• 更新日 : 2024年5月17日

有給休暇の金額はいくら支払う?賃金3つの計算方法と買取できる例外を解説

有給休暇は給与が発生する休暇のため、正確に給与計算を行い、支給しなくてはいけません。有給休暇の給与の計算方法や付与要件、パートやアルバイトの有給休暇の条件などについてまとめました。また、従業員が有給休暇を取得しない場合、買取が可能か、違法になるのはどのようなときかについても解説します。

有給休暇とは?付与する要件と日数

有給休暇とは、給与が発生する休暇のことです。

たとえば、土日祝日が休日となる企業に勤務している場合について考えてみましょう。ある年の6月(土日祝日の合計は9日)に2日間有給休暇を取得した場合、勤務日数は19日(30日-9日-2日)ですが、給与が発生するのは21日(30日-9日)となります。

有給休暇を付与する要件・日数

有給休暇には次の2つの種類があります。

  • 法定年次有給休暇
  • 会社有給休暇

法定年次有給休暇とは、労働基準法で定められている有給休暇で、労働者が以下の要件すべてに該当する場合は必ず付与しなくてはいけません。

  • 雇用した日から6ヶ月経過した
  • 雇用後、全労働日の8割以上の日において出勤した

たとえば雇用から6ヶ月が経過し、その間、120日の労働日があったとしましょう。そのうち100日勤務した労働者は、労働日のうち8割以上出勤しているため、年次有給休暇が付与されます。年次有給休暇の日数については、以下をご覧ください。

雇入れの日から経過した勤続期間年次有給休暇の日数
6ヶ月10労働日
1年6ヶ月11労働日
2年6ヶ月12労働日
3年6ヶ月14労働日
4年6ヶ月16労働日
5年6ヶ月18労働日
6年6ヶ月以上20労働日

一方、会社有給休暇とは企業が独自に設ける有給休暇制度です。労働者がライフワークバランスの取れた働き方をするのに役立ちますが、法定年次有給休暇とは異なり、法律上の義務はないため、必ずしも制度として設けなくてはいけないのではありません。

有給休暇の付与日数や労働基準法上の定義については、次の記事もご覧ください。

パート・アルバイトも取得可能

法定年次有給休暇は、パートやアルバイトなどの所定労働日数が少ない労働者も付与対象となります。週所定労働時間が30時間未満かつ週所定労働日数が4日以下、もしくは年間の所定労働日数が216日以下の労働者については、以下から年次有給休暇付与要件と日数をご確認ください。

週所定労働日数1年間の所定労働日数雇入れの日から経過した継続勤務期間(年)
0.51.52.53.54.55.56.5以上
4日169~216日78910121315
3日121~168日566891011
2日73~120日3445667
1日48~72日1222333

※日数の単位:労働日

パートやアルバイトであっても、週所定労働時間が30時間以上、または週所定労働日数が5日以上、もしくは年間の所定労働日数が217日以上の労働者は、先に紹介した正社員用の年次有給休暇ルールが適用されます。

有給休暇の金額はいくら支払う?3つの付与方法

有給休暇中の賃金については、以下のいずれかの方法で計算します。

  • 通常勤務と同じ賃金を支払う
  • 直近3ヶ月の平均賃金を支払う
  • 標準報酬日額を支払う

なお、賃金の計算方法は就業規則に定めておく必要があるため、労働者ごと、状況ごとに変更することはできません。各計算方法の特徴も紹介するので、雇用体系や給与制度に合ったものを選んでください。

通常勤務と同じ賃金を支払う

有給休暇の金額を求める方法のなかでもっとも一般的とされているのが、有給取得日も勤務日と同金額の給与を支払う方法です。有給を取得した日数を勤務日数に加算すれば計算できるため、シンプルで手間がかかりません。

ただし、時給で働くパートやアルバイトに対しては、時給に所定労働時間を乗じて計算しますが、所定労働時間が日によって異なる場合は少々計算が複雑になります。

平均賃金を支払う

労働基準法上の平均賃金を計算し、有給取得日の給与金額にする方法もあります。給与制度が月給・日給・時給のいずれであっても同じ計算方法で求められるため、考え方が理解しやすい方法です。

ただし、直近3ヶ月に長期休暇を取得していた従業員にとっては、有給取得によって受け取れる金額も少なくなります。就業規則に明記するのはもちろんのこと、計算方法についても周知しておくことが大切です。

標準報酬日額を支払う

標準報酬月額とは、社会保険料の算定などに用いる数字です。標準報酬月額を30で割って標準報酬日額を算出し、有給休暇日の賃金とします。すでに社会保険料の計算が終わっている場合なら、簡単に有給取得日の給与金額を計算できます。

ただし、社会保険の対象外の労働者に対しては、標準報酬月額が計算されていません。その場合は、標準報酬月額に相当する金額を算出することから始める必要があり、計算が複雑になることもあります。また、標準報酬月額には上限額があり、高給与の労働者にとっては納得感の得にくい金額になってしまう点にも注意が必要です。

なお、標準報酬月額を用いて有給休暇日の給与金額とする場合は、労使協定を締結し、就業規則に記載しなくてはいけません。労働者から賛意を得られないときは、他の方法で計算しましょう。

有給休暇の計算方法:通常勤務と同じ賃金を支払う場合

通常勤務と同じ賃金を有給取得日の賃金として支払う場合の計算方法を紹介します。月給制・日給制・時給制によって計算方法が異なるため、確認しておきましょう。

月給制の場合

月給の場合は、次の計算式で有給取得日の給与金額を求めます。

  • 基本給÷1ヶ月の所定労働日数

たとえば、基本給が月28万円、各種手当が月3万円、所定労働日数が20日の場合について考えてみましょう。有給取得日の給与金額は28万円÷20=14,000円になります。

日給制の場合

日給制の場合は、日給がそのまま有給取得日の給与金額となります。たとえば、日給12,000円なら、有給取得日の給与金額も12,000円です。

時給制の場合

時給制の場合は、以下の計算式で有給取得日の給与金額を求めます。

  • 時給×所定労働時間数

たとえば、時給1,500円、所定労働時間が8時間の場合なら、1,500円×8=12,000円になります。

歩合給の場合

歩合給(出来高払制)の場合は、以下の計算式で有給取得日の給与金額を求めます。

  • 賃金算定期間の賃金総額÷算定期間中の総労働時間数×算定期間中の1日あたりの平均所定労働時間数

たとえば直近で支払われた賃金が32万円で、労働時間数は160時間、労働日数は20日だったとしましょう。1日あたりの平均所定労働時間は160時間÷20=8時間のため、32万円÷160時間×8時間=16,000円と計算できます。

有給休暇の計算方法:平均賃金を支払う場合

平均賃金を有給取得日の給与金額として支払う場合は、次の2つの計算をし、大きいほうの金額を支払います。

  • 直近3ヶ月の賃金総額÷暦日(カレンダーどおりの日数)
  • 直近3ヶ月の賃金総額÷労働日数×0.6

たとえば、ある年の5月~7月の3ヶ月の賃金総額が110万円、労働日数が62日としましょう。暦日は92日のため、上記の2つの方法で計算すると以下のようになります。なお、四捨五入をして10円単位で算出します。

  • 直近3ヶ月の賃金総額÷暦日=110万円÷92日=11,960円
  • 直近3ヶ月の賃金総額÷労働日数×0.6=110万円÷62日×0.6=10,650円

暦日で割ったほうが金額が多くなるため、有給取得日の給与金額は11,960円

有給休暇の計算方法:標準報酬日額を支払う場合

標準報酬日額を有給取得日の給与金額とする場合は、以下の計算式で求めましょう。

  • 標準報酬月額÷30

パートやアルバイトなどに関しては、以下の方法で標準報酬月額を計算します。

直近3ヶ月の支払基礎日数標準報酬月額
すべての月において17日以上3ヶ月の報酬月額平均額
1ヶ月以上において17日以上支払基礎日数が17日以上の月の標準月額平均額
すべての月が15日以上17日未満3ヶ月の報酬月額平均額
17日以上の月がなく、1ヶ月以上において15日以上17日未満支払基礎日数が15日以上17日未満の月の標準月額報酬額
すべての月が15日未満従前の標準報酬月額

上記の方法で標準報酬月額を求めて30で割ると、有給取得日の給与金額です。たとえば、3ヶ月間毎月20日働いた場合なら、3ヶ月の報酬月額の平均額を30で割ると有給取得日の給与金額が求められます。

参考:標準報酬月額の決め方|全国健康保険協会

有給休暇の買取はできる?

そもそも法定年次有給休暇は、労働者の心身の疲れを回復させる目的の休暇です。そのため、企業側が労働者の有給休暇を買い取り、休日数を減らすことは、違法とされています。

有給休暇を買取できる例外ケース

有給休暇の買取は原則として違法ですが、以下のいずれかに該当するときは例外的に買取が可能とされています。

  • 退職時に有給休暇が残っているとき
  • 有給休暇が時効で消滅するとき
  • 会社有給休暇が設定されているとき

退職する前にすべての有給休暇を消化しきれないときは、会社が買い取ることも可能です。

また、有給休暇を年度内に消化できないときは翌年に繰り越しますが、付与されてから2年経つと時効が成立して消滅します。その場合も、会社が買い取っても労働者の権利を侵害しないと考えられるため、買取が可能です。

法定年次有給休暇ではなく会社有給休暇が設定されており、使いきれずに残ってしまう場合も、買取が可能とされています。ただし、いずれの場合も労働者側は会社に買取を請求できますが、会社側には買い取る義務はありません。

有給休暇の金額が間違っていた場合の対処法

有給休暇の金額が間違っていたときは、早急に対応することが必要です。支給額が少なかった、あるいは有給休暇分の給与が加算されていなかったときは、労働者に事情を説明したうえで、次回の給与時に不足分を支払います。

反対に、支給額が多かった場合は、労働者に対して不当利得返還請求を行います。ただし、不当利得返還請求が可能なのは、労働者が過払いに気づいているときのみです。労働者が過払いに気づかず、なおかつすでに過払い分を使ってしまっているときは、残額があれば返還請求、なければ返還請求はできません。

有給休暇の金額・計算に関する注意点

有給休暇の給与金額を計算するときは、次の点に注意してください。

  • 法定年次有給休暇が年に10日以上付与される労働者に対しては付与から1年以内に少なくとも5日以上消化させる
  • 有給の消化順序を決めておく
  • 有給の時効は2年間だが有給取得日の給与を請求できる権利の時効は3年間

労働基準法では法定年次有給休暇が年に10日以上付与される労働者については、1年以内に5日は消化することを義務付けています。もし5日未満しか消化できなかったときは、雇用者側に罰金が科せられることもあるため注意が必要です。

また、有給休暇の消化順序は決まっていないため、繰り越し分と新規獲得分のうち、どちらを先に消化しても問題ありません。しかし、労働者の権利を守るためにも、早く時効が来る繰り越し分から消化するように決めておくとよいでしょう。

なお、有給休暇の時効は2年で成立します。しかし、有給休暇日の給与を請求できる権利の時効は3年間です。労働者が各自の権利を正しく履行するためにも、時効が成立する前に取得するように奨励しましょう。

有給休暇を取得しやすい職場環境を構築しよう

有給休暇は労働者の権利であり、適切に休養をとるために必要なルールです。退職前で消化しきれないなどのやむを得ないときは買取も検討できますが、できれば期限前にすべての有給休暇を消化できるようにしたいものです。

労働者が有給休暇を取得しやすいように、管理職も積極的に有給休暇を取得したり、啓蒙活動をしたりできます。企業全体の生産性を高めるためにも、有給休暇を取得しやすい職場環境を構築しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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