- 更新日 : 2022年2月4日
裁量労働でも残業代は出る?計算方法やみなし残業との違いを解説!
労働時間などを労働者の裁量に任せ、実際に働いた時間が何時間であっても、契約した一定の時間働いたこととみなす制度を「裁量労働制」といいます。この場合、残業はどのように扱われるのでしょうか。本記事では、裁量労働制における残業代の計算方法や「みなし残業制」との違い、残業代が支払われない場合の請求方法などについてご説明します。
目次
裁量労働制とは?
裁量労働制とは「みなし労働時間制」の一つで、所定労働日に一定時間の勤務をしたとみなす制度です。例えば、みなし労働時間を9時間とした場合、7時間働いても、10時間働いても、9時間働いたとみなされます。ただし、これはあくまでも所定労働日を対象にしたものです。例えば、土日祝日を休日に設定していて土曜日に勤務をした場合、時間外扱いとして、勤務時間分の給与支払い義務が発生致します。
また、裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、それぞれ適用できる職種に制限があります。裁量労働制においては、会社が労働時間や業務の進め方を具体的に指示することは認められず、労働者が自らの裁量で働き方を決めることが求められます。そのため、裁量労働制を適用できる職種も限られているのです。
それぞれの裁量労働制の詳細については、以下の記事をご覧ください。
参照:労働時間・休日|厚生労働省
裁量労働制とみなし残業制の違い
さて、「みなし労働時間制」と聞いて「みなし残業制」という言葉を思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。裁量労働制はみなし労働時間制の一つだと述べましたが、一般的に「みなし残業制」と呼ばれるものとは違います。
みなし残業制が裁量労働制と大きく違う点は、裁量労働制は勤務時間全体について適用され、みなし残業制は残業時間に関してのみ適用される点でしょう。また、みなし残業は労働者の裁量で決められるのではなく、適正と見込んだ残業時間を会社が決定するという点も異なります。
みなし残業制は「固定残業制」とも呼ばれ、給与に固定の残業代が含まれている制度のことです。例えば、外出の多い営業職など労働者の働き方によって会社が残業時間を把握しにくい場合や、残業が生産性の向上にどの程度貢献しているかの判断が難しい場合などに、固定の残業時間を設定し、残業代を給与に含めて定額で支給します。これにより、会社は残業に関わる複雑な計算が不要になり人件費の見通しがたてやすくなります。また、労働者には残業が少ない月でも一定の残業代を得られるというメリットがあるのです。
ただし、労働者には固定残業時間以上の残業をしても固定の給与しかもらえないという誤解も多く、追加の残業代を払わないなどの違法を犯す会社もあり、トラブルも少なくありません。
そのため、みなし残業制を導入し人員募集をする際には下記について明示しなければならないとされています。
- 基本給
- 固定残業手当(基本給と固定残業手当を明確に分ける)
- 固定残業時間の超過分や、深夜、休日出勤には別途手当を支給する旨
参考:固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします|厚生労働省
裁量労働制でも残業代は出る
裁量労働制は、所定労働日に一定時間の勤務をしたとみなす制度です。
そのため、以下のようなケースでは残業代の支払い義務が発生します。
- 月:7時間
- 火:8時間
- 水:6時間
- 木:7時間
- 金:5時間
- 土:7時間
この場合、週40時間以下の勤務となっているものの、あくまで裁量労働の対象は平日9時間の労働です。そのため、土曜日の7時間分の勤務は1.25倍の割増しにて支払う形となります。
一方、以下のようなケースでは残業代の支給は発生しません。
- 月:9時間
- 火:8時間
- 水:10時間(22時以降の勤務2時間あり)
- 木:8時間
- 金:9時間
裁量労働制は労使協定によって定めた時間を労働したものとみなします。
そのため、月・水・金は8時間を超えていても、みなし労働時間は8時間のため、この3日分の残業代の支給は発生しません。なお、上記の例の場合は水曜日に深夜勤務を行っているため、深夜勤務に該当する時間については0.25倍の割増で深夜手当の支払い義務が発生します。
残業代が発生するようなケースは、以下のような場合です。
- みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
- 深夜労働を行った場合
- 休日労働を行った場合
- 時間外労働と深夜労働が重なった場合
- 深夜労働と法定休日労働が重なった場合
法定労働時間とは、労働基準法に定められた労働時間の上限で、1日に8時間、1週間に40時間までです。これを超えた時間は時間外労働として扱われ基本給から計算した時給(1時間当たりの基礎賃金)の1.25倍の割増賃金(残業代)が発生します。
例えば、みなし労働時間が9時間の場合、1時間は時間外労働となり、残業代が発生します。この残業代は、みなし労働時間を9時間と契約した時点で給与に含めて計算されなければなりません。
裁量労働制でも、深夜労働に対する手当が発生します。労働者が22:00~5:00の間に働いた場合、会社は1時間当たりの基礎賃金の0.25倍を追加して支払わなければなりません。
裁量労働制にも、休日労働の規定が適用されます。休日には週に1日または4週に4日設けなくてはならない法定休日と、会社が自由に定める所定休日があります。このうち、法定休日に働いた場合には、働いた時間の分、1時間当たりの基礎賃金の1.35倍の割増賃金が発生します。また、所定休日では休日労働の割増賃金はありませんが、働いた時間を足して週40時間を上回るか8時間以上働いた場合には、法定労働時間を超えるため1.25倍の割増賃金が発生することがあります。
時間外労働の続きで22:00以降まで働いた場合などには、22:00以降の賃金について時間外労働の1.25倍と深夜割増の1.25倍を合わせて1.5倍の割増賃金となります。
法定休日に深夜労働を行った場合、22:00以降の賃金について深夜労働の1.25倍と法定休日労働の1.35倍を合計して1.6倍の割増賃金となります。
なお、1か月に60時間を超える場合の時間外割増率に関して、大企業は1.25倍ではなく1.5倍で計算されます。中小企業に対する適用は現在猶予中となっているものの、2023年4月1日以降は猶予措置が廃止される予定です。中小企業であっても、60時間を超える時間外労働は、1.5倍の割増率となります。
参考:
労働時間・休日|厚生労働省
法定労働時間と割増賃金について教えてください|厚生労働省
労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇|労働基準法 第4章
裁量労働制における残業代の計算方法
前項目で裁量労働制でも残業代の出るケースを説明しました。
では、実際にはどのように計算するのか、例を挙げてみていきましょう。
まずは1時間当たりの基礎賃金を計算します。
月給:40万円
1日の所定労働時間:8時間
1年間の勤務日数:250日
1年あたりの所定労働時間 = 8時間×250日=2,000時間
1ヶ月あたりの平均所定労働時間=2,000時間÷12ヶ月≒166時間
1時間あたりの基礎賃金=40万円÷166時間≒2,500円
この、1時間あたりの基礎賃金2,500円を例として、裁量労働制の場合の残業代を計算してみましょう。
① 平日の残業代の計算
裁量労働制の場合、平日に何時間働いたとしても労使で決定した「みなし労働時間」が労働時間だとみなされるため、残業代は発生しません。ただし、みなし労働時間が法定労働時間の8時間を超える場合には残業とみなされ、1.25倍の割増賃金となります。
割増賃金の計算式は、
例えば、みなし労働時間が9時間だとしましょう。この場合、1時間あたりの基礎賃金の数字をあてはめて計算すると、
➁ 休日出勤の残業代の計算
次に、法定休日に働いた場合の残業代(休日出勤割増賃金)を計算してみましょう。
計算式は、
例えば、法定休日に出勤して5時間働いたとしましょう。1時間当たりの基礎賃金の数字をあてはめると以下のようになります。
③ 法定休日や深夜労働の残業代の計算
①~②で裁量労働制に残業代(休日出勤の割増賃金)が発生する場合について、その例と計算方法をご紹介しました。
ほかにも、法定労働時間を超えたみなし労働時間が設定されていて深夜労働を行った場合や、法定休日に深夜労働を行った場合にも、残業代が発生します。以下に例を挙げてご説明します。
- みなし労働時間が9時間で、22:00を過ぎ1:00まで勤務した場合
- 法定休日に出勤し、17:00~23:00まで勤務した場合
計算式は、
(2)1時間あたりの基礎賃金×0.25×深夜労働時間
(1)+(2)=当日の残業代
(2)2,500×0.25×3=1,875
3,125+1,875=5,000
の計算式は、
(2)1時間あたりの基礎賃金×0.25×深夜労働時間
(1)+(2)=当日の残業代
(2)2,500×0.25×1=625
20,250+625=20,875
このように、時間外労働や深夜労働、休日出勤などが並行して起こった場合には、その分を加算して残業代が計算されます。
なお、休日出勤と深夜ではない残業(時間外労働)は、そもそも休日のみなし労働時間が設定されていないため、重複することはありません。
裁量労働制において残業代が支払われない場合は?
裁量労働制は、実労働が何時間であっても決まった時間を働いたとみなす制度であり、「みなし労働時間は固定であり、残業をしても残業とはみなさない」という制度ではありません。しかし、これを誤って理解している会社や、一部の悪質な会社では制度の概要を社員に説明せず、裁量労働制の名を利用して残業をしても残業代は出ないこととしている会社もあります。
これまでご説明した条件にあてはまるにもかかわらず、残業代が支払われない場合には、会社に対して請求することができます。まずは会社に支払請求書を送付しましょう。また、残業の事実と残業代未払いの証拠を集めておくことも重要です。
仮に支払い請求書を送付しても支払われない場合は、改めて内容証明郵便で支払い請求書を送付したり、労働基準監督署に申告したりするなどして和解の道を探りましょう。
それでも解決しない場合には、裁判所での労働審判や訴訟という方法もあります。
個人で会社とのやりとりを行うのが難しい場合は、弁護士などの専門家に相談するのもひとつの方法です。
参考:
裁量労働制の概要|厚生労働省
専門業務型裁量労働制の適正な導入のために|厚生労働省
裁量労働制における残業代が正しく計算されているか注意しよう
裁量労働制とは「みなし労働時間制」の一つであり、実労働時間が何時間であっても、労使間で決めた労働時間を働いたこととみなす制度です。働く時間や方法は会社からの指示ではなく労働者本人の裁量に任せることとなっています。そのため、原則として「残業」という概念がありません。しかし、休日・深夜労働やみなし労働時間の設定によっては、残業代が発生することもあるのです。
裁量労働制で働く人はこの制度についてよく理解し、残業代などが正しく計算されているかに注意する必要があるでしょう。
よくある質問
裁量労働制でも残業代は出ますか?
みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合や、休日出勤、深夜勤務を行った場合には、会社は割増賃金(残業代)を支払う義務があります。詳しくはこちらをご覧ください。
裁量労働制において残業代が出るにもかかわらず勤務先が支払いを拒否した場合どうすればよいですか?
勤務先に未払いの残業代を請求できます。残業の証拠となる資料を揃え、請求書を送付しましょう。和解に至らない場合には労働審判や訴訟を起こすこともできます。難しい場合には専門家への相談をおすすめします。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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