- 更新日 : 2024年9月4日
育児短時間勤務とは?期間や働き方、給与、不満の解消方法を解説
育児短時間勤務は子育て中の従業員が育児と仕事を両立しやすくするための制度で、1日の所定労働時間を6時間に短縮して働くことを可能にします。本記事では、育児短時間勤務の条件や待遇、企業が取り組むべきことなどについて解説します。また、実際の企業の導入事例を紹介しながら、従業員の会社への定着率を上げるためのヒントを提供します。
目次
育児短時間勤務とは?
ここではまず、育児休業短時間勤務の概要について解説します。
子どもが3歳まで労働時間を6時間にできる制度
育児短時間勤務とは、3歳未満の子どもを養育している従業員が希望する場合、1日の所定労働時間を原則として6時間に短縮できる制度です。
この制度は、従業員が育児と仕事を両立しやすくするために設けられており、育児に必要な時間を確保することができます。育児短時間勤務を利用することで、従業員はより柔軟な働き方が可能となります。
育児短時間勤務制度は義務
育児短時間勤務制度は、育児・介護休業法第23条に基づき、事業主に設けることが義務付けられています。2009年の法改正により、事業主はこの制度を就業規則に明記し、従業員が利用できるようにする必要があります。
これにより、育児をしている従業員が働きやすい環境を整えることが求められており、事業主は従業員の申請があれば、育児短時間勤務を提供しなければなりません。
育児短時間勤務はいつまで?
法では育児短時間勤務が可能な子どもの年齢が定められています。ただし、法を上回る年齢を定めることは問題とはなりません。
子どもが3歳未満
育児短時間勤務制度の対象期間は、原則として子どもが3歳になるまでです。そのため、法に則った運用をしている企業では、子どもが3歳の誕生日を迎えると従業員は通常の勤務時間に戻る必要があります。
小学校入学まで可能な場合
一部の企業では、子どもが小学校に入学するまで(6歳になる年の3月31日まで)育児短時間勤務制度を利用できるようにしています。これは、企業側に努力義務として求められているもので、法的な拘束力はなく企業が自主的に育児支援を強化するための取り組みです。
このような規定が就業規則に含まれている場合、従業員は子どもが小学校に入学するまで短時間勤務を続けることが可能です。
育児短時間勤務ができる条件
ここでは、育児短時間勤務ができる条件について解説します。
育児短時間勤務の対象者
育児短時間勤務制度の対象者は、以下の条件を満たす従業員です。
- 3歳未満の子どもを養育しており、その期間に育児休業を取っていないこと
- 日々雇用される従業員ではないこと
- 1日の所定労働時間が6時間を超えていること
- 労使協定により適用除外とされていないこと
対象外となるケース
以下のケースでは、育児短時間勤務の対象外となる場合があります。
- 当該事業主に継続的に雇用された期間が1年に満たない従業員
- 1週間における所定労働日数が2日以下である従業員
- 業務の性質や実態により、短時間勤務制度の適用が困難と認められる業務に従事している従業員
これらの条件に該当する場合、労使協定に基づき育児短時間勤務制度の適用から除外されることがあります。
育児短時間勤務中の給与・賞与・残業
ここからは育児短時間勤務中の従業員に支払う給与・賞与の取り扱いや残業、禁止事項について解説します。
育児短時間勤務中の給与・賞与
育児短時間勤務中は労働時間が短縮されるため、それに応じて給与が減額されます。これはノーワーク・ノーペイの原則により、不就業分については会社は給与を支払う義務はないからです。
また、賞与に関しても労働時間や給与が考慮されている場合、同様に減額されることがあります。
育児短時間勤務中の残業
3歳未満の子どもを養育している従業員が申し出た場合、事業主はその従業員を所定労働時間を超えて労働させることはできません。
ただし、労使協定が締結されている場合、勤続年数が1年未満の従業員や週の所定労働日数が2日以下の従業員については、この制限の対象外となることがあります。
禁止事項
育児短時間勤務中の従業員に対する不利益な取り扱いは禁止されています。具体的には、労働時間の短縮以上に給与を減額したり、正社員から非正規社員への変更を強要したりすることなどが挙げられます。
また、職場におけるハラスメントが発生しないように防止措置を講じることも企業の義務です。企業には禁止事項を遵守しながら、育児と仕事の両立を支援する責任があります。
育児短時間勤務に企業が整備すべきこと
育児短時間勤務をするために、企業が整備すべきことがあります。具体的な事項について理解しておくことで、スムーズに手続きを進められるでしょう。
就業規則への記載
企業が育児短時間勤務制度を導入する際、まず必要なのは就業規則に明記することです。就業規則変更の際は、労働者の過半数が加入する労働組合の意見を聞いた上で行われますが、労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する人の意見を求めます。
意見書と変更後の就業規則は、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。さらに変更後の就業規則は従業員に周知することが必要です。
申請書・手続きの整備
育児短時間勤務を円滑に運用するためには、手続きのための申請書を整備することが大切です。従業員が制度を利用する際には「育児短時間勤務申請書」の提出が求められます。
この申請書は企業が任意で定める書式を使用し、通常は育児短時間勤務を開始する約1ヶ月前までに提出が必要です。
従業員への説明
育児短時間勤務制度については、利用する従業員本人だけでなく職場全体に対して制度の趣旨や内容を説明することが大切です。これには、ハラスメントを防止するという効果も期待できます。
さらに、適用期間や勤務時間の変更、給与や社会保険料への影響についても説明することで、制度に対する理解を深められるでしょう。
育児短時間勤務申出書の無料テンプレート
育児のための短時間勤務を希望する従業員が提出する育児短時間勤務申出書には、以下の項目の記載が必要です。
- 従業員の氏名や社内の所属先
- 子の氏名、続柄
- 子の生年月日または出産予定日
- 短時間勤務の開始日と終了日
- 短時間勤務を開始する日の1ヶ月前に申し出ているかどうか
- 上記の子についてこれまでに短時間間勤務の申し出を撤回したことがあるかどうか
従業員がこれらの事項をまとめた書類を自分で用意するのは容易ではないため、会社で統一の様式を用意しておくと手続きをスムーズに進められるでしょう。
以下のサイトでは育児短時間勤務申出書のテンプレートを無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
育児短時間勤務申出書(エクセル) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
育児短時間勤務申出書(ワード) テンプレート|給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
育児短時間勤務の取得状況
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、育児短時間勤務の取得状況は、以下のようになっています。
令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 |
---|---|---|
68.9% | 71.6% | 61.0% |
企業における短時間勤務制度の導入率は、いずれの年度においても所定外労働の制限や始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)などの導入率より高いです。短時間勤務制度の対象となる子どもについては「3歳未満」が最も多く、その次に多いのが「小学校就学の始期に達するまで」となっています。
参考:令和5年度雇用平均等基本調査|厚生労働省(p24〜25)
育児短時間勤務で抱えがちな不満と解消方法
ここからは、育児短時間勤務で従業員が抱えがちな不満とその解消方法について解説します。
簡単な仕事や時短で終わらない業務
育児短時間勤務を利用する従業員が簡単な仕事ばかりさせられたり、短時間勤務内では終わらない業務を任せられたりすることがあります。このようなことで、育児短時間勤務の従業員が重要な仕事やキャリアアップの機会を得られないという事態は避けるべきです。
この問題を解消する方法としては、上司が短時間勤務者との定期的な面談を実施し、キャリア希望を確認することが挙げられます。
また、短時間勤務者にもチャレンジングな業務を任せる機会を提供し、スキルアップやキャリア形成を支援することも大切です。
社内の理解が低い
育児短時間勤務者が感じる不満の一つに、社内の理解不足があります。そのため、早く退社するために残りの仕事を他の従業員に引き継ぐことに肩身の狭さを感じることがあるでしょう。
この問題を解消するためには、社内のフォローアップ体制を整えることが大切です。例えばチーム内でフォロー体制を確立するために、定期的なミーティングを行いフォローし合う文化を醸成することで、短時間勤務者が早退する際の引き継ぎがスムーズになります。
このように、短時間勤務者が他の従業員とコミュニケーションを取り社内の理解を深め、誰もが働きやすい環境を整備することが大切です。
正当な評価が得られない
育児短時間勤務者が、社内で正当な評価が得られないことも不満要素の一つです。この問題を解決するためには、評価制度の見直しが必要です。
例えば、勤務時間の量ではなく成果を重視した評価制度を導入し、評価基準を明確にすることが挙げられます。評価結果に対する具体的なフィードバックを行い、評価に至ったプロセスや基準を公表することで、従業員の納得度を高められるでしょう。
このことにより、短時間勤務者が公正に評価され、働きやすい環境が整います。
育児短時間勤務を効果的に導入している企業事例
ここからは、独自の育児短時間勤務制度を導入して成果を挙げている企業について紹介します。
19パターンの育児短時間勤務制度|三井住友トラスト・ビジネスサービス株式会社
三井住友トラスト・ビジネスサービス株式会社では、育児短時間勤務のための19パターンの勤務制度を用意し、子どもが小学3年生を修了するまで柔軟に勤務時間を変更できる仕組みを提供しています。この制度によって、職場では様々な勤務時間の従業員が業務に従事しています。
また、結婚や介護などの個人的な事情に応じて勤務地域の変更も可能です。この柔軟な制度とサポート体制により、社員は家庭と仕事を両立しながらキャリアを築くことができます。
毎年4月に行われる「復職予定者研修」では、会社の最新状況や復職者への期待事項が伝えられるほか、短時間勤務経験者も参加する情報交換会が実施され、復職者の不安軽減や早期の職場適応をサポートしています。
参考:女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例|厚生労働省
小学校6年生修了時まで取得可能|ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は、育児短時間勤務制度を効果的に導入している企業の一つです。同社では、育児短時間フレックス勤務制度を提供しており、月の所定労働時間を短縮した上でコアタイムのないフレックス制度を利用できます。
この制度は、子どもが小学校6年生を修了するまで利用可能で、最大2時間45分の勤務時間短縮が可能です。
従業員は自分のスケジュールに合わせて労働時間を調整できるため、育児の負担を軽減しながらも効率的に仕事を進めることができます。このようなソフトバンクの制度は、働きやすい環境を提供し、育児中の社員のキャリア継続を支援する優れたモデルとなっています。
育児と仕事を両立がしやすい職場環境を整備しよう
従業員がやりがいを持って仕事に取り組むためには、ワークライフバランスの取れた職場環境が大切です。育児短時間勤務制度やフレックス勤務制度など、柔軟な勤務形態を導入することで、育児中の従業員が仕事を続けやすくなり、職場への定着率が高まります。
多くの業界で人手不足が問題となる中、従業員が仕事と子育てを両立できる取り組みは、企業にとってもメリットがあります。育児支援制度を導入し働きやすい環境を整えることで、優秀な人材の確保と育成が可能となり、企業全体の発展にもつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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