- 更新日 : 2024年11月27日
労働条件通知書を電子化する際の要件や注意点を解説
使用者には、労働者と労働契約を締結する際に給与等の労働条件を明示する義務があります(労働基準法15条1項)。労働条件通知書とは、労働条件を明示するために用いられる書面です。平成31年4月1日から、一定の要件のもと労働条件通知書を電子化して交付することが可能になりました。今回は、労働条件通知書の電子化について説明します。
目次
労働条件通知書は電子化できる
労働条件通知書とは、使用者が労働者に対し労働条件を明示するために交付する書面です。労働者への労働条件の明示は、労働基準法によって使用者に義務として課せられています。
労働条件通知書には、最低限、以下の事項を記載する必要があります。
- 労働契約の期間
- 有期労働契約の場合は労働契約の更新基準
- 就業場所及び従事すべき業務
- 始業及び終業時刻(所定労働時間)
- 残業(所定労働時間超えの労働の有無)
- 休憩時間、休暇、休日
- 賃金の計算方法、支払方法、締日、支払時期
- 昇給に関する事項
- 退職や解雇に関する事項
従来、労働条件通知書は紙媒体での発行が義務付けられており、プリントアウトする手間暇や、遠隔地でやり取りをする場合の郵送代などのコストがありました。
平成31年4月1日以降、労働基準法施行規則が改正され、一定の要件を満たせば、労働条件通知書の電子化が認められ、電子媒体で交付することができるようになりました。ここでいう電子媒体には、メール、FAX、メッセージアプリやSNSが含まれます。
労働条件通知書を電子化するための要件
労働条件通知書を電子化し、メールやSNS等で交付するためには、労働者側が電子媒体での交付を希望していることが要件です。労働者が電子化を拒否or明示的に希望していないならば、原則どおり書面での交付が必要です。
労働者の希望(意思表示)が要件となるため、労働者が労働条件通知書の電子化を希望したことを客観的に証明できるよう、労働者とのやり取りを記録として保管しておくことが望ましいです。
また、労働者が受け取った電子媒体の労働条件通知書をプリントアウトできることも要件です。もっとも、電子媒体であれば基本的にプリントアウトできるでしょうし、労働者の個人的事情(例:プリンターを所持していない、操作方法がわからない等)によらず、一般的にプリントアウト可能な状態であれば、この要件を満たすことになります。こちらの要件については過度に意識する必要はないでしょう。
労働条件通知書を電子化するメリット
次に、労働条件通知書を電子化するメリットをご紹介します。わかりやすいメリットとしては紙代や郵送代を削減できる点が挙げられますが、それ以外にもメリットがあります。
業務の効率化
労働者を雇い入れる度、労働条件通知書の交付が必要になります。特に従業員数の多い大企業や、労働者の有期雇用比率が高い派遣会社では、従業員の管理にかかる業務負担は重くのしかかります。
そこで、労働条件通知書を電子化すれば、印刷、封入や発送といった業務をカットできるため、業務負担を軽減でき他の業務へリソースを割けるようになります。
また、郵送には時間がかかります(特に、最近は普通郵便の到達にこれまでより時間がかかる傾向があります)が、電子化しメールやSNS等で発信すれば直ちに労働者に労働条件を提示できます。これにより、労働契約締結までのスピードが上がります。
印鑑が不要になる
労働条件通知書を電子化することで、印鑑が不要になります。地味な作業ですが押印も面倒な作業の一つですから、この手間を省けるのは大きなメリットではないでしょうか。
コストの削減
紙代や郵送代にかかるコストを削減できることはもちろん、電子化によりペーパーレス化が実現できるため、保管スペースに要するコストも削減できます。労働条件通知書は、労働契約締結後一定期間にわたり保管しておく義務があります。紙で保管しようとすると、保管のためのファイルや倉庫等が必要ですが、電子化しておけばデータとして保管できるため、これらのコストを丸ごとカットできます。
労働条件通知書の電子化の際の注意点
労働条件通知書を電子化するに当たり注意すべき点もあります。きちんとルールを守らないと、労働関係法令に違反してしまうリスクがありますので注意点を確認しておきましょう。
労働条件通知書の中身が変わるわけではない
労働条件通知書を電子化したからといって、そこに記載する内容自体に変更点はありません。電子化は、あくまで労働者に対する交付の方法にすぎませんから、通知書にはきちんと上記の事項(労働契約の期間や賃金等)を記載する必要があります。
労働条件通知書の内容を簡素化できるわけではありませんので注意しましょう。
当然ですが、自社のルールと異なる内容の記載を記載して労働条件を良好に見せかけるのもNGです。
電子帳簿保存法に対応しているか確認する
電子帳簿保存法上、保存が義務付けられるのは「国税関係帳簿書類」「電子取引」(電子帳簿保存法2条2号、5号)に関するデータです。労働条件通知書は、これらのうち「電子取引」に該当するのではないかと解釈し得ますが、その点について現状では公的見解は示されていないようです。仮に労働条件通知書が電子帳簿保存法上の電子取引に該当するとすれば、保管義務は7年間となります。
労働条件通知書は、労働基準法によって5年間の保管義務があります。法令遵守はもちろんですが、従業員情報の管理やトラブルが発生した場合の証拠として残すためにも、いずれにせよ労働条件通知書のデータは電子帳簿保存法上の規定も満たす7年以上の保管を推奨します。
電子帳簿保存法に対応するための保管方法としては、①電子帳簿保存(電子的に作成したデータをそのまま保存)、②スキャナ保存(紙で受領・作成した書類をPDFデータで保存)、③電子取引データ保存(電子的に授受した取引情報をデータで保存)の3つのパターンがあります。
労働条件通知書の場合、自社作成の労働条件通知書を①or②で保管し、労働者からの受領した希望や労働契約締結の同意を②or③で保管することになります。
労働者本人が確認したか
労働条件通知書を電子化しメールやSNS等で交付した場合、それを労働者個人が確認したか確認する必要があります。労働者が確認していなければ、労働条件を通知したことにならず、使用者としての義務を果たせていないとの解釈が成り立つ可能性があります。交付したつもりであっても、迷惑メールフォルダに入っていたりSNS上の保管期限が経過していたりすると、労働者は労働条件通知書を確認していないことになる恐れがあります。紛争を未然に防止する観点からも、使用者は労働者が通知を受け取ったことを確認するようにしましょう。
対処方法としては、労働者から、労働条件通知書を受け取り労働契約の締結に同意する旨の返答をメールやSNS等で受領し、記録として保管しておくことが望ましいです。また、厚生労働省の見解によると、労働条件通知書を交付する際は、メール等の本文に労働条件を記載するのではなく、通知書のPDF等の印刷や保存がしやすいファイルを添付しての交付が望ましいとされています。
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労働条件通知書の電子化により身近なところからDXを
労働条件通知書の電子化により、業務の効率化やコスト削減を実現できます。特に、従業員数の多い企業や従業員の入れ替わりが激しい企業にとって、導入のメリットは非常に大きいといえるでしょう。電子化の要件やルールを守り、身近なところからDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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