- 更新日 : 2025年3月19日
役員社宅の否認事例│実際の判例から学ぶ税務対策と制度適用のコツ
この記事では、役員社宅の実際の否認事例をご紹介します。
役員社宅の制度を正しく使えば、住居を経費として計上できるため節税効果が期待できます。
しかし、計上の仕方を誤ったがために、税務調査で否認されるパターンも少なくありません。
実例から学べる役員社宅の否認対策や、制度の適用を受け続けるコツを知り、役員社宅の制度を上手に活用していきましょう。
目次
役員社宅の実際の否認事例・判例
国税不服審判所の裁決事例集から役員社宅の否認事例(判例)を紹介します。
▼平成21年(2009年)の否認事例
(平21.10.28、裁決事例集No.78 237頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
上記の事例では、宗教法人が所有するマンションを、宗教活動に使用する目的で月額15万円で代表者へ貸与していました。
しかし、税務調査の結果、賃貸料相当額が適正な市場価格を下回っていると判断されます。
さらに、宗教法人は高額な家具やカーテン、食器類を無償で代表者へ提供していました。
そのため、税務署はこれらを「経済的利益の供与」と判断し、源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分が行われます。
宗教法人側は、「家具等は宗教活動のために設置したものであり、代表者に貸与した事実はない」と主張しました。
しかし判決では、家具は代表者が個人的に利用していたものとみなされ、マンションも「代表者個人が住むために使用しており、宗教活動には使用されていない」と判断されてしまいます。
宗教法人側はこれを不服として異議申立てを行ったものの棄却され、宗教法人が所有するマンションは社宅として否認される結果になりました。
▼用語解説
経済的利益の供与 会社が関係者に金銭以外の利益(社宅の低額賃貸など)を提供すること。この場合、税務上は役員報酬とみなされる 源泉所得税の納税告知処分 源泉徴収義務者が本来納付すべき源泉所得税を適切に納めていなかった場合に、不足分を納付するよう通知する行政処分 不納付加算税の賦課決定処分 源泉徴収義務者が期限までに源泉所得税を納付しなかった場合に、ペナルティとして課される税金 |
上記のように、役員社宅は否認されてしまう場合もあるため注意が必要です。
実例から学ぶ否認されないための対策
紹介した事例をもとに、社宅が経費として否認されないための対策を紹介します。
適切な賃貸料相当額を設定する
役員社宅の制度を導入するときは、適切な賃貸料相当額を設定することが大切です。
紹介した事例では、代表者が支払っていた賃貸料相当額が市場相場より低額だと判断されました。
役員社宅の賃貸料相当額が50%を大きく下回ったり、無償である場合は、その差額が経済的利益としてみなされ給与扱いとなる可能性が高くなります。
そのため、役員社宅の賃貸料を決める際は、国税庁の定める規定に則り賃貸料相当額を計算しましょう。
賃貸料相当額の計算方法は、貸与する社宅の床面積や法定耐用年数により「小規模な住宅」と「小規模でないそれ以外の住宅」で分かれます。
また、国税庁の基準で「豪華な住宅」に該当する場合は、そもそも役員社宅として認められず課税の対象となります。
家具や備品は適切に貸し出す
会社から自社所有の家具や備品を貸し出す場合は、適切な管理をしましょう。
紹介した事例では、法人名義の家具やカーテン、食器などを代表者が無償で使用していたことが問題視されました。
否認のリスクを抑えるためには、適正な賃貸契約のもとで家具や備品を貸し出さなければいけません。
たとえば定額法で計算した減価償却費相当額と家具の維持管理費を合算した金額を課税対象とすれば、家具の購入費用や維持管理費を経費にできます。
また、社宅の賃貸料相当額には家具の使用料を含めず、個別に算出することが適切です。
貸し出し方が実態に即していない場合は経費として認められず、否認されるおそれがあるため注意しましょう。
また、節税にはならないものの、トラブルを避けるためには、役員本人が家具を購入する形にすれば安心です。
役員社宅はこうした場合も否認されやすい!6つのケースを解説
上記の事例以外にも、役員社宅が税務署に否認されやすいケースを6つ紹介します。
①社宅の賃貸契約が個人名義でされている
社宅の賃貸契約が個人名義であると、否認される可能性が高くなります。
なぜなら個人名義の契約であると、会社が負担する家賃部分が「住宅手当」とみなされ、給与として課税対象となるためです。
給与扱いになると節税効果が失われるだけでなく、標準報酬月額に加算されるため、会社と個人、双方の社会保険料の負担増加にもつながります。
また、すでに個人名義で賃貸契約を結んでいる物件を社宅にする場合は、法人名義への変更が必要です。
この際、一度個人で結んでいる契約を解除し、法人として新たに契約を結ぶ手続きを踏まなければなりません。
新規契約を行うとき、敷金や礼金などの初期費用が発生する可能性もあるため、事前に確認しておきましょう。
②役員の持ち家を社宅に変更する
役員が現在住んでいる持ち家を社宅に変更するパターンも、否認されやすくなります。
社宅制度はあくまでも、従業員の住居をサポートするための福利厚生です。
そのため、以前から住んでいる持ち家に対して、会社が補助を行うことは適切ではないと判断されます。
余程の特別な事情がない限り、社宅として扱われる可能性は低いでしょう。
③社宅が過度に豪華である
社宅が過度に豪華である場合も、役員へ経済的利益を供与しているとみなされ、否認のリスクが高まります。
▼豪華な社宅の例
|
上記のような物件を社宅として提供した場合、その賃料の全額が役員への給与として課税対象になるおそれがあります。
また、床面積が240平方メートルを超える大きな住宅も、国税庁の基準では豪華社宅とみなされかねない条件のひとつです。
ただし、豪華な社宅の判断基準は床面積だけではなく、取得価額や支払賃貸料の額、内外装の状況など複合的な要素で判断されます。
これらの要素を十分に考慮し、否認されやすいような物件を社宅にするのは避けましょう。
④セカンドハウスとして利用する
会社が保有する別荘を役員のセカンドハウスとして提供する場合も、否認の確率は高いと言えます。
すでに居住している役員社宅があるにも関わらず、新たに社宅が提供される必要性や合理性は基本的にはなく、経費としては認められにくいでしょう。
また、セカンドハウスではなく、リゾート地などにある別荘を従業員の保養目的で使用する場合は経費計上が可能になります。
ただし、この場合も役員だけが利用しているような場合は、否認の対象になるおそれがあります。
別荘を経費として計上する際は、福利厚生としてすべての従業員が平等に使えるようにしましょう。
⑤契約内容や社内規定に不備がある
契約内容や社内規定の不備が原因で、否認される場合もあります。
▼不備の例
|
役員社宅の制度を自社へ導入する際は、利用目的や対象者、賃料の負担割合などを明記した社内規定を整備しましょう。
また、社宅を借り上げる際は正式な賃貸契約書を作成し、物件の賃料や利用条件などの契約内容を明らかにします。
そして、賃料の支払い記録もしっかり残しておきましょう。
社内規定を整備したあとは、規定と実際の運用が一致していることも重要であるため、形だけの社内規定や賃貸契約にならないよう注意が必要です。
⑥水道光熱費や駐車場代も会社負担になっている
役員社宅の水道光熱費や駐車場代を会社が負担している場合も、役員報酬の一部とみなされ課税の対象となります。
なぜなら、役員社宅の制度で経費計上が可能であるのは原則的に住宅のみであるからです。
ただし、「寄宿舎やこれに類する施設」を利用している場合、下記の条件を満たしていれば水道光熱費が非課税となる場合もあります。
|
ただし、上記の定義に当てはまる社員住宅は稀であると思われるため、基本的には水道光熱費は課税されるものと考えておきましょう。
また、水道光熱費を会社が負担すること自体は問題ないため、この点を取り違えないよう気をつけましょう。
役員社宅の制度適用を続けるコツ
役員社宅の制度の適用を続けていくためのコツを解説します。
定期的に家賃の見直しをする
役員社宅を否認されないようにするためには、定期的な家賃の見直しが大切です。
役員から徴収する賃貸料相当額が著しく低い場合、その差額は役員への給与とみなされてしまいます。
とくに、賃貸料相当額の計算に使う固定資産税の課税評価額は、3年に1度資産価値の見直し(評価替え)がされるため注意しましょう。
▼賃貸料相当額の計算式(小規模な住宅である場合)
次の(1)から(3)までの合計額が賃貸料相当額になります。
(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
評価替えのタイミングに合わせて、3年に1度は固定資産税の評価額を考慮し、家賃の引き上げや引き下げを行うとよいでしょう。
次回の評価替えは令和9年度(2027年)になります。
また、固定資産税評価額は課税明細書で確認でき、毎年4月頃に市区町村から送付される固定資産税の納税通知書に同封されています。
定期的に専門家へ相談する
定期的に税理士や専門家に相談することも大事です。
役員社宅の取り扱いに関する税法は複雑で、専門的な知識が必要です。
さらに税法は年々改正されていくため、社宅に関する規定や取り扱いも今後変わっていく可能性は十分にあります。
そのため、役員社宅の制度適用を始めたときだけではなく、専門家への定期的な相談を行うことで、最新の税法や税務調査への対応についての適切なアドバイスを受けられます。
役員社宅についてのQ&A
役員社宅についてのQ&Aを紹介します。
そもそも役員社宅が否認されるとどうなる?
役員社宅が税務署に否認されると、役員社宅の家賃を経費として計上できなくなります。
その結果、会社が負担した家賃や関連費用が役員の給与とみなされ、役員に所得税が課税されます。
また、給与とみなされた分が影響し、会社・役員ともに社会保険料の負担も高くなってしまう点も注意が必要です。
さらに、法人税や役員供与とみなされた分に対しての源泉所得税への、追徴課税を受けるおそれもあります。
役員社宅はタワーマンションでもいい?
役員社宅としてタワーマンションを利用することは可能ですが「豪華な社宅」とみなされるリスクがあります。
タワーマンションは豪華な物件が多く、ジムやプールなど共用施設も充実しています。
一般的な住宅にはない施設が備わっていたり、床面積が240平方メートルを超える場合、タワーマンションを役員社宅として適用することは難しくなるでしょう。
役員社宅規定の雛形はどこにある?
役員社宅規定の雛形は、労務に関連する事業者のホームページなどで配布されています。
当サイトでも、弁護士が監修済みの雛形を用意しているため、よろしければご利用ください。
雛形:【弁護士監修】社宅使用契約書テンプレート│マネーフォワード クラウド契約
また、雛形をもとに社内規定を作成した後も、念のため税理士など専門家に一度目を通してもらうと安心です。
詳しい書き方については、関連記事をご参考ください。
関連記事:「社宅使用契約書とは?雛形をもとに内容や注意点を解説」
役員社宅を利用する際は過度な節税に気をつけよう
役員社宅は適切に利用すれば、会社も役員も節税が可能なメリットが大きい制度です。
しかし、規定に反して何もかも経費として計上したり、あまりにも豪華な賃貸住宅を社宅として利用するような使い方は、役員社宅として否認されるリスクが高まります。
過度な節税には気をつけ、規定の範囲内で役員社宅の制度を上手に使っていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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