- 更新日 : 2024年11月1日
社会保険における月額変更届とは?随時改定のタイミング
健康保険や厚生年金保険の保険料は、給与に応じて区分した標準報酬月額によって決まります。標準報酬月額の決定方法には、資格取得時決定、定時決定、随時改定の3つがありますが、なかでも忘れやすいのが随時改定の手続きです。
随時改定に関する基礎知識とともに、標準報酬月額が変更されるタイミングについて確認していきましょう。
目次
社会保険における月額変更届とは?
給与計算を行う人事労務担当者にとって、健康保険や厚生年金保険などの社会保険の手続きは、避けては通れない必須の業務です。そのなかでも随時改定の手続きは、特に忘れやすく、注意を必要とする業務といえるでしょう。
随時改定の手続き(月額変更届)は、定時決定の手続き(算定基礎届)と異なり、毎年決まった時期に必ず行わなければならない手続きではありません。最初に、月額変更届の提出が必要となる条件について見ていきましょう。
月額変更届の提出が必要となる3つの条件
昇給や降給があると実際の給与と現行の標準報酬月額との間に差が生じ、標準報酬月額が実態とかけ離れてしまうことがあります。月額変更届は、昇給や降給があった際、標準報酬月額と実際の給与との間に大きな差が生じないように調整するために提出します。
標準報酬月額を変更して実態と合った等級で決定することを随時改定と呼び、手続きは日本年金機構に月額変更届を提出することによって行います。
月額変更届は、次の3つの条件をすべて満たしたときのみ提出します。
- 基本給や各種手当など、支給率や支給額が決められた固定的賃金に変動があったとき
- 賃金の変動があった月以後3か月間連続して、支払基礎日数が一定基準を満たすとき
- 賃金変動以後3か月間の給与の平均額に基づく標準報酬月額の等級と、従前の標準報酬月額の等級との間に2等級以上の差が生じたとき
月額変更届を提出する際の注意点を確認
月額変更届を提出する際の注意点を3つの条件に沿って確認していきましょう。
1.基本給や各種手当など、支給率や支給額が決められた固定的賃金に変動があったとき
「固定的賃金」とは、支給率や支給額が決められたものを指します。残業時間の増減により残業代が変動しても固定的賃金の変動には該当しませんが、割増賃金率の変更や時間単価の変更などにより時間外手当の支給割合や支給単価が変更となった場合には、固定的賃金の変動に該当します。
昇給や降給によって基本給に変更があったときだけではなく、日給や時間給の単価の変更、役職手当や家族手当などの支給額の変更も対象になります。従業員が引越しして通勤手当が変更となったり、結婚などにより家族手当が追加となったりした場合にも対象になるので注意しましょう。
【固定的賃金の変動に該当する具体例】
- 昇給や昇格による基本給などの変更
- 家族手当、通勤手当、住宅手当、役職手当など支給額が固定されている手当の追加や変更
- 日給や時間給の給与の基礎となる単価の変更
- 歩合給や出来高給などの支給単価の変更や支給率の変更
- 賃金体系の変更(日給→月給、月給→歩合給など)
- 新たな手当の支給(追加)や手当の廃止
2.賃金の変動があった月以後3か月間連続して、支払基礎日数が一定基準を満たすとき
「賃金の変動があった月」とは
賃金変動後の給与が実際に支払われた月を指します。たとえば給与の支払いが月末締翌月20日払いの場合、1月に昇給があったとしても、その昇給分が含まれる給与が支払われるのは2月20日です。
この場合、固定的賃金の変動があった月は2月となるため、2月・3月・4月の3か月間の各月の支払基礎日数が基準を満たすかどうかを判断する必要があります。
また、月の途中(賃金計算期間の途中)で昇給や降給があった場合には、昇給・降給による給与が1か月分確保された月、つまり、昇給や降給により上昇または下降した給与が丸々1か月分反映した月以後の3か月間で判断します。
「支払基礎日数」とは
「支払基礎日数」とは、給与計算の対象となる日数のことです。月給制の場合は、給与計算の基礎となる期間の暦日数をそのまま支払基礎日数として数えます。
ただし、日給月給制のように欠勤日数に応じて給与から欠勤分を控除する場合は、就業規則や賃金規程に定めた欠勤控除の規定に基づき、その給与計算の対象となる月の所定労働日数から欠勤日数を差し引いて支払基礎日数を計算します。
1/1から1/31までの賃金計算期間で2/20が給料日の場合
<月給制の場合>
- 欠勤が1日もない場合
支給月:2月(支払基礎日数:31日) - 所定労働日数で欠勤控除する場合
所定労働日数22日で4日欠勤控除 → 支給月2月(支払基礎日数:18日) - 暦日数で欠勤控除する場合
暦日数が31日で欠勤7日間を控除 → 支給月2月(支払基礎日数:24日)
<日給制の場合>
出勤日(稼働日)の日数が支払基礎日数になります。
支払基礎日数は3か月ともに17日以上必要となり、1か月でも17日未満の月があれば手続きの対象とはなりません。ただし、社会保険の適用拡大に伴う特定適用事業所に該当する企業に勤務する短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上となるパート・アルバイトなど)の場合には、支払基礎日数が11日以上となることにも注意が必要です。
また、従業員が年次有給休暇を取得した場合には、その日数も支払基礎日数に数えましょう。
3.賃金変動以後3か月間の給与の平均額に基づく標準報酬月額の等級と、従前の標準報酬月額の等級との間に2等級以上の差が生じたとき
月額変更届の提出が必要となるのは、従前の標準報酬月額と3か月間の給与総額の平均額による標準報酬月額の等級との間に2等級以上の差が生じた場合です。ただし、次の場合には、2等級以上の差が生じたとしても手続きの対象にはなりません。
- 固定的賃金が増加したが、残業代などの非固定的賃金が減少したため、
結果として新たな標準報酬月額が2等級以上下がった場合 - 固定的賃金が減少したが、残業代などの非固定的賃金が増加したため、
結果として新たな標準報酬月額が2等級以上上がった場合
「固定的な賃金が増加した場合には2等級以上の上昇」「固定的な賃金が減少した場合には2等級以上の下降」が条件となることも覚えておきましょう。
なお、標準報酬月額等級表の上限や下限に該当する従業員の場合には、1等級の増減で随時改定の対象となるケースがあることにも注意が必要です。
【1等級の増減でも随時改定の対象となるケース】
定時決定(算定基礎届)と随時改定(月額変更届)の違い
毎月の社会保険料は標準報酬月額によって決まり、標準報酬月額は定時決定、あるいは随時改定によって決まります。ここでは、2つの方法の違いを説明します。
算定基礎届による定時決定
標準報酬月額は、基本的に定時決定によって決定されます。定時決定は年に1回7月に行われ、定時決定で決まった標準報酬月額は9月から翌年の8月まで適用されます。
定時決定で使用する届出用紙が算定基礎届です。会社に6月中旬から送付され、7月10日までに提出します。
月額変更届による随時改定
随時改定は、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更するために行われる手続きです。
報酬が大きく変動した場合などに、月額変更届を提出して行います。次の3つの要件を満たす場合に随時改定が行われます。
- 固定的賃金が変動した
- 3ヵ月間の平均で、2等級以上の差が生じた
- 3ヶ月とも支払基礎日数が原則として17日以上ある
随時改定が優先される点に注意
定時決定と随時改定では随時改定が優先され、随時改定のすべての要件を満たした場合、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヵ月目の標準報酬月額から変更されます。
社会保険における月額変更(随時改定)のタイミング
健康保険や厚生年金保険などの社会保険の随時改定の対象となる場合、どのようなタイミングで月額変更届を提出すればよいでしょうか。月額変更届の提出時期や標準報酬月額の変更時期について解説します。
標準報酬月額が変更されるタイミングと適用期間
随時改定に該当する3つの条件を満たした場合には、賃金変動後の給与が実際に支払われた月から起算して4か月目に新しい標準報酬月額へ変更されます。
たとえば給与の支払いが月末締翌月20日払いの場合、1月から昇給し、その昇給分が含まれる給与が2月20日に支払われたとすると、2月・3月・4月の連続する3か月間に支払われた給与によって随時改定に該当するかどうかを判断します。随時改定の条件を満たして月額変更届を提出すると、5月の標準報酬月額から改定が行われます。
随時改定により変更された新しい標準月額の適用期間は、再度随時改定の条件に該当しなければ、次の期間適用されます。
- 1月~6月に改定された場合 → その年の8月まで適用
- 7月~12月に改定された場合 → 翌年の8月まで適用
月額変更届による随時改定の対象外となるケース
3つの要件に該当しているように見えても、随時改定の対象外となる場合があります。わかりにくいので、注意が必要です。
休職中で休職給が支給されている
休職中に基本給の何割かを休職給として勤務先から支給され、2等級以上の差が生じても、随時改定の対象とはなりません。固定的賃金に変動があったことにならないためです。
ただし、一時帰休(レイオフ)により、継続して3ヵ月を超えて通常の報酬よりも低額の休業手当等が支払われた場合は、固定的賃金に変動があったと見なされ、随時改定の対象となります。
3ヵ月の平均報酬額に2等級以上の差が生じている
3ヵ月の平均報酬額に2等級以上の差が生じていても、次の場合は随時改定の対象外となります。
- 固定的賃金は上がったが、残業手当等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3ヵ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
- 固定的賃金は下がったが非固定的賃金が増加したため、変動後の引き続いた3ヵ月分の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合
社会保険における月額変更に必要な書類
健康保険や厚生年金保険などの社会保険の随時改定に該当したら、速やかに月額変更届を提出しなければなりません。必要書類、提出時期、提出先は以下の通りです。
必要書類
月額変更届(正式名称は「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届 厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届」)
書類入手方法
年金事務所(日本年金機構のホームページからダウンロードも可能)
提出先
事務センターまたは事業所を管轄する年金事務所
提出方
郵送、窓口、電子申請
提出期限
速やかに
添付書類
原則不要
ただし、年間平均の報酬月額で随時改定の申立てをしたい場合※には、月額変更届に加え、次の書類が必要です。
- (様式1)「年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)」
- (様式2)「健康保険 厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)」
※業種によっては例年繁忙期が決まっていて、一定時期に業務量が増えることにより残業が集中して発生する企業もあるでしょう。特別な事情があって、一定の時期に毎年残業代などが著しく増加することが見込まれる場合には、通常の随時改定によるルールで計算すると、不当な金額で標準報酬月額が決定されるケースがあります。
そのような場合には、年間平均の給与(報酬)で随時改定を行う方法として、「報酬月額の算定の特例」により標準報酬月額を決定するように申し立てる保険者算定の方法があります。詳しくはこちらをご覧ください。
月額変更届による随時改定の注意点
随時改定の要件に該当した場合には、月額変更届により標準報酬月額を変更しなければなりません。定時決定とは異なる点がいくつかありますので、注意しましょう。
月額変更届をできる限り早く提出する
月額変更届の提出が遅れると、速やかな標準報酬月額の変更ができなくなります。
随時改定により変更された標準報酬月額が適用されるのは、2等級以上の差が生じた月から数えて4ヵ月目からです。随時改定が必要な状態になったら、速やかに月額変更届を提出しましょう。
決定通知が届いたら速やかに従業員に通知する
決定通知が届いたら、従業員への通知もできるだけ早く行いましょう。
随時改定を行うと標準報酬月額が2等級以上も変わり、保険料も変動します。通常とは違う時期に社会保険料が変わることになるため、従業員にも速やかに通知しましょう。
変更後の保険料率が適用される月を確認する
随時改定では、月額変更届による社会保険料の変更がいつから適用されるのか、きちんと確認することも大切です。給与計算への反映も確実に行いましょう。
社会保険の手続き業務の効率化を図るには
基本給や諸手当の支給額や支給率、給与体系に変更があると、3か月後に各月の支払基礎日数と給与の平均額を計算し、随時改定の条件をすべてクリアするかどうかをチェックする業務が発生します。
従業員ごとに条件を満たすかどうかをチェックしなければならないため、人事労務担当者にとって随時改定の手続きは、手間と時間がかかる業務です。しかも、月額変更届の提出は賃金変動後3か月経過してからとなるため、提出を忘れないように気をつけなければなりません。したがって、間違い防止や提出漏れ防止を図るには、チェックリストやスケジュールリストを作成するなどの工夫も必要です。
健康保険・厚生年金保険の資格取得や喪失、算定基礎届、月額変更届、労働保険の申告など、電子申請にも対応した社会保険ソフトの導入も効果的です。人事労務担当者の業務の効率化、コスト削減のためにも、社会保険ソフトの導入も検討してはいかがでしょうか。
よくある質問
社会保険における月額変更届とはなんですか?
従業員の固定的賃金の変更があったときに、標準報酬月額と実際の給与に大きな差が生じないように標準報酬月額の等級を変更して決定することを随時改定と呼びます。月額変更届は、その手続きに必要な届出の書類です。詳しくはこちらをご覧ください。
月額変更を行うタイミング・時期について教えてください。
月額変更により標準報酬月額が変更されるタイミングは、固定的賃金変動後の最初の給与が支払われた月から起算して4か月目です。随時改定の条件を満たした場合には、速やかに月額変更届を提出しなければなりません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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