• 更新日 : 2026年10月8日

給与計算の税法とは?所得税法の基本と最新の改正点

Point給与計算はどんな税法にもとづく?

所得税法と地方税法を軸に、社会保険各法や労働基準法が関わります。

  • 所得税は源泉徴収して年末調整で精算する
  • 住民税は前年の所得をもとに計算する
  • 納付の期限を過ぎると罰則の対象になる

令和8年分は控除額が変わるため、計算の前提を確認しておきましょう。

給与計算は、所得税法をはじめとするさまざまな法令にもとづいて行う業務です。毎年のように税制改正があり、正確な対応が求められます。給与計算がどの税法にもとづいているのかという全体像から、所得税法の基本、令和8年分の改正点、実務で守るべき期限までを解説します。

給与計算に関わる税法にはどんなものがある?

給与計算は、従業員への報酬を計算するだけでなく、国や地方自治体への納税義務を果たす役割も担っています。その根拠となるのが、税法をはじめとする各種の法令です。

税金に関する法令(所得税法や地方税法)

最も基本となるのが所得税法と地方税法です。所得税と住民税では、計算の考え方と徴収の時期が異なります。

税金 根拠法 計算と徴収の方法
所得税 所得税法 毎月の給与や賞与から源泉徴収し、年末調整で精算する
住民税 地方税法 前年の所得に課税され、翌年6月から翌々年5月までの12か月で特別徴収する

参照:所得税法|e-Gov法令検索、地方税法|e-Gov法令検索

所得税は年末調整で精算されるため、多くの給与所得者は確定申告をせずに納税を完了できます。一方、住民税は前年の所得をもとに計算されるため、税制改正の影響が反映されるのは1年遅れになります。

社会保険に関する法令(健康保険法や厚生年金保険法など)

健康保険法、厚生年金保険法、雇用保険法、労働者災害補償保険法などが関わります。保険料は従業員と事業主が決められた割合で負担し、給与から控除します。

料率は定期的に見直されるため、改定のたびに給与計算の設定を更新する必要があります。令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で次のとおりです。

  • 労働者負担:5/1,000(失業等給付・育児休業給付の保険料率)
  • 事業主負担:8.5/1,000(うち雇用保険二事業分が3.5/1,000)
  • 合計:13.5/1,000

令和7年度の14.5/1,000から引き下げられました。農林水産・清酒製造の事業は15.5/1,000、建設の事業は16.5/1,000です。新しい料率は令和8年4月1日以後に支払われる賃金から適用されます。

参照:雇用保険料率について|厚生労働省

このほか令和8年4月分からは、子ども・子育て支援金の徴収が始まっています。健康保険料に上乗せして徴収される仕組みで、給与計算の設定にも影響します。健康保険料率と介護保険料率も毎年度見直されるため、あわせて確認しましょう。

参照:令和8年度保険料額表|全国健康保険協会

労働に関する法令(労働基準法や最低賃金法)

労働基準法第24条では、賃金支払いの5原則が定められています。通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払いの5つです(一部に例外があります)。

給与計算で特に確認が必要なのは割増賃金です。割増率は次のとおり定められています。

区分 割増率
時間外労働(1日8時間、週40時間を超える部分) 25%以上
時間外労働のうち月60時間を超える部分 50%以上
休日労働(法定休日) 35%以上
深夜労働(午後10時から午前5時) 25%以上

参照:労働基準法|e-Gov法令検索

月60時間を超える時間外労働の割増率は、中小企業でも2023年4月から適用されています。また、最低賃金法により定められた地域別最低賃金を下回る賃金で労働者を使用することはできません。

最低賃金は毎年10月頃に改定されるため、常に最新の金額を確認して反映させる必要があります。

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給与計算の中心となる所得税法の基本は?

所得税法は、課税対象となる所得の範囲や計算方法、源泉徴収の仕組みなど、給与計算の基本的な枠組みを定めています。担当者として押さえておきたい基本を確認しましょう。

給与所得の定義と課税対象

所得税法第28条第1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と定めています。基本給や賞与だけでなく、各種手当や現物給与も含まれる広い定義です。

ただし通勤手当のように、一定の要件を満たすものは非課税になります。実務では、どの支給項目が課税対象になるかを正確に判断することが求められます。

参照:所得税法|e-Gov法令検索

源泉徴収制度の仕組み

源泉徴収制度は、給与を支払う企業が従業員に代わって所得税を徴収し、国に納付する制度です。毎月の給与から源泉徴収税額表にもとづいて税額を計算し、控除します。

この制度により、従業員は税金を分割して納められるため、一度に大きな負担を負わずに済みます。国にとっても安定的な税収の確保につながります。源泉徴収義務者である企業には、正確な計算と期限内の納付が法的義務として課されています。

給与所得控除の仕組みと計算

給与所得控除は、給与所得者の必要経費に相当するものとして給与収入から差し引く金額です。個人事業主が実際の経費を計上できるのに対し、給与所得者は勤務に必要な経費を個別に控除できないため、概算経費として設けられています。

令和8年分の給与所得控除額は次のとおりです。

給与等の収入金額 給与所得控除額
220万円以下 74万円
220万円超 360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超 660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超 850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

参照:源泉所得税の改正のあらまし|国税庁

【計算例】年収500万円の場合
  • 給与所得控除額:500万円×20%+44万円=144万円
  • 給与所得:500万円-144万円=356万円

この給与所得から基礎控除や扶養控除などを差し引いて課税所得を算出します。源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄に記載されるのが、この給与所得にあたる金額です。

なお収入金額が660万円未満の場合は、上の表ではなく所得税法別表第五を使って所得を求めます。

このほか特定支出控除という制度もあります。資格取得費や研修費など一定の要件を満たす支出について、給与所得控除額の2分の1を超える部分を控除できる制度です。

参照:No.1415 給与所得者の特定支出控除|国税庁

非課税所得の種類と注意点

一定の要件を満たす手当や給付は、所得税が非課税になります。実務で扱う機会が多いのは通勤手当です。

電車やバスで通勤する場合の非課税限度額は1か月あたり15万円です。新幹線や特急を利用する場合も、最も経済的かつ合理的な経路および方法であれば非課税の対象になります。

参照:No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁

自動車や自転車で通勤する場合は、通勤距離に応じて次のように定められています。

片道の通勤距離 非課税限度額(1か月)
2km未満 全額課税
2km以上10km未満 4,200円
10km以上15km未満 7,300円
15km以上25km未満 13,500円
25km以上35km未満 19,700円
35km以上45km未満 25,900円
45km以上55km未満 32,300円
55km以上65km未満 38,700円
65km以上75km未満 45,700円
75km以上85km未満 52,700円
85km以上95km未満 59,600円
95km以上 66,400円

参照:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁

片道65km以上の区分は、令和8年4月1日以後に支払われる通勤手当から引き上げられました。あわせて、一定の要件を満たす駐車場を利用してその料金を負担している場合、料金相当額(上限5,000円)を非課税限度額に加算できる仕組みも新設されています。

そのほかの主な非課税所得には、出張旅費(実費弁償的なもの)、社会保険料の事業主負担分、結婚祝金や香典など社会通念上相当と認められる金品があります。食事の現物支給は月額7,500円まで、深夜勤務に伴う夜食代は1回650円までが非課税です(いずれも令和8年4月1日以後の支給分)。

注意が必要なのは社宅や寮の貸与です。従業員から一定額以上の家賃を徴収していない場合、経済的利益として給与課税される可能性があります。

参照:源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)|国税庁
参照:No.1410 給与所得控除|国税庁

年末調整で税額を精算する仕組みとは?

年末調整は、その年の最後に給与を支払う際に、1年間の給与総額に対する年税額と毎月の源泉徴収税額の合計との差額を精算する手続きです。

年末調整と源泉徴収の関係

源泉徴収税額表は月額給与に対して概算で税額を算出するもので、各種の控除を正確に反映していません。そのため年末調整で、扶養控除や生命保険料控除などを適用して正しい年税額を計算します。

毎月の源泉徴収税額の合計と年税額の差額を求め、払いすぎていれば還付、不足していれば追加徴収となります。年末調整で適用できる控除には、扶養控除、配偶者控除、生命保険料控除、地震保険料控除、住宅借入金等特別控除(2年目以降)などがあります。

年末調整の対象にならない人

一部の従業員は年末調整の対象外となり、自分で確定申告を行います。対象にならないのは次のような人です。

  • 給与収入が2,000万円を超える人
  • 災害減免法により源泉徴収の猶予を受けている人
  • 2か所以上から給与を受けている人(他の勤務先に扶養控除等申告書を提出している場合)
  • 年末調整を行う時期までに扶養控除等申告書を提出していない人

担当者は、これらの要件を確認して対象者を適切に判定する必要があります。

参照:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁

令和8年分の給与計算で変わる点

令和8年度税制改正により、基礎控除と給与所得控除が引き上げられました。月次の源泉徴収と年末調整で適用の時期が異なるため、区別して押さえておきましょう。

基礎控除と給与所得控除の引き上げ

基礎控除の本則が62万円になり、特例による上乗せを含めると最大104万円になります。給与所得控除の最低保障額も74万円に引き上げられました。

合計所得金額 基礎控除額(令和8・9年分)
489万円以下 104万円
489万円超 655万円以下 67万円
655万円超 2,350万円以下 62万円

参照:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁

これらを合わせると、給与収入178万円までは所得税がかからない計算になります。ただし令和8年分の源泉徴収税額表には改正が反映されていません。改正後の税額表が適用されるのは令和9年1月1日以後に支払う給与からで、令和8年分は12月の年末調整でまとめて精算します。

扶養親族等の所得要件の緩和

令和8年12月1日以後に支払う給与から、扶養親族等の所得要件が引き上げられます。これまで要件を超えていた家族が、新たに控除の対象になる可能性があります。

対象 令和7年分 令和8年分以後
同一生計配偶者・扶養親族 58万円以下
(給与収入123万円以下)
62万円以下
(給与収入136万円以下)
勤労学生 85万円以下
(給与収入150万円以下)
89万円以下
(給与収入163万円以下)

参照:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁

新たに要件を満たすことになった親族について控除の適用を受けるには、扶養控除等(異動)申告書を再提出してもらう必要があります。11月までの源泉徴収事務に変更はありません。

また令和7年度税制改正で創設された特定親族特別控除も、引き続き適用されます。19歳以上23歳未満の親族の所得に応じて、3万円から最大63万円を控除できる制度です。特定扶養控除とは対象が異なるため、区別して扱います。

参照:No.1177 特定親族特別控除|国税庁

参照:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁

給与計算で守るべき期限と罰則は?

各種の法令で定められた期限を守ることは、給与計算業務の基本です。期限を過ぎると延滞金や罰則の対象になります。

源泉所得税と社会保険料の納付期限

源泉所得税の納付期限は、原則として給与を支払った月の翌月10日までです。期限が土日祝にあたる場合は、翌営業日が期限になります。

給与の支給人員が常時10人未満の事業所は、「源泉所得税の納期の特例」の承認を受けることで、年2回(7月10日と1月20日)にまとめて納付できます。社会保険料は、当月分を翌月末日までに納付します。

法定調書の提出期限と罰則

法定調書の提出期限と、市区町村への給与支払報告書の提出期限は、いずれも翌年1月31日です。提出が遅れた場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

拘禁刑は、2025年6月の刑法改正により懲役と禁錮を一本化した刑です。罰則の対象になるだけでなく、税務調査のきっかけにもなり得るため、スケジュール管理を徹底しましょう。

なお令和9年1月1日以後は、給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、税務署への源泉徴収票の提出が不要になります。提出の方法が変わるため、切り替えの準備が必要です。

参照:No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例|国税庁
参照:源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ|国税庁

年収の壁は税法上どう位置づけられる?

最低賃金の上昇に伴い、パートタイム労働者を中心に年収の壁への関心が高まっています。税法上の壁と社会保険上の壁は基準が異なるため、区別して理解しておく必要があります。

税法上の壁と社会保険上の壁

かつて103万円の壁と呼ばれていた基準は、税制改正により引き上げられています。令和8年分の主な基準は次のとおりです。

金額 内容 区分
106万円 週20時間以上などの要件を満たすと勤務先の社会保険に加入※賃金要件は2026年10月に撤廃予定 社会保険
119万円 住民税がかかり始める 税法
130万円 特定適用事業所に勤務する人以外も扶養から外れる 社会保険
136万円 扶養控除・配偶者控除の対象から外れる 税法
178万円 所得税がかかり始める 税法

参照:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁、社会保険の適用拡大について|厚生労働省

社会保険の106万円・130万円という基準は変わっていません。税法上の基準だけが引き上げられているため、税では扶養の範囲でも社会保険では外れるという状況が生じます。

企業に求められる対応

最低賃金の上昇により、意図せず年収の壁を超えてしまうケースが増えています。改正内容を正確に理解し、従業員へ周知することが求められます。

実務では、扶養控除等申告書の記載内容の確認や、社会保険の適用拡大への対応が必要です。特に令和8年12月からの所得要件の引き上げは、対象になる従業員へ個別に案内しておくと、申告書の再提出をスムーズに進められます。

【振り返り】定額減税はどのような制度だった?

2024年6月から実施された定額減税は、物価高騰への対応として行われた一時的な措置です。2025年以降は実施されていませんが、制度の内容を振り返っておきます。

実施された定額減税は、納税者本人と配偶者、扶養親族1人につき、所得税3万円と住民税1万円の合計4万円を控除する制度でした。令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下(給与収入だけなら2,000万円以下)の人が対象です。

給与所得者の場合、2024年6月1日以後に最初に支払われる給与または賞与から、源泉徴収される所得税額より控除額が差し引かれました。控除しきれない分は、年内に支払われる給与や賞与から順次控除される仕組みです。年末調整では最終的な精算が行われ、扶養親族の人数に変更があった場合の調整も必要でした。

住民税については、2024年7月から2025年5月までの11か月で分割徴収されたため、2025年6月以降は通常の12か月徴収に戻っています。給与計算システムの設定変更や給与明細への記載など、実務面での対応が求められた制度でした。

参照:定額減税特設サイト|国税庁

給与計算の税法を理解して正確な実務を続ける

給与計算は、所得税法と地方税法を軸に、社会保険各法や労働基準法にもとづいて行う業務です。所得税は源泉徴収して年末調整で精算し、住民税は前年の所得をもとに翌年6月から徴収します。

令和8年分は基礎控除が最大104万円、給与所得控除の最低保障額が74万円に引き上げられ、12月からは扶養親族等の所得要件も広がります。通勤手当の非課税限度額や雇用保険料率にも変更があるため、改正のたびに設定を見直しましょう。

税法の基本を理解し、期限内に正確な処理を続けることが、安定した実務につながります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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