• 更新日 : 2024年8月21日

時短勤務で給料は減る?減らない?制度や計算方法、2025年の新制度

近年ワークライフバランスの重要性が高まる中、時短勤務制度への注目が高まっています。しかし、時短勤務を導入する際に、給与への影響や制度の運用方法に不安を覚える企業も少なくありません。

本記事では、時短勤務に関する基本的な知識から給与計算方法、さらには2025年に始まる新制度まで、人事担当者が押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

時短勤務とは?

時短勤務(短時間勤務制度)は、育児や介護を行う労働者が仕事と家庭生活を両立できるよう、通常の労働時間より短い時間で働くことができる制度です。この制度は、主に育児・介護休業法に基づいて実施されています。

育児のための短時間勤務制度では、3歳未満の子を養育する労働者が利用を申し出た場合、事業主は原則として1日の所定労働時間を6時間とする措置を講じなければなりません(育児・介護休業法第23条第1項)。また、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対しても、事業主は勤務時間の短縮などの措置を講じる努力義務があります(同法第24条第1項)。

介護のための短時間勤務制度については、対象家族1人につき通算93日間の範囲内で、介護休業とは別に利用できます(育児・介護休業法第23条第3項)。

2025年4月1日からの法改正では、短時間勤務制度について1日6時間を必須としたうえで、労働者の多様なニーズに応じ、1日7時間などの選択肢を設けることを事業主の努力義務とします。また、テレワークを短時間勤務制度の代替措置として追加することも検討されています。

この制度により、労働者は仕事と育児・介護を両立しやすくなりますが、労働時間の短縮に伴い給与が減少する可能性があります。そのため、2025年度から新たな給付制度として「育児時短就業給付金」の創設が予定されています。

2歳未満の子どもを養育するための時短勤務によって給与額が下がる場合、時短勤務中に支払われた賃金額の10%を上限に給付金を支給し、時短勤務者の収入を補填する取り組みが進められています。

時短勤務で給料が減るケース

時短勤務を導入する場合、人事制度によっては給与が減額となるケースもあります。

時間管理制

時短勤務において時間管理制が適用される場合、労働者の給与は通常の労働時間に基づいて計算されるため、勤務時間の短縮に伴い給与が減少することがあります。労働者が短時間勤務を選択した場合、所定労働時間が6時間に短縮されるケースが一般的です(育児・介護休業法第23条第1項)。

例えば、通常8時間勤務で月給30万円の労働者が、時短勤務により6時間勤務となった場合、給与は約75%に相当する22.5万円に減少する可能性があります。

2025年度から施行される新制度では、時短勤務を選択した労働者に対して「育児時短就業給付」が創設され、賃金の10%が補填されます。この制度により、時短勤務による収入減少を一定程度緩和することが期待されていますが、実際の給与は勤務時間に比例して減少するため、労働者の収入の変動には注意が必要です。

時給制

時給制で働く労働者が時短勤務を選択した場合、給与の減少はより直接的に影響します。例えば、時給1,500円で8時間勤務していた労働者が、時短勤務により6時間勤務となった場合、1日の給与は12,000円から9,000円に減少します。このように、時給制の場合は勤務時間の短縮がそのまま給与に反映されるため、収入が減少するリスクが高まります。

2025年度からの法改正では、時給制の労働者に対しても「育児時短就業給付」が適用される方向で進められています。この給付により、時短勤務による賃金減少を補填することを目指していますが、実際の賃金は労働時間に基づくため、労働者は勤務時間を慎重に選択する必要があります。特に時給制の労働者は時短勤務の影響を受けやすいため、事前に給与の見通しを立てることが重要です。

時短勤務で給料が減らないケース

一方、時短勤務で給料が減らないケースもあります。裁量労働制と成果主義の場合について解説します。

裁量労働制

裁量労働制は労働時間の長さではなく、仕事の成果や質によって評価される働き方です。労働基準法第38条の3(専門業務型裁量労働制)および第38条の4(企画業務型裁量労働制)に基づいて実施されます。

裁量労働制が適用される労働者が時短勤務を選択した場合は、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定められた時間働いたものとみなされるため、給与が減少しないケースがあります。

例えば、1日8時間の労働とみなす協定を結んでいる場合、実際の勤務時間が6時間であっても8時間分の給与が支払われます。

ただし、2025年4月1日からの法改正により、育児や介護を理由とする短時間勤務制度の利用促進が図られるため、裁量労働制適用者の時短勤務についても労使で十分に協議し、適切な運用を行うことが求められます。

成果主義

成果主義は労働時間ではなく、個人や組織の成果に基づいて評価・報酬を決定する人事制度です。法律で明確に規定されているわけではありませんが、多くの企業で採用されています。

成果主義を採用している企業では、時短勤務を選択しても目標達成度や業績に応じて給与が決定されるため、必ずしも給与が減少するとは限りません。

例えば、6時間の勤務で8時間分の成果を上げれば、フルタイム勤務と同等の評価を受け、給与も維持される可能性があります。

2025年4月1日からの法改正では短時間勤務制度の柔軟化が進められ、労働者の多様なニーズに応じた働き方の選択肢が増えることが予想されます。成果主義を採用している企業はこの法改正を踏まえ、時短勤務者の評価方法や給与体系を見直し、より公平で効果的な制度設計を行うことが求められます。なお、成果主義の下でも、労働基準法に定められた最低賃金や割増賃金などの規定は遵守する必要があります。

時短勤務の給料の計算方法

時短勤務の給料の計算方法について、1ヵ月の基本給から計算する場合と残業した場合に分けて解説します。

1ヵ月の基本給から計算する方法

計算式、計算方法、具体例は以下の通りです。

(計算式)

時短勤務の基本給 = 通常勤務の基本給 × (時短勤務の所定労働時間 ÷ 通常勤務の所定労働時間)

(計算方法)

  • 通常勤務の1ヵ月の所定労働時間を算出
  • 時短勤務の1ヵ月の所定労働時間を算出

上記の計算式に当てはめて、時短勤務の基本給を計算します。

(具体例)

通常勤務の基本給が30万円、所定労働時間が1日8時間・週5日勤務(月平均21.5日)の場合

  • 1ヵ月の所定労働時間は8時間 × 21.5日 = 172時間

時短勤務で1日6時間・週5日勤務の場合

  • 1ヵ月の所定労働時間は6時間 × 21.5日 = 129時間
  • 時短勤務の基本給 = 300,000円 × (129時間 ÷ 172時間) = 225,000円

残業した場合

残業した場合の計算式、計算方法、具体例は以下の通りです。

(計算式)

残業代 = 時給 × 1.25 × 残業時間数
(深夜・休日労働の場合は異なる割増率が適用されます)

(計算方法)

  • 時短勤務者の時給を算出(基本給 ÷ 所定労働時間)
  • 残業時間数を確認

上記の計算式に当てはめて残業代を計算し、基本給に加算します。

(具体例)

時短勤務の基本給が225,000円、1ヵ月の所定労働時間が129時間、10時間の残業をした場合

  • 時給 = 225,000円 ÷ 129時間≒1,744円
  • 残業代 = 1,744円 × 1.25 × 10時間 = 21,800円
  • 時短勤務者の給与総額 = 225,000円 + 21,800円 = 246,800円

育児休業後の時短勤務は社会保険料減額の届け出を

時短勤務の社会保険料については、減額措置を受けることができます。ここでは、その減額措置の概要と具体的な手続きを解説します。2025年4月1日からの法改正により、短時間勤務制度の柔軟化が進められる予定です。これに伴い、社会保険料の取り扱いにも変更が生じる可能性があるため、最新の情報に注意を払う必要があります。

時短勤務の社会保険料の減額措置

時短勤務を行う従業員の社会保険料は、原則として時短勤務前の給与を基に算出されます。しかし、育児休業後に時短勤務を開始する場合は、特例として社会保険料の減額措置が適用されます。

この措置は、育児・介護休業法に基づく育児のための短時間勤務制度を利用する場合に限定されており、介護や他の理由による時短勤務には適用されません。対象期間は、子どもが3歳になるまでです。

減額措置を適用すると、実際の報酬に基づいて社会保険料が算出されるため、時短勤務による給与減少に応じて保険料も減額されます。これにより、従業員の手取り額の大幅な減少を防ぐことができます。

減額措置を受けるための具体的な手続き

時短勤務による社会保険料の減額措置を受けるためには、以下の手続きが必要です。

①「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出

  • 事業主が、従業員の育児休業等終了後の報酬が著しく下がった場合に提出します。
  • 提出先は管轄の年金事務所です。
  • 提出期限は、育児休業等終了日の翌日から起算して10日以内です。

②「養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出

  • 従業員本人が、将来の年金額を維持するために提出します。
  • 提出先は事業主を経由して年金事務所です。
  • 提出期限は、育児休業等終了日の翌日から2ヵ月以内です。

これらの書類を適切に提出することで、実際の報酬に基づいた社会保険料の算出が可能になり、時短勤務中の保険料負担が軽減されます。

事業主は、対象となる従業員に対してこの制度を説明し、手続きの支援を行うことが求められます。また、書類の提出漏れがないよう、人事部門でのチェック体制を整えることも重要です。

時短勤務の給料減額は就業規則に明記する

時短勤務を導入して給与を減額する場合は、賃金に関する事項として就業規則の絶対的必要記載事項に該当するため、明記する必要があります(労働基準法第89条)。

就業規則への記載方法

時短勤務による給料減額について就業規則に記載する際は、具体的な内容と手続きを明確に示す必要があります。記載方法のポイントは以下の通りです。

  • 適用対象者の明確化:時短勤務制度の適用対象者(例:育児や介護を理由とする労働者)を明記します。
  • 勤務時間の詳細:時短勤務の具体的な勤務時間(例:1日6時間)を記載します。
  • 給与計算方法:時短勤務に伴う給与の計算方法を具体的に説明します。
  • 手続き:時短勤務を希望する場合の申請手続きや必要書類についても記載します。

就業規則に記載した場合の文例

以下は、時短勤務による給料減額について就業規則に記載する際の文例です。

(短時間勤務制度)

第○条 育児・介護を理由として短時間勤務を希望する従業員は、所定の手続きを経て短時間勤務制度を利用することができる。

  1. 短時間勤務の適用対象者は、次の各号に該当する者とする。
    (1) 3歳未満の子を養育する従業員(2) 要介護状態にある家族を介護する従業員
  2. 短時間勤務の勤務時間は、1日6時間とする。
  3. 短時間勤務を適用する従業員の給与は、次の計算式に基づいて算出する。
    短時間勤務の基本給 = 通常勤務の基本給 × (短時間勤務の所定労働時間 ÷ 通常勤務の所定労働時間)
  4. 短時間勤務を希望する従業員は所定の申請書を提出し、上司の承認を得るものとする。
  5. 短時間勤務の適用期間は、原則として子が3歳に達するまで、または介護が必要な期間とする。

なお、時短勤務による給料減額についての規定は、就業規則の「賃金に関する事項」および「労働時間に関する事項」の章に記載するのが適切です。

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この記事では就業規則のテンプレートをダウンロードできます。ぜひ活用してください。

時短勤務でも給料が減らないのはいつから?

2025年度に、育児のための時短勤務を行う労働者を対象とした新たな給付金制度「育児時短就業給付」が創設される予定です。この制度は育児と仕事の両立支援を目的とし、時短勤務による収入減少を補填することを目指しています。

育児時短就業給付の概要

主な特徴は以下の通りです。

  • 給付対象:育児のために時短勤務を選択し、その結果賃金が低下した労働者。
  • 給付水準:現在検討中ですが、賃金低下分の一部(約10%)を補填する方向で議論されています。
  • 給付期間:子どもの年齢や労働者の状況に応じて設定される予定ですが、詳細は今後の検討課題となっています。
  • 目的:男女ともに時短勤務を選択しやすい環境を整備し、育児とキャリア形成の両立を支援すること。

この新制度は、2025年度の施行を目指して検討が進められています。制度設計においては、他の労働者への影響や職場環境への配慮も考慮されており、労使双方にとって適切な制度となるよう調整が行われています。

時短勤務制度を活用し、働きやすい職場環境を作ろう!

時短勤務制度は、従業員の多様なニーズに応える重要な制度です。給与への影響や社会保険料の取り扱いなど複雑な側面もありますが、適切な制度設計と運用は従業員の満足度向上と企業の生産性維持につながります。

2025年からの新制度導入も視野に入れ、柔軟な働き方を支援する体制を整えることが企業に求められています。


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