止めが無効になることもあります。

本記事では、雇止めの概要や合理性を判断する要素、トラブルになる場合などを解説します。

雇止めとは?

雇止めとは、有期雇用契約で雇用期間を更新せずに契約を終了させることです。有期雇用契約は雇用期間を定めた契約であり、原則として雇用期間が満了すれば終了します。しかし、有期雇用契約は複数回にわたり更新されることも多く、雇用期間が長期に及ぶ場合は、実質的に期間の定めがない雇用契約と変わらない状態になります。労働者もまた更新されるとの期待を抱くでしょう。それにもかかわらず契約が更新されない場合、労働者保護の観点から、過去の最高裁判例により一定の条件のもとに雇止めを無効とするルール(雇止め法理)が確立されています。

労働契約法19条では、従業員が次のいずれかの条件に当てはまり、かつ契約更新の申込みをした場合、通常の解雇と同じ厳格な条件が適用されるとしています。

  • 有期労働契約が反復継続して更新され、雇止めすることが実質的に解雇と社会通念上同視できること
  • 労働者が更新されるものと期待することに合理的な理由があること

これを「雇止め法理」といい、実際に裁判では雇止めを無効とされた判例も少なくありません。

参考:e-GOV法令検索「労働契約法」

解雇との違い

雇止めは、解雇とは異なります。解雇は使用者による一方的な労働契約の解約のことです。解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3つがあり、会社が自由にできるものではありません。一定の要件を満たさなければ不当解雇になります。

従業員を解雇する場合には、労働者の生活基盤を失わせる重い処分であり、解雇できる場合は厳格な要件が定められています。

雇止めも解雇も従業員との労働契約を終了させるという点で共通しています。しかし、解雇は、労働契約の途中に使用者からの一方的な解約で終了するのに対し、雇止めは有期労働契約の雇用期間が満了して契約が終了するという点で異なります。

解雇については、以下の記事で詳しく説明しています。

雇止めの対象

雇止めの対象となるのは、有期雇用労働者と臨時雇用職員です。それぞれの概要をみていきましょう。

「有期雇用契約職員」に当てはまる従業員

雇止めの対象となるのは、「有期雇用契約職員」に該当する従業員です。

主な有期契約労働者は、次のとおりです。

  • 契約社員
  • 準社員
  • パートナー社員
  • アルバイト・パート

有期雇用契約とは期間を定めて締結する労働契約であり、契約期間は最大3年と定められています。

ただし、専門的な知識、技術または経験がある、もしくは満60歳以上などの条件を満たせば、5年の契約期間が認められます。有期の建設工事など、一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約は、その期間が契約期間です。

臨時雇用職員

臨時雇用職員とは、一般的に1年以内の雇用期間を定めて臨時に雇用される労働者です。本来は雇用期間の満了とともに雇用契約が終了しますが、有期雇用契約と同じく、企業側の必要に応じて雇用契約が更新されることもあります。

臨時雇用職員の更新が繰り返されている場合、有期契約労働者と同様に雇止めに制約が生じる可能性があります。

雇止めの合理性を判断する要素

労働契約法第19条では、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当ではない雇止めを無効としています。雇止めが認められるためには、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければなりません。

ここでは、裁判例でみられる雇止めの合理性を判断する要素について、詳しくみていきましょう。

業務の客観的内容

雇止めに合理的理由があるかは、業務の客観的内容で判断します。従事する仕事の種類・内容・勤務形態について、次の観点からチェックします。

  • 恒常性があるか、臨時的な内容か
  • 正社員との同一性はあるか

業務内容が恒常的で正社員と同じであれば、業務の継続性があると想定され、従業員に契約更新の期待を抱かせる要因になります。そのため、雇止めの合理性は否定される方向になるでしょう。

契約上の地位の性格

契約上の地位の性格も判断基準となります。地位の基幹性(正社員と同様の立場)があるか、臨時性が認められるかという判断です。アルバイトや嘱託、非常勤講師の場合は臨時性が認められます。

また、労働条件に正社員との共通性があるか否かも判断基準となります。

契約上の地位に臨時性があり、労働条件に正社員と似た要素がなければ、雇止めに合理性があると判断されるでしょう。

当事者の主観的様態

継続雇用を期待させるような雇用主の言動や認識の有無・程度なども、判断基準となります。例えば採用時、雇用契約の期間について契約期間以上にあることや、更新や継続雇用の見込みがあることなどの説明をしている場合は雇止めの合理性は否定されやすいでしょう。

反対に、雇用が契約期間で終了すること、更新の見込みがないことを説明していれば、合理性があると判断されやすくなります。

更新の手続き・実態

反復更新の有無や回数、勤続年数など、契約更新の状況も判断基準のひとつです。反復更新が多く、勤続年数が長いほど雇止めの合理性は否定されます。

契約更新時における手続きについて、更新手続があるか、更新の可否の判断は厳格に行われるかも判断材料になります。手続きが厳格でなく、事前に更新の説明もないのであれば雇用主は雇止めをする意思が薄いと推測でき、従業員は契約が更新されるという期待を抱きます。

一方、手続きが厳格に進められる場合、契約は基本的に期間満了で終了するという認識を持ちやすいでしょう。

他の労働者の更新状況

同様の地位にある他の労働者の雇止めがあるかも、判断の基準となります。他の労働者が、特に問題行動がない場合にすべて更新されている状況があれば、従業員は自分も更新されるだろうという期待を抱きます。そのため、雇止めの合理性は否定される方向になるでしょう。

しかし、他の労働者が契約期間満了で終了している場合、契約更新への合理的期待はないと判断され、雇止めが認められる可能性があります。

雇止めでよくあるトラブル

雇止めをして裁判にまで発展するトラブルにはどのようなものがあるか、3つの事例をみてみましょう。

一定期間雇用を継続したが、契約更新を急にやめる

有期雇用契約であっても、複数回の更新によって長期間の雇用が継続されているケースもあります。そのような場合に契約更新を突然やめて雇止めをすると、トラブルになる可能性があるでしょう。

反復更新により契約期間の通算が5年を超えた場合、労働者は期間の定めのない無期雇用契約への転換を申し込めます。有期契約労働者が雇用主に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します。雇用主はこれを断れません。

この無期雇用への申し出をする直前に雇止めが行われることもあり、過去にはこれを無効とする判例も存在します。

雇用期間について明示していない

雇用期間について明確にしていない場合、無期契約と同じような雇用形態であると考えられ、従業員は契約は当然更新されるという合理的期待を抱きます。そのため、雇止めをするとトラブルになりやすいでしょう。

また、更新が期待される言動がある場合や、業務内容や職責などが正社員とほぼ変わらない場合も、雇止めが無効であると判断されるケースが多くなります。

過去に雇止めの事例がない

自分と同じ地位にある従業員に対し、過去に雇止めの例がほとんどない場合、従業員は自分も同じように雇止めされないという合理的期待を抱きます。雇止めをすると問題が起こる可能性は高いでしょう。

実際の裁判でも、実質的に無期契約と変わりないと判断して雇止めを無効としている事例があります。

雇止めを行う場合、人事労務担当者が行うべきこと

雇止めを行う場合、人事労務担当者はトラブルを避けるために行うべきポイントがあります。

ここでは、雇止めの際に行うべき5つのポイントを解説します。

① 更新の有無の明示

求人募集や雇用契約の際は、契約期間と更新の有無を明示しなくてはなりません。口頭の説明ではなく、文書で契約内容を明示する必要があります。また、更新がある場合、自動更新なのか、あるいは「更新する場合もある」のかを明示します。

契約を締結後に変更がある場合は、従業員に対しその内容を明示する必要があります。

➁ 判断基準の明示

更新をしないことがある場合は、その基準も明確にしておきましょう。更新をしない基準としては、以下の内容があげられます。

  • 従業員の勤務成績や態度
  • 従業員の業務遂行能力
  • 契約満了時の業務量
  • 従事している業務の進捗状況

会社の経営状況など、会社側の都合を基準にすることも可能です。

これらの内容は、双方が合意の上、文書で明示しておくことが大切です。

③ 雇止めの予告

雇止めでは、トラブルが起こらないよう予告が必要です。

次の有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに通知しなければなりません。

  • 有期労働契約を3回以上更新している
  • 1年以上継続して雇用している

トラブル防止のため、雇止め通知書を作成・交付し、受領のサインをもらいましょう。

あらかじめ契約を更新しない旨を明示している場合は、予告の必要はありません。

なお、雇止めに伴い、 社宅や寮に入居している従業員への配慮も必要です。離職に伴い、住居を喪失するおそれがあるため、求職活動への支障が生じないよう、離職後も引き続き一定期間の入居について、できる限りの配慮に努めましょう。離職後も引き続き住居を無償で提供する雇用主に対し、助成する制度もあります。

④ 雇止め理由の明示

雇止めの予告を行った際、従業員から更新しない理由の明示や証明書を求められた場合、雇用主は迅速に証明書を提出しなければなりません。

明示すべき雇止めの理由は、契約期間の満了とは別の理由にすることが必要です。

一例として、以下の内容があげられます。

  • 契約を更新しないことの合意がある
  • 担当していた業務が終了した
  • 勤務成績が良好ではない
  • 無断欠勤が多いなど勤務態度が不良のため
  • 事業を縮小するため

⑤ 契約期間についての配慮

契約期間は、できる限り長くする配慮も求められます。

雇用主は継続して雇用している有期雇用契約の従業員と契約を更新する場合、従業員の希望に応じて契約期間を上限(3年もしくは5年)まで、できる限り長くするよう努める必要があります。

雇止めに関連する法律・参考情報

雇止めに関連して、労働契約期間や労働契約法について把握しておきましょう。

労働契約期間

有期労働契約の期間については、労働基準法により、原則として上限は3年と定められています。一定の条件がある労働者との労働契約は上限が5年です。

また、雇用主は、有期労働契約で労働者を雇用する場合、契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮するべきことが労働契約法で定められています。

労働契約法の施行

雇止めを行う際に、労働契約法の内容は重要です。労働契約法とは、労働関係に関する紛争の防止や労働者の保護を図るため、労働契約について基本的なルールを定めた法律です。

2012年8月に改正が行われ、以下の3つの規定が追加されました。

  • 無期労働契約への転換
  • 「雇止め法理」の法定化
  • 不合理な労働条件の禁止

無期労働契約への転換は、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたとき、従業員の申し出により、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に変更できるルールです。

「雇止め法理」の法定化は、裁判で出された「雇止め法理」が、その内容のとおりに法律で規定されたものです。雇止めをする際は、特に重要な規定となっています。

不合理な労働条件の禁止は、有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者との間で、有期雇用であることを理由に合理的ではない条件を設けることを禁止する規定です。

参考:e-GOV法令検索「労働基準法」
参考:e-GOV法令検索「労働契約法」

雇止めの法理を把握しておこう

雇止めとは、有期雇用契約を更新せずに契約を終了させることです。ただし、これまで契約が繰り返し更新されており、従業員が更新することへの期待を抱いていると予想される場合、雇止めが無効になることもあります。

雇止めでトラブルを起こさないためには、募集や契約の際、更新するかどうか、更新しない場合はその基準を明示しなければなりません。労働契約法の内容や雇止めの合理性を判断する要素を確認し、トラブルが起きないよう注意しましょう。


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