- 更新日 : 2024年11月1日
就業規則と労働基準法の優先関係は?違反ケースや変更時の注意点を解説
会社で働くうえで重要な「就業規則」と、労働者の権利を守る「労働基準法」。この2つの関係性についてご存じですか?本記事では、就業規則と労働基準法の役割や優先順位に加え、就業規則を作成する際のポイントについてもわかりやすく解説します。
目次
就業規則と労働基準法の優先関係は?
結論からいうと、就業規則よりも労働基準法の方が優先順位は上であり、強い効力を持っています。就業規則は、労働基準法の定めた範囲内でより詳細、かつ自社に適した形で社内ルールを定めるものであるため、労働基準法に違反している場合は、就業規則に記載されていても、その部分については無効になります。
ここからは、就業規則と労働基準法がそれぞれどのような役割を持っているかについて解説していきます。
就業規則とは
就業規則は、会社と従業員の間で働くうえでのルールを定めたものです。労働基準法を下限として、より具体的な労働条件を定めることで、従業員は自分の権利や義務を明確に把握でき、会社は円滑な業務運営を行うことが可能となります。就業規則には、労働時間・休日・賃金などのさまざまな事項が規定されており、トラブル発生時の解決策としても機能します。
労働基準法とは
労働基準法は、労働者の働く権利を保障し、健康で文化的な生活を送るための最低限の労働条件を定めた法律です。労働時間、賃金、休日など、労働者の基本的な権利を守ることで、労働者が安心して働ける環境を整備することが、労働基準法の大きな役割です。例えば、長時間労働を防ぎ、労働基準法に根拠を置く最低賃金法で最低賃金を定めることで、労働者の生活を安定させることを目的とした条文などが含まれています。
労働基準法で規定する就業規則に定めるべき事項
労働基準法では、企業と労働者との間で生じるトラブルを未然に防ぎ、安定した労働関係を築くため、いくつかの項目について、就業規則に記載することを義務付けています。ここからは、労働基準法にて就業規則への記載義務が定められている3つの項目について解説していきます。
労働時間
労働基準法では、原則として1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間を40時間以内と定めています。そのため、就業規則には、通常の労働時間・休憩時間・時間外労働に関するルール、割増賃金の支払い基準などを具体的に定める必要があります。ただし、事業の種類や業務の性質によっては、労使協定を結ぶことで労働時間の延長が認められる場合もあるため、36協定の締結をはじめ、締結している協定の内容を記載することも求められます。
賃金
労働基準法では、賃金の支払義務・最低賃金・賃金形態などを定めており、そのルールに準じて、就業規則には、賃金の計算方法・支払時期・昇給制度・賞与制度などの詳細な社内ルールを定める必要があります。また、時間外労働に対する割増賃金や休日労働に対する割増賃金についても、明確に記載することが定められており、賃金トラブルを想定した詳細な規定を設けることが重要となります。
退職・解雇
労働基準法では、解雇の制限や退職に関する手続きに関しても定められており、就業規則には、退職の意思表示の方法・退職手続き・退職金制度・懲戒解雇事由などを具体的に定める必要があります。特に解雇は、労働者にとって大きな影響を与えるため、正当な理由なく解雇することはできず、企業が一方的に解雇した場合は訴訟問題に発展するリスクがあります。そのため、就業規則ではより具体的で明確な規定を定め、解雇の際には丁寧に手続きを進めていくことが重要です。
このように、就業規則の作成には専門的な知識が求められるため、ゼロから自社で内製するには大きな負担が生じます。そのため、一般的な規定を網羅し必要箇所のみ自社に適した形でアレンジできるテンプレートを活用することをおすすめします。
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就業規則と労働協約、雇用契約(労働契約)の優先関係
会社で働くうえで、就業規則・労働協約・雇用契約という言葉を耳にする機会があるでしょう。これらの関係性をしっかりと理解しておくことは、労働条件を定めるうえで非常に重要です。
労働基準法は、労働者の最低限の権利を保障するための法律で、この法律を下回ることができないという点で最も上位に位置します。次に労働協約は、会社と労働組合が団体交渉を行い、労働条件について合意したもので、就業規則よりも優先されます。就業規則は、会社が定める一律の労働条件を定めた社内ルールで、労働協約がない場合は、就業規則が労働条件を定めます。そして、雇用契約は、会社と個々の労働者が直接結ぶ契約で、個別の労働条件を定めます。
つまり、労働条件は、労働基準法→労働協約→就業規則→雇用契約の順に優先順位が定まっているのです。労働者は、これらの関係性を理解することで、自分の権利を適切に主張できます。
例えば、労働基準法で1日の労働時間は8時間以内と定められており、労働協約で7時間と定められていれば、労働者は1日7時間働くことになります。ただし、労働協約で1日7時間と定められていれば、雇用契約が8時間であっても労働協約が優先されます。
就業規則が労働基準法に違反するケース
先述の通り、労働基準法で定められたルールを就業規則が下回ることは認められません。また、労働基準法の他にも、法令で定められた基準やルールに外れた就業規則を定めている場合も同様に法令違反と判断されます。ここからは、経営者や人事担当者が特に注意すべき6つの項目について、違反となるケースを解説していきます。
休憩時間に関する規定
労働基準法第34条では、6時間を超える労働に対しては少なくとも45分の休憩時間、8時間を超える労働に対しては少なくとも1時間の休憩時間を与えるよう定められています。そのため、就業規則で定める休憩時間は、この法定の休憩時間を下回ることができません。 例えば、4時間働いたあとに15分の休憩しか与えない、といった規定は違法となります。また、休憩時間中に業務を指示したり、拘束したりするような規定も、休憩時間の趣旨に反し、違法となる可能性があります。
有給休暇に関する規定
労働基準法第39条では、6カ月以上継続して勤務した労働者に対して、年10日の有給休暇を与えるよう定められています。そのため、就業規則では、この法定休暇日数以上の有給休暇を付与することを定めなければなりません。 また、有給休暇の取得を制限したり、取得時期を会社が一方的に決定したりするような規定も、労働者の権利を侵害する可能性があります。有給休暇は労働者の権利であるため、企業は従業員が自由に取得できるよう就業規則で明確に定める必要があるのです。
妊娠・産後に関する規定
労働基準法第65条では、妊娠中の女性労働者に対して、業務の軽減や転換、産前産後休業などを与えるよう定められています。法令内容を遵守したうえで、就業規則では、妊娠中や産後の働き方に関してより詳細な規定を設けることができます。 代表的な規定としては、産前産後休暇中の賃金や育児休業制度などがあげられます。ただし、社内独自の規定を設ける場合であっても、労働基準法が定めたその他のルールに違反するような内容が含まれないよう注意が必要です。
定年に関する規定
2024年4月に施行された高年齢者雇用安定法の改正により、企業は70歳までの就業機会の確保に向けて努力義務を負うことになりました。政府は企業に対し多様な働き方を支援する方向で動いており、高齢者の就業機会の拡大や、働きがいのある社会の実現を目指す風潮が強まる中において、定年退職制度は過去の制度となりつつあるといえるでしょう。
退職日に関する規定
労働基準法第5条では、労働契約は、当事者間の合意によって自由に作成・変更・解除できることを定められています。そのため退職日については、就業規則で定めるだけでなく、個別の雇用契約で具体的な日数を定めることも可能です。 ただし、解雇の場合は、労働基準法第16条の規定に違反しないよう注意が必要です。また、民法第627条第1項では、企業との間に雇用期間や退職日の定めがない場合や会社が承認しない場合においても、労働者が退職の申出があった日から原則14日が経過すると雇用契約は終了し退職となることにも留意しておくようにしましょう。
解雇に関する規定
不利益な内容での雇用契約から労働者を保護するために設けられた労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠いた、社会通念上相当と認められないような解雇は無効となることが定められています。また労働基準法第19条では、労働者が怪我や病気による療養のため休業している期間中や、産前産後の女性労働者が休業している期間の解雇を禁じています。企業側の都合や個人的な感情による解雇は違法となり、正当な理由がない限り企業は一方的に解雇できません。解雇を行う場合においても、解雇日の30日前までに当事者に解雇予告をしなければならず、予告しなかった場合は、30日分の平均賃金を支払う必要があることが定められています(労働基準法第20条)。その他、解雇に関しては労働者保護の観点からさまざまなルールが定められているため、就業規則への記載や実際の手続きにおいては、慎重に進める必要があります。
参考:e-Gov 法令検索「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」
労働基準法に定める就業規則の変更方法
就業規則を変更する際は、労働基準法に基づいた一定の手続きが必要です。同法にて定められた手続きを怠ると、違反行為と判断され、罰則が科せられる可能性があります。ここからは、労働基準法の観点から就業規則の変更に必要なプロセスを、順を追って解説していきます。
1.改定案を作成し、経営陣の承認を得る
企業の経営方針や法改正等による労働環境の変化に対応するために行われる就業規則の変更では、まず経営陣が変更したい内容を具体的に盛り込んだ改定案を作成します。この時、労働基準法に違反しない範囲内で、従業員の権利を侵害しないよう注意が必要です。作成した改定案は、経営陣の承認を得て正式なものとなります。なお、就業規則の変更については、取締役会決議による承認を得る必要はありません。
2.従業員の意見を聴取する
労働基準法第90条2項では、就業規則の変更に際して、労働基準監督署に変更内容の届出を行う際に、従業員の意見を聴取した内容をまとめた意見書を添付することが義務付けられています。労働組合がある場合は組合の代表者に、組合がない場合は従業員の過半数が指示する人が代表者となり、意見を聴取します。代表者からあがった反対意見や提案については、改定案への反映義務はありませんが、異議の有無にかかわらず意見書の提出は義務であるため、必ず提出が必要です。従業員側が意見書の提出を拒否するような事態が生じた場合であっても、別途「意見書不添付理由書」の提出が必要となります。
ちなみに、代表者の選任方法についても労働基準法にて定められており、企業側が一方的に代表者を指名することはできません。就業規則の変更については、会社都合で行われないようさまざまなルールが設けられています。法律を遵守した民主的な方法によって変更手続きを進めるよう注意が必要です。
3.必要書類を管轄の労働基準監督署へ提出する
従業員の意見を聴取し、改定案が確定したら、必要書類を管轄の労働基準監督署へ提出します。提出する書類は、労働基準監督署によって異なりますが、一般的に提出を求められる書類は下記の通りです。
- 就業規則変更届
- 意見書(または、意見書不添付理由書)
- 変更前の就業規則
- 変更後の就業規則
なお、意見書・変更前後の就業規則については、原本と写しの2部を提出します。また、必要に応じて賃金規定や退職金規定等の別規定や36協定をはじめとする労使協定も2部用意して提出します。
参考:厚生労働省「届出方法について(就業規則(変更)届) -窓口または郵送で届け出る場合」
4.従業員へ変更を周知する
労働基準監督署の審査が終わり、変更が正式に決定したら、従業員に対して変更内容を周知する必要があります。労働基準法第106条にて、就業規則は、見やすい場所への掲示または備え付け、書面の配布などにより、従業員に周知することが義務付けられています。そのため、変更が行われた場合には、全従業員への説明会を開催したり、社内報に掲載したりするなどして、すべての従業員が変更内容を正しく理解し、新たな就業規則に基づいて働けるよう、周知徹底することが重要です。
円滑な雇用関係の第一歩。労働基準法を知って正しい就業規則を作成しよう
就業規則は、企業と従業員の間のルールブックであり、労働基準法に則って作成することが不可欠です。法令違反が生じた場合、従業員からの信頼はもちろん、企業の社会的信頼も失うことにつながりかねません。労働基準法への理解を深め、正しい就業規則を作成することで、労使間のトラブルを未然に防ぎ、円滑な雇用関係を築くことができます。専門的な法知識や書類作成については、適宜社労士などの専門家のサポートを受けながら、就業規則の定期的な点検と改善を心がけるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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