• 更新日 : 2025年1月6日

パートの社会保険加入条件とは?2024年10月からの事業規模や労働時間を解説

短時間労働者を対象とした社会保険の適用拡大が進み、2022年10月からは従業員数101人以上の企業に対応が求められるようになりました。パートやアルバイトといった短時間労働者でも、従業員数101人以上の会社で、週20時間以上や月額賃金8万8,000円以上といった働き方をする場合は、社会保険の加入対象になります。

【2024年10月から】パートの社会保険加入条件の変更点

2024年10月から、健康保険(40歳以上の人は介護保険を含む)や厚生年金などの社会保険の加入条件が変更されます。変更点は、短時間労働者(パートやアルバイトなど)の社会保険加入義務の生じる事業所(以下、適用事業所)の範囲が拡大したことです。

適用事業所の範囲は次の通り広がっています。

(短時間労働者の適用事業所)

年月適用事業所
2016年10月~2022年9月従業員数(※)501人以上の事業所
2022年10月~2024年9月従業員101人以上の事業所
2024年10月~従業員51人以上の事業所

※従業員数は厚生年金に加入する従業員の人数です。

適用される事業所

一般の労働者(※)については、法人や従業員が常時5人以上いる個人の事業所が適用事業所です。

※フルタイムの労働者と、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上の労働者など。

2016年4月より一定規模以上の事業所に勤務するパートやアルバイトなどの短時間労働者も社会保険の加入が義務となりました。加入義務が生じる一定規模以上の会社を短時間労働者の「適用事業所」といい、2024年10月からは従業員51人以上の事業所が対象です。

対象となる短時間労働者は、次のすべての条件を満たした人です。

  • 所定労働時間が週20時間以上
  • 所定内賃金が月8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用見込みがある
  • 学生でない

それぞれの条件について解説します。

所定労働時間が週20時間以上

条件の1つ目は、1週間の所定労働時間が20時間以上であることです。所定労働時間とは、労働契約で定めた労働時間で、残業時間は含みません。

1ヶ月単位で所定労働時間が決まっている場合、その時間を12分の52で割って週所定労働時間を算出(1ヶ月を約4.3週として計算)します。

所定内賃金が月8.8万円以上

条件の2つ目は、1ヶ月の所定内賃金が8万8,000円以上であることです。所定内賃金とは、労働契約で定めた基本給や手当などの合計金額です。残業代やボーナス、交通費、家族手当などは対象ではありません。

2ヶ月を超える雇用見込みがある

条件の3つ目は、2ヶ月を超えて雇用される見込みがあることです。2ヶ月の雇用契約であっても、更新される可能性がある場合、条件を満たすことになります。

以前は「継続して1年以上使用される見込みがある」ことが条件でしたが、2022年10月より期間が大幅に短縮されているため注意しましょう。

学生でない

条件の4つ目は、学生でないことです。学生とは、高等学校や大学、短期大学、専修学校に在学する生徒などです。ただし、休学中の学生や定時制・通信制の学生などは対象になりません。

そもそも社会保険とは?

社会保険とは、広い意味で【健康保険、介護保険、厚生年金保険雇用保険、労災保険】の5種類を指しますが、会社で従業員について手続きなどが必要とされる社会保険は、健康保険(40歳以上の被保険者は介護保険も含める)と厚生年金保険になります。

病気やけが、失業、老後など人生の様々な困難に対して国民を守るための公的な保険制度です。

詳細は下記を参考にしてください。

パートが社会保険に加入するメリット

社会保険に加入すると、受けられる保障が手厚くなるというメリットがあります。保障が手厚くなるとは、どのようなことを指すのでしょうか。社会保険に加入することの具体的なメリットをお伝えします。

将来もらえる年金が増える

社会保険に加入すると、将来、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金が支払われるため、もらえる年金が増えます。老齢基礎年金の金額は、老齢厚生年金が支払われても変わりません。年金が2階建てになることで、老齢時にもらえる年金額を増やせます。

障害がある状態になった場合の保険となる

所定の障害状態になった場合は国民年金から障害基礎年金が支払われますが、社会保険に加入していると厚生年金からも障害厚生年金が支払われます。以下のように、障害厚生年金は障害基礎年金よりも支給範囲が広くなっています。

障害基礎年金
・障害の程度が1~2級の場合に支給障害厚生年金
・障害の程度が1~3級の場合に支給
・障害の程度が3級よりも軽い場合、障害手当金(一時金)が支給されることもある

障害基礎年金は受け取れないが障害厚生年金は受け取れるというケースも多く、障害がある状態になった場合の保険となります。

医療保険(健康保険)の充実

社会保険加入により、医療保険(健康保険)が給付する以下の傷病手当金や出産手当金の支給対象となります。

傷病手当金
・傷病により働けない期間のうち、継続して休業した4日目から支給(通算して1年6ヶ月)される出産手当金
・産前42日産後56日の範囲のうち、休業した日について支給される

労災保険の給付対象にならない私傷病、あるいは出産時の生活の保障とすることができます。

保険料の半分は事業者負担

国民健康保険は全額を被保険者本人が負担しなければなりませんが、社会保険料は本人以外に事業主にも負担義務があります。保険料は、被保険者本人と事業主が1/2ずつ負担します。

社会保険に加入したくない場合

社会保険に加入すると社会保険料を負担しなければならなくなり、手取額が少なくなります。メリットは理解していても社会保険加入を見送りたい場合は、どうすればよいのでしょうか。

社会保険加入条件には勤務時間、月額賃金、雇用期間、学生の4つがあります。いずれかを満たす場合ではなく、すべて満たす場合に社会保険加入となります。1つでも当てはまらないものがあれば、社会保険加入とはなりません。

労働時間を抑える

労働時間の条件を満たさないための対策として考えられるのが、労働時間を抑えるという方法です。週の所定労働時間が20時間未満であれば、社会保険加入とはなりません。

たとえば、1日7時間、週3日で週21時間の仕事をしている人は、1日の勤務時間を6時間にすることで所定労働時間を20時間未満に抑えられます。

2ヶ月未満の短期で働く

働く期間を短くするという方法もあります。雇用期間が2ヶ月未満の見込みであれば、社会保険加入とはなりません。2ヶ月未満の短期アルバイトで勤務先を変えれば、社会保険に加入する義務はなくなります。

非該当の事業所で働く

条件を満たす短時間労働者が社会保険加入となるのは、2024年10月から従業員数51人以上の事業所で働く場合です。従業員数50人以下の事業所は社会保険の適用拡大の対象外であるため、週の所定労働時間20時間以上・月額賃金8万8,000円以上・雇用期間の見込みが2ヶ月超・学生でないという条件に当てはまる働き方をしても、社会保険加入とはなりません。

ただし、「第12回全世代型社会保障構築会議(2022年12月16日)」では、勤務先の企業規模によって社会保険の加入要件が異なる状況を解消するために、「企業規模要件の撤廃を早急に実現を図るべき」と報告しています。社会保険の適用がさらに拡大する可能性もあります。

週20時間を超えた場合、いつから社会保険に加入すべき?

労働契約上は1週間の所定労働時間が20時間未満でも、実際の労働時間が2ヶヵ月連続で週20時間以上となり翌月以降も同様の状況が見込まれる場合、翌月から社会保険に加入しなければなりません。

ただし、週20時間を超えたり超えなかったりした場合、原則労働契約で定める所定労働時間で判断します。週所定労働時間が20時間未満なら社会保険の対象外(実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上、翌月も同様の見込みの場合を除く)、20時間以上なら対象です。

事業所が社会保険の加入条件を満たした際の手続き

事業所が社会保険の加入条件を満たした場合、次の手続きが必要です。

  • 社会保険の適用事業所になる手続き
  • 従業員を社会保険に加入させる手続き
  • 従業員の家族を扶養にするときの手続き

それぞれの手続きについて解説します。

社会保険の適用事業所になる手続き

事業所が社会保険の加入条件を満たした場合、日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出して適用事業所になったことを報告します。提出期限は、事実発生から5日以内です。添付書類はケースによって次の通りです。

  • 法人事業所:法人(商業)登記簿謄本(コピー不可)
  • 事業主が国や地方公共団体、法人の場合:法人番号指定通知書等のコピー
  • 個人事業所:事業主の世帯全員の住民票(コピー不可)

社会保険料の納付を口座振替で行う場合、「健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」を同時に添付します。

従業員を社会保険に加入させる手続き

従業員を社会保険に加入させるには、日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出して報告します。提出期限は事実発生から5日以内、添付書類は原則不要です。

健康保険組合に加入している場合は、別途、健康保険組合での手続きが必要です。

従業員の家族を扶養にするときの手続き

一定要件を満たす従業員の家族は、「被扶養者」として企業の健康保険に加入できます。また、一定要件を満たす従業員の配偶者は「第3号被保険者」として国民年金に加入できます。手続きは加入する健康保険組合等によって次の通りです。

  • 協会けんぽの場合:日本年金機構に「健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)」を提出
  • 健康保険組合の場合:日本年金機構に「国民年金第3号被保険者関係届」、健康保険組合に「健康保険 被扶養者(異動)届」を提出

被扶養者の続柄や収入を確認するために次の書類の添付が必要です。

  • 戸籍謄本
  • 住民票
  • 所得証明 など

なお、社会保険の加入条件は就業規則への記載義務はありませんが、記載している場合は法改正に合わせて見直しが必要です。インターネット上で無料で利用できる就業規則のテンプレートもあるので、活用を検討してみましょう。

社会保険への加入義務を無視した場合はどうなる?

事業所が加入条件を満たしているにもかかわらず未加入の場合、厚生年金保険法違反で事業所に立入検査が行われたり、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。

また、ブラック企業として従業員の離職を招く、社会的信用をなくす、などのリスクも考えられます。

事業主側は「キャリアアップ助成金」によって支援を受けられる

社会保険の適用拡大を推進するため、政府は事業主に対してさまざまな支援を行っています。その1つが短時間労働者のキャリアアップ促進を目的に行われる、キャリアアップ助成金の給付です。キャリアアップ助成金は事業主のパート・アルバイトの正社員化や処遇改善への取り組みを対象にした助成金で、以下のような場合に給付対象となります。

  • 非正規社員を正社員にした場合(正社員化コース)
  • 社会保険加入を目的に労働時間延長を行った場合(社会保険適用時処遇改善コース)

キャリアアップ助成金を短時間労働者に対する給料アップの財源とすることで、社会保険料負担による手取額の減少を防げます。

キャリアアップ助成金制度についての詳細は下記を参考にしてください。

短時間労働者の手取額の減少対策にはキャリアアップ助成金を活用できる

社会保険の適用拡大は、短時間労働者の社会保険加入を促すことを目的としています。条件を緩和することで短時間労働者でも社会保険に加入しやすいようにし、働き方に見合った手厚い保障を受けられるようにすることを目指しています。

しかし、社会保険料負担により給料の手取額が減少するため、社会保険加入を嫌う短時間労働者も少なくありません。こうした短時間労働者に対しては、キャリアアップ助成金を用いて給料アップなどを図ることも、事業主には求められます。

よくある質問

週20時間以上の労働者は、社会保険の適用対象になりますか?

週20時間以上の労働者で月額賃金8万8,000円以上、雇用期間の見込みが2ヵ月以上、学生でない場合は社会保険の適用対象になります。詳しくはこちらをご覧ください。

キャリアアップ助成金を活用することで、従業員にメリットのある形で社会保険加入を促すことはできますか?

キャリアアップ助成金で給料アップを図り、社会保険料による手取額の減少分を補填することで社会保険加入を促せます。詳しくはこちらをご覧ください。


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