- 更新日 : 2024年11月27日
雇用契約書の書き方ガイド!正社員・アルバイト対応
企業が労働者を雇用する際には、雇用契約を締結します。雇用契約書には労働時間や勤務形態などの様々な事項が記載されていますが、必ず記載を要する事項も存在するため注意が必要です。
当記事では、雇用契約書の概要や雇用形態別の記載事項などについて解説します。雇用契約締結時の参考としてください。
目次
雇用契約書とは
「雇用契約書」とは、労働者と使用者が雇用契約を締結する際に取り交わす書面のことです。労働条件について両者が確かに合意したうえで、契約を締結したことを証するために作成されます。「労働契約書」と呼ばれる場合もありますが、内容として違いはありません。
労働条件通知書との違い
雇用契約書と似た書面として、「労働条件通知書」が存在します。作成が義務ではない雇用契約書と異なり、労働条件通知書の作成および交付は企業の義務です。労働基準法第15条第1項によって、企業は労働者を雇用する際に、賃金や労働時間など特定の労働条件を明示することが義務付けられています。
労働条件の明示義務に違反した場合には、労働基準法第120条第1号によって、30万円以下の罰金が科せられる恐れもあるため、必ず明示しなければなりません。
作成は義務ではないが作成することがのぞましい
労働条件通知書の作成は法による義務ですが、雇用契約書の作成は法的に義務付けられていません。そのため、書面の形式で契約を交わす必要はなく、口頭で雇用契約を締結しても、有効な契約として扱われます。
しかし、労働条件について両者が合意したことを書面の形で残しておかなければ、後で言った言わないのトラブルが発生する恐れもあるでしょう。そのため、多くの企業では、雇用契約を締結する際には、雇用契約書を作成したうえで、両者が署名捺印し、確かに合意したことの証拠として残しています。また、雇用契約書は2通作成し、企業と労働者が双方1通ずつ保管することが通常です。
雇用契約書と労働条件通知書は兼用可能
雇用契約書と労働条件通知書は、本来別々の書類ですが両者をひとつの書面として作成することも可能です。そのような場合に作成された書面は、「雇用契約書兼労働条件通知書」と呼ばれます。雇用契約書と労働条件通知書を別々に作成し、交付するよりも作成の手間がかからず、保管も容易になるため、多くの企業で雇用契約書兼労働条件通知書を作成しています。
雇用契約書の書き方!記載する内容は?
労働条件通知書には、必ず明示を要する「絶対的明示事項」と、定めがある場合に明示を要する「相対的明示事項」が存在します。また、すでに述べた通り、雇用契約書と労働条件通知書は兼用可能です。そのような場合には、雇用契約書に絶対的明示事項と、相対的明示事項を記載しなければなりません。
絶対的明示事項
使用者が労働契約締結に際して必ず明示しなければならない絶対的明示事項は、以下のとおりです。
- 労働契約における期間
- 労働契約に期間の定めがある場合の更新基準
- 就業すべき場所および従事すべき業務内容
- 始終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩の時間、休日、休暇および就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切り時期および支払い時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
上記の事項は、口頭による明示では足りず、書面等で明示することが求められます。ただし、昇給に関する事項については書面等ではなく、口頭による明示も認められます。
相対的明示事項
労働契約の締結に際して、企業に定めがある場合には、以下の相対的明示事項を労働者に明示しなければなりません。
- 決定や計算、支払い方法および支払い時期など、退職手当に関する事項
- 退職手当を除く臨時の賃金、賞与などに関する事項
- 最低賃金に関する事項
- 安全および衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外における傷病の扶助に関する事項
- 表彰および制裁に関する事項
- 休職に関する事項
上記の事項は定めがある場合に明示が求められるため、たとえば退職手当や休職に関する事項を定めていない企業であれば、当該事項は明示を要しません。また、絶対的明示事項と異なり、相対的明示事項は、書面等による明示は必要なく、口頭のよる明示でも足ります。しかし、後のトラブルを防止するために、書面等の形式で通知することが望ましいでしょう。
2024年4月からは明示事項が追加
これまで解説した明示事項に加え、2024年4月以降に締結される雇用契約には、以下の事項も明示しなければなりません。
- 就業場所および業務の変更範囲
- 更新上限の有無およびその内容
- 無期転換申込の機会および転換後における労働条件
1については、すべての労働者の契約締結時と更新時に明示しなければなりません。また、2と3は有期雇用契約の労働者についてのみ明示が求められる事項です。2については、有期雇用契約の締結時と更新時に明示が求められ、更新上限の新設や短縮を行う場合には、その理由も説明することが求められます。3については、無期転換申込権が発生する契約更新の際に明示が必要です。また、転換後の労働条件の決定にあたって、考慮した事項についての説明に努めることも求められています。
参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
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正社員の雇用契約書の書き方のポイント
企業には、多様な雇用形態の労働者が働いています。それぞれの雇用形態に特徴があるため、雇用形態に応じて雇用契約書を作成しなければなりません。本項では、正社員の雇用契約書を作成する際におけるポイントを解説します。
採用する労働時間制を明記する
正社員は、一般的な8時5時や9時6時といった労働時間制のほかにも、フレックスタイム制や裁量労働制などによって働くことも少なくありません。飲食業や宿泊業、小売業などの場合には、1カ月単位の変形労働時間制を採用している場合も多いでしょう。
働き方改革による多様な働き方の広がりや、ワークライフバランスの重視などにより、現在の企業では多様な労働時間制が採用されています。雇用する正社員がどのような労働時間制で働くのかを明記することで、企業との間で認識の齟齬が生じず、後のトラブルを予防できます。
異動や職種変更の有無を明記する
補助的な業務を担うパートタイムやアルバイト等の非正規労働者と異なり、基幹業務を担う正社員は異動や職種の変更が行われることも珍しくありません。このような異動は企業の人事権に基づく人事戦略の一環として行われ、その配置が適切なものであれば、労働者は原則として拒むことはできません。ただし、雇用契約書に記載のない範囲の異動や、職種変更はできません。たとえば、エンジニア職に限定して採用した場合には、営業職などへの職種変更を命じることはできないわけです。
明記されていない範囲の異動や職種変更を強要することは、不当人事となってしまいます。不当な人事異動を行えば、納得のいかない労働者の退職や、最悪、訴訟の提起にもつながってしまいます。このようなことを避けるためにも、雇用契約書には異動や職種変更の有無や範囲を明記しておきましょう。
転勤の有無を明記する
正社員であれば、転勤を命じられる場合もあります。しかし、転勤命令も雇用契約の内容に含まれている範囲でなければ許されません。転勤がない勤務地限定採用である場合は、もちろん転勤を命じることはできません。また、転勤の範囲を限定している場合には、その範囲外への転勤を命じることは不可能です。東京都内に転勤の範囲を限定している場合には、大阪や福岡に転勤を命じることはできないわけです。
転勤の中でも住居の変更を伴うものは、労働者にとって特に大きな負担となります。十分な理解と同意を得たうえで行わなければならないため、雇用契約書にもそのような転勤がある旨を明記することが必要です。
契約社員の雇用契約書の書き方のポイント
契約社員は、期限を定めない無期雇用契約の正社員と異なり、有期雇用契約である場合がほとんどです。そのため、契約期間について注意することが必要となります。
契約期間の上限に注意する
契約社員に多い契約期間に定めのある有期雇用契約は、原則として3年が上限となります。ただし、次の場合には上限が5年となります。
- 高度で専門的な知識や技能、技術などを有する場合(当該専門的知識等を用いる業務に従事する場合に限る)
- 満60歳以上である場合
1に該当する労働者の例としては、博士の学位を有する者や、公認会計士、医師、弁護士などが挙げられます。
有期雇用契約には、契約期間が通算5年となった場合に適用される「無期転換ルール」も存在します。そのため、契約社員との雇用契約では契約期間の上限だけでなく、通算期間にも注意することが必要です。
パート・アルバイト社員の雇用契約書の書き方のポイント
パートタイムやアルバイト等の短時間労働者は、他とは異なる特別な明示事項が定められています。また、シフト制で働く場合も多く、そちらにも注意しなければなりません。
パートタイム労働法施行規則により義務付けられている事項を全て記載する
パートタイムやアルバイト等の短時間労働者は、絶対的明示事項や相対的明示事項のほかにも、パートタイム労働法施行規則第2条で定める事項を明示しなければなりません。明示事項は以下のとおりです。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理等の改善に関する相談窓口
上記事項は「特定事項」と呼ばれ、口頭ではなく書面等により明示しなければなりません。この規定に違反した場合には、パートタイム労働法第31条により、10万円以下の過料に処せられます。
参考:
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov法令検索
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則|e-Gov法令検索
シフト制の場合は勤務パターンを記載する
パートタイムやアルバイト等の短時間労働者は、交替勤務によるシフト制で働くことも少なくありません。コンビニエンスストアやファミレスなどの小売業や接客業、工場の生産スタッフなどの製造業は、特にシフト制の採用が多いでしょう。
シフト制には、「自由シフト制」「固定シフト制」「完全シフト制」などの種類が存在します。自分がどのようなシフト制で働くのか理解しておかなければ、出勤日などの調整も困難です。雇用契約書に明記することで、適用されるシフト制を明示しておきましょう。また、日勤・夜勤の2交代制や、早番・中番・遅番の3交代制など、勤務パターンも併せて明記しておく必要があります。
雇用契約書を紙で書かずに、電子化できる?
契約書の電子化は、郵送代の節約や省スペース化など、様々なメリットが存在します。また、雇用契約書も条件を満たす場合には電子化が可能です。
従業員が希望する場合は電子化が可能
雇用契約書自体に様式の定めはなく、口頭でも契約が成立するため、電子化することも自由です。しかし、雇用契約書兼労働条件通知書として作成する場合には、書面として作成しなければなりませんでした。これは、労働条件通知書の明示事項が原則として、書面による明示を求めていたためです。しかし、2019年4月より、電子メール等で明示することも可能となりました。認められる方法は以下のようなものです。
- 電子メール
- FAX
- SNS
- メッセージアプリ
上記のような方法でも明示が可能となったため、現在では雇用契約書兼労働条件通知書も電子化が可能となっています。ただし、労働者が希望する場合に限定されるため、企業が一方的に電子媒体で明示することはできないことに注意が必要です。
電子化すればコスト削減につながる
電子化することで、印刷コストや郵送代の削減が可能です。また、クラウドやPCの記録媒体に保管すればよくなるため、保管スペースに悩まされることもありません。個人情報が多く記載される雇用契約書は、保管に関しても厳重な取扱いが必要となるため、手間が少なくなることもメリットでしょう。
ただし、アクセス権限の付与等を十分に管理し、セキュリティに気を配る必要があります。個人情報の漏えいは、企業の信用を損なうため、しっかりとしたセキュリティ体制を構築したうえで電子化に臨みましょう。
正しく雇用契約書を作成しトラブルの予防を
雇用契約書は、企業と労働者が雇用契約について合意したことを証する重要な書面です。明示しなければならない事項も多岐にわたるため、しっかりと把握し、漏れがないようにしなければなりません。当記事を参考に正しく雇用契約書を作成し、労働者との間でトラブルが生じないように努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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