- 更新日 : 2024年7月19日
KKDとは?見積りのフレームワークは仕事でどう活用する?
KKDとは「経験・勘・度胸」のことで、日本の製造業で古くから重視されてきた手法です。KKDによる判断は的確で失敗も少ないと評価される一方、論理性や客観性のなさを指摘されることも多く「KKDは古い」との声もあるようです。
本記事では、KKDの意味や歴史的背景、メリットやデメリット、KKDの活用方法などについて解説します。
目次
KKDとは?
KKDとは「経験・勘・度胸」の頭文字を取った言葉です。仕事や作業をするときに、数値化されたデータや客観的な資料ではなく、個人の感覚に頼ることを意味しています。
KEIKEN(経験)
経験とは、個人が実際に見たり、聞いたり、感じたりしたこと、またはそれによって得た知識を指します。経験は個人に付随するもので、基本的に他人とは共有できません。
KAN(勘)
勘とは、物事を直接、感じ取ることです。長年蓄積された経験により、分析的・論理的な思考を介さず、物事の真相を直観的に把握することをさします。
DOKYOU(度胸)
度胸とは、物事を恐れない心のことです。長い間、さまざまなトラブルを乗り越えてきた経験があれば「どんな困難があっても対処できる」と自然に思えるでしょう。そうした気持ちが度胸につながっていきます。
反対語:データドリブン
KKDの反対語として「データドリブン」があります。データドリブン(data driven)とは、データに基づく判断のことです。
個人の経験や勘に基づくKKDは主観的・属人的になりがちですが、データドリブンは客観性と再現性に富み、かつ検証がしやすいメリットがあります。データドリブンのデメリットとしては、初期費用がかかることや専門人材の育成が困難であることなどが挙げられるでしょう。
KKDの歴史的背景
経験・勘・度胸、つまりKKDは、日本の製造業で古くから重要視されてきました。経験を重ね、その仕事に精通し、勘を効かせて作業ができる人材は、常に尊重されています。
しかし、KKDには大きな欠点がありました。KKDは性質上、一定の技能や知識を持つ「個人」に依存しなければならないという点です。
時代を経て、IT技術の発達により、データの活用が注目されるようになりました。KKDに伴うある種の曖昧さに比べ、データを分析して判断する手法は極めて論理的であり、時代の流れに合致していたためでしょう。
ソフトウェア開発プロジェクトの見積手法にも、従来はKKD法が使われていましたが、1970年代にはLOC法やファンクションポイント法などが、さらに1980年代にはCOCOMO法が開発され、データを用いる手法が主流になりました。
しかし一方で、問題点も指摘されはじめます。それは、データを充分に活用するには、一定の知識や経験を持つ人材が必要だということです。たとえ潤沢なデータがあっても使いこなせる人材がなければ、せっかくのデータは活用されずに終わってしまうでしょう。
そうした問題の解決策として、1990年代後半から、KKDの良さが再び見直されるようになりました。
KKD法とは?
KKD法とは、IT分野におけるプロジェクト見積り手法の一つです。KKD法では、個人の経験・勘・度胸に頼って、プロジェクトに必要な工数などの見当をつけていきます。
KKD法を熟練者が行えば、迅速かつ的確な結果を得られますが、経験の浅い人が見積ると失敗を伴うことも少なくありません。また経験者が見積りをする場合も、人によって判断が異なり、結果がぶれることも問題点といえるでしょう。
さらに、熟練者のKKDのみに頼っている場合、その人の退職により、企業からノウハウが消失してしまう懸念があります。KKD法のこのような点は、企業にとってはリスク因子です。そのためKKD法だけでなく、他の手法も検討、または併用した方がよいといわれています。
KKD経営
KKDという言葉は、IT業界だけでなく、人事や経営などビジネス分野でも使われています。
KKD経営とは、経験・勘・度胸に頼る経営手法のことです。目まぐるしく変わるビジネス環境の中で周囲に対応していくには、経営者の感覚、つまりKKDが必要です。熟練経営者の瞬時の判断やひらめきは、スピードが要求される時代に大きな価値を持つでしょう。
しかしKKDのみに頼る経営には、経営者の一時的な不在や判断の誤りなど、いくつものリスクが存在します。こうしたリスクが、ときとして甚大な損害につながるかもしれません。
そのため、KKD経営には一定の価値があるものの、KKDのみに依存する状況には問題が多いことが、広く指摘されています。
KKD法以外の関連するフレームワーク
IT分野のプロジェクト見積り手法は、以前はKKD法が主流でしたが、データ時代の到来により新たな見積り手法が開発されました。代表的なものとして、LOC法、ファンクションポイント法、COCOMO法などが挙げられます。
COCOMO法
COCOMO(ココモ)法とは、アメリカ合衆国のTRW社のバリー・ベーム氏によって、1981年に開発された見積手法です。COCOMOとは「constructive cost model」の略称です。
COCOMO法では、ソースコードの行数にプログラマーの能力や再利用できるソフトウェアの量などを加味し、係数を乗じて工数や開発期間を見積ります。COCOMO法はその後も改良され、1995年にはCOCOMOⅡが、2000年にはCOCOMOⅡ2000が開発されました。
LOC法
LOC法(エルオーシー法)は1970年代に開発された見積手法です。LOCとは「lines of code」の略した言葉です。LOC法では、ソースコードの行数によりソフトウェアの規模を推定し、工数や期間を見積ります。
しかしソースコードの行数は、プログラマーの能力やプログラミング言語により長短の差が大きく、合理的ではありません。そのため、LOC法を用いる場合は、あらかじめコード規約を決めておくといった工夫をした方がよいといわれています。
ファンクションポイント法
ファンクションポイント法とは、1979年に考案され、1984年の改訂を経て提唱された見積り手法です。
ファンクションポイント法では、入出力や内部ファイルの数、それぞれの難易度などから算出した「ファンクションポイント」により、ソフトウェアの規模を見積ります。ユーザーが確認できる機能が点数化(ファンクションポイント化)されることから、価格についてユーザーの理解を得やすいというメリットを持つ手法です。
KKD法って実際どうなの?時代遅れではない?
個人の経験・勘・度胸に頼るKKD法は、データ時代にそぐわない「時代遅れ」な方法といわれることがあります。その一方で、現代でもKKDの手法が重用されていることも事実です。KKD法は、今後も役立つ方法なのでしょうか。以下で、それぞれ解説します。
KKD法が役立つ場面もある
近年では、個人の経験や勘を用いるKKD法に代わり、データを使用した客観的かつ標準的な手法が主流になってきました。標準的な手法は、根拠が明確で誰にでも使えるため、通常の業務、つまり平時においてはスムーズに活用できるでしょう。
しかし、突発的なトラブルに直面したときなどは、標準化された手法が通用しない場面が多々あります。そうしたときに役立つものが、KKD法です。迅速性や、場数を踏んだ度胸が、思わぬ解決策につながることもあります。
現場の知見を生かす手助けになる
経験・勘・度胸、つまりKKDは、長い期間、業務に携わった人材だけが持つ力であり、企業の資産ともいえるものです。近代的な手法が主流の時代になっても、KKDの価値が消えるわけではありません。
他の手法に加え、KKD法を併用することは、現場で培われた知見の活用につながります。
新しい発想・ナレッジの元になる
KKD法が適切に使えるのは、長い期間に多くの仕事をこなし、さまざまな事例やトラブルに対処してきた人材だけです。こうして蓄積された経験は応用が利くため、新しい発想やナレッジのもとになることがあるでしょう。
KKD法のメリット
KKD法には「意思決定が早い」「データがない事例にも対応できる」といったメリットがあります。以下で、それぞれの内容を確認しておきましょう。
意思決定のスピードが早くなる
KKD法のメリットの一つに、意思決定の迅速さが挙げられます。
現代のビジネスにおいて、意思決定のスピードは重要なファクターです。判断に迷い、データの調査に時間をかけているうちに、せっかくのチャンスを逃してしまうこともあるでしょう。KKD法を用いることで、スピーディーな意思決定が実現できます。
データからは分からない判断を下せる
データを活用する手法には客観性や論理性がありますが、経験のない事例には対処できません。KKD法では、過去の経験や知識を応用することにより、データのない事柄においても適切な判断を下せるでしょう。
マニュアル化・惰性を防げる
仕事の中には、経験を必要とせず、体系的なマニュアルさえあれば遂行可能なものがあります。こうしたKKDを必要としない仕事は、誰がやっても同じ結果になるため発展性に乏しく、惰性に陥ることも少なくありません。
一方、KKDが必要な仕事は、遂行する人材により仕事の質が変わるため、付加価値がつくことがあります。このような仕事は、従業員のモチベーションにつながりやすいでしょう。
KKD法のデメリット
メリットの多いKKD法ですが「新入社員は活用できない」「再現性が薄い」など、属人性が高いことによるデメリットもあります。そのため、以下の内容を把握して、KKD法を活用しなくてはなりません。
新入社員や入社してすぐの人には活用できない
KKD法のデメリットの一つは「誰でもできるわけではない」ことです。
KKD法が使えるのは、業務に習熟した人材のみです。経験のない新入社員や他部署から異動してきた従業員は、すぐにはKKD法を活用できません。KKD法はその性質により、口頭などで伝えることが難しいため、新入社員などがKKDを使えるようになるには、ある程度の期間を要します。
従業員の転職やキャリアへの貢献度が低い
KKDは個人の経験や勘に依存するため、KKDを持つ従業員が転職すると、企業や部署からノウハウが消失し、業務遂行に悪影響が及ぶこともあります。そのため、特定の従業員のKKDだけに頼ることは、企業にとってリスクが高いことを認識する必要があるでしょう。
再現性が薄い
KKD法は属人性が高く、誰でも同じ判断結果が出せるわけではありません。長い経験がある従業員でも、人により判断結果が異なるケースは多々あります。
このようにKKD法には不安定な側面があるため、KKD法のみに頼っていては、事業の長期的な展望は困難です。事業を発展させていくには、KKD法のみを使わず、他の手法も取り入れていく必要があります。
KKD法が活用できる具体例
KKD法が活用できる具体例として、飲食店の事例をご紹介します。
例えばベテランの料理人は、油の音や泡の大きさ、気温や具材の状態、さらには店の空調や調理器具の癖などを無意識的に判断しながら、良質な天ぷらを揚げていきます。一方、経験の浅い新人にそのような能力はありません。新人がベテランの域に達するには、何年もかけて五感を鍛錬し、時にはやけども作りながら、習熟しなくてはなりません。
また、ベテラン料理人が転職してしまうと、その店の天ぷらの質が落ち、経営者は窮地に陥るかもしれません。ベテランのノウハウ(KKD)を維持するためには、どうしたらよいのでしょうか。
一つの方法として、ベテラン料理人が在職しているうちに、ノウハウを言語化してもらうことが挙げられます。KKD法は、個人の脳内に存在する膨大なデータを使う手法ともいえます。通常のデータ活用と大きく異なる点は、脳内のデータは言語化や数値化がされていないことです。
KKDを持つ人材の協力を得て、言語化や数値化を試み、文書などの形に整えれば、KKDを備えた人材以外でも、ノウハウを活用できるかもしれません。
見直されつつあるKKD法
経験・勘・度胸(KKD)は、特に日本の製造業において尊重されてきた手法であり、近年はIT関連やビジネス関連でも使われている用語です。KKDには迅速性や正確性、有事に強いといったメリットがある一方、属人性が高く再現性に薄いなどのデメリットもあります。
データ時代の到来により、データを使う手法が主流となり、合理性や客観性のないKKDは古いといわれることも少なくありません。しかし実際のデータ活用には、経験や勘が必要であることなどから、KKDは再び見直されています。本記事の内容を参考に、KKD法を有効活用してもらえれば何よりです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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