- 更新日 : 2024年9月6日
モラハラとは?家庭内や職場の事例や特徴、企業の対処法を解説
モラハラとは、倫理や道徳に反する行為で相手の精神・肉体を傷つけることです。企業には労働契約に伴い安全配慮義務を負うこととされており、労働者の身体だけではなく心の健康にも配慮する義務があります。
ここでは、モラハラの定義や職場内で該当する行為について解説します。また、企業が講じるべき措置と対処法についても見ていきましょう。
目次
モラハラとは?
モラル・ハラスメントとは、モラル(道徳や倫理)に反したハラスメント(嫌がらせ)を意味し、モラハラとも呼ばれます。モラハラは家庭内暴力やDVに結びつく傾向があるため家庭内で発生するイメージが強いかもしれませんが、職場で発生するモラハラもあります。ここでは、モラハラに該当する行動やパワハラとの違いについて説明します。
モラハラの意味
厚生労働省の定義によれば、職場におけるモラハラは、「言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」を意味します。
引用:メンタルヘルス関係:用語解説|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト 厚生労働省
精神的・肉体的に人を傷つける態度や言動などの行為により退職に追い込むことや、職場環境を悪化させることなどが該当します。
近年、モラハラが原因で体調不良となり、退職や休職に追い込まれる人も見られ、企業としては放置できない問題です。
モラハラの特徴
モラハラの特徴としては、「物理的な暴力行為ではないこと」が挙げられます。骨折やアザ痣のように身体的に目立つ傷がないことから、被害者が訴えても周囲から理解が得られず、「深刻な嫌がらせ」として受け止めてもらえないケースもあるでしょう。
人前で暴言を吐く、大声で怒鳴るといった行為はもちろんのこと、言葉や態度などで、他人に気づかれないように相手を追い詰める行為も多く見られます。したがって、無視をしたり、不機嫌な態度で接したりすることなどもモラハラに該当することがあります。
パワハラとモラハラの違い
モラハラとパワハラの違いは、職場内での力関係にあります。パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場での優位性を利用し、身体的・精神的な苦痛を与えることと定義されています。上司が部下に対して無視をする、上司が他の従業員や顧客がいる前で部下を必要以上に叱責する、先輩が後輩を仲間外れにして職場で孤立させるといったことはパワハラの典型的な例です。
なお、パワハラは加害者と被害者の力関係をもとにしていますが、必ずしも職位が高いほうから低いほうにハラスメントを行うとは限りません。部下や同僚による集団の行為で上司が抵抗できない場合にもパワハラとなることがあります。職権だけではなく、集団や知識・経験などによるパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて与える嫌がらせがパワハラに該当します。実質的な力関係により、部下が上司に対してパワハラを行う、同僚同士でパワハラを行うといったこともあり得るのです。
パワハラとモラハラは共通する部分が多く、明確に線引きすることはできません。しかし、
モラハラは、物理的な暴力行為ではないものの、精神的・肉体的に人を傷つける行為に違いはありません。したがって、優越的な背景があり、職場で行われる場合には、パワハラとなることがあります。
家庭内でのモラハラの例
家庭内で発生するモラハラは、家庭内暴力の一種と考えられます。夫から子供、夫から妻、妻から夫など、さまざまな関係性でモラハラが発生します。暴言や無視、他人の前で配偶者を貶める発言などがモラハラに該当します。ここでは、家庭内で発生するモラハラの事例について紹介します。
家庭内でモラハラととれる主な言動
家庭内のちょっとした会話が、実はモラハラに該当するケースがあります。たとえば、食事どきに、必ず味の評価をする。それがいつもマイナスの評価であれば、作った側はいい気分はしません。味を評価すること自体がモラハラに該当するわけではありませんが、「なんでお前はこんなまずいものしか作れないんだ」「食費の無駄遣いをして」というような言動は、相手の尊厳を傷つけ、モラハラに該当する言動となるでしょう。
【モラハラに該当する言動】
- 暴言を吐く
- 家庭内で不機嫌をまき散らす
- 「お前は馬鹿だ」「黙っていろ」と日常的に相手を否定をする
- 知人や友人の前で配偶者を笑いの種にする
- 配偶者の交友関係を過度に束縛する
また、常に相手の評価を下げるような物言いもモラハラに該当します。たとえば、友人や知人の前でパートナーを貶める言動はモラハラの一種です。「こいつ、何度言っても料理が上手くならなくて」「ほんとに馬鹿なんですよ」というような言動であったり、笑いの種としてからかったりすることもモラハラになります。
ほかにも、パートナーを異様に束縛する、高慢な態度をとる、間違いを認めない、嘘をつくという言動もモラハラに含まれます。
モラハラ夫の特徴
家庭内のモラハラを他人が見抜くのは難しいといわれます。なぜなら、モラハラを行う人は他人の前では愛想よく振る舞い、好印象を保つからです。そのため、モラハラを受けていても周囲が「よい奥さん」「よい旦那さん」と評価するため、モラハラを受けている本人が、モラハラであることに気づけないというケースもあります。
このように、最初は冗談のように聞こえても家庭内で徐々に本性を表すのが、モラハラを行う男性(モラハラ夫)の特徴です。モラハラを行う人は、自尊心が高いにも関わらず、自己肯定感を高める努力を嫌い、身近な人を貶めることで自尊心を満足させる傾向にあります。
職場におけるモラハラの例
職場で起こるモラハラの例には、以下のものが挙げられます。
- 何を言っても無視をされる
- 仕事の注意で人格否定される言葉をかけられた
- 陰で悪口をいわれる
- 急に不機嫌な態度を取られた
- 過去の失敗をいつまでたってもいわれる
- プライベートについて過度に口を出される
- 見下した態度を取られる
- 家族の悪口をいわれる
モラハラを行う加害者は、悪意を持ってやっているのではなく、「自分は正しいことをしている」と考えているケースもあります。また、特定の人だけにモラハラ行為を行い、周囲がモラハラの発生になかなか気づけないということもあります。
業務上必要な指導や注意は、当然モラハラにはあたりません。しかし、威圧的な態度であったり、度を越した継続的な叱責は、モラハラとみなされる可能性があります。
モラハラの加害者、被害者になりやすい人の傾向
一概にはいえませんが、モラハラの加害者になる人は、自己愛が強いという傾向があるといわれることがあります。他人から認められたい気持ちが強く、自己評価が高いにも関わらず、努力を嫌い、他者を貶めることで自己を正当化させるのでしょう。
一方で、モラハラのターゲットになる被害者は、他人に依存しやすい傾向が見られることがあります。周囲の反応を気にしていたり、自分に自信がなかったりすることから、反論できず加害者のモラハラ行為を助長させてしまうこともあるのです。もちろん、一つの特性がモラハラ被害を受ける原因となるわけではありません。やはり、モラハラは、行為を行う加害者に責任があるといえるでしょう。
モラハラが起こる原因
職場で発生するモラハラの原因は、一概にはいえません。人間関係のもつれがモラハラになることもあれば、職場環境がモラハラを引き起こすこともあります。長時間労働やノルマが厳しい職場では、従業員がストレスを抱え、そのはけ口としてモラハラを行うことが考えられます。
また、チームメンバーが特定の人で固定されていることや、仕事場に二人しかスタッフがいないという状況は、モラハラの発覚を遅らせます。加害者も、第三者に気づかれずにモラハラを行いやすくなってしまうため、モラハラが悪化する可能性が考えられます。
モラハラが及ぼす悪影響
モラハラは、被害を受けた人の精神・肉体を傷つける行為です。病気のように、精神面・肉体面でさまざまな支障をきたすと考えられています。
うつ病
うつ病は、脳の中の神経伝達物質が減少し、精神活動の低下など脳の働きに問題が生じることによって身体的な症状を引き起こす精神疾患と考えられています。はじめのうちは、気分が落ち込むだけではなく、睡眠障害や食欲低下、不安や焦燥、興味・関心の欠如など、身体や行動の問題として現れるのが特徴です。仕事の影響でうつ病が悪化した場合、休職により仕事から距離を置くことが重要になります。
適応障害
適応障害とは、ストレスが原因で心身のバランスが崩れ、環境や出来事にうまく対処できず、心身や行動にさまざまな症状が発生する状態を指します。正常な人にもこのような症状は現れますが、たとえば、「職場で仕事をしていると涙が止まらなくなる」「出勤時に電車にのると腹痛がする」というように社会生活に支障をきたすような過敏な反応が起こった場合には、適応障害の可能性ががあります。適応障害の治療には、ストレスを軽減するために原因となる状況から離れ、休息をとることが必要です。
心身症
心身症とは、ストレスが原因となり発生する病気の総称です。ストレス反応には個人差があるため、呼吸器や消火器、神経系など、個人によってさまざまな箇所に症状が表れます。アトピー性皮膚炎、メニエ-ル症候群、円形脱毛症は、心身症の代表例です。
企業が行うべきモラハラの予防策
2020年6月に、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」、通称「パワハラ防止法」が改正され、職場でのハラスメント防止対策が強化されました。2022年4月からは、大企業だけではなく中小企業も、ハラスメント防止措置が義務付けられています。
職場でのモラハラはパワハラに該当することがあります。そのため、パワハラと同様の方法で対策・予防にあたることが必要です。パワハラ防止法における企業が講ずるべき措置には、以下の4つのポイントが挙げられます。
- 事業主の方針などの明確化及びその周知・啓発
- 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- そのほか併せて講ずべき措置
引用:2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!|厚生労働省
企業には、職場でパワハラを行ってはならないなどの方針を明確にし、社内で周知することが求められます。また、パワハラの行為者について厳格に対処しなければなりません。
ハラスメントはパワハラだけではありません。モラハラ、セクハラ、マタハラなどあらゆるハラスメントを予防・防止するための措置を取る必要があります。それには、ハラスメントの被害を受けた人が相談できるよう、窓口を設置すること、そして適切な体制を整えることが必要です。
モラハラが起きた場合の対処法
企業内でモラハラが発生したとき、人事は従業員の訴えに適切に対応しなければなりません。対応のポイントとしては、被害者・加害者の双方から聞き取りを行うとともに、周囲の人々の証言なども集め、客観的な視点から迅速に事実関係を調査し、状況を把握することです。日頃から、相談窓口での対応フローを整えておくとよいでしょう。
厚生労働省では、トラブルが起きた際には、労働者・事業主どちらでも利用することができる「個別労働紛争解決制度」の利用を推奨しています。個別労働紛争解決制度とは、職場のトラブル解決のために適切なサポートを受けられる制度です。窓口として、各都道府県の労働局、または労働基準監督署内に総合労働相談相談コーナーが設けられています。社内では対応しきれない、専門家のアドバイスを仰ぎたいといったケースで利用を検討してみるとよいでしょう。
参考:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)|厚生労働省
職場のモラハラには適切に対応しよう
モラハラは、被害者の精神や肉体を傷つける行為です。モラハラの防止には、日頃からモラハラを許さないといった方針を明確にするとともに、どのような行為がモラハラになるのか、従業員の理解を深めることが必要です。
企業は、労働契約に付随する安全配慮義務を当然に負うものとされています。モラハラが行われていることを放置し、従業員が病気になるようなことがあれば、企業が民事上の賠償責任を追うことにもなりかねません。パワハラと同様、モラハラを予防・防止する措置を講じ、従業員の身体だけではなく心の健康にも配慮する必要があります。
あらゆるハラスメントに対応した相談窓口を設置するなど、ハラスメント防止のための体制を整備し、社内で周知することは、職場のハラスメントの発生を防ぐことにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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