- 更新日 : 2024年7月26日
ジョブローテーションとは?失敗例や成功事例、向いている企業を解説
ジョブローテーションとは、従業員の能力開発を図るために、定期的に従業員の職種や部署の変更を行うことです。業務の属人化を防げるメリットがある一方で、異動直後のパフォーマンスの低下がデメリットとなります。今回は、ジョブローテーションの概要や実施状況、メリット・デメリット、導入ポイントについて解説します。
目次
ジョブローテーションとは?
従業員の能力開発を目的として、定期的に従業員の職種や部署の変更を行うことをジョブローテーションと言います。具体的には、「経理部から監査部」「営業部から人事部」といった他部門への異動、小売店でレジ打ち・品出し・倉庫管理といった異なる業務を担当する部門内の異動などです。さまざまな部門や業務を経験することで、幅広い業務経験やスキルアップを図れます。
人事異動との違い
ジョブローテーションは従業員の教育のために異動や配置転換を行いますが、人事異動は昇格・降格・解雇・配置転換などを組織の活性化のために行います。両者の違いは実施する目的です。また、ジョブローテーションは人材育成計画に基づき戦略的に行われるため、人事異動よりも戦略的な面が強いと言えるでしょう。
ジョブローテーション制度の実施状況
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査」によると、全国の常用労働者300人以上の企業10,000社で、ジョブローテーションがあるとする企業は53.1%でした。正社員規模別にみると、規模が大きくなるほどその割合は高くなっています。人事異動の頻度は「3年」が27.9%と最も割合が高く、次いで、「5年」が18.8%でした。これを正社員規模別に見ると、「3年」の割合は規模が大きくなるほど高くなっています。ジョブローテーションの有無別にみると、ジョブローテーションが「ない」に比べ、「ある」とする企業のほうが、「3年」の割合が高いという結果が報告されています。この調査から、ジョブローテーション制度を導入している企業は半数以上を占め、3年で人事異動を行う傾向にあることがわかりました。
参考:企業の転勤の実態に関する調査|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
ジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションを実施することで、企業側・従業員側の双方にメリットを得られます。
企業側のメリット
企業側のメリットは以下の2つです。
業務の属人化を防止できる
他部門への異動や部門内の異動を定期的に行うことで、個々の従業員が幅広い業務を担当できるようになります。複数の従業員で業務の内容やノウハウを共有することで属人化の防止が可能です。万が一、業務の担当者が退職をしても、ほかの従業員が即座にカバーできます。
適材適所の人材配置ができる
複数の部署や業務を体験させることで従業員の適性が見極められ、適材適所の人材配置が実現します。採用後の面接や研修だけで適性を見極めることは困難ですが、実際に体験させることで判断が可能です。
従業員側のメリット
従業員側のメリットは以下の2つです。
具体的なキャリアプランを描ける
さまざまな部署や業務を経験することで、自分の適性を把握できます。自分の適性が明確になれば、より具体的なキャリアプランを描けるようになるでしょう。
モチベーションを維持できる
長く同じ部署で働くことで慣れが生じ、仕事内容に飽きてくることも少なくありません。ジョブローテーションによって定期的に別の部署に配属されたり、ほかの業務を担当したりすることで、新鮮な気持ちで働き続けられます。
ジョブローテーションのデメリット
ジョブローテーションには、前述のメリットがある一方で、デメリットもあります。
企業側のデメリット
企業側のデメリットは以下の2つです。
異動直後は従業員のパフォーマンスの低下が見られる
異動の直後は新たな部署や業務内容となるため、従業員のパフォーマンスの低下が見られます。本人が新しい仕事に慣れるまでほかの従業員がフォローしなくてはなりません。ジョブローテーションの体制が整備されていない場合、人材の異動による生産性の影響が大きくなるため注意が必要です。
教育コストが高くなる
異動ごとに教育が必要になるため、教育コストが高くなります。異動計画の作成や部署との交渉・調整など、人事担当者の負担も大きい点もデメリットでしょう。万が一、ジョブローテーション中に従業員が退職した場合、教育コストが無駄になってしまう恐れもあります。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットは以下の2つです。
専門性を高めにくい
ジョブローテーションはもともと社内を横断的に把握する「企業内ゼネラリスト」の育成を目的とした制度のため、専門性の高い人材の育成には適していません。他社で通用する専門性を習得しづらいため、専門性を高めたい人にとっては不満を感じるでしょう。
精神的負担になる場合がある
定期的に配置転換が行われるため、新しい仕事を最初から覚えなければなりません。自分の特性に合っていない部署に配置されたり、業務を担当することになったりした場合は、精神的負担になる可能性があります。
ジョブローテーションの失敗例
ジョブローションは適切に実施すれば効果を得られますが、体制を整えずに導入した場合はかえって損失を招く場合があります。ここでは、失敗例について確認しましょう。
期待通りの効果をあげられない
ある自動車メーカーは製造ラインの従業員を対象に、ジョブローテーションを実施しましたが、一部の従業員が異なる製造工程に対応できず、生産ラインの遅延と品質の低下を招いてしまいました。要因は、事前のトレーニング不足です。このように、欠けているスキルの把握やトレーニングの徹底など準備不足の場合、期待通りの効果をあげられません。
従業員の意向を考慮しない
ある企業では、従業員の意向を考慮せずジョブローテーションを実施した結果、退職者が複数人出てしまいました。不得意な分野の業務を任せられると従業員のモチベーションの低下を引き起こします。その結果、生産性の低下だけでなく、人材の流出につながってしまったのです。企業の方針として必要な配置転換であっても、従業員の意向をヒアリングしてから実施する必要があります。
ジョブローテーションの効果的な期間
企業や職種、実施の目的によって、ジョブローテーションの効果的な期間は異なります。短期間で6か月以内、長期間では2〜5年で実施することが一般的です。実施期間が短すぎる場合、適性を判断できなかったり、スキルが定着しなかったりします。また、実施頻度が高
いと従業員の負担も大きくなるでしょう。実施期間に迷った場合は、ジョブローテーションを導入している多くの企業が実施している頻度となる「3年」に設定すると良いでしょう。
ジョブローテーションが向いている企業
ジョブローテーションに向いている企業の特徴は以下のとおりです。
- 新卒一括採用の人数が多い
- 社内に多様な職種・業務がある
- 教育コストをかける人的・資金的な余裕がある
- 業務内容をマニュアル化することが可能である
- 退職率が低い(1年間で10%以下)
社会人経験がなく業務適性の見極めが難しい新卒を一括採用している場合、ジョブローテーションの実施によって個々の適性にあった業務を選びやすくなります。ジョブローテーションを実施するためには、社内に多様な職種・業務があることに加え、配置転換に伴う教育コストをカバーできる企業体力が必要です。また、異動後にスムーズに業務を遂行できるよう業務内容をマニュアル化しておく必要があるでしょう。教育コストを無駄にしないためにも、退職率の低さも重要なポイントです。
ジョブローテーションの導入ポイント
ジョブローテーションを効果的に運用するためには、以下の3つのポイントを押さえる必要があります。
実施する目的・期間を明確にする
導入する前に、実施する目的と期間を明確にしましょう。例えば、「適性を判断するために半年ごとに実施する」「企業内ゼネラリスト育成のために3年ごとに実施する」などです。配置転換は従業員の負担となるため、目的と期間を伝えてジョブローテーションを実施する意義を理解してもらう必要があります。
従業員の希望を考慮する
従業員によっては「専門性を身につけたい」「営業職は避けたい」といった希望があるでしょう。従業員の希望を全く反映しない場合、メンタルヘルスの不調や離職につながるおそれがあります。従業員の本音を知るためにも、ジョブローテーションの実施前に希望を聞き、実施後にエンゲージメントの確認をするようにしましょう。
サポート体制を整える
元いた部署では優秀な従業員でも、配置転換後すぐはパフォーマンスが落ち込むこともあります。配置転換後に従業員や部署の生産性が低下することもある程度許容し、配置転換後の従業員や既存の従業員をケアできるようにフォロー体制を整備しましょう。指導を行う人員の配備やマニュアルの整備なども必要です。
ジョブローテーションの成功事例
ここでは、ジョブローテーションの成功事例を3つ紹介します。導入する際の参考にしてください。
双日株式会社
双日株式会社は、エネルギー・ヘルスケア、リテール・コンシューマーサービス、航空・社会インフラなどを世界各地で展開する総合商社です。双日株式会社は、2009年10月より、人材育成・組織力の向上・従業員の活性化を目的にジョブローテーションを導入しました。原則として、部署を超える異動です。会社の業務上、海外赴任や国内事業会社へ出向する機会が多く、実質的なジョブローテーションを経験する従業員は7〜8割いました。しかし、ジョブローテーションを制度として導入することで、部署の業務内容の特性により、異動のチャンスや海外拠点、事業会社への展開が少ない残りの2〜3割の従業員も異なる職務経験ができるようになりました。
富士フイルムグループ
富士フイルムホールディングス株式会社は、ヘルスケアやエレクトロニクス、ビジネスイノベーション、イメージングに関わる製品・サービスの提供を行うメーカーです。富士フイルムグループでは、本人の育成状況に応じて事業や職種をまたぐジョブローテーションを実施しています。年に1回上長と行う面談を通して、本人の価値観や考え方、キャリア希望を踏まえた上でジョブローテーションを実施していることも特長です。多様な仕事を実際に経験するようになったことで、個々の従業員の課題形成力・業務遂行力・関係構築力の向上が実現しました。
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、映像や音楽、テクノロジーの分野で多様な商品・サービスを提供する総合企業です。ソニー株式会社は、若手の育成にジョブローテーションを活用しています。入社10年程度の若手に自分の専門性を確立してもらうことが目的です。世界7カ所の拠点に「タレントダイレクター」と呼ばれる人事の担当者を置き、次にローテーションに出したい人、受け入れるポジションの発掘を行います。日々変化するビジネスの現場でローテーションの機会を掘り起こしてくるのがタレントダイレクターの役目です。広い専門性といった観点から自分のキャリアを作る環境を整備することで、若手のグローバルタレントの育成に成功しています。
ジョブローテーションを導入して、従業員の能力開発を図ろう
今回は、ジョブローテーションについて解説しました。ジョブローテーションを効果的に実施するためには、実施する目的・期間を明確にし、従業員の希望を考慮することが大切です。また、配置転換したばかりの従業員のパフォーマンスが低下することを想定して、サポート体制を整備する必要があります。ジョブローテーションを適切に実施して、従業員の能力開発を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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