- 更新日 : 2024年9月18日
育児休業給付金(育休手当)とは?給付の条件や申請方法を解説
育児休業給付金とは、育児休業を取得したときに国から支給されるお金のことです。休業中の収入が確保されることで、従業員は安心して育児に専念できます。パートや契約社員など、有期雇用社員も受給が可能です。
本記事では、育児休業給付金の概要や支給条件、延長の可否などを解説します。申請書の出し方も説明しますので、参考にしてください。
目次
育児休業給付金(育休手当)とは?
育児休業給付金とは、雇用保険の被保険者が1歳未満の子を養育する目的で育児休業を取得した際、受け取れる手当のことです。
育児休業を取得した従業員の賃金支払については法律の規定がなく、休業中に賃金を支払うかどうかは会社の裁量に委ねられています。
会社が育児休業中の給与を支払わない場合、育休中の収入がなくなることで休業取得をためらう人も出てくるでしょう。そのような事態を避け、安心して育児休業を取得できるようにするため、育児休業給付金の制度が設けられています。
2021年発表の育児休業給付金の法改正
育児休業給付金を規定する育児・介護休業法は、2021年6月に改正され、2022年4月1日より段階的に施行されました。2022年4月からは雇用環境整備や個別の周知・意向確認の措置が事業主の義務とされたほか、有期雇用社員の育児休業取得要件の緩和が施行されています。
さらに、2022年10月には、育児休業の分割取得と「産後パパ育休」制度が開始されました。
2022年10月スタートの育児休業の分割取得や産後パパ育休制度とは?
2022年10月からスタートした育児休業の分割取得とは、それまで原則として1回しか取得できなかった育児休業が、父親・母親それぞれ2回までの取得できるようになるというものです。
また、それまでの「パパ休暇」が形を変え、「産後パパ育休」も新設されました。子どもの出生後8週間以内に、父親が最長4週間の育休を取得できる制度です。女性の産後休業に該当する制度で、子どもが1歳になるまで取得できる育児休業とは別に休業を取得できます。
職場に申し出る期限は休業に入る2週間前まで可能であり、初回の申し出の際にまとめて申請すれば、2回に分割して休業をとることもできます。分割する休業の日数は、状況に応じて自由に調整できるのもメリットです。育休中の就業も可能であり、男性社員の育児休業取得を後押しする制度として期待されています。
育児休業給付金の支給条件
育児休業給付金を受け取るためには、育休前と育休中に必要な要件があります。
育休前
- 雇用保険の被保険者で、1歳に満たない子を養育する従業員であること
- 育児休業開始日前または産前休業開始日前の2年間に11日以上働いた月数が12ヵ月以上あること
2つ目の条件は、病気や怪我で30日以上働くことができなかった期間がある場合、その期間を加えて最長4年間まで緩和されます。
育休中
- 育休中に支払われる賃金は休業前の8割未満であること
- 就業日数が支給単位期間(1ヶ月)ごとに10日(10日を超える場合は就業時間が80時間)以下であること
- 有期雇用社員の場合は、子が1歳6ヶ月に達する日までにその労働契約が満了することが明らかでないこと
休業前の8割未満かどうかは、休業開始前6ヶ月の月平均と、休業後の支給単位期間(1ヶ月)の賃金で比較します。支給単位期間とは、育休開始後の期間を30日単位で区切った期間です。
賃金や就業日数は従業員自身が管理する必要があり、従業員から相談を受けたら、会社側も調整の協力やアドバイスをするとよいでしょう。
育児休業給付金の支給対象とならないケースは?
育児休業給付金の支給条件に当てはまらない場合は、受給ができません。
育児休業給付金は雇用保険から支給されるため、雇用保険に加入していない自営業やフリーランスなどは対象外です。
また、育児休業給付金は育児休業後に職場復帰することを前提としており、出産後に会社を退職する予定の人も対象から外れます。育休中に退職した場合は、退職日を含む支給単位期間(1ヶ月)以降は対象から外れることになります。
育児休業給付金の支給金額について計算方法
育児休業給付金は金額が決められ、2ヶ月ごとに支給されます。支給額には上限・下限があり、それぞれの休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて算出します。支給額の上限額、下限額は毎年8月に改定されるため、厚生労働省のサイトで確認しておきましょう。
計算式は、以下のとおりです。
- 育児休業開始から180日:(休業開始時賃金日額×支給日数)×67%
- 育児休業開始から181日目以降:(休業開始時賃金日額×支給日数)×50%
休業開始時賃金日額は、申請時に提出する「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」をもとに、次の計算式で求めます。
賃金は、残業手当や通勤手当、住宅手当などを含み、手取り額ではありません。
育児休業給付金は開始後いつからもらえる
育児休業給付金は、育児休業状況の審査が終わってから支給されます。給付金は基本的に2ヶ月分をまとめて支給されるため、初回支給までに3ヶ月程度かかるとみてよいでしょう。
母親の場合は産休期間の8週間が明けてから育児休業を開始するため、初回給付金の入金は、出産日からおよそ4〜5ヶ月後が目安になります。
なお、育児休業給付金の申請期限は育休開始日から4ヶ月経過後の月末までとなっており、期限を過ぎると交付が認められないため、注意が必要です。
育児休業給付金がもらえる期間
育児休業を取得できる期間中は、育児休業給付金を受け取れます。育児休業を取得できるのは、原則として子どもが1歳となる誕生日の前日までの期間です。 ただし、子どもが1歳になる前に職場に復帰した場合、受給できるのは復帰日の前日までとなります。
なお、育児休業は一定の条件に該当する場合、最大で1歳6ヶ月、最大で2歳となる誕生日の前日まで延長が可能です。延長された場合には、最大で2歳となる誕生日の前々日まで育児休業給付金が支給されます。
近年は少子高齢化対策や子育て家庭を支援する目的もあり、支給期間は延長される傾向にあるといえるでしょう。
男性も育児休業給付金はもらえる?女性との違い
育児休業は産前産後休業と異なり、男性でも取得できます。そのため、育児休業取得と同時に、育児休業給付金の受給も可能です。給付金を受け取る条件は、女性と変わりありません。
男性の育休取得率は低いことから、これを後押しするために、2022年施行の改正法で産後パパ育休と育児休業の分割取得が設けられています。
育児休業給付金の延長は可能?パパ・ママ育休プラスについても紹介
育児休業は一定の条件のもとに延長でき、育児休業給付金の受給期間も延長可能です。
次のようなケースでは、子が1歳6ヶ月になるまで育休期間が延長され、2歳までは再延長が可能です。
- 保育所などの申し込みを行っているが見つからない
- 子の養育をする予定の者が死亡やけが、病気などで養育が困難
- 離婚などで子の養育者と別居になった
- 新たな妊娠により6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定、または産後8週間を経過しない
これらの要件に該当しない場合でも、「パパ・ママ育休プラス」の制度を利用すれば、子が1歳2ヶ月になるまで育休を取得できるため、育児休業給付金を受け取れます。
「パパ・ママ育休プラス」は、夫婦がともに育児休業を取得し、一定の条件を満たすことで育休期間を延長できる制度です。分割取得や、夫婦で別々の期間に取得することもできます。
なお、実際に育児休業した日数が対象になるため、休業期間を短縮した場合は支給期間も短縮されます。
育児休業給付金の申請方法
育児休業給付金の申請手続きは、ハローワークに書類を提出して行います。申請者自身が直接ハローワークに申請することもできますが、賃金の証明などが必要になるため、雇用主である会社が行うのが一般的です。
また、申請は原則として2ヶ月に1度行い、初回と2回目以降では提出書類が異なります。
手続きの流れをみていきましょう。
① 必要な書類を用意する – 必要な書類一覧
育児休業給付金の受給には、資格確認手続きが必要です。そのため、初回の育児休業給付金の支給申請は受給資格確認の申請と同時に行うことが一般的です。
(必要書類)
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 育児休業給付受給資格確認票
- 育児休業給付金支給申請書
(添付書類)
- 育児休業を開始・終了する日、賃金の額と支払状況を証明するもの(賃金台帳、労働者名簿、出勤簿、タイムカードなど)
- 母子健康手帳など育児の事実、出産予定日および出産日を確認することができるもの(写し可)
② 申請手続きを行う – 申請手続きの流れ
申請手続きの流れは、次のとおりです。
- 申請者が会社の担当者に育児休業予定を伝え、提出書類(1・2)作成に必要な資料を提出する
- 会社側が、事務所の所在地を管轄しているハローワークに書類1・2と添付書類(4・5)を提出して手続きする
- ハローワークより受給確定通知と次回申請分の育児休業給付金支給申請書が届く
③ 給付の延長を申請する場合の手続き
育休中の従業員から延長の申し出を受けたときは、延長申請の手続きを行います。延長の申請は、初回と同じハローワークで行い、申請期間は次のとおりです。
- 延長する期間の直前の支給対象期間の支給申請時(ただし1歳到達日翌日(誕生日)以降の申請時に限る。)
- 1歳到達日を含む延長後の支給対象期間の支給申請時
申請には、次の書類が必要です。
- 育児休業給付金支給申請書
- 賃金台帳、出勤簿など、賃金額や支払状況を証明する書類
- 延長に必要な確認書類
延長に必要な確認書類は、以下のとおりです。
- 保育所が見つからない:市町村により発行された証明書など
- 養育予定の配偶者の死亡:住民票の写しと母子健康手帳
- 養育予定の配偶者の疾病、負傷など:医師の診断書
- 養育予定の配偶者との別居:住民票の写しと母子健康手帳
- 養育予定の配偶者の産前産後:産前産後に係る母子健康手帳
育児休業給付金を申請・受給希望する場合の注意点
育児休業給付金を申請する際は、社会保険の取り扱いなど、いくつか注意したい点があります。
詳しくみていきましょう。
社会保険料の取り扱い
育児休業給付金の受給中は、会社・本人負担分の社会保険料が免除されます。育児休業中の免除期間は社会保険料を支払ったものとみなされるため、将来の年金には影響しません。
社会保険料が免除されるのは、育児休業開始日の属する月から、育児休業終了日の翌日が属する月の前月までとなります。例えば、1月20日から開始して11月5日に終了した場合、免除になるのは1月〜10月までの期間です。
就業日数や時間に制限がある
育児休業給付金を受給している期間は、就業日数や時間に制限があります。支給単位期間(育児休業を開始した日から起算した1ヶ月ごとの期間)中に就業した場合、申告が必要です。
支給単位期間に就業している日が10日を超え、かつ就業している時間が80時間を超えるときは、育児休業給付金は支給されないため、注意してください。
パート・派遣・契約社員も申請可能
育児休業給付金は、パート・派遣・契約社員などの有期雇用社員も一定の条件を満たせば受給できます。
有期雇用社員特有の育休取得および給付金受給の要件は、「1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでないこと」です。
これまでは「引き続き雇用された期間が1年以上であること」という要件がありましたが、2022年の改正法施行で撤廃されました。雇用期間が1年未満の有期雇用社員でも、無期雇用社員と同じく育児休業、出生時育児休業、介護休業を取得できるようになっています。
残りの要件も、労使協定を結ぶことで除外することは可能です。
2025年以降は確認書類の提出量が増えるため注意
育児休業給付金は、2025年4月より受給延長手続きが厳格化されます。厳格化の背景には、給付金延長のため、保育所などへの入所意思がないにも関わらず申し込みを行う者が増えていたという事情があります。
制度の適切な運用を図るため、現行の確認書類である「入所保留通知書」や「入所不承諾通知書」に加えて、本人が記載する申告書と市区町村に保育所などの利用申込を行ったときの申込書の写しが必要となりました。
タイミングによっては第一子と第二子の金額が異なる場合がある
育児休業給付金は2人目の子どもでも受給できますが、1人目の子どもの育児休業中に2人目の子どもを妊娠し、そのまま2人目の子どもの産休・育休に入る場合にはもらえないケースもあるため注意が必要です。
まず、育児休業給付金は、育児休業開始日から2年間で11日以上出勤した日が12ヶ月以上あることが要件となっています。ただし、育休開始日以前の2年間でケガや病気など、やむを得ない事情で休業していた場合には、最長4年まで遡ることができるという4年遡りのルールが適用されます。
これにより、1人目の育休中に妊娠して、そのまま2人目の産休・育休に入る場合も育児休業給付金の受給が可能です。
一方で、1人目の育休を2年以上取得している場合、2人目の育休では4年遡っても出勤日が支給要件に足りずに支給対象とならない場合があります。また、1人目の育休申請で4年遡りのルールを適用している場合は、2人目の時点で出勤日が不足する可能性があるため、給付金を受給できない可能性があるでしょう。
育児休業申請書のテンプレート
育児休業申請書のテンプレートが必要な場合、汎用的に使えるテンプレートがあります。
以下リンクから、フォーム入力をすることで無料でダウンロードできます。ぜひご活用ください。
育児休業給付金の制度を正しく理解しよう
育児休業給付金は、育児に伴う休業期間中に給付金を受け取れる制度です。従業員は休業中の収入を心配することなく、育児に専念できます。
給付金の申請手続きは、申請者から必要書類を受け取り、会社が行うのが一般的です。期限を過ぎると申請できないため、注意してください。育児休業と給付金受給は延長もできるため、手続き方法を把握しておくとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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