• 更新日 : 2023年11月2日

やりがい搾取とは?何が悪い?起こりやすい業界・職場

やりがい搾取とは?何が悪い?起こりやすい業界・職場

アルバイトや管理職など従業員の離職率悪化、業務効率低下といった問題が継続的に発生している場合、従業員の長時間労働、低賃金での雇用などが原因になっていることがあります。この記事では、やりがい搾取の発生が国内企業で課題とされている理由、問題になりやすい業界についてわかりやすく解説します。

やりがい搾取とは?

仕事にやりがいがあるという理由で長時間、低賃金労働を強要することをやりがい搾取と言います。ここでは、やりがいという言葉の定義について解説します。

そもそも「やりがい」とは

やりがいとは、仕事や趣味などの物事に対して価値を見出し、充足感や手ごたえを覚えることを意味する言葉です。やりがいがある、という言葉は物事を行う人にとって能力を発揮できる、労力に見合った成果が見込める物事に対して用いられることがあります。仕事においては、業務に取り組むことで仕事に対するモチベーション向上、業務効率化等の効果が見込まれる場合に「やりがいを感じる仕事」とされることがあります。

「やりがい搾取」が注目される背景

やりがい搾取が生じる主な理由としては、人件費削減を目的とした違法な長時間労働の増加、長時間労働の常態化などがあります。

厚生労働省のプレスリリースによると、2022年度において労働基準監督署による監督指導が実施された事業場は33,218ヶ所で、そのうち14,147ヶ所で違法な時間外労働が確認されたとするデータがあります。監督指導が行われた事業場、違法な時間外労働を確認した事業場は前年比でいずれも増加していることから、時間外労働によるやりがい搾取が増加していると考えられます。

参考:長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省

やりがい搾取の何が悪い?

やりがいがある仕事を行うことには企業の経済的成長、従業員の能力向上などの効果が見込めます。従業員の退職、労働組合への相談などが生じている企業では業務内容と給与が釣り合っていない、労働基準法や最低賃金法などに違反しているなどの問題が発生していることが考えられます。

業務内容と給与体系の実態が伴っていない

人件費削減を目的として従業員数を必要最小限に抑えている、能力が伴わない従業員を管理職として低賃金で稼働させている企業などではやりがい搾取が生じていることがあります。例えば「入社直後から活躍できる」「いきなり管理職」といったキャッチコピーを掲げ、応募者を低賃金、過重労働といえる条件で働かせることはやりがい搾取に該当するケースです。

従業員の仕事へのモチベーション低下

従業員の実績に応じた給与見直し、昇進という形で反映しない企業ではやりがい搾取が発生することがあります。大きな実績を上げていても昇給・昇進の見込みがない、業務量が増える一方で給与は据え置きといった雇用形態を続けている企業では仕事に対するモチベーション低下、生産効率低下等の問題が生じやすいです。

違法なやりがい搾取もある

時間外労働や休日出勤などを実施した際に割増賃金を支払わない、雇用した従業員を最低賃金を下回る賃金で働かせることなどは原則として違法行為に該当します。割増賃金の未払いは労働基準法、最低賃金未満での労働は最低賃金法に違反する行為です。

割増賃金が発生する条件は労働基準法第37条で以下のように定められています。

  • 時間外労働
  • 法定休日労働
  • 深夜労働(原則として午後10時~午前5時)

参考:時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)事業場外労働のみなし労働時間制(第38条の2) | 愛媛労働局
参考:最低賃金制度の概要|厚生労働省

やりがい搾取に陥りやすい業界

業界構造や仕事内容などの関係で過重労働、低賃金などが常態化しており、企業単位でやりがい搾取に陥りやすくなっている業界はいくつか存在します。ここではやりがい搾取が生じやすい業界とその要因を紹介します。

福祉・介護業界

福祉・介護業界は慢性的な人手不足に陥っている業界のひとつで、過重労働を余儀なくされる状況が生じやすいと考えられます。厚生労働省の「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」によると、2019年度の介護職員数を基準として、将来的には以下のように介護職員の必要数が推移するとされています。

  • 2019年度……約211万人
  • 2023年度……約233万人(+約22万人)
  • 2025年度……約243万人(+約32万人)
  • 2040年度……約280万人(+約69万人)

参考:別紙1 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

飲食業(主に管理職)

飲食業は業務量の多さや人手不足などの理由から過重労働に陥り得る業界構造になっており、やりがい搾取が起きやすくなる要素が複数あります。飲食業ではアルバイト・パートなどに正社員と同等の仕事量を低賃金で行わせる、人手不足や人件費削減を理由に管理職を低賃金で雇用するなどの問題が生じることがあります。

モデル・タレント業

モデル・タレント業界では個人事業主として活動するモデル・タレントの長時間労働、裁量労働制を利用したマネージャー職の長時間労働や残業代未払いなどの形でやりがい搾取が発生することがあるようです。所属企業との間で労働契約を結ばずに活動する芸能人は労働基準法の適用外になるケースがあります。

保育・教育業界

保育・教育業界は慢性的な人手不足に陥っている業界のひとつです。厚生労働省の「教員勤務実態調査」によると2022年10月、11月における教諭の在校時間は小学校が10時間45分、中学校が11時間1分です。前年同月比では在校時間が減少していますが、長時間労働を行う教員は依然多い状況とされています。

保育業界においても1週間あたりの実働時間が40時間を超える保育施設が比較的多く、主任保育士や主観保育教諭など職員が不足する保育施設が増えているという統計データも存在しています。

参考:教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について|文部科学省

テーマパーク業界・アニメゲーム制作業界

テーマパークの従業員、アニメゲーム制作などカルチャーに関わる仕事では長時間労働、低賃金労働等の形でやりがい搾取が生じることがあります。

アニメ・ゲーム制作では以下のような要因からやりがい搾取が生じることが考えられます。

  • 業務量に対して納期や予算に余裕がない
  • 予算に対して要求される仕事の質が高い

公務員

公務員は公共団体における上限規制を超える時間外労働を命じられる場合があり、体力的、精神的な負担がかかることがある業種です。総務省の「地方公務員における働き方改革に係る概況」によると、地方公務員の2021年度における時間外勤務時間は年間148.2時間と前年度比で15.4時間増加しています。

地方公務員の健康や安全を確保するための対応としては、時間外労働の上限規制、健康確保措置の運用が推進されています。

参考:地方公共団体における時間外勤務の上限規制及び健康確保措置を 実効的に運用するための取組の推進

やりがい搾取に陥りやすい職場の特徴

やりがい搾取と認識される要因は業務にかかる労力と給与体系が釣り合っていないと思われることです。企業、業種によっては雇用主が自覚しない形で過重労働や長時間労働などが発生しているケースがあります。

人との接触機会が多い・サービス業

利用客と会話する機会が多い接客業、サービス業などの業種では接客対応によって従業員へ精神的な負担がかかることが考えられます。クレーム対応が長引くことで会計や接客対応などが滞って他のクレームが生じる悪循環に陥り、従業員がやりがい搾取を受けるリスクがあります。

人の夢と関わりがある

働くこと自体が一般的に夢、やりがいとされるような業種では、応募者のモチベーションの高さを利用して低賃金、長時間残業など従業員に不利な条件で求人募集が行われることが考えられます。仕事内容に対するモチベーションの高さが志望動機になっているような人は、やりがい搾取を受ける状況に陥りやすいです。

雇用形態が不安定・業務委託や契約社員・フリーランスが多い

従業員の入れ替わりが多かったり、業務委託や契約社員が従業員の多くを占めていたりする企業などは短期間での退職が生じやすい状況になっていることが考えられます。従業員にとってメリットが少ない条件で雇用し、退職者が出たら次の応募者を探す手法が常態化している企業ではやりがい搾取が生じやすくなっています。

やりがい搾取が生じる原因

やりがい搾取が行われる目的は人件費削減、企業収益の増加など利益確保を目的としていることが一般的です。ここでは、やりがい搾取が生じる主な原因を紹介します。

人件費よりも企業収益を優先させてしまう

企業の利益確保を目的として人員整理、給与削減などを行う企業ではやりがい搾取が生じる要因になります。企業側の都合で人件費削減を実施している所では従業員の退職増加、社会的信用の低下などを引き起こすリスクが高いです。

ビジネス環境の変化 – 非効率の排除

国内では業務効率化、生産性向上などを目的とした業務のIT化が経済産業省、総務省などによって推進されています。業務のIT化を推進する際には単調な業務をIT技術によって効率化し、重要性が高い業務に集中できる人員を増やすことが重要になります。

しかし、業務のIT化に対する考え方が経営陣と従業員の間で異なっている場合、スキルアップや昇給が見込めないと考えた従業員がやりがい搾取を受けていると認識することが考えられます。

参考:企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーション の現状と課題

何が「やりがい搾取」に当てはまる?判断基準

やりがい搾取だと判断する定義は人によって異なりますが、当記事では、法的な根拠を伴わない過重労働又は時間外労働の強制などをやりがい搾取として取り扱います。ここでは、やりがい搾取かどうか判断する基準について解説します。

参加義務のない業務・イベントへの強制参加

ボランティアや参加義務のない研修、飲み会や食事会といったイベントへの参加を強要したり、勝手に参加扱いにしたりすることはやりがい搾取に該当する行為です。任意参加の業務やイベントに参加しなかったことを理由に昇進を遅らせる、参加の有無に関わらず会費を徴収するといった行為はやりがい搾取に該当します。

従業員への利益還元の少ない労働の強制

試用期間や見習いなどの名目で雇用を続ける、又はアルバイト・パートなどに正社員と同等の業務を低賃金で行わせる行為はやりがい搾取に該当します。企業側が利益を確保する目的で低賃金労働を強要している、又は経営状況に余裕がないことで十分な賃金を支払えなくなっていることなどが考えられます。

金銭的対価の支払がない・相応の報酬がない

給与未払いが複数回にわたって確認されている、最低賃金未満の雇用条件で労働させられている場合等は労基法、最低賃金法に違反していることが考えられます。給与未払いは労基法違反、所定の要件を満たさずに最低賃金未満で雇用することは最低賃金法違反に該当する行為です。

参考:未払賃金とは | 東京労働局
参考:最低賃金法の違反の罰則について|大阪労働局

やりがい搾取の具体的な事例

やりがい搾取に該当する具体例としては、残業手当の支払や有給休暇の取得が認められない、最低賃金未満で雇用するなどのケースが上げられます。新卒や他業界からの転職など、業界知識が少ない応募者を低賃金で働かせる事例は一定数存在します。

また、見習い期間中は無給であることが慣習になっている業種では、応募者がやりがい搾取をされたと考える場合があります。一例として、伝統工芸職人は見習いの間無給という条件で募集が行われるケースが存在します。

やりがい搾取による生産性低下を防ぐ

低賃金、長時間勤務の条件で働くことを強要してくる企業ではやりがい搾取が生じている場合があります。やりがいがある仕事だから、社会貢献になるからといった理由でサービス残業を強要されたり、最低賃金未満で雇用することを正当化されていたりすることはやりがい搾取に該当する行為です。

しかし、やりがい搾取と言える状況になっていても従業員又は事業主が気づかないことがあります。従業員の離職、欠勤が増加している場合は雇用条件見直し、社外相談窓口の設置など問題の早期発見、解決を図る施策を早い段階で講じることが大切です。


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