• 作成日 : 2022年12月16日

建設業における労災保険の特徴は?単独有期と一括有期の違いなど

建設業における労災保険の特徴は?単独有期と一括有期の違いなど

事業主は、労働者を雇用すれば原則として労働保険(労災保険、雇用保険)の適用事業所として加入義務が生じ、所定の手続きを行う必要があります。

一般的な業種の手続きは共通していますが、建設業など一部の業種の手続きは別に取り扱われます。

本稿では労働保険の適用事業の概要とともに、建設業における労災保険の加入手続き、保険料の算定方法などについて解説します。

建設業における労災保険の特徴

労働保険は、労災保険と雇用保険の総称です。保険給付を行う行政機関は労働基準監督署、公共職業安定所と異なりますが、これらの保険料の徴収などは原則として一体として扱われています。

しかし、建設業を始めとする一部の業種は、その業態から例外として取り扱われます。

工期という事業の完了期間があり、その間請負関係によって異なる事業主に雇用される労働者が業務に従事する業態であるためです。

継続事業と有期事業の違い

継続事業とは事業の期間が予定されていない事業のことで、一般の事務所や商店、工場などが該当します。

建設業でも、本社や営業所の事務部門は継続事業です。

一方で建設業の現場部門は、事業の期間が予定される事業なので有期事業として取り扱われます。有期事業とは一定の予定期間に所定の事業目的を達成して終了する事業のことで、建築工事や道路工事、ダム工事などの建設業、立木の伐採などの林業が該当します。

単独有期事業と一括事業の違い

建設業では、原則として個々のビル建設や道路工事を一つの事業単位として扱います。これを単独有期事業と呼びます。

例外として、事業規模が小さい工事は複数の工事を一括して一つの事業として扱います。これを一括有期事業と称し、以下の要件を満たす場合に該当します。

  1. 事業主が同一人であること
  2. 一括しようとする各事業が建設の事業または立木の伐採の事業であること
  3. 各事業の概算保険料が160万円未満であること
  4. 建設事業の場合、各事業の請負金額が1億8,000万円未満(消費税抜き)、立木の伐採の事業の場合、各事業の素材の見込生産額が1,000立方メートル未満であること
  5. 各事業の労災保険率が同一であること
  6. 各事業の保険料納付を担当する事務所が同一であること

一元適用事業と二元適用事業の違い

前述のとおり、労働保険(労災保険、雇用保険)は一体として一元適用されるのが原則です。これが一元適用事業であり、労災保険に係る保険関係と雇用保険に係る保険関係との双方を一つの事業についての保険関係として取り扱います。

一般保険料の算定や徴収についても、一元的に処理することになります。

建設業は業態の特殊性から一元適用事業ではなく、労災保険に係る保険関係と雇用保険に係る保険関係を別々に取り扱う二元適用事業に該当します。

建設業における労災保険の手続き

建設業は事業としては有期事業であり、保険関係の扱いでは二元適用事業ということになります。

では、具体的な保険関係の成立や保険料の算定の方法は、どのようになっているのでしょうか。

保険関係成立届の提出

建設業で労災保険に加入(保険関係の成立)するには、所轄の労働基準監督署に保険関係成立届を提出する必要があります。

ただし、手続きは単独有期事業と一括有期事業で異なります。

1.単独有期事業の場合

保険関係成立届(様式第1号)を保険関係が成立した日(労働者を雇用して工事を開始した日)から10日以内に、工事の所轄の労働基準監督署に提出します。

保険関係の成立に伴い、概算保険料を納付します。概算保険料申告書(様式第6号)を保険関係が成立した日(労働者を雇用して工事を開始した日)から20日以内に工事の所轄の労働基準監督署、労働局または日本銀行(本店、支店、代理店、歳入代理店(銀行・信用金庫の本店・支店、郵便局))に提出し、概算保険料を納付します。

単独有期事業では、一括有期事業の要件に該当しない規模の大きな工事単位で、それぞれ保険関係の成立および概算保険料の申告納付が必要です。

2.一括有期事業の場合

最初の一括有期事業(工事)を開始したとき、保険関係成立届(様式第1号)を保険関係が成立した日(労働者を雇用して最初の工事を開始した日)から10日以内に有期事業を一括する事務所の所轄の労働基準監督署に提出します。

その際、概算保険料申告書(様式第6号)を保険関係が成立した日(労働者を雇用して最初の工事を開始した日)から50日以内に有期事業を一括する事務所の所轄の労働基準監督署、労働局または日本銀行(本店、支店、代理店、歳入代理店(銀行・信用金庫の本店・支店、郵便局))に提出し、概算保険料を納付します。

労災保険関係の成立票の掲示

労働保険成立手続きの後、建設事業の元請負人はその現場の見やすい場所に「労災保険関係成立票(様式第25号:縦25㎝以上、横35㎝以上)」を掲げなければなりません。

労災保険関係成立票には、以下のような事項を記載します。

  1. 保険関係成立年月日
  2. 労働保険番号
  3. 工事期間
  4. 事業主の住所・氏名
  5. 注文者の氏名
  6. 事業主代理人の氏名

労災保険の確定保険料の計算(工事終了後)

工事終了後は労災保険の確定保険料を計算し、最初に概算で納付した概算保険料との差額を精算します。

超過している場合は還付を請求し、不足がある場合は差額を納付します。

建設業における労災保険料の計算方法

建設業の場合、労働保険料の額は原則として下請事業場の労働者を含めた全労働者に支払った賃金総額に、所定の保険料率を乗じて算出されます。

しかし、建設業では数次の請負で工事が行われることが多く、労災保険料の納付義務がある元請事業者が賃金総額を正確に算定することが難しいケースもあります。

そのため、請負による建設の事業として成立している事業場については、請負金額に工事の種類で設定されている労務費率を乗じて算出した金額を賃金総額とすることが認められています。

計算式は以下のとおりです。

労働保険料=請負金額×労務費率×労災保険率

労務比率表

引用:「令和4年度 労働保険関係事務手続きのしおり」|福島労働局

建設業における労災保険の特徴を知っておこう!

労働保険の適用事業の概要や建設業における労災保険の加入手続き、保険料の算定方法などについて解説しました。

建設業の労働保険関係は特殊であり、わかりにくい仕組みになっています。

建設業で新たに労働保険料の事務担当者になる場合は、建設業が有期事業であり、二元適用事業であることを理解した上で、保険料の算定方法を勉強しておきましょう。

よくある質問

建設業における労災保険の特徴は何ですか?

建設業は有期事業であり、二元適用事業であるため、一般の事業と保険関係の成立および保険料の納付手続きが異なることです。詳しくはこちらをご覧ください。

継続事業と有期事業の違いについて教えてください。

継続事業は事業の期間が予定されていない事業で、有期事業は一定の予定期間に所定の事業目的を達成して終了する事業です。詳しくはこちらをご覧ください。


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