- 更新日 : 2024年5月23日
役員報酬は変更できる?手続き方法と注意点を解説!
会社経営が順調な場合や経営状態が悪化した場合には、役員報酬を変更することがあります。しかし、役員報酬を変更する際には、税法上のルールに従って変更しなければなりません。
役員報酬を変更する手順を間違うと、税法上損金として認められないことがあるため注意が必要です。役員報酬を変更する方法とその手順や注意点について解説します。
目次
役員報酬は変更できる?条件を解説!
役員であっても、会社の業績が好調な場合は役員報酬を増額することや、経営状態が悪化した場合には役員報酬を削減することがあるでしょう。ただし、従業員の給与とは異なり、いつでも自由に役員報酬を変更できるわけではありません。いつでも変更できるとなると、安易な利益調整が可能となるため、税務署が役員報酬の損金算入を認めないことがあります。
役員報酬の中でも、従業員の給与と同じように一定の期間ごとに支給する給与(定期給与)のことを「定期同額給与」と呼びます。定期同額給与の役員報酬を変更する場合には、原則として事業年度開始日から3ヶ月以内に株主総会を開催し、議事録作成後、金額を改定して支払わなければなりません。
役員報酬を変更するケースには、以下の2つのケースが考えられます。
役員報酬を変更する際には、税法上の損金に算入できるかどうかに留意する必要があります。定められた手順に沿って変更をしないと経費として求められず、法人税の課税対象となることに注意しましょう。
役員報酬を変更する時の手順
役員報酬を変更する際には、税制上のルールに則った手順を踏む必要があります。役員報酬が企業の損金として認められないこととなると、企業の法人税の金額に大きな影響を与えることとなるでしょう。そのためにも、ルールに沿った手順で変更することが必要です。
役員報酬の変更手順
役員報酬の変更は増額でも減額でもまず株主総会などにおいて正式に決定しなければなりません。その際には必ず「株主総会議事録」を作成します。
株主総会議事録には開催日時や会場、出席者や発行済株式総数などとともに誰の役員報酬をいくらに変更することになったかを明記します。出席者の署名・捺印も必要です。
なお合同会社の場合は議事録の作成が義務付けられていないため「同意書」という形で、変更内容を記載した書類を作成します。この場合も出席者の署名・捺印が必要です。
この株主総会議事録または同意書がない場合、税務調査があった際に変更内容の証明ができません。税務署も損金算入を認めるわけにはいかなくなるため、追徴課税をせざるを得なくなります。
また、健康保険・厚生年金保険に加入している企業では、役員報酬の変更によって「標準報酬月額」が2等級以上増減する場合、日本年金機構に対して「被保険者報酬月額変更届」の提出が必要となります。
標準報酬月額において5等級以上下がる場合であっても添付書類の提出は必要なくなりました。しかし事業所の調査などが行われた場合には、株主総会議事録または同意書、所得税源泉徴収簿または賃金台帳の写しの提出を求められるケースもあります。固定的賃金変動月の前月からの賃金台帳や源泉徴収簿、株主総会議事録、同意書などはいつでも提出できるように適正に保存しておきましょう。
変更手順は「いつ変更するか」がポイント
役員報酬を変更する際のポイントは「いつ変更するか」にあります。変更手続きは原則として「事業年度開始日から3ヶ月以内」です。例えば3月末が決算の企業で事業年度開始日が4月1日であれば、6月30日までに役員報酬変更の手続きを終えなくてはなりません。
なぜなら、いつでも役員報酬の変更が可能であれば、「今年度は利益が出すぎて税金が高くなったから、役員報酬を増額して節税しよう」という不正ができてしまうからです。
ただし、例外が認められないわけではありません。定期同額給与の役員報酬の場合、経営が著しく悪化したことによって株主・債権者・取引先などの利害関係者との関係上、役員報酬を変更せざるを得ない理由がある(業績悪化改定事由がある)と認められれば、変更は可能です。この場合、定期同額給与を減額する場合に限られます。
また、同一事業年度で役員の職制または地位の変更や、役員の職務の内容が変更となることもあるでしょう。このようなやむを得ない事情(臨時改定事由)がある場合にも、役員の定期同額給与の額を改定することが可能です。
これらの役員報酬の変更は、臨時株主総会などを開催して変更手続きを行います。臨時株主総会で役員報酬の変更の決定手続きを踏んで議事録または同意書の作成、被保険者報酬月額変更届などの提出を行えば、通常時と同じく役員報酬の変更が可能です。
とはいえ無用な疑いをかけられないためにも、役員報酬の変更は極力事業年度開始日から3ヶ月以内に行うようにしましょう。
役員報酬を変更する時の注意点
その他、役員報酬を変更する場合の注意点について確認していきましょう。
役員報酬を増額する場合
事業年度開始日から3ヶ月以内の原則を守っていれば役員報酬を増額するのは何の問題もありません。
しかし3ヶ月を過ぎてから増額をしようとすると基本的には損金への算入はできません。前述したように利益に応じた不正が簡単にできてしまうからです。
しかし損金に算入する(節税する)のでなければ、3ヶ月を過ぎていたとしても役員報酬の増額はいつでも可能です。
例えば3月末が決算で4月1日から事業年度が開始する企業が、事業年度の途中の10月1日分から毎月50万円だった役員の役員報酬を毎月80万円に増額するとしましょう。この場合、10月分の役員報酬のうち30万円分は損金不算入となります。
役員報酬を減額する場合
役員報酬を減額する場合は、事業年度開始日から3ヶ月以内という原則以外でも例外が認められる可能性があります。
この例外を国税庁では「経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じた」場合と定めています。
重要なのは「経営状況の悪化」と「第三者である利害関係者との関係性」の2点です。経営が著しく悪化していたとしても、株主や債権者などとの関係に問題が生じないのであれば、例外による役員報酬の減額は認められません。
この2点を満たすような理由を「業績悪化改定事由」と呼びます。国税庁はこれに関して、平成24年4月改定の「役員給与に関するQ&A」の中で、以下のような例を挙げています。
(1)株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
役員報酬を減額する場合は特に「第三者である利害関係者との関係性」についての要件を満たせるよう、第三者との協議などをしておくことがポイントとなります。
役員報酬を変更する期限
定期同額給与の役員報酬を変更する期限は事業年度開始時から3ヶ月以内です。したがって、3月末が決算の企業では、6月末までに役員報酬変更の手続きを終える必要があります。 ただし、株主総会が5月頃に行われて役員報酬の金額が確定していれば、5月から変更しても6月から変更しても問題ありません。
役員報酬の変更は慎重な判断が必要
その他、業績悪化改定事由に該当しなくても、法人の役員の地位の変更や職務の内容にの重大な変更があった場合にも役員報酬を変更することは可能ですが、役員報酬を変更する際には慎重な判断が必要です。
一度役員報酬を上げてしまうと、事業年度内に役員報酬を下げることはやむを得ない事由がない限り認められません。また、住民税は前年の所得に対して課税されますので、役員報酬を大幅に減額すると住民税が支払えなくなることも考えられます。
役員報酬の変更を安易に行うと、法人税額が多くなることがあります。役員本人の変更後の社会保険料の負担、住民税・所得税の金額、経営法人の今後の業績予想、事業計画などにも留意して、慎重に判断しましょう。
役員報酬計算シートのひな形・テンプレート
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よくある質問
役員報酬を変更する時の手順に気を付ける点は?
ポイントは「いつ変更するか」にあります。これは不正を防ぐためです。詳しくはこちらをご覧ください。
役員報酬を増額する場合の注意点は?
事業年度開始日から3ヶ月以内の原則を守ることには注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
役員報酬を減額する場合の注意点は?
特に「第三者である利害関係者との関係性」についての要件を満たせるよう、第三者との協議などをしておくことがポイントとなります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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