- 更新日 : 2022年9月1日
年金制度改正法とは?2022年4月施行に備えて徹底解説!
「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が2020年5月に成立し、2022年4月から施行されます。この改正により厚生年金の加入の対象となる被保険者が増加するほか、在職継続中の年金受給額の改定の仕組み、在職老齢年金の支給停止額の引き上げ、年金受給開始年齢の選択肢の拡大、確定拠出年金への加入要件の見直し等が行われます。今回は年金制度改正法のポイントや、背景と目的について解説します。
目次
年金制度改正法とは?
年金制度改正法は、主に高齢化にともなう社会保障費の増大や、労働者の減少への対応を目的として成立した法律です。改正の背景や主な変更点について、以下で詳しくご紹介します。
年金制度改正法の成立背景と目的
日本は少子高齢化が進んでおり、この傾向は今後さらに顕著になっていくと見られています。それにともなって現役世代人口が減少するとともに、現役世代一人ひとりに対する社会保障費の負担は大きくなっていくと考えられます。こうした背景を踏まえて、給付と負担のバランスという社会保障制度の趣旨を適切に形成するために、従来とは違った年金制度を整備する必要が生まれてきたのです。
また、健康寿命が伸びたことや女性の社会進出が進んでいることも一因と言えます。厚生労働省は「より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる」としたうえで、こうした変化を年金制度に反映する旨を表明しています。
総じて今回の年金制度改正法は、すべての世代の年金に対する漠然とした不安や誤解を解消し、安定した年金制度を持続させることが一つの目的となっていると考えられるでしょう。
年金制度改正法のポイント
ここでは年金制度改正法のポイントとなる「被用者保険の適用拡大」「在職中の年金受給の在り方の見直し」「受給開始時期の選択肢の拡大」「確定拠出年金の加入可能要件の見直し」などについて説明します。
参考:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました|厚生労働省
1.被用者保険の適用拡大
被用者保険とは、すなわちサラリーマンが加入する厚生年金保険や健康保険のことです。このうち、厚生年金のみをとらえたときには、特に被用者年金といいます。
厚生年金は基礎年金に上乗せする形で報酬比例部分を受け取れるなど、さまざまなメリットがあります。今回の改正により週の所定労働時間が30時間未満の短時間労働者など、現行法では加入条件を満たせなかった人への適用が行われます。
現行では短時間労働者を適用対象とすべき事業所の規模要件は従業員数501人以上ですが、2022年10月には101人以上の企業に、2024年10月には51人以上の企業も対象になります。なお、適用拡大の対象となるのは、次の要件をすべて満たした場合のみです。
- 週所定労働時間が20時間以上あること
- 月額賃金が8.8万円以上あること
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと
改正前の年金制度では、配偶者の扶養に入っている方(国民年金第3号被保険者、健康保険被扶養者)が年収130万円を超えた場合には、原則的に扶養を外れていました。つまり、配偶者自ら国民年金・国民健康保険に加入し、保険料を負担する必要があったのです。
そして今回の改正後には、結果的に130万円よりも低い基準で従業員自ら被用者保険に加入することになります。しかし、負担する保険料は事業主と折半することができ(※)、将来の年金給付や健康保険の傷病手当金等の保障はそのぶん手厚くなります。
※厚生年金と健康保険の保険料は労使で折半して負担します。このため、双方が事前に金額を把握することが大切と言えるでしょう。これに対して国民年金と国民健康保険は全額個人が負担します。
2.在職中の年金受給のあり方の見直し
在職中の年金受給のあり方に対しても見直しが行われています。内容としては、年金を受給しながら働きつづけことを促進するものになっています。
現行の年金制度では60~64歳の場合、「総報酬月額相当額と年金月額の合計額」が28万円を超えた際に、超えた額に応じて年金の一部、もしくは全額の支給が停止されています。
改正後は、この額が47万円に引き上げられ、現行の65歳以上の方と同じ基準となりました。つまり60歳以上で在職中の方は、「総報酬月額相当額と年金月額の合計」が47万円以下の場合は、年金が全て支給され、47万円を超えた場合は、超えた額の2分の1の年金が支給停止となります。
また65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定し、それまで納めた保険料を年金額に反映する在職定時改定が新設されます。
これまでは、退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまで老齢厚生年金の額は改定されませんでした。改正により働き続けたことの効果を早期に年金額に反映することで、年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤の充実が図られます。
3.受給開始時期の選択肢の拡大
年金の受給開始時期は、現行では60歳から70歳までの間で自由に選択できます。改正後には、この範囲が75歳まで拡大されました。
年金は受給開始時期を65歳より遅く受け取る(繰下げ受給)することで、1ヶ月につき0.7%増額され、逆に65歳より早く受給(繰上げ受給)する場合は、1ヶ月ごとに0.5%(改正後は0.4%)の減額になります。例えば75歳まで繰り下げをした場合、年金額は84%増額されることになります。受給開始時期の選択肢の拡大は、老後のライフプランに影響すると言えるでしょう。
4.確定拠出年金の加入可能要件の見直し
確定拠出年金制度は、企業型DCと、個人型DC といわれるiDeCoがあります。2022年5月からDCの加入可能要件が見直され、対象となる年齢が、次のように引き上げられます。
- 企業型DCの場合 加入可能年齢が65歳未満から70歳未満に変更
(ただし、企業によって加入ができる年齢が異なります) - iDeCoの場合 加入可能年齢が60歳未満から65歳未満に変更
(ただし、国民年金・厚生年金被保険者が対象です)
また海外居住者も国民年金に任意加入していれば、iDeCoに加入できるようになるほか、2022年10月からは企業型DCの加入者も、労使の合意がなくてもiDeCoに加入できるようになります。確定拠出年金制度は受給開始時期なども見直しがされているので、内容を理解しておくとよいでしょう。
参考:企業型DC・iDeCoの加入可能年齢の拡大(2022年5月1日施行)|厚生労働省
5.その他
国民年金法の改正にともない、厚生年金保険法などの関連する法律も改正され、前述のような見直しが行われます。
このほかに年金生活者支援給付金の支給に関する法律では、新たに支給対象となりうる方が請求漏れとなるのを防ぐため、所得や世帯情報の照会の対象者が見直されます。また児童扶養手当法では、児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直しが行われ、ひとり親の障害年金受給者が児童扶養手当を受給できるようになります。
年金制度改正法の施行によって具体的に何が変わる?
今回の年金制度改正法の主な変更点は、「被用者保険の適用拡大」「在職中の年金受給の在り方の見直し」「受給開始時期の選択肢の拡大」「確定拠出年金の加入可能要件の見直し」などです。これにより被用者保険の加入者や、シニア層の雇用継続が増えることは、長期化する高齢期の経済基盤の充実につながるといえるでしょう。
2022年4月の施行に合わせて社内調整等の準備をしておこう!
年金制度改正法により、短時間労働者など被用者保険の加入者が増えるため、企業では対象となる人への、今回の改正の内容を周知が必要です。そして説明会や対象者との面談を行い、理解を得てから加入の届け出をすることも重要になります。
ただし、社員からの理解が得られないからといって、年金に加入をしなくてもよくなるわけではありません。法定の要件を満たした場合には強制加入することになります。とは言え、今回の適用拡大措置は企業側にとっても法定福利費の大幅な負担増につながるものです。企業としてはコスト増となるわけですから、従業員各位には自身にとっても保険料負担は必ずしもデメリットなことばかりではないことをご理解いただき、せっかくならば気持ちよく被用者年金制度の被保険者となっていただきたいものです。
厚生年金や健康保険制度へ自ら加入することによる被保険者負担は将来受け取る年金が増えることや、医療保障の内容も手厚くなることにつながります。また「年金」といえば、みなさんが老後に受け取るものだとばかり考えがちですが、必ずしもそうではありません。被保険者が不慮の事故により死亡してしまった際には、遺族に遺族厚生年金が支給されることがありますし、被保険者が障害を負ったためこれまでと同じように働くことができなくなった場合には障害厚生年金の受給資格が得られることもあります。民間の保険制度へ必要以上に加入するよりも、かえってセーフティーネットとしては優秀なところがあるのです。
なお、今回の改正による見直しは他にもあり、施行時期も異なりますので、把握したうえで社内調整の準備をしておきましょう。
よくある質問
年金制度改正法とはなんですか?
日本の少子高齢化社会において、高齢者や女性の就業が進むなど、多様な働き方が見込まれます。こうした社会の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実をはかる目的で、年金制度が改正されました。 詳しくはこちらをご覧ください。
年金制度改正法の施行によって具体的に何がかわりますか?
今回の年金制度改正法では、「被用者保険の適用拡大」「在職中の年金受給の在り方の見直し」「受給開始時期の選択肢の拡大」「確定拠出年金の加入可能要件の見直し」などが、主な変更点といえるでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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