- 更新日 : 2024年12月13日
社会保険の加入義務とは?対象者の条件やパート・アルバイトの適用範囲拡大についても解説!
社会保険は、けがや病気、出産、老齢、障害、死亡など、生活が困難になるさまざまな事故が起きた場合に、その生活を安定させることを目的にした保険制度です。しかし、制度が複雑で、加入条件や補償内容もさまざまです。
今回は、この社会保険の加入条件や手続き、パート・アルバイト、派遣社員の社会保険の適用について解説していきます。
目次
社会保険に加入できる事業所
社会保険は事業所単位で適用されます。この社会保険が適用される事業所のことを「適用事業所」と言います。適用事業所は2種類に分けることができます。ここではそれぞれについて見ていきましょう。
強制適用事業所
強制適用事業所とは、事業主や労働者の意思、業種や会社の概要に関わらず、社会保険への加入が義務づけられている事業所のことを言います。株式会社や合同会社などの法人は、社長が1名だけの場合であっても強制適用事業所となります。したがって、社会保険の加入手続きを行う必要があるのです。
個人の事業所の場合、農林漁業・サービス業などの一部の業種を除き、常時雇用する従業員が5人以上の場合に、強制適用事業所となります。農林・水産・畜産業、飲食店や理容業、旅館のような接客娯楽業、寺や神社といった宗教業などは非適用業種と呼ばれ、雇用する人数に関係なく、強制適用事業所とはみなされません。
ただし、公認会計士、弁護士、行政書士などいわゆる士業と呼ばれている業種については、これまでは非適用業種とされていましたが、2022年(令和4年)10月1日から国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴い、社会保険の強制適用事業所になっています。
任意適用事業所
任意適用事業所とは、上述の強制適用事業所に該当しないものの、半数以上の従業員が適用事業所になることに同意し、事業主の申請により厚生労働大臣の認可を受けた事業所のことを言います。任意適用の申請では、健康保険と厚生年金保険のどちらか一方だけ申請することも認められています。
強制適用事業所と任意適用事業所は、あくまで適用事業所となる前提が異なるだけで、加入したあとの保険給付、被保険者の対象範囲、保険料等の扱いについて違いはありません。また、任意適用事業所となれば、適用事業所になることについて同意をしなかった従業員についても、社会保険の加入手続きが必要となりますので注意しましょう。
一括適用が可能なケース
会社の本社や支店ごとに個別に適用された適用事業所があり、人事や給与等の業務は本社でまとめて管理されている場合、それぞれの適用事業所ごとに手続きを行うのは難しいのではないでしょうか?
その場合、事業主が同じである等、基準を満たす場合には、本社を、支店を含めた一つの適用事業所にするための申請を行うことができます。これを社会保険の一括適用と言います。承認されると、手続きを本社で行うことができるようになるため、手続きの効率化ができます。
なお、一括適用の承認を受けるためには、厚生年金保険及び協会けんぽ管掌の健康保険について、次のすべての基準を満たす必要があります。
- 一つの適用事業所にしようとする複数の事業所に使用されるすべての者の人事、労務及び給与に関する事務が電子計算組織により集中的に管理されており、適用事業所の事業主が行うべき事務が所定の期間内に適正に行われること。
- 一括適用の承認により指定を受けようとする事業所において、上記(1)の管理が行われており、かつ、当該事業所が一括適用の承認申請を行う事業主の主たる事業所であること。
- 承認申請にかかる適用事業所について健康保険の保険者が同一であること。
- 協会けんぽ管掌の健康保険の適用となる場合は、健康保険の一括適用の承認申請も合わせて行うこと。
- 一括適用の承認によって厚生年金保険事業及び健康保険事業の運営が著しく阻害されないこと。
引用:一括適用|日本年金機構
社会保険の加入対象となる被保険者は?
社会保険の適用事業所に常時雇用される人は、国籍や性別・年金受給の有無に関わらず、健康保険・厚生年金保険の被保険者となりますので、会社は加入手続きを行わなければなりません。ただし、健康保険は75歳未満、厚生年金保険は70歳未満の従業員が対象です。
ここでいう「常時雇用」は、事業所で常時勤務し、給与や賃金などが支払われている労働者を指します。このとき、雇用契約書の有無は関係なく、報酬が支払われている試用期間中も加入するべき対象として扱われます。
【社会保険の加入対象となる被保険者】
- 法人の代表者
- 役員、管理職
- 正社員
- 試用期間中の社員
- 外国人従業員
従業員のいない個人事業主は社会保険の加入義務がある?
従業員を雇用していない個人事業主の場合、適用事業所とはみなされません。しかし、日本は「すべての国民は何らかの社会保障制度のもとに生活する権利がある」という考えであり、国民皆保険制度を採用していますので、すべての国民が公的医療保険に加入する必要があります。個人事業主が加入する社会保険の選択肢は以下の通りです。
健康保険
基本的に、個人事業主が加入する健康保険は市町村が運営する「国民健康保険」です。それ以外の選択肢としては、従事する業種の健康保険組合への加入、もしくは、前職で加入していた健康保険の任意継続、または配偶者の扶養に入る選択肢があります。
介護保険
40歳以上の個人事業主の場合、介護保険への加入義務があります。介護保険料は、国民健康保険料の支払いとあわせて納付します。65歳以上の場合は、年金を受給していれば年金から天引きされる形で介護保険料を納付します。
年金保険
個人事業主は、「国民年金」に加入します。また、個人事業主の場合は、国民年金に合わせて「国民年金基金」の公的年金制度への加入や、「確定拠出年金」に加入する選択肢もあります。
適用除外になるケース
社会保険の適用事業所に雇用されていても、社会保険への加入が適用除外になる人もいます。以下のようなケースが該当します。
- 1週間の所定労働時間及び1カ月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満である者
- 臨時に雇用される人で、以下のどちらかに該当する人
a)日々雇い入れられる人(ただし、引き続き1カ月を超えて雇用される場合は、その日から加入者になる)
b)2カ月以内の期間で雇用される人(ただし、2カ月を超え、継続して雇用された場合を除く) - 所在地が定まっていない事業所または事務所に雇用されている人
- 季節的業務に雇用されている人(継続して4カ月超の期間、雇用される場合を除く)
- 臨時的事業の事業所に雇用されている人(継続して6カ月超の期間、雇用される場合を除く)
健康保険の場合は、上記以外に、
- 国民健康保険組合の事業所に雇用される人
- 後期高齢者医療の被保険者となる人
などがあります。
社会保険の加入条件
ここからは、パート・アルバイトや派遣社員の社会保険の加入条件について見ていきましょう。
パート・アルバイトの社会保険の加入条件について
パート・アルバイトなどの「パートタイム労働者」の場合は、いわゆる正社員との労働時間と比較して、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上になる場合には社会保険の加入対象となります。
また、正社員の4分の3に満たない場合でも、従業員が以下の短時間労働者の要件に全て該当する場合には、被保険者となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 継続して2カ月超の勤務見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上・学生以外
- 従業員101人以上の企業に勤務している(特定適用事業所)
派遣労働者の社会保険加入条件について
派遣労働者の場合も通常の労働者と同じで、派遣会社で雇用されて働くため、加入要件を満たした場合には派遣会社の社会保険に加入することになります。
その場合の加入条件に関しては、派遣会社の規模によって異なるため、派遣会社に確認しましょう。
社会保険の加入手続きは?
健康保険と厚生年金の加入手続きはまとめて行うことができます。事業所は社会保険への加入義務が発生した日から5日以内に、事業所の所在地を管轄する年金事務所に届出を提出します。
なお、登記上の所在地と実際に事業を行う所在地が一致しない場合は、実際に事業を行っている所在地を管轄する年金事務所に提出します。
社会保険加入のための必要書類
社会保険の加入手続きでは、以下の書類を提出します。
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- 法人(商業)登記簿謄本(コピー不可)
- 個人事業所の場合は事業主の世帯全員の住民票(コピー不可・マイナンバーの記載のないもの)
※任意適用事業所の場合は、さらに提出必要書類が追加されます
なお、実際に事業を行っている事業所の所在地と登記上の所在地が一致しない場合は法人(商業)登記簿謄本ではなく、「賃貸借契約書のコピー」などの所在地が確認できる書類が必要です。
従業員の社会保険加入・適用除外における手続き
従業員の社会保険の加入手続きでは、以下の書類を提出します。
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
従業員を採用した場合など、新規で健康保険・厚生年金保険に加入する人が出てきた際に、その事実の発生から5日以内に会社が行う手続きです。
従業員の社会保険の喪失手続きでは、以下の書類を提出します。
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
健康保険・厚生年金保険に加入していた人が退職や死亡により資格喪失しなければいけなくなった際に、その事実の発生から5日以内に会社が行う手続きです。
どちらも、事務センターまたは勤務地を管轄する年金事務所に電子申請、郵送、窓口持参の方法により書類を提出します。
社会保険の加入条件が満たされなくなった場合
健康保険・厚生年金保険に加入していた人が契約変更等により、健康保険・厚生年金保険の加入条件が満たされなくなった場合も、会社は、その事実の発生から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」の手続きを行います。
2022年10月以降、パート・アルバイトの社会保険適用範囲が拡大!
2022年(令和4年)10月以降、段階的にパート・アルバイトの社会保険適用範囲が拡大されました。
特定事業所の範囲
法人の場合、同一の法人番号(会社全体)で雇用する社会保険被保険者の総数が、以下の条件に合致する場合に特定適用事業所となり、パート・アルバイト等の短時間労働者の要件に合致する従業員を社会保険に加入させる必要があります。
2022年10月からは「常時101人以上を雇用する事業所」、2024年10月からは「常時51人以上を雇用する事業所」です。なお、個人事業主の場合は現在の事業所の被保険者数でカウントします。
【特定適用事業所の範囲】
2016年10月~ | 現行2022年10月~ | 2024年10月~ |
---|---|---|
常時501人以上 | 常時101人以上 | 常時51人以上 |
短時間労働者の要件の範囲
2022年10月以降、短時間労働者の要件のうち、「雇用見込み」の部分の適用範囲が拡大されました。これまでは「継続して1年以上雇用される見込み」でしたが、今後は「継続して2カ月を超えて雇用される見込み」と適用拡大になっています。
2016年10月~ | 2022年10月~ |
---|---|
週20時間以上 | 変更なし |
月額8.8万円以上 | 変更なし |
継続して1年以上雇用される見込み | 継続して2カ月を超えて雇用される見込み |
学生でないこと | 変更なし |
社会保険の加入義務があるのに未加入だった場合はどうなる?
年金事務所は、適宜、企業の社会保険適用や従業員の加入状況を調査しています。そのため、適用事業所であるにも関わらず、従業員の未加入が発覚した場合、過去2年にさかのぼって保険料が徴収されることになります。
また、事業主が故意に従業員の加入手続きを行わないなど、悪質と判断されたケースでは、法律に基づき、事業主に懲役または罰金が科されることにもなりかねません。
社会保険の未加入は、企業の社会的信用を傷つけるだけではなく、従業員に大きな不利益をもたらすものです。条件に合致する事業所は、速やかに適用事業所の手続きを行い、加入条件に合致する従業員を雇用したら、期限内に加入申請をしましょう。
法改正による加入条件の変更を正しく理解しましょう
社会保険に加入できる事業所や被保険者を正確に把握することは、手続きを行う上で大事なことです。また、社会保険の適用拡大で加入条件を満たすことになる被保険者も増えてきています。
間違った知識による案内をしないように、再度社会保険の加入条件を確認して、正確な手続きを進めていきましょう。
よくある質問
社会保険の加入条件について教えてください
事業主や労働者の意思、業種や会社の規模に関わらず、社会保険に加入が義務づけられている事業所のことを言います。株式会社や合同会社などの法人は、社長が1名だけの場合であっても強制適用事業所となります。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険の加入対象となる被保険者について教えてください
社会保険の適用事業所に常時雇用される人は、国籍や性別・年金受給の有無に関わらず、社会保険に加入します。パート・アルバイトや派遣社員の場合も、加入要件を満たした際場合には社会保険の加入対象者になります。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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